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すずちゃんのJK生活
第42話 “秘密の祭壇”に贈り物を
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日が沈み、秋の気配がひたりと肌を撫でていた。夕暮れというより、もう夜の帳が降りかけた時間。虫の声が遠く、静かに響いている。
黒酒家の別宅──否、要塞と呼んだほうが相応しいその敷地の一角。山裾を切り開いた広大な庭園の奥、木立に囲まれた芝の広場に、ひとつの“建造物”が完成していた。
その姿は、あまりにも静謐で、どこか神々しささえ漂わせている。
「……完成、してるな」
紅葉が腕を組んでうんうんと頷く。彼の目の先には、三方向からスポットライトが当てられた誕生日祭壇。中央に据えられた長テーブルには純白の布地がかけられ、その上に──堂々たる“楓”の名入りプレート。背後のガーランドには、手書きの文字で「Happy Birthday」。達筆すぎて若干読みにくいあたりに、かえって本気度が滲んでいた。
そして、卓上には一人一人の贈り物が並べられている。それはもはや「プレゼント」と呼ぶにはあまりに真剣すぎる、“愛と狂気の結晶”たちだった。
「……完全に神棚だよね、これ」
小鈴が呆れ混じりにぽつりと呟く。口調は冷静なつもりでも、目の端がほのかに笑っていた。
本気で、真剣で、ちょっとおかしい──でも、だからこそ美しい。そんな空気がそこにはあった。
⸻
まず、紅葉の贈り物。
それは、蓋を開けると全力ボイスが再生される“しゃべるギフトボックス”。スピーカーを内蔵したその小箱は、開けた瞬間──
「楓、誕生日おめでとう! 兄はいつでも君を応援しているぞ!」
という大音量のメッセージを響かせる。
「……音量調整機能、つけなかったんですか?」
「いや、“伝わること”が第一だろ」
ドヤ顔の紅葉の横には、もうひとつのアイテム。楓の生活スケジュールに合わせて構成された「フラグ管理用リマインダー」ノート。行動計画や任務、学園生活のすき間時間まで完璧に計算されたそれは、もはや兄というより“プロマネ”の域。
愛が重い。けれど、誰もそれを否定しなかった。
⸻
次に、優凜の贈り物。
繊細な細工が施された銀のイヤーカフは、柔らかい曲線と控えめな装飾が楓のイメージにぴったりだった。添えられたのは、小さな手紙セット。「手書きの言葉が、何より強く届く時があるの」と優凜は微笑む。
「楓ちゃん、いつも元気だけど……きっと、自分を休ませる時間も必要だと思うの」
その声は、武器を造る時の彼女とはまた違う、優しく静かな温度を帯びていた。
⸻
三つ目は、一郎の贈り物。
高性能マッサージクッション。単なる実用品ではない。彼が探索能力を駆使して楓の最近の行動パターン、教室での姿勢、部活動後の動きなどから導き出した「使用推奨タイムスケジュール」のリーフレットまで添えられている。
「こうして休んでおけば、明日のパフォーマンスが最大化されるはずです」
それは、思いやりと合理性が融合した一品だった。
しかも、クッションからは“ラベンダーの香り”が微かに漂っていた。リラックス効果抜群。心配性の兄たち(主に紅葉)を黙らせる説得力があった。
⸻
そして、小鈴の贈り物。
真っ白な表紙のアルバム。中には、出会ってからの“普通じゃない日常”が詰め込まれていた。
ページをめくれば、プリント写真に走り書きの言葉。部活の何気ない一幕、誰かが笑っている瞬間、楓がふいに見せた素の表情──そして、切り紙やイラストで彩られたページの数々。
「言葉にしにくいけど……ずっと、助けられてたから。ちゃんと、伝えたかったんです」
控えめな声に、誰も何も言わなかった。ただ、皆がそのアルバムをじっと見つめていた。
⸻
「……これで、全部だね」
優凜がそっと布の皺を整える。その指先は、武器を作るときと同じように丁寧だった。
一瞬、誰もが息を飲んだ。静かな達成感と、張り詰めた緊張。誰かが音を立てたら崩れそうな、そんな繊細な空気が広がっていた。
「じゃ、撤収しよう。あとは明日……楓に見つかる前に、な」
紅葉の声に、皆が一斉に頷く。
だが、祭壇から離れるにも細心の注意が必要だった。
⸻
「都斗くん、今どこ?」
小鈴がスマホを手に訊ねれば、即座にチャットに通知が入る。
《都斗:楓、帰路についた。車で10分前。門前で引き止めて時間稼ぐ》
「さすが護衛……というか、都斗くんってやっぱり普通じゃないよね」
「いや、一般人だよ。異能はない。ただ“楓センサー”が異常なだけ」
「それが異能なのでは……?」
笑いを堪えるようにしながら、皆が裏手の別ルートから静かに移動を始める。まるでスパイ映画のような慎重さと連携だった。
特に、紅葉と小鈴は危険だった。もしも楓に出会ってしまえば、“何もしてない顔”で自然に笑わなければならない。まるで爆弾処理班のような緊張感。
「でもさ、楓って……こういうの、気づかないの?」
小鈴がぽつりと呟く。返ってきたのは、紅葉のしれっとした笑み。
「あいつ、小三の時に俺が渡したメッセージカード、付録だと思ってたからな」
「えぇ……そんなに!?」
「だからこそ、こういうサプライズが成立するのさ」
たぶん、彼女が無自覚でいられるからこそ、周りの人間は本気になれる。誰かを想う気持ちは、きっと鈍感な相手ほど、燃え上がるのだろう。
それが、裏文芸部という名の“歪んだ愛のバランス”を成り立たせている理由なのかもしれなかった。
⸻
裏道に抜け、それぞれが闇の中へと消えていく。秋の夜風はすうっと肌を撫で、空にはひとつ、冴えた星が浮かんでいた。
明日が、もうすぐそこに来ている。静かな夜が、特別な朝の前奏となっていた。
⸻
そして──その夜。
祭壇は静かに、ただ静かに、楓の帰宅を待っていた。
まだ誰も知らない。
誰がどんな顔をして、どんな驚きを見せるのか。
笑顔と驚きが交差する、あの朝のことを。
黒酒家の別宅──否、要塞と呼んだほうが相応しいその敷地の一角。山裾を切り開いた広大な庭園の奥、木立に囲まれた芝の広場に、ひとつの“建造物”が完成していた。
その姿は、あまりにも静謐で、どこか神々しささえ漂わせている。
「……完成、してるな」
紅葉が腕を組んでうんうんと頷く。彼の目の先には、三方向からスポットライトが当てられた誕生日祭壇。中央に据えられた長テーブルには純白の布地がかけられ、その上に──堂々たる“楓”の名入りプレート。背後のガーランドには、手書きの文字で「Happy Birthday」。達筆すぎて若干読みにくいあたりに、かえって本気度が滲んでいた。
そして、卓上には一人一人の贈り物が並べられている。それはもはや「プレゼント」と呼ぶにはあまりに真剣すぎる、“愛と狂気の結晶”たちだった。
「……完全に神棚だよね、これ」
小鈴が呆れ混じりにぽつりと呟く。口調は冷静なつもりでも、目の端がほのかに笑っていた。
本気で、真剣で、ちょっとおかしい──でも、だからこそ美しい。そんな空気がそこにはあった。
⸻
まず、紅葉の贈り物。
それは、蓋を開けると全力ボイスが再生される“しゃべるギフトボックス”。スピーカーを内蔵したその小箱は、開けた瞬間──
「楓、誕生日おめでとう! 兄はいつでも君を応援しているぞ!」
という大音量のメッセージを響かせる。
「……音量調整機能、つけなかったんですか?」
「いや、“伝わること”が第一だろ」
ドヤ顔の紅葉の横には、もうひとつのアイテム。楓の生活スケジュールに合わせて構成された「フラグ管理用リマインダー」ノート。行動計画や任務、学園生活のすき間時間まで完璧に計算されたそれは、もはや兄というより“プロマネ”の域。
愛が重い。けれど、誰もそれを否定しなかった。
⸻
次に、優凜の贈り物。
繊細な細工が施された銀のイヤーカフは、柔らかい曲線と控えめな装飾が楓のイメージにぴったりだった。添えられたのは、小さな手紙セット。「手書きの言葉が、何より強く届く時があるの」と優凜は微笑む。
「楓ちゃん、いつも元気だけど……きっと、自分を休ませる時間も必要だと思うの」
その声は、武器を造る時の彼女とはまた違う、優しく静かな温度を帯びていた。
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三つ目は、一郎の贈り物。
高性能マッサージクッション。単なる実用品ではない。彼が探索能力を駆使して楓の最近の行動パターン、教室での姿勢、部活動後の動きなどから導き出した「使用推奨タイムスケジュール」のリーフレットまで添えられている。
「こうして休んでおけば、明日のパフォーマンスが最大化されるはずです」
それは、思いやりと合理性が融合した一品だった。
しかも、クッションからは“ラベンダーの香り”が微かに漂っていた。リラックス効果抜群。心配性の兄たち(主に紅葉)を黙らせる説得力があった。
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そして、小鈴の贈り物。
真っ白な表紙のアルバム。中には、出会ってからの“普通じゃない日常”が詰め込まれていた。
ページをめくれば、プリント写真に走り書きの言葉。部活の何気ない一幕、誰かが笑っている瞬間、楓がふいに見せた素の表情──そして、切り紙やイラストで彩られたページの数々。
「言葉にしにくいけど……ずっと、助けられてたから。ちゃんと、伝えたかったんです」
控えめな声に、誰も何も言わなかった。ただ、皆がそのアルバムをじっと見つめていた。
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「……これで、全部だね」
優凜がそっと布の皺を整える。その指先は、武器を作るときと同じように丁寧だった。
一瞬、誰もが息を飲んだ。静かな達成感と、張り詰めた緊張。誰かが音を立てたら崩れそうな、そんな繊細な空気が広がっていた。
「じゃ、撤収しよう。あとは明日……楓に見つかる前に、な」
紅葉の声に、皆が一斉に頷く。
だが、祭壇から離れるにも細心の注意が必要だった。
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「都斗くん、今どこ?」
小鈴がスマホを手に訊ねれば、即座にチャットに通知が入る。
《都斗:楓、帰路についた。車で10分前。門前で引き止めて時間稼ぐ》
「さすが護衛……というか、都斗くんってやっぱり普通じゃないよね」
「いや、一般人だよ。異能はない。ただ“楓センサー”が異常なだけ」
「それが異能なのでは……?」
笑いを堪えるようにしながら、皆が裏手の別ルートから静かに移動を始める。まるでスパイ映画のような慎重さと連携だった。
特に、紅葉と小鈴は危険だった。もしも楓に出会ってしまえば、“何もしてない顔”で自然に笑わなければならない。まるで爆弾処理班のような緊張感。
「でもさ、楓って……こういうの、気づかないの?」
小鈴がぽつりと呟く。返ってきたのは、紅葉のしれっとした笑み。
「あいつ、小三の時に俺が渡したメッセージカード、付録だと思ってたからな」
「えぇ……そんなに!?」
「だからこそ、こういうサプライズが成立するのさ」
たぶん、彼女が無自覚でいられるからこそ、周りの人間は本気になれる。誰かを想う気持ちは、きっと鈍感な相手ほど、燃え上がるのだろう。
それが、裏文芸部という名の“歪んだ愛のバランス”を成り立たせている理由なのかもしれなかった。
⸻
裏道に抜け、それぞれが闇の中へと消えていく。秋の夜風はすうっと肌を撫で、空にはひとつ、冴えた星が浮かんでいた。
明日が、もうすぐそこに来ている。静かな夜が、特別な朝の前奏となっていた。
⸻
そして──その夜。
祭壇は静かに、ただ静かに、楓の帰宅を待っていた。
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