45 / 55
すずちゃんのJK生活
第43話 誕生日当日
しおりを挟む
十月の空は、まるで絵に描いたように澄み渡っていた。季節は着実に秋へと傾き、朝の空気にはほんのりと冷たさが混じっている。白い吐息が見えるほどではないが、制服の袖を引っ張る仕草が自然に出る気候だ。
グリフィンチ学園の校門前、登校してくる生徒たちの中に、ひときわ目を引くふたりの姿があった。
「楓ちゃん、誕生日おめでとう」
珍しく真っ直ぐに歩いてきた彼女にに声をかける。彼女は、ぱっと顔を輝かせ──
「えっ、うわあ……ありがとぉおおおっ!!」
いつもよりも威力の落ちたタックルで抱きついてきた。誕生日でも変わらない毎日の恒例とも言える儀式。今日も難なく受け止める。
ちょうど登校してきたクラスメイトたちもその様子に気づき、「おめでとう!」「今日だもんね、楓ちゃん誕生日!」と、あたたかい声が飛び交った。
「ねえ紅葉兄、プレゼントとかある? ある? いやあるよね!? ないわけないよね!?」
「放課後な。楽しみにしてろ」
「えっなにそれ楽しみすぎるやつじゃん!?」
両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、期待に目を輝かせる楓に、紅葉は軽く片眉を上げて、「内緒」と一言だけ残して歩き出す。その何気ない仕草に、楓はさらに妄想を膨らませていた。
(内緒ってことは、めちゃくちゃすごいサプライズ的な何かがあるってことでは……!?)
楓の誕生日は、学園内でもちょっとしたイベントのように扱われる。明るくて人懐っこく、放っておけない彼女の性格もあって、自然と人が集まりやすいのだ。
けれど今年は、それ以上に「特別」な日だった。
本人にはまだ知らされていないが──裏文芸部の面々によって、秘密裏に準備が進められていた。校外の黒酒家別宅で設営された“誕生日祭壇”に、精魂込めたプレゼントの数々。そして、放課後に控えた一世一代のサプライズパーティー──それこそが、今日という一日の真のハイライトだった。
⸻
1-G組の教室でも、自然とその話題が盛り上がっていた。
「乃斗さん、今朝はどっかのお姫様かと思いましたよ」
「えへへ、たまたまちょっとリボンに気合入れただけだよ~」
「たまたま(計画的)……っと」
「誰が声に出せと言った誰が!!」
突っ込みと笑いが飛び交い、教室は和やかな空気に包まれる。机の引き出しには、小さな包みが隠してある。小鈴もほんの少しだけそのことに触れそうになったが──ふと視線を感じて、そっと言葉を引っ込めた。
(まだだよね、放課後までは内緒……)
紅葉がチラとこちらを見ていたのだ。その目は、あくまで穏やかだったが、どこか「フライング厳禁」とでも言いたげだった。
昼休みには、購買で買った菓子パンを机に並べて即席のお祝いセットが完成した。楓は目を輝かせて歓声を上げる。
「すごい、パーティー感ある!」
彼女のテンションは最高潮だった。チョココロネのチョコ部分を誰にも譲らず、得意げに食べている姿は、まさにマイペースの権化である。
午後の授業中も、彼女はいつも以上に元気だった。
「今日誕生日なので、間違っても許されると信じてます!」
そう宣言してから問題に答える始末。教員も苦笑しながらも、「誕生日でも減点は減点です」と冷静に返していた。生徒も教師も笑いながら、それでも教室に流れる時間は心地よかった。
──この日の終わりが、あんなふうになるまでは。
⸻
放課後。文芸部の部室には、すでに全員が揃っていた。各自のプレゼントも手元にあり、裏文芸部としても準備は万全だった。あとは主役を迎えに行くだけ。
「じゃ、小鈴ちゃんと紅葉くん、楓ちゃん迎えに行ってもらえる?」
「了解。たぶん、職員室前か体育館の裏あたりにいると思うよ」
小鈴と紅葉が意気揚々と部室を出る。だが、すぐに違和感が生じた。
「あれ? いない……」
「……ん? おかしいな。体育館も昇降口も保健室も……どこにもいない」
文芸部周辺、校庭の隅々まで足を運び、スマホのチャットを何度も確認した。しかし、楓からのメッセージは、午後の授業終了のタイムスタンプで止まっていた。
「……まさか。都斗くんは?」
紅葉が急いでスマホを取り出す。しかし、何度かけても──
「……つながらない。留守電に切り替わる。電源、切れてる?」
「嘘……あの人、楓ちゃんの護衛役みたいなものでしょう? 連絡が取れないなんて、あるの?」
小鈴の声がわずかに震える。
気づけば、空は少しずつ色を変え始めていた。秋の夕暮れは容赦ない。校内からは生徒の姿が徐々に消え、遠くで野球部の掛け声が繰り返し響いている。それすら、どこか遠く感じる。
「……都斗くんと楓ちゃん、どこに行ったの……?」
風が冷たくなり始めた。誰かがふいに笑って「遅れてくるサプライズかもね」と言ってくれれば、まだ救われる気がした。でも、誰も言葉を発しなかった。
その沈黙が、逆に真実味を帯びていた。
いつも騒がしくて、元気で、目が離せない楓。その声が、今はどこにもない。
──これはサプライズじゃない。事件の始まりだ。
そんな直感が、全員の胸を刺していた。
⸻
そしてその夜──
煌びやかに飾られた祭壇は、誰もいない芝の広場に静かに佇んでいた。スポットライトに照らされたその中央に、贈り物の数々が整然と並んでいる。
楓の笑顔も驚きも、まだこの場に訪れていない。
ただ、夜風だけが吹き抜け、白い布の端がわずかに揺れていた。
誰も知らない。
あの子の行方も、
この日が“祝福”ではなく“異変”の始まりになることも──
まだ、誰も。
グリフィンチ学園の校門前、登校してくる生徒たちの中に、ひときわ目を引くふたりの姿があった。
「楓ちゃん、誕生日おめでとう」
珍しく真っ直ぐに歩いてきた彼女にに声をかける。彼女は、ぱっと顔を輝かせ──
「えっ、うわあ……ありがとぉおおおっ!!」
いつもよりも威力の落ちたタックルで抱きついてきた。誕生日でも変わらない毎日の恒例とも言える儀式。今日も難なく受け止める。
ちょうど登校してきたクラスメイトたちもその様子に気づき、「おめでとう!」「今日だもんね、楓ちゃん誕生日!」と、あたたかい声が飛び交った。
「ねえ紅葉兄、プレゼントとかある? ある? いやあるよね!? ないわけないよね!?」
「放課後な。楽しみにしてろ」
「えっなにそれ楽しみすぎるやつじゃん!?」
両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、期待に目を輝かせる楓に、紅葉は軽く片眉を上げて、「内緒」と一言だけ残して歩き出す。その何気ない仕草に、楓はさらに妄想を膨らませていた。
(内緒ってことは、めちゃくちゃすごいサプライズ的な何かがあるってことでは……!?)
楓の誕生日は、学園内でもちょっとしたイベントのように扱われる。明るくて人懐っこく、放っておけない彼女の性格もあって、自然と人が集まりやすいのだ。
けれど今年は、それ以上に「特別」な日だった。
本人にはまだ知らされていないが──裏文芸部の面々によって、秘密裏に準備が進められていた。校外の黒酒家別宅で設営された“誕生日祭壇”に、精魂込めたプレゼントの数々。そして、放課後に控えた一世一代のサプライズパーティー──それこそが、今日という一日の真のハイライトだった。
⸻
1-G組の教室でも、自然とその話題が盛り上がっていた。
「乃斗さん、今朝はどっかのお姫様かと思いましたよ」
「えへへ、たまたまちょっとリボンに気合入れただけだよ~」
「たまたま(計画的)……っと」
「誰が声に出せと言った誰が!!」
突っ込みと笑いが飛び交い、教室は和やかな空気に包まれる。机の引き出しには、小さな包みが隠してある。小鈴もほんの少しだけそのことに触れそうになったが──ふと視線を感じて、そっと言葉を引っ込めた。
(まだだよね、放課後までは内緒……)
紅葉がチラとこちらを見ていたのだ。その目は、あくまで穏やかだったが、どこか「フライング厳禁」とでも言いたげだった。
昼休みには、購買で買った菓子パンを机に並べて即席のお祝いセットが完成した。楓は目を輝かせて歓声を上げる。
「すごい、パーティー感ある!」
彼女のテンションは最高潮だった。チョココロネのチョコ部分を誰にも譲らず、得意げに食べている姿は、まさにマイペースの権化である。
午後の授業中も、彼女はいつも以上に元気だった。
「今日誕生日なので、間違っても許されると信じてます!」
そう宣言してから問題に答える始末。教員も苦笑しながらも、「誕生日でも減点は減点です」と冷静に返していた。生徒も教師も笑いながら、それでも教室に流れる時間は心地よかった。
──この日の終わりが、あんなふうになるまでは。
⸻
放課後。文芸部の部室には、すでに全員が揃っていた。各自のプレゼントも手元にあり、裏文芸部としても準備は万全だった。あとは主役を迎えに行くだけ。
「じゃ、小鈴ちゃんと紅葉くん、楓ちゃん迎えに行ってもらえる?」
「了解。たぶん、職員室前か体育館の裏あたりにいると思うよ」
小鈴と紅葉が意気揚々と部室を出る。だが、すぐに違和感が生じた。
「あれ? いない……」
「……ん? おかしいな。体育館も昇降口も保健室も……どこにもいない」
文芸部周辺、校庭の隅々まで足を運び、スマホのチャットを何度も確認した。しかし、楓からのメッセージは、午後の授業終了のタイムスタンプで止まっていた。
「……まさか。都斗くんは?」
紅葉が急いでスマホを取り出す。しかし、何度かけても──
「……つながらない。留守電に切り替わる。電源、切れてる?」
「嘘……あの人、楓ちゃんの護衛役みたいなものでしょう? 連絡が取れないなんて、あるの?」
小鈴の声がわずかに震える。
気づけば、空は少しずつ色を変え始めていた。秋の夕暮れは容赦ない。校内からは生徒の姿が徐々に消え、遠くで野球部の掛け声が繰り返し響いている。それすら、どこか遠く感じる。
「……都斗くんと楓ちゃん、どこに行ったの……?」
風が冷たくなり始めた。誰かがふいに笑って「遅れてくるサプライズかもね」と言ってくれれば、まだ救われる気がした。でも、誰も言葉を発しなかった。
その沈黙が、逆に真実味を帯びていた。
いつも騒がしくて、元気で、目が離せない楓。その声が、今はどこにもない。
──これはサプライズじゃない。事件の始まりだ。
そんな直感が、全員の胸を刺していた。
⸻
そしてその夜──
煌びやかに飾られた祭壇は、誰もいない芝の広場に静かに佇んでいた。スポットライトに照らされたその中央に、贈り物の数々が整然と並んでいる。
楓の笑顔も驚きも、まだこの場に訪れていない。
ただ、夜風だけが吹き抜け、白い布の端がわずかに揺れていた。
誰も知らない。
あの子の行方も、
この日が“祝福”ではなく“異変”の始まりになることも──
まだ、誰も。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる