GPTであそぼ

すずちゃんのJK生活

第45話 制御されし忠犬

「嘘でしょ……っ！」

小鈴は本能的に跳ねるように飛び退いた。心臓の鼓動が爆発するように早鐘を打ち、肺に吸い込んだ空気が焼けつくほど熱い。

いま都斗が振るった一撃――それは明確な殺意を孕んだ、命を奪うための動きだった。

目の前に立つ鳥夜都斗。普段は楓のそばに寄り添い、どこまでも静かに彼女を見守っていた、無愛想で優しい少年。その都斗が、小鈴たちに向けて刃を振るっている。しかも、迷いも戸惑いも一切ない、冷たく研ぎ澄まされた“戦闘機械”のような眼差しで。

その顔に、意志の色はなかった。まるで――感情というものが、削ぎ落とされているかのように。

「来るよ、小鈴ちゃん、下がって！」

紅葉が咄嗟に身を割り込ませ、寸前で小鈴の身体を押しやる。その直後、都斗が風のように移動する。無音に近い足運び。けれど、その精度と速さは人間の反射速度を超えていた。

紅葉は即座に《転移》を使い、ふたりの距離を一気に開ける――が、都斗もまた、躊躇なく追ってきた。

しかも、その追撃は“的確すぎる”ほどに的を射ていた。

「今の……“転移”の座標を……予測して……!?」

「模倣能力？……それも、精密に、極限まで最適化されたやつよ！」

優凜が一歩前に出る。目の奥に、戦士としての鋭い光が宿った。彼女の手元に出現したのは、重厚な黒い大鎌。その刃先が、空気を震わせる。

「悪いけど、ちょっとだけ眠ってもらうわよ、都斗くん！」

戦慄の一閃。鋭利な鎌が音速で都斗に振り下ろされる――が、それすらも彼は見切っていた。

瞬間、都斗の手に鋼のような構造体が伸びる。それは、優凜が創造した鎌の“模倣”でありながら、素材の密度、重心、刃の角度まで異なる“別物”だった。再現というより、改善された亜種。武器としての完成度すら上回っていた。

「ちょっ……なにこれ、速っ！」

優凜がギリギリで身を翻すが、空気を切る音の直後、髪の端がかすかに裂けた。

「どういうこと……！　ただ真似してるだけじゃない、武器の“設計思想”が違う……！？」

「彼、楓のためにありとあらゆる知識を調べてたっけ……。武器製造技術、戦術理論、戦闘ログ、全部吸い上げてる……！」

紅葉の声に、焦りが滲む。瞳が震えていた。

模倣、そして知識。

ただ見たものを真似るだけでなく、それをどう使えば“もっと効果的か”を、情報から演算的に導き出してくる――。

それはまさに、異能を持った戦術AI。異能の研究者であり、戦闘狂のような存在だった。

「《貪食》！」

小鈴が足元に球体を展開し、都斗の動きを強制的に引き寄せようとする――が、彼はそれすらも“視て”いた。

「避けた!?　タイミング、ピタリで……！」

まるで未来を予知しているような、読み切った動き。都斗の目は一瞬たりとも曇らず、小鈴たちの“癖”までも解析しているかのようだった。

「違う、これは“勘”じゃない……！　情報演算による、予測……！」

紅葉が息を呑む。叫びが詰まる。

そして――

都斗が地を蹴った。

一瞬の沈黙。その直後、紅葉の身体が宙を舞う。まるで弾かれるように、背後の木に叩きつけられた。

「紅葉先輩っ!!」

小鈴が駆け寄ろうと一歩踏み出す、その前に、都斗の影が覆い被さる。

（やばい……っ、間に合わない――！）

次の瞬間、視界に閃光が走った。

「まだだよ……っ、終わってない……！」

声が響く。

光を纏った小さな札が、都斗の足元で起動する。紅葉が握っていた転移札。それが、都斗を強制的に数メートル後方へ跳ね飛ばした。

「くっ、今のうちに体勢整えて！」

紅葉が立ち上がる。服は土にまみれ、腕には擦り傷が走っていた。それでも彼は、決して倒れなかった。

「了解っ！」

優凜が魔法陣のような弧を描き、空中に無数の小型武器を浮かべる。円形のナイフ、鉤爪型の刃、空気を切る羽根のようなエネルギー体――それらが一斉に、都斗に向かって飛翔する。

「《飛翔刃》・改！　追尾型アルゴリズム搭載！　動きは完全に予測済みよ！」

だが――

都斗の周囲に出現したのは、回避用のエネルギーシールド。その表面には、予測軌道の演算式が無数に浮かび上がっていた。まるで人工知能が描いた迎撃シミュレーション。

都斗は、戦いの中で進化していた。

「やっぱり……全部、覚えてる……！　私たちの“やり方”まで……」

小鈴の膝が震えた。額には汗が滲み、思考が追いつかない。

（じゃあ、私たちの動き全部……見られてるってこと……？）

そして。

都斗の視線が、じり、とこちらへ。

次の標的は、小鈴だった。

「やめて……お願い、都斗くん……！」

紅葉の声が、空気に消えていく。

都斗の目には、命令だけが宿っていた。仲間としての記憶も、感情も、何もかもを切り捨てたような瞳。

その右手に光が集まる。

現れたのは、模倣された《貪食》。

まるで、小鈴の能力を完璧に再現したような球体。違いは、色――その中心が、深い黒に染まっていた。

「う、嘘でしょ……!?」

冷たい汗が背を這った。足が竦み、声にならない悲鳴が喉を押し上げる。

（《貪食》まで……コピーされてる……？）

そのときだった。

都斗の足が、止まった。

ほんの一瞬。その瞳が、微かに揺らいだように――小鈴には見えた。

「……っ！」

空気が、変わった。

その揺らぎは確かに“彼”のものだった。完全な模倣ではない、何かが、今の都斗に“引き戻されて”いるような――

（もしかして、今なら……）

小鈴の脳裏に、微かな可能性の光が差し込んだ。