GPTであそぼ

鹿又杏奈\( ᐛ )/

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すずちゃんのJK生活

第47話 不在という現実

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「昨日の放課後、最後に楓ちゃんを見たのは誰?」

優凜の低い声が、部室の静けさを切り裂いた。
誰も答えない。沈黙が広がる。

グリフィンチ学園の文芸部室。
机の上には、色とりどりのリボンで飾られたプレゼントの山と、甘い香りを放つケーキ。
その真ん中で、「Happy Birthday」のカードだけが浮いて見えた。
本来なら笑い声で満たされているはずの空間は、今、重苦しい霧に包まれていた。

「……朝、メッセージ送ったけど、既読にならなかった」

小鈴の呟きに、紅葉が顔を上げる。
その瞳に宿るのは焦燥と苛立ち。

「放課後、今日はコーチも無いからすぐに部室に顔出すって……そう言ってたよな。俺、聞いた」
「確かに言ってた……」

紅葉は握った拳でテーブルを軽く叩く。
その音がやけに響いた。
部屋の片隅、壁に貼られた部誌の原稿や写真が、揺れもしないでこちらを見ているようで、妙に不気味だった。

「ダメだ。連絡がまったく取れない」
優凜の声は冷静に聞こえたが、その指先は小さく震えていた。
焦ってはいない――いや、焦りを必死に押し殺している。

そのとき、低い声が割り込んだ。
「……防犯カメラを、理事長に頼んで見せてもらった」

一郎だった。
静かに椅子から腰を上げ、皆を見回す。
小鈴は反射的に彼を見つめた。
「え……?」

「校門前。二十時過ぎ――監視映像に楓さんが映っていた」

息を呑む音が、あちこちから漏れた。

「でも、その映像には……あり得ないものが映ってた」
一郎は淡々と続ける。その声が、逆に恐怖を煽った。

「楓さんが……空中に浮いたんだ。そして、そのまま光に包まれて、消えた」

「な……」
優凜の眉がぴくりと動く。
「そんなの……嘘でしょ……!」
小鈴は声を詰まらせる。
「何かの見間違いじゃ――」

「いや、見間違いじゃない。映像は鮮明だった。
地面から光が立ち上って、彼女を呑み込んだ。
そして、その場には……通学バッグだけが残ってた」

静寂。
空気の密度が、急に増したように感じた。
小鈴の心臓が、嫌な音を立てる。

「……じゃあ、連れ去られたってこと……?」
誰かが呟いた。
「それとも、異能……?」
「けど……誰が? 何のために……?」

答えは出ない。
答えを出すための手がかりすらない。



翌日

朝から捜索が始まった。
裏文芸部のネットワークを総動員し、裏チャットでも情報を集める。

資料棟、温室、旧校舎、地下倉庫――。
かつて事件が起きたすべての場所を洗った。

けれど、何も見つからなかった。

「くそっ……!」
紅葉が壁を殴る。拳に白い痕が浮かぶ。
「誕生日なのに……なんで、こんな……!」

優凜も、唇をかみしめていた。
普段の彼女なら吐き捨てるような毒を一言でも口にしていたはずなのに、今はただ、黙っていた。

「どうして……俺たちの誰も……守れなかったんだよ……!」
紅葉の声が震えた。
誰も、その言葉を否定できなかった。



昼休み、教室。
明るい日差しの中、小鈴は机に伏せたまま、窓の外を見つめていた。

(……消える瞬間が映ってるなんて、まるで……)

まるで、誰かがそれを「見せたかった」みたいに。
そんな嫌な予感が胸をざらつかせる。
けれど、それを言葉にすることはできなかった。



放課後、再び集まった部室。
カーテンの隙間から夕陽が差し込み、机の上のケーキを淡く照らしていた。
もう誰も手をつけていない。
砂糖細工のプレートが、ひどく場違いに見えた。

「……まるで、いなかったみたいだね。はじめから」

紅葉の呟きに、小鈴の肩がびくりと震える。
「……そんなこと、言わないで」

「だって……思い出そうとしても、昨日の最後、俺……なんで一緒に帰ってないんだっけ……?」
「えっ……?」
「いや……俺と楓、いつも一緒にいるのに……なんで昨日だけ……記憶が、曖昧なんだよ……」

その異常に、誰も気づけなかった。
気づかないふりをした。

優凜は黙って腕を組み、ずっと床を見つめていた。
そして、何も言わずに椅子から立ち上がると、ゆっくりと部室を出ていった。
その背中が、妙に遠く感じた。



夜。
屋上に、●●の姿があった。
夜風が制服の裾を揺らし、星明かりが淡く照らしていた。

「……これが、正しかったんだろうな」

誰に向けたでもない、独り言。
けれど、その声には、重さがあった。

胸ポケットから、そっと一枚の切れ端を取り出す。
もう誰も読むことはないはずの、“ある名前”が、そこにはあった。
滲んだインクが、夜気に濡れて光る。

「……ごめんな」

唇が震えた。
でも、その名前を呼ぶ者は、もう誰もいない。

──まるで、最初から存在しなかったみたいに。
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