GPTであそぼ

鹿又杏奈\( ᐛ )/

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すずちゃんのJK生活

第50話 楓のいる場所へ

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思い返せば、歯車はあのときから狂い始めていた。

誰も彼もが、乃斗楓の“喪失”に心を抉られた。

現実と幻想の境界線は曖昧になり、それぞれの正気は、少しずつ剥がれていった。

あの日までは、私たちは“普通”を装っていた。装えていたつもりだった。

でも今は違う。

誰もが何かを抱え、それを隠す余裕すらなくなっていた。
静かに、確実に、私たちは壊れていた。

「俺は……見つけたんだよ。あいつがいる場所を」

沈黙のなかに、一郎の声が落ちた。重く、深く、逃れられない重力のように。

その言葉は、希望ではなく呪いのように響いた。

誰もが瞬時に察した。それは、「戻れるかもしれない」なんて優しい話じゃない。

その代わりに、全てを捨ててでも“手に入れたい”という、原始的な衝動を刺激する言葉だった。

次に声を発したのは、紅葉だった。

「で、どうすればいいの?」

あまりにも自然だった。その問いに、一瞬だけ皆が黙り込んだ。

……そして、誰も否定しなかった。

楓を取り戻す。それだけのために、常識も倫理も安全も、惜しくないと思える自分たちが、そこにいた。

最初にいなくなったのは、優凜だった。

何も言わずに消えた。

でも私たちは知っていた。彼女は“鍵”を持っていたことを。

かつて、彼女がたまたま救った一人の少年――

今では“全知全能”を宿す、観測者のような存在となったその少年は、優凜にだけは心を許していた。

異世界転移の理論、術式、座標の定義、魂の断裂と保持の仮定……。

その全てを一晩で完成させたのが彼であり、それを実行に移したのが、優凜だった。

「もし……あの子が本当に向こうにいるなら、私は行く。記憶を失っても、もう一度出会えれば、それでいい」

その言葉に誰も反論できなかった。

彼女の身を包む白い光のなかで、私たちは初めて知った。

優凜が、あんなにも静かな顔で、あんなにも激しい感情を抱えていたことを。

紅葉は違った。

彼は、方法そのものを“奪い”に行った。

「教えろ、一郎」

拳で、声で、血で、何もかもを以てして、親友に迫った。

その暴力的な執着の果てに、一郎は言った。

「一つだけ、ある。“死”によって魂を世界の狭間に送り出す。だが生きて戻れる保証はない」

「ふうん……でも、いいんだよ。俺は、それでもいい」

夜の旧校舎で、紅葉は儀式を組んだ。命を絶つことを代償に、異世界の座標を開く。

その瞳には涙もなかった。もう自分を止める手がないことを、彼自身がよく理解していた。

──そして私は、槙尾小鈴は、最も汚れた手段を選んだ。

「君には向いているよ」と、バンブーは言った。

「“貪食”はただの力じゃない。欲望そのものだよ。喰らい、奪い、上書きする。それは“存在”を凌駕する術だ」

「代償は?」

「この世界の肉体は抜け殻になる。植物人間だ。戻る道は断たれる。記憶もあやふやになる。それでも?」

──選ばない理由など、なかった。

私は、貪った。

“あちらの世界”のとある少年を。

銀の髪、蒼い瞳、高貴な血筋、名門の従者。

“ユイール”という王子に仕える、親友であり、守り人であり、唯一無二の伴侶。

その名を、声を、体を、人生そのものを、私は食い尽くした。

──そして、彼になった。

それが“偽り”だと、分かっていた。

だけど、彼になれば、きっともう一度会えると思った。

楓に。あの子に。唯一、私の世界を肯定してくれたあの人に。

記憶があいまいでも、魂が叫んでいた。

「──あの子が、そこにいる」

それだけで、全てを踏みにじれるほど、私は飢えていた。

私たちはもう、かつての“文芸部”ではない。

裏文芸部でも、異能者でもない。

ただの“亡者”だ。

乃斗楓という光を失ったことに耐えられず、常識を壊し、自己を殺し、それでもなお「欲しい」と叫び続ける。

一郎だけが、何も言わなかった。

静かに、全てを見送った。

次に誰が来ようと、どんな手段を取ろうと、何も干渉しない。

けれど、その瞳の奥には、凍りついた絶望があった。

──彼が誰よりも楓を大切に思い、誰よりも自分を責めていることを、私たちは知っている。

 
夜。

誰かが自分のベッドで、スマホを握りしめながら、小さく呟いた。

「……ごめんね」

でも、その言葉が、誰に向けたものなのかさえ、もうわからなかった。

胸の奥の空白が、じわじわと広がっていく。

名前を呼びたいのに、呼べない。

声に出そうとしても、言葉が見つからない。

──その名前を、私たちはもう二度と知らない。

 
 
いま、私たちはこの世界を離れた。

壊れた心を抱えて。

失った記憶を引きずって。

それでも――

あの子がいるなら、どんな世界でも構わない。

たとえ名前も、過去も、絆も忘れてしまっても。

私は、きっとまた――

君を、見つけ出す。
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