上 下
6 / 17

第 6話 ダンジョン再び

しおりを挟む
「ルーク!あんたにお客さんだよ!」

俺は宿の女将さんの声で目を覚ました。

俺を訪ねた人物はシュタイナー夫人、夫人の話しによると形見の鎧と剣を受け取った次の日に一人娘がダンジョンに入ってしまったそうだ。

娘の名は、サラ・シュタイナー。

父親の才能を受け継いで上級勇者の資格を持つ、魔術士タイプの勇者。

なぜ、ダンジョンなんかにと、俺は言いかけて言葉を飲み込んだ、早くに家を出た俺にはわからないが、父親を思う娘の気持ちとはこういったものだろう。

俺が形見を届けた時の娘の鎧と剣を見つめる視線に気づいていればダンジョンの入り口で思いとどまらせることも出来たのかもしれない。

夫人は相当あちこちまわったのだろう、上品な顔立ちに似つかわしくない疲労の色が表れている。

夫人は俺に頭を下げて必死に訴える。

「ギルドにお願いしましたが断れてしまいました。」

「あなたにお願いすることではありませんが頼れるのはあなただけなのです。」

そう言って皮袋を握らせる。

「このお金で足りなければ家に在る主人の形見の装備をお金に替えてでもお支払いしますので、どうか娘を助け出してもらえないでしょうか?」

こんな時、英雄ならば二つ返事で「任せておけ」と言うのだろうが、今の俺にはそんな簡単に返事はできない。

俺が夫人からお金を受け取った挙げ句娘を助け出せなかったでは、この先、夫人はどうやって生活していく、どうせお金を出すのなら俺より確実な方法を取るべきではないのか?

それでも夫人は俺に皮袋を握らせたまま、俺の手を両手で握り頭を下げ続ける、その手には前までつけていた指輪の痕がくっきりついている。

「努力はしてみます」

俺は勇者としては最低の返事をした、今の俺の精一杯の返事なのだが自分でも情けなくなる。

だがサラを助けると一度決めたら時間との勝負、俺は夫人を街馬車に乗せて夫人の家に急いだ。

形見の装備を売る為ではない、借りる為だ、もう一度、あのダンジョンに潜るのならばどうしてもこの装備が必要になるからだ。

今の俺のダンジョンでの方針は逃げるが勝ち、サラを見つけて戻ってくるまで逃げの一手を決め込む事。

モンスターに出会ってしまったら戦っても100パーセント勝ち目はない、ならば最初と同じように注意を払って進みモンスターに出会ったら逃げる。

それを実行するには今の俺の装備は弱すぎるからだ、俺の剣ではモンスターの攻撃を食らった途端に粉々に砕け散る。

どうせ攻撃をしないのならば、この折れた剣で十分、この剣ならばモンスターの攻撃を受け流せる。

鎧と盾も借りていく、俺に盾スキルは無いが、背中に背負うことで逃げてる最中に背中を守れる。

装備は決まった、後はポーチの持ち物、多くは持って行けないが、その選択が命に繋がる、俺は自分の持ち金と夫人から受け取ったお金でハイ・ポーションを買えるだけ買った。

ポーションの上位ランクにあたるハイ・ポーションは血止めの効果はポーションと同じなのだが、なんと、飲むとバフ効果が付与されるという優れもの。

多くの勇者はモンスターとの戦闘の直前に使用する、俺はモンスターから逃げる為に使うのだが今回は2人分必要になる

用意できたハイ・ポーションは8本、充分とはいえないがこれ以上は持っても行けない、俺はダンジョンに向かった。

「また、このダンジョンに来てしまったな・・・」

俺はダンジョンの扉を見上げてつぶやく。

時間との勝負だが、焦りは禁物、こんな時こそ冷静にだ。

そして扉に腕輪で触れる、前と違って今回はちゃんと着地できた、俺はひとつの考えを確認する為に足跡地図を見る。

足跡地図は持ち主の[そくせき]を点線で表すものだか、それは何に反応しているのかをだ、俺、本人にか、俺が付けている装備にか?

そんなことを何故、俺が考えるかと言うと足跡地図を買った時の使用方法の説明を受けた時の事だ、本人識別をする為に巻いてある地図を開いて全身を地図に映し出すのだが、その時、装備も認識されるのではないか?

本来なら俺はいくつかのダンジョンを攻略していくうちにこれらの事を学習していくつもりだったのだが、今、それを言っても仕方ない。

さて、本人か装備、それをどうやって確認する?

装備を投げれば致命的な音がするし、置いてきてはそこまでの点線が付いてしまう。

何故、俺がそこまでこの件にこだわるのか、それはサラに合流できたらの話しになるが、地形変化ダンジョン対策の為だ。

もし足跡地図が装備に反応しているのならば、俺の装備をサラと交換する事ではぐれた時にサラの居場所が俺の足跡地図に表示される。

これは大きなアドバンテージになる、しかし、どうやって確認しよう、ここが弱いモンスターしかいないダンジョンならおもいっきり盾を投げてやるのだが。

俺は考えていると、ある事を思い出す、そして地図の隅から隅まで見直す、亡骸の側に置いてきた俺の防具の存在だ。

「‼︎」

今、俺がいる位置から遥かに離れているが確かに点が2つ在る、1つは出口、ならばもう1つは俺の防具の可能性が高い。

このことはサラ救出にとってとてつもなくラッキーと言える、何故ならサラが父親の亡骸の周辺にいる可能性が高いからだ。

俺は1つの点を目指して進みだす、その点が出口の可能性もあるが、それはそれで退路を確保する意味で重要で逃げ道がわかっていればサラと合流した後にスムーズに出口まで逃げられるのだから。
しおりを挟む

処理中です...