鬼と柊

はるた

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 朝が来た。

 今回、夢は見ていない。けど、目は覚めたみたいだ。

 今は現実。多分。お決まりの頬をつねればちゃんと痛いし。

 まぁ、鬼の世界でも痛みがあったから夢か現かの確認方法として正確なのかは分からないけれど。

 昨日の僕が託した明日がつまりは今日な訳で。

 とにかく柊さんに聞いてみない限りは判断の仕様がないから、学校に着いてから彼女に話しかけるタイミングを見ているのだけれど、そういう日に限って日直が当たるし、いつもはそんなに仕事無く終わるのに移動教室だから鍵空けておいてだとかノート返却するから職員室まで取りに来てだとかで断ることも出来ずにこなし、ようやくほっと一息昼休み。

「佐藤ー食堂行こーぜ。」

「あーごめん。先行ってて。」

「日直の仕事?手伝おっか?」

「いや、別件だから大丈夫。」

「そっか。じゃあ席取っとくな。」

「ありがとう。頼んだ。」

「任せろ。」

 小谷に手を振り、柊さんの姿を探す。

 教室は食堂に行く生徒と教室で友達同士近くの席に移動する生徒がいて、座っている僕だけが静だ。

 そういえば柊さんはいつもどこで食べているのだろう。食堂で見かけたことがないから教室か?

 右の後ろから前を見て、左の前から後ろを、というようにぐるーっと教室を見ていたら、ちょうど柊さんが廊下に出ていくタイミングだった。

 僕は慌てて立ち上がり、後を追う。

 廊下には食堂に行く人でいっぱいで、なんだか魚の大群みたいだと思いながら僕はその動の流れに身を任せる。

 みんなが前の人に歩調を合わせて歩いている中、階段を下り始める大群から上へと歩くはぐれる魚が一匹。

 それが柊さんだった。

 柊さんは逆流しているのにも関わらず、すいすいと人を避けては上へ上へと上がっていく。

 反対に僕はごめんなさい、すみませんとたまに肩をぶつけながらようやく人並みから脱出した時には柊さんの姿は無かった。

 4階は音楽室と空き教室、視聴覚室があるだけで人の通りは少ない。

 僕は廊下を端から端まで空き教室の中を覗きながら歩くが、柊さんどころか誰もいない。

 あとは屋上に続く階段しかないけれど、一段目には立ち入り禁止と表記された立て看板があり、そこに柊さんがいるとは思えない。

 また僕は端から端まで歩き、一応見てみようかと周りに人がいないのを確認してから気持ち静かに階段を上がる。

「あ、いた。」

 鍵のかかったドアの前のスペースにはなぜか木の長椅子があって、そこに一人、柊さんはお弁当を広げて座っていた。

 彼女は僕がひょっこり現れても目もくれず、いただきますと手を合わせた。

「あの、少しお話いいですか?」

「…………。」
 
 卵焼きを口に頬張る彼女は果たして話せないのか話したくないのか。

 というか、僕のことが見えてるのか声が聞こえてるのかも怪しいくらいの無反応。

 昨日とは違う人のような……。

 卵焼きが口からなくなり今度はたこさんウィンナーを口に運ぶ彼女。

 このまま話さず帰るよりはと僕は思い、無言は肯定、として捉えさせてもらうことにする。

「話ってほどじゃないんですけど、お礼を改めて言いたくて。柊さん、昨日はありがとうございました。」

「…………。」

 彼女はたこさんウィンナーをこくんと飲み込んだ。

 やっぱり反応はない。

 次は何を食べるのかの予想でもするかと箸の行先を見ていたら、「なんのことでしょうか」と今回咀嚼以外で初めて彼女は口を動かした。

 その時、僕は頬をきりりとつねられたかのような痛みを感じた。そうして、判別がついた。

「ごめんなさい。夢だったみたいです。……でも、夢でも僕はあなたに救われたのでお礼はそのまま受け取って下さい。って言っても、言葉だけなんですけど。」

 そう言ってから、気持ち悪くないか?と自分で思った。

 目の前の彼女は僕の夢の話なんて知りもしないのに、いきなりクラスメイトとは言え接点がほとんどない相手に追いかけられて、お礼を言われて……。

 あ、やってしまったかもしれない。

 小谷からいつもお前は唐突で突飛なことをするから心配だと言われ、気を付けろと釘を刺されているのに……。

 両者共に無言の時間が経過する中、彼女は箸を置き、おにぎりを手に取ってラップをペリペリと剥がし始める。そして「あなたの、」と彼女が先に無言の時間から脱出した。

「あなたの夢の中の私と今ここにいる私は別人だと思いますが、いいんですか。」

 彼女は出てきた三角の頂点をぱくっと齧る。

 僕は頭の中で彼女の言葉を繰り返してから「はい」と頷く。

 意外とセーフだったみたいだ。

 小谷、大丈夫だったよと一階へテレパシーを送る。

「そうだ。柊さんチョコ好きですか?」

「嫌いではないです。」

「それはよかった。」

 僕はブレザーのポケットから箱を取り出し、その中から一つチョコを取る。

「これどうぞ。」

「……これも、お礼ですか?」

「これは、お裾分けです。」

 彼女はおすそわけと口を小さく動かし、自分の手のひらに乗せた銀の紙に包まれた正方形のチョコレートをまるで初めて見るものかのようにじっと見つめていた。

「じゃあ、僕はこれで。お邪魔してしまってすみませんでした。」

僕は昼休みの時間の残り時間を気にしながら階段を駆け足で下り、小谷が待つ学食へと向かった。
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