鬼と柊

はるた

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 帰り道。僕はまた鬼の世界に迷い込んでしまったらしい。

 燃えるように赤い空の下、僕は小谷のアドバイスを試してみようとその場でジャンプしてみる。

 空を飛ぶ、よりかはふわっと宇宙空間みたいに浮くイメージで。

 結果、重量によりストンと着地した。普通にジャンプして終わった。

 次。

 木を歩くように登れるかにチャレンジ。

 足を木の幹に付けたけれど「あ、これ絶対無理だ」と悟り、失敗。

 次。

 僕よりも大きい岩を動かせるかどうか。

 両手を突き出し、押す。

 が、1ミリも動かない。

 全体重で押しても、足がずりずりと後ろへ行くだけ。岩に、負けている。

 全く、全然、現実と同じ。

 これ、本当に夢なのだろうか。

 いや、鬼がいる時点ですごくファンタジーではあるけれど。

 方法が間違ってるのだろうか。

「何をしているのですか?」

 一番可能性があるため、どうにか岩を動かせやしないかと試していると後ろから声がかかった。

「あ、柊さん。こんにちは。」

「……こんにちは。」

 彼女はとても不思議そうに僕を見ている。 

「夢ならこの大きな岩も動かせるかなぁと思って。」

 今はもはや、夢かどうかよりも動かしたいという気持ちが主な理由になっていたけど。

「……体を痛めるのでやめた方がよろしいかと。」

 控えめに彼女はそう言った。

「夢でも、なかなか思い通りにはいかないんですね……。」

 想像力が足りないんだろうな、きっと。

 だから妙に現実めいているんだ。多分。

「あの、昨日こちらから帰る時、振り返ったりなどしましたか?」

 うんうんと一人で納得していると彼女はまだ不思議そうに納得していない様子で聞いてきた。

「いえ、言われた通り、真っ直ぐ前を見て歩きましたけど。」

「そう、ですか……。」

 彼女は顎に手を当てて考え込む。

「それがなにか?」

「……通常、一度迷い込んだ人間は二度と鬼の世界に来ないよう、まじないがかけられるのです。そのまじないには絶対的な効力がありまして、効かなかったことはこれまで一度たりとも無かったはずなのですが……。」

「僕には、効かなかった。」

 柊さんはこくりと頷く。

「お昼に、鬼の世界のことを覚えているようだったので珍しいなとは思ったのですが、あなたは夢だと思っているようでしたので深くは聞きませんでした。その方が、都合がいいので。しかしまた迷い込むことになるとは……。疑うようなことをお聞きしてしまいました。すみません。」

 柊さんは深々と頭を下げる。

「それは、全然。大丈夫です。けど、えっと、これって夢、じゃないんですか?」

 彼女の言い方は現実だと言っているようだったから、僕はまた、混乱してくる。

 ふわふわとあやふやで気持ち悪い。

「私が今、夢だと言っても現実だと言っても無意味かと思います。どちらにせよ証明する手立てはないのですから。」

 それは、確かにそうだ。

 学校でのことを彼女が言ったのは一見、現実の証拠とも思えるけれど、僕の記憶から引っ張られたこととも思えて、はっきりはしない。

 夢は、目が覚めれば夢だと分かる。

 だけど、現実だったら?

 どう、証明すればいいのだろう。
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