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十
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「では、行きましょうか。」
そう言い、スタスタと柊さんは歩き始める。
2人はあまり仲が良くないのだろうか。
「できるなら迷い人を式神に乗せて出口まで安全に運びたいのですが、2人が限界でして。人を喰わないとは言え、鬼灯は鬼なので空中で2人きりは怖いでしょうし、難しいところなのです。」
確かに柊さんがいれば大丈夫だったけど、2人っきりは怖いというより、気まずい。
それは、人間も初対面同士だと何を話せばいいのか戸惑うのと同じだと思う。
柊さんの口ぶり的に、2人はいつも一緒に行動しているということなのだろうか。
「柊さんと鬼灯さんとはどういう関係なんですか。」
僕の何気ない質問に柊さんはしばし黙って言葉を探していた。
そして、「殺し、殺される関係ですかね」と答えた。
「え。」
そんな物騒な発言が出るとは思っておらず、腐れ縁とかかなとほのぼのと想定していた僕は聞き間違えたのかと思った。
「柊家の本来の役目は鬼灯の首を斬り、鬼の世界を完全に閉じること、ですので。」
どうして鬼灯さんの首を斬ると鬼の世界が閉じることになるのだろう。
「一体いつになったらその役目を達するんだかな。お前らが勝手にころころ死んでゆくばかりで俺はぴんぴん生きてるぞ。」
いつの間にか僕の隣に鬼灯さんが歩いていた。
また、式神から降りたのか。
僕は空を見上げてみたが、式神の影は無い。
どれくらい高く飛んでいるのだろう。
そこから音もなく降りてくる鬼灯さんは鬼だからまだしも、柊さんも同じように降りてきているのなら、身体能力の高さがすごすぎやしないか。
柊さんは鬼灯さんの声にちらりと振り向いたが、足は止めない。
「式神に乗らないのなら私たちが使うけど。」
「そしたら俺が乗れなくなるだろう。」
「そうだね。」
当たり前というように柊さんは頷く。
鬼灯さんはジャンプして柊さんの隣へと移動する。
「式神を低く飛ばせろ。そしたら楽だ。」
「勝手に降りたのはそっちでしょう。たまには歩いたら?」
「お前の式神が俺の言うことを聞かんのが悪い。」
「私の式神だから当然でしょう。」
僕は言い合う2人の後ろを歩いている。
あの大きな式神も紙からできているのだろうか。
人が乗れるくらい丈夫なんだから特殊なものなのか、はたまた別の、紙ではないものなのか。
僕にもできたらいいけど、できないんだろうな。
まだ言い合っている2人を僕はぼんやりと風景と共に眺める。
柊さんははっきりとは言っていないけれど、鬼灯さんは確かに現実と言った。
鬼がいることが現実だとしたら、夢も現実もさして変わりはなく、むしろ現実の方がありえないことだらけなのかもしれない。
「出口に着きました。今回はこの木とこの木の間となります。」
昨日と同じく僕にはただの木にしか見えない。
「あの、一つお願いがあるんですけど。」
「なんでしょうか。」
「僕が今から名前を書いた紙を柊さんに渡すので、明日学校でそれを見せて欲しいんです。」
「分かりました。現実の証明と言ったところでしょうか。」
「はい。」
僕はリュックからメモ帳とボールペンを出して佐藤唯人と書く。
「小僧、俺が現実と言ったのに疑い深いんだな。」
「いえ、鬼灯さんが現実と言ってくれたから確かめたいと思ったんです。」
僕は、ピッと名前を書いた一枚をちぎり、柊さんに渡す。
「お願いします。」
「確かに受け取りました。では、お昼休みに今日と同じ場所でお待ちしております。」
「ありがとうございます。それじゃあ、また、明日。」
「振り返らないよう、お気を付けて。」
そうして僕はまた鬼の世界を背に、後にした。
そう言い、スタスタと柊さんは歩き始める。
2人はあまり仲が良くないのだろうか。
「できるなら迷い人を式神に乗せて出口まで安全に運びたいのですが、2人が限界でして。人を喰わないとは言え、鬼灯は鬼なので空中で2人きりは怖いでしょうし、難しいところなのです。」
確かに柊さんがいれば大丈夫だったけど、2人っきりは怖いというより、気まずい。
それは、人間も初対面同士だと何を話せばいいのか戸惑うのと同じだと思う。
柊さんの口ぶり的に、2人はいつも一緒に行動しているということなのだろうか。
「柊さんと鬼灯さんとはどういう関係なんですか。」
僕の何気ない質問に柊さんはしばし黙って言葉を探していた。
そして、「殺し、殺される関係ですかね」と答えた。
「え。」
そんな物騒な発言が出るとは思っておらず、腐れ縁とかかなとほのぼのと想定していた僕は聞き間違えたのかと思った。
「柊家の本来の役目は鬼灯の首を斬り、鬼の世界を完全に閉じること、ですので。」
どうして鬼灯さんの首を斬ると鬼の世界が閉じることになるのだろう。
「一体いつになったらその役目を達するんだかな。お前らが勝手にころころ死んでゆくばかりで俺はぴんぴん生きてるぞ。」
いつの間にか僕の隣に鬼灯さんが歩いていた。
また、式神から降りたのか。
僕は空を見上げてみたが、式神の影は無い。
どれくらい高く飛んでいるのだろう。
そこから音もなく降りてくる鬼灯さんは鬼だからまだしも、柊さんも同じように降りてきているのなら、身体能力の高さがすごすぎやしないか。
柊さんは鬼灯さんの声にちらりと振り向いたが、足は止めない。
「式神に乗らないのなら私たちが使うけど。」
「そしたら俺が乗れなくなるだろう。」
「そうだね。」
当たり前というように柊さんは頷く。
鬼灯さんはジャンプして柊さんの隣へと移動する。
「式神を低く飛ばせろ。そしたら楽だ。」
「勝手に降りたのはそっちでしょう。たまには歩いたら?」
「お前の式神が俺の言うことを聞かんのが悪い。」
「私の式神だから当然でしょう。」
僕は言い合う2人の後ろを歩いている。
あの大きな式神も紙からできているのだろうか。
人が乗れるくらい丈夫なんだから特殊なものなのか、はたまた別の、紙ではないものなのか。
僕にもできたらいいけど、できないんだろうな。
まだ言い合っている2人を僕はぼんやりと風景と共に眺める。
柊さんははっきりとは言っていないけれど、鬼灯さんは確かに現実と言った。
鬼がいることが現実だとしたら、夢も現実もさして変わりはなく、むしろ現実の方がありえないことだらけなのかもしれない。
「出口に着きました。今回はこの木とこの木の間となります。」
昨日と同じく僕にはただの木にしか見えない。
「あの、一つお願いがあるんですけど。」
「なんでしょうか。」
「僕が今から名前を書いた紙を柊さんに渡すので、明日学校でそれを見せて欲しいんです。」
「分かりました。現実の証明と言ったところでしょうか。」
「はい。」
僕はリュックからメモ帳とボールペンを出して佐藤唯人と書く。
「小僧、俺が現実と言ったのに疑い深いんだな。」
「いえ、鬼灯さんが現実と言ってくれたから確かめたいと思ったんです。」
僕は、ピッと名前を書いた一枚をちぎり、柊さんに渡す。
「お願いします。」
「確かに受け取りました。では、お昼休みに今日と同じ場所でお待ちしております。」
「ありがとうございます。それじゃあ、また、明日。」
「振り返らないよう、お気を付けて。」
そうして僕はまた鬼の世界を背に、後にした。
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