鬼と柊

はるた

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十六

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 白い天井。寝起きの頭の中で、ここどこだっけと質問し、あぁ学校かと答える。

 僕は夢の中でいつも夢だと気付く。僕が主役のドラマを見ているようなそんな感覚。

 あれは確かに夢だった。まだ、夢の熱が残っている。

 鬼灯さんがいて、それで……なんだっけ。

 内容を思い出そうとしたけれど、夢は波のように引いていって、そのまま波のようには戻っては来ずに消えていった。残ったのは懐かしいという気持ちだけ。でも。

「懐かしかったのは、なんでだろう。」

 夢は見る人の記憶から作られていると聞いたことがある。今見た夢はいつかの誰か、友達とかの記憶をベースにしていて、最近の記憶……最近は鬼の世界のことばかり考えていたからそれらが混ざったのだろうか。

 僕は、ゆっくりと身体を起こす。朝からあった頭痛や怠さは嘘のようにさっぱり無くなっていた。

 ベッドの近くにある小さな丸いテーブルには水と制服のポケットに入れていた僕のスマホ、そして、「起きたら葉の印がある扉の部屋に来て下さい。制服はハンガーにかけてあります。貸した服はベッドの上に置いておいてくれれば大丈夫です。柏那」と書かれたメモがあった。

 僕は丁寧にハンガーに掛けられていた制服に着替えて、貸してもらった服を畳む。

 そういえば、今、何時だろうと思い、スマホを見ると10時18分。2限の途中。いつも8時30分には学校に着くようにしてるから約2時間くらい寝てたってことか。

 そこまで寝てたわけじゃないことになんとなくほっとする。ぐっすり寝てしまうと時間の感覚が分からなくなる。ここには窓があるけどなぜか外はモヤがかかったように見えないし。

 小谷から「だいじょぶかー?」とメッセージが来ていた。確か寝る前に柏那さんが担任に連絡しておくと言ってくれていたけれど、僕の状況はどう伝えられているのだろうか。とりあえず僕は無難に「大丈夫」とだけ小谷へと送り、スマホはポケットに入れて、部屋を出る。

「こんなに広かったっけ。」

 部屋がたくさんあって、迷いそうだ。近くの部屋の扉を見ると何もない無印。その隣も同じだ。頭が痛くてそれどころじゃなかったけど、今僕がいた休憩室もどの部屋の扉もなんの特徴もなく、全く同じでどこがなんの部屋だか全然見分けがつかない。でも、メモによると僕が行くべき部屋には印があるみたいだから、逆に探しやすいのかも。

 一つ一つ扉を確認し、ようやく目当ての部屋を発見。コンコンコンとノックをすると、「どうぞ」と柏那さんの声が聞こえた。

「失礼します。」

 部屋の中に入ると柏那さんはノートパソコンで作業をしていた。パソコンの横には分厚い書類が積み上げられている。綾目さんの姿は無かった。

「おはよう。体調はどう?」

 柏那さんはノートパソコンをパタンと閉じ、立ち上がって、手で「どうぞソファに」と示す。

「おはようございます。おかげさまでだいぶ良くなりました。ありがとうございます。」

 そう言ってから、僕はソファに座らせてもらう。体が沈む。包まれる。それくらい、ふっかふかのソファで、僕は最初の部屋と同じ部屋だということに気付いた。

「いえいえ。元はと言えばこちら側が巻き込んでしまったことだから、お礼はいらないよ。むしろご迷惑をおかけしてしまって申し訳ない。」

 柏那さんは謝罪した。

「いえ、そんな。」

 今度は僕が「いえ」と言う番だった。

「透ちゃんには、2限の授業が終わり次第こっちに来るように連絡したから。待っている間、なにか僕に聞きたいことがあったら遠慮なく。」

「じゃあ、早速質問いいですか?」

 僕は姿勢を正す。柏那さんにお世話になったけれど、僕が今、目の前の彼について知ってることといえば、名前とこの高校の生徒会長ということだけで、鬼の世界との関連性は全く分からない。だからまずは聞こうと思う。

「柏那さんはその、鬼の世界のことを知っているようですけど、それはどうしてですか?」

「うん。佐藤くんは透ちゃんから柊家の役目は聞いてるかな?」

「はい、一応。」

「それなら話が早いね。柊家が鬼から人を守ることを代々役目として受け継いできたように、柏那家にも鬼のいる世界と僕たちが今いるこちらの世界を完全に分けるという役目があるんだ。」

 だから知ってるんだよと柏那さんは言った。

 あれ?と僕は思った。柏那さんの言う柊さんの役目が僕の聞いた話とはズレていたからだ。

 確かに柊さんは鬼の世界に迷った人を元の世界に帰すことをしていて、その中に人を守ることが含まれている、というのは分かる。

 けれど、柊さんは鬼灯さんの首を斬り、鬼の世界を閉じることを役目と言っていた。本来の役目だと。わざわざ。

 僕が部外者だから柏那さんは柊さんの役目をぼかしたのかもしれない。表の役目として。だとしたら柊さんが嘘をついたかうっかり口を滑らせてしまったかということになるけれど。どちらでもなさそうなんだよなぁ。

「お殿様と鬼っていう絵本があるんだけど、知ってる?」

「鬼退治のお話ですよね?小さい頃よくおばあちゃんに読んでもらっていました。」

 まだ柏那さんの立場が分からない以上、下手なことは言わない方がいいだろうと僕は話を合わせる。

 おばあちゃんの膝に乗って絵本を読んでもらってるその頃の僕はまさか本当に鬼がいるなんて思いもしていなかった。

「そう。その鬼退治をする殿様と鬼斬が、それぞれ僕と透ちゃんの先祖をモデルにして描かれているんだ。」

「えっ。」

 言われてみればあの絵本はどこかの地域に伝わる話が元になっているみたいだったけれど、僕はこの瞬間まで絵本に登場する鬼は悪い人間の比喩だと思っていた。

 鬼に食べられかけたのに。今の今まで鬼と悪がイコールで結ばれていなかった。

「絵本では鬼を全て退治して平和になりましたで終わっているけれど、実際は僕の先祖が鬼の世界を作って世界を切り離したんだよ。力不足で完全には分断できなかったんだけどね。」

 どういうこと?世界を切り離すって……。そんなこと人間にできるのだろうか。

 ずっしりとした高級そうな木のテーブルを挟んだ先にいる柏那さんは鬼ではないはずなのに、それこそ切り離されたかのように僕といる世界が違うみたいだ。
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