鬼と柊

はるた

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十八

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 柊さんが僕の隣に座り、干鰯谷くんは近くにあった丸い椅子に腰を下ろした。

 詰めればソファに3人座れるのに、いいのかな。

 と、思っていると。

「伊吹様ー、できましたよっ!」

 ガチャっと扉が開いて、明るく元気な声が響いた。

「紗也子。」

 柏那さんがその人の名前を呼ぶ。

 ふわふわしたポニーテールを揺らす彼女は、今朝、僕をここへ連れて来た綾目さんだった。

「あ!佐藤くん!元気になったー?」

「あっ、おかげさまで。お茶もありがとうございました。」

「よかった!これもあげるね!」

 にぱっと人懐こそうに笑う綾目さんは僕に透き通った緑色の小さな玉が連なった数珠を「プレゼント!」と渡す。

「ありがとうございます、えっと、これは?」

「ブレスレットだよー!悪い気を浄化してくれるお守り!」

「お守り……?」

「鬼の世界に行ってしまうことの対処法はまだ考えられていないけれど、身体にかかる負荷についてはそれで対応可能だと思うから、常に身に付けておいてね。」

 と、柏那さんが説明してくれる。

「つまり、それを付けてれば今日みたいに倒れる心配はほとんど無くなるってこと。」

 と、干鰯谷くんはまとめた。

「一昨日の夜に透さんから頼まれてたんだけど、夕日を集めるのに時間かかっちゃったんだ。遅くなってごめんね!でも、心を込めて作ったからきっと効果抜群だよ!」

 そう言いながら、綾目さんはグッドサインを僕に向けた。

 僕は、柊さんが頼んでくれていたんだとちょっと嬉しく思いながら「ありがとうございます。大事にします」とお礼をもう一度言って、お守りを左手につける。

 一瞬、お守りが柔らかい光をふわっと発したように見えた。

 綾目さんの力が無ければ作れないというお守りは、一つ一つ白い玉に夕日の光を当てて夕焼け色に染めてから、それを柊の葉っぱで包んで作ったものらしい。

 だから、緑色なんだ。それも透き通っていてとても綺麗な。

 これをつけていれば迷惑をかけることも心配させることもなくなるんだと思うとほっとした。

 柊さんは隣でお守りをじっと見ている。

 そう言えば、学校での柊さんって鬼の世界のハキハキした様子とは違い、反応がゆっくりだった気がするけど、もしかして、柊さんの身体にも鬼の世界の負荷がかかっているのではないだろうか。

 単純に僕が嫌われてるとかではないのなら、眠そうにも見えたし、頭が働いてないようにも見えた。当然疲れもあるだろうし、柊さんもこのお守りをつけた方がいいんじゃ……。ぱっと見た感じ両手首どちらにもつけていないようだし。

「あの、柊さんは鬼の世界に行っても体調は悪くならないんですか?」

「…………。」

 反応が無い。

「……?柊さん?」

 聞こえてない?そんなにお守りが気になるのかな?

 というか、あれ?すーっという音が聞こえるけどこの音は……。

「あーごめん。この人寝てるわ。」

 干鰯谷くんは椅子から立ち上がり、柊さんの顔を覗き込んで言った。

「えっ?寝てる?」

 そんなまさか……と驚く僕のリアクションは無視して、干鰯谷くんはよいしょと柊さんをソファの背もたれにもたれかからせ、スタスタと毛布を取りに行ってしまった。

「透ちゃんこのソファに座るといつも寝ちゃうんだよね。」

 柏那さんは困った顔をしながら、仕方ないなぁと笑い、綾目さんは「かわいー!」とにこにこしている。

 この人たちにとっては普通のことらしい。そんな一瞬で寝られるものなんだ……。

「このソファに限らず透様はどこでも寝ますけどね。でも、安心したんでしょう。朝からずっと佐藤のことを気にしていたようなので。」

 干鰯谷くんがふんわり毛布をかけると、少しもぞもぞと動いた柊さんだったけれど、ポジションが安定するとそのままぴたりと動かなくなった。
 
 思わぬ所で、新たな一面が見れてしまった。

「そうなんだ。心配かけちゃって申し訳ないなぁ。」

 冬眠する小動物かのようにすっぽりと顔を隠して、完全に寝に入っている柊さん。

 なんか、ほっこりする。

「あんたがそう思う必要ないから、堂々としてて。その方がこの人にとってもいいし。」

「うん。」

 干鰯谷くんがソファに座らなかったのは、柊さんが寝てしまうと見越してのことだったのだろう。

 3人起きていれば普通に座れるけれど、1人が身体をかたむけ寝てしまうとぎゅうぎゅうになってしまうから。

 すやすやと眠る柊さんを見つめる干鰯谷くんの目は優しかった。
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