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第一話

バウンティハンター つづき2

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一時間後。
 ラスベガス郊外にあるハンター詰所。
 「塚本が本当に来ると思ってなかった」
 エリオットは口を開いた。
 「元スパイで特殊部隊にいたら事前にわかっていたんでしょ」
 詰め寄る氷見。
 「ほぼ情報は空振りに終わっていた。協力者はフリンだけでなく信奉者もいて狂信的な連中もいるんだ」
 エリオットは肩をすくめる。
 「私達は極東の集積所に侵入したらすでに塚本が監視していた。それに気づいたのはバージルよ。
気づかなかった?」
 ジェルが腕を組んだ。
 「怪しい口座があることは知っていた。塚本が何か計画しているのはわかっていたが何を
していたのかわからなかった」
 エリオットが視線をそらす。
 「一度、欧米や南米の集積所も調べた方がよくないですか?」
 リックがわりこむ。
 「侵入したら一〇分でミサイルが来て蜂の群が来た。塚本をほっといたらヤバイけど」
 ジェルが気づいた事を指摘する。
 「国連は何もつかんでおらんのか?}
 ヨセフが強い口調で聞いた。
 「君らは闇の権力とか影の勢力とか聞いた事があるか?大戦前、そういう輩が星の数ほどいたんだ。
主なメンバーは一握り大金持ちどもだ。塚本はそういったメンバーの一人で実行する”実行者”だ。
影の勢力、闇の権力は「迷宮」という暗号を使った。連中は本当に第三次世界大戦を勃発させて
ゲーム感覚で楽しんでいた」
 エリオットは重い口を開いた。
 「聞いた事がある。ハッカーの間では有名で塚本以外にもまだいるのではというウワサは本当だったのね」
 ジェルが気になること言う。
 「その負の遺産がバージルとドールね。でもバージルは後悔していた。だからハンターになりたいと
言ってきた」
 氷見が医療カプセルに入れられ拘束ロープで拘束されているバージルを見ながら言う。ドールは隣り
のカプセルでおとなしく寝ているが、バージルの胸や腹部には複数の傷口が口をあけている。自己修復が
できないのか青い潤滑油はしたたり落ち、内部の機器やプラグ、コードは何か這い回るように蠢いている。
何かが這い回り軋み音をたてる度に彼はうめき声を上げてのけぞっていた。
 「我々で探すのは限界でハンターの力を借りて探していた。まさか君らが来るとはね」
 エリオットはコーヒーを飲む。
 「バージルを空母に戻してあげたら?彼は十分に苦しんだわ」
 氷見がチラッと医療カプセルを見る。
 「国連軍はたくさんの犠牲を払った。空母エスペランサーはただの空母じゃない。究極のロボット兵器で
空を飛ぶ要塞だった。見た目は小型空母でも中味は劇薬。無人機や戦闘マシーンの宝庫で私の顔の傷
はその時の闘いでできた」
 エリオットは険しい顔になる。
 「じゃあなぜおとなしく国連の監視下におかれている?二〇年もあればドックを破壊できただろう」
 ヨセフがぴしゃりと言う。
 「バージルがその気になれば私やあなたはひとたまりもないわ。彼は疑問を持ち投降してきた。だまし討ち
もできた。それをしなかったのは彼は後悔しているし相応の罰を受けようと思ったからよ」
 氷見はもがき苦しむバージルを見下ろす。
 戻さない事にはこの傷は治らないし、彼の力があればアジトに行ける。それに”迷宮”の事も
わかるかもしれない。
 「君らは戦後に生まれた。私達はあの戦争の悪夢を知っているし、世界は二〇年経っても深い傷を
負っている」
 エリオットは視線をそらした。
 「じゃあ司法取引しない?私達はバージルとドールでチームを組んで塚本のアジトへ行って塚本を
捕まえて債権者に引き渡す。条件は空母にバージルを戻す事」
 真剣な顔になる氷見。
 「それは無理だ。国連総会の許可がいる」
 エリオットが首を振る。
 「塚本を捕まえたいんでしょ。それは私達だって同じだしこの依頼をしてきたのは国連本部よ。普通の
依頼者が戦争犯罪人なんか依頼してこない」
 氷見がぴしゃりという。
 「俺も同感です。あのチビデブは捕まえるべきです」
 リックが詰め寄る。
 「集積所はほっといたらあいつに全部乗っ取られるけど。またどうせロクでもない事を計画
していたらどうする?」
 ジェルが口をはさむ。
 「空母エスペランサーは国連軍の基地にある。アラスカ基地の収容ドックにいる」
 ため息をつくエリオット。
 「協力するのか?」
 ヨセフがジェルを押し退ける。
 「空母とバージルは長い間引き離していた。引き離す期間が長いほどバージルの損傷は
治らなくなってきている。切り離したら彼は死ぬだろう。それは我々にとっても一つの戦争が
終わった事になる。
だが真実は残酷だ。”迷宮”と呼ばれる連中は実在する。塚本はその一人にすぎない。あの空母は”迷宮”の
遺産だ。国連も各国政府も迷宮の存在をつかんでいたのに情報に踊らされ、第三次大戦という愚かな道へ
進んだ。最初は人間同志だったのに後半はロボットとの戦いになった。迷宮の望みは人間の数を減らして
五億人までに減らしたらしたら支配をするという計画をつかんでいた」
 エリオットは地図を出して基地の図面を出して説明した。
「それは初耳だ」
ヨセフが驚く。
「私も行く。バージルは空母の内部に入れると損傷が治るのが早くなる」
エリオットは何か決心したように言った。

五時間後。エリオットとヨゼフはは医療カプセル二台を台車に載せてアラスカ基地に入った。
氷見、リック、ジェルは見学者として基地に入っている。それも普通にである。あとは何も起こらなければ
いいのだ。
「エスペランサーはこの先ね」
氷見は受付でもらった地図を見ながら足早に進んだ。
ここは大戦前は普通の港町だったが終戦後は急ピッチで国連軍の基地が建設されている。理由は簡単で
エスペランサー号を閉じこめるためである。
 氷見、リック、ジェルの三人はひときわ大きな建物内に入る。外観は屋根つきのドックだが、内部は六角形
の量子コンピュータが壁際にならび係留鎖で船体の八ヶ所を固定している。
 「けっこうデカイな」
 その船を見上げる三人。
 見た目は普通の空母にしか見えない。全長は二五〇メートル位。二万トン前後。艦載機はない。ドックと
空母側面をつなぐ桟橋を渡り艦内に入った。そこは艦載機用格納庫である。格納庫でエリオット達と合流した。
 「この空母には人間が居住できるスペースがない。ロボットは格納庫に立ったまま収納スペースに格納される。
この隣りは武器や兵器を生み出す工場になっている。艦尾側にエンジンと機関部。中枢部に主体コアがある。
コアの周辺部に人間で言う循環装置、生命維持装置らしきものがある。一種の金属生命体だよ」
 ヨセフは説明する。
 感心する氷見達。
 長い廊下を進みCICという司令所に入った。ここは艦の内部にありいろんな情報が集まり、艦長達が部下に
指示を出す場所だ。そこに椅子やオペレーター席はなく魔法陣のようなものが描かれている。その円形の
魔法陣からせりだす別のカプセル。
 バージルを拘束するロープを外してゼリー状の物で敷き詰められた箱型カプセルに寝かされる。すると
傷口は治り、蓋が閉まる。カプセルは床下に格納されて魔法陣から文字で立体的に描かれる黄金色の
球体が現われた。直径は二メートル位。土星みたいな輪が六本くっついている。
 「あなたが空母エスペランサー?」
 氷見はたずねた。
 「驚かせて申し訳ない。バージルでいいですよ。ヨセフ博士の言うとおり、私は迷宮機関に造られた
金属生命体です。私の主体コアは金属生命体の一部と思われる隕石が使われ、船体にも使われています。
ベースになったのは米軍の空母で、動力はヴェラ二ウムです」
 バージルが答える。
 「プルトニウムとかウラン鉱石でなくて?」
 リックがわりこむ。
 「太平洋の一部でしか採れない希少な鉱石で、放射能や有害な物質がでない半永久的な動力です。
迷宮機関は私にスカイネットのようになってほしかったようですが、私は選択しませんでした。ですから
彼らも私の弱点を知っているし、探ってもいるし、また仲間に誘ってくると思われます」
 バージルは言い切る。
 「それは後で考えればいいわ。塚本がどこにいるのかわかる?」
 氷見は話を切り替える。
 「リックがカジノにいた塚本の電気車椅子に発信機をつけてくれたおかげで居場所はわかりました。ここです」
 バージルは正面スクリーンに地図を出す。そこはサハラ砂漠にある建造物が映し出される。建造物は塔が
中心にあって砦のような壁が周囲を囲んでいる。
 「要塞?」
 リックとジェルが声をそろえる。
 「そのようですね」
 バージルが答える。
 「そうと決まれば私の部下も連れて行く」
 エリオットはそう言うと口笛を吹く。
 「武藤さん?会長?」
 艦内に入ってきた二人を見てリックと氷見が声をそろえる。
 「知り合いか?」
 驚くエリオット。
 「武藤さんは会長の部下よ」
 氷見が答える。
 「オスカーと武藤は私の部隊にいたんだ」
 エリオットが言う。
 「氷見、リック。よく居所を突き止めた。本番はこれからだ」
 オスカーは氷見とリックの肩をたたいた。
 「でもどうやってここから出るの?」
 ジェルが聞いた。
 医療カプセルから出てくるドール。
 「ドックにある量子コンピュータの機能を停止させてドック出入口のゲートを解除しました」
 しゃらっと答えるバージル。
 「え?」
 ヨセフとエリオットが振り向く。
 空母のエンジンが始動して収容ドックから港湾施設に出る。何ごともなかったように港湾施設から海に
出て停止する。
 何かが機動したのか喫水下にある四基のフ巨大なプロペラが高速で回転する。
 氷見はオペレーター席のスクリーンに空母の状態をしめす表示板に視線をうつす。上から見たシルエットは
羽の短いトンボに似ている。ドックにいる時は水面下にあって巨大なプロペラガードで覆われたプロペラが
見えなかっただけだ。
 高度計を見るとどんどん高度が上がっていく。高度一五〇〇メートルで光学迷彩装置が機動して空母の
姿が陽炎のように消えて、目的地へ動き出した。
 「すごいテクノロジーよ」
 ジェルが目を丸くする。
 艦橋の窓からのぞくリック、氷見、ジェルの三人。
 「飛ぶのを見たのは二十五年ぶりだ」
 ヨセフは顔をくもらせる。
 振り向く三人。
 「そうよね。元は地球に落ちてきた隕石の力だもんね。それが金属生命体の一部でそれはこの空母に
驚異的な力を与えた」
 氷見は重い口を開く。
 ヨセフは黙ったままうなづく。
 氷見は窓に広がる雲海に視線をうつす。
 たぶんそうだろう。迷宮機関はどこからか隕石を発掘して空母の船体や動力部に使った。使っているうちに
隕石に宿っていた金属生命体の意識が、目覚めてバージルにアプローチしたのだろう。でもスカイネット
のようにならなかったのは奇跡でまだ希望はある。
 「アラスカ基地から借りた武器だ」
 オスカーと武藤はジュラルミンケースを開けた。そこにはプラズマライフルや自衛隊や米軍が使うライフル
が入っている。
 エリオットは台車にコンテナを載せて艦橋に入った。
 「歩兵用アーマースーツだ」
 リックは目を輝かせる。
 それも国連軍仕様でミュータント化した大型動物に噛まれても大丈夫なようにできている。ヘルメットは
データリンクでつながっているだろう。
 格納庫にバイクとジープを積んできた」
 エリオットがタブレット端末を出す。
 画面をのぞく氷見達。
 そういえば見学者として乗り込んだ時に格納庫のエレベーターに車両が載っていた気がする。ジープや
バイクの隣りに無人ステルス機がいる。ドールである。どうりでさっきから艦橋にいないと思った。
 「間もなくサハラ砂漠に接近します」
 艦内放送でバージルの声が聞こえた。
 「行くぞ」
 エリオットは声をかける。
 深くうなづく氷見達。
 格納庫に駆け込む氷見達。
 格納庫のスクリーンに外の状況が映し出される。彼らは輸送艇にジープとバイクを積み込む。輸送艇も
四基のプロペラがついている。つまりこの輸送艇は飛べる。
 氷見はスクリーンに視線をうつす。その時である。小刻みに艦内が揺れ、爆発音が響く。どうやら塚本の
所有する要塞の対空砲がいっせいに迎撃を始めたのだ。対空砲による攻撃をものともせずに飛び、
光学迷彩を解除する。
 輸送艇に乗り込む氷見達。
 空母から対地ミサイルが発射され、正確に塔の周りを囲む壁の基部に次々命中。アジトを包む
電磁バリアが消えた。
 格納庫扉が開いてドールと輸送艇が飛び出す。輸送艇に装備されている自動バルカン砲が火を吹く。
接近してきたドローンを撃ち落としていく。輸送艇は砂地に着陸した。輸送艇から飛び出すジープとバイク。
 空母側面の格納ドアが開いて艦船用レールガンが火を吹いた。青白い光線が伸びて分厚い鋼鉄の壁を
爆発とともに吹き飛ぶ。
 氷見達はその穴へ突入した。
 建物内部に入ったのだ。案の定、戦闘ロボットや四足歩行ロボットがいる。
 ジープごと体当たりするヨセフ。戦闘ロボットが何体かはねられた。
 バイクやジープから降りて氷見達は長剣や短剣を出した。
 虎男に変身する武藤。
 身長三メートルの岩男に変身するオスカー。
 立て続けに爆発音が響いた。
 ヨセフとエリオットは近づいてくる戦闘ロボットをプラズマライフルで撃つ。
 「一気に塔へ行くぞ」
 エリオットは合図した。
 ドールが部屋に飛び込み、バルカン砲で戦闘ロボットや四足歩行ロボットを蹴散らす。そして青い傾向に
包まれて姿が崩れ、人型ロボットに変形した。
 階段を駆け上がるエリオット達。
 猛スピードで駆け回りながら短剣でそこにいたロボットの首を切断するリック。
 ジェルが放った光球は四足歩行ロボットの体を貫く。
 氷見は両目を半眼にする。ロボットの背後の影から影色の触手が飛び出しロボットの頭部を貫通する。
 鉤爪を突き立てて蹴りを入れ殴りながら進んでいく武藤。
 そのタックルでロボット達を蹴散らすオスカー。
 バルコニーから身を乗り出すロボットを撃っていくエリオットとヨセフ。
 ヘルメットのスコープに塔内部の図面が送信去れてくる。最上階にフリンと塚本がいる。
 「ぐあ!!」
 バージルのうめき声が聞こえ唐突にデータリンクが消えた。
 「ロボットを蹴散らしながら進め!!」
 エリオットは叫んだ。
 
 「ふふふ・・・ハハハ・・・」
 車椅子に乗ったままオペレーター席で笑う塚本。
 スクリーンに空飛ぶ空母が映っている。船体側面に穴が開き、黒煙が出ている。
 「どうだ?フルメタルミサイルの威力は。もともとは自衛隊が開発したんだけど、僕ちゃんが盗んだんだ」
 満足げに笑う塚本。
 「貫通を目的としたミサイルだ」
 クスクス笑う塚本。
 通信装置の周波数を合わせた。
 「聞こえるか?侵入者。空母の船体を銛でえぐってやったぞ。うめき声を聞かせてやる」
 塚本は笑いながらスイッチを入れる。塔基部から二〇発のフルメタルミサイル発射。空母は迎撃ミサイルで
撃墜するが五発のミサイルが船体を貫通する。
 無線にバージルのうめき声と苦しげな呼吸音が響いた。
ニヤニヤ笑う塚本。せつな、ドアが吹き飛んだ。
 「落とし前をつけさせてやる」
 エリオットはビシッと指をさした。
 「借りた金は返すのね」
 ぴしゃりと言う氷見。
 「最悪な弟子をもって後悔している」
 目を吊り上げるヨセフ。
 「もう逃げ場はないぞ」
 「ハッキングは簡単だったわ」
 リックとジェルが言う。
 「俺達を覚えているか?」
 ヘルメットを取るオスカー。
 「忘れた」
 塚本は首をかしげる。
 「おまえのロボット軍団のせいで我々の部隊は壊滅したんだ。言ったよな。ゲームはこれからだって」
 オスカーはヘルメットをかぶる。
 「知らん」
 あとずさる塚本。
 長剣を抜くフリン。
 短剣ではじくリック。
 いきなりマシンガンを連射する塚本。
 ドールはエリオットとヨセフを抱えてジグザグに飛びまわりかわす。
 武藤とジェル、氷見は間隙を縫うように駆け抜ける。
 光球を複数放つジェル。
 天井や壁に顔を出した自動砲台を吹き飛ばした。
 飛びかかってきたロボットをその拳と蹴りで蹴散らす武藤。
 リックとフリンが動いた。フリンの剣による連続突きをかわし、蹴りをかわして飛び退く。彼が動いた。
フリンにその動きは見えなかった。リックのパンチや蹴りを受け地面にフリンは目を剥いて倒れた。
二発くらって気絶したように見えるが実際には蹴りとパンチを十発いれている。
 氷見は銃を抜いた。
 マシンガンと車椅子を据えつける留め金が壊れマシンガンが地面に転がる。
 塚本は逃げ出した。しかし部屋の中央で車椅子が動かなくなった。
 「しまった。充電忘れた」
 頭を抱える塚本。
 「じゃあ我々と来てもらう」
 エリオットは銃口を向けた。
 両手を上げる塚本。
 「きっちり落とし前はつけてもらう」
 オスカーは声を低めた。

 五日後。
 とあるペンションに車椅子に乗せられて運ばれる太りすぎの男と三人の男女。車椅子を押すのは
武藤である。
 「ゲストさん元気?」
 イリーナは声をかけた。露出度の高いアンダーショーツつきの水着にヒールの高い靴。金の
ネックレスをつけていた。
 「ここではゲストだ。債権者もやばい筋の連中もみんな首を長くして待っている」
 オスカーは机に座った。
 「僕ちゃんは悪くない」
 青ざめる塚本。
 「大戦時は覚えてないわよね。ロシア政府から外交文書を盗んだ事」
 イリーナはオスカーの隣りに座る。
 「頼まれただけ。それ以上は知らない」
 震えながら答える塚本。
 「迷宮機関の連中は他にいるだろう。何をするつもりだった?」
 声を低めるオスカー。
 「僕ちゃんが死んでも次は来る。迷宮機関はあきらめないぞ」
 塚本は強い口調で言うが顔は半泣きで引きつっている。
 「それだけ太っていると夜の生活はなさそうだな」
 オスカーを塚本の手足に手錠をはめて車椅子に固定するとあごでしゃくる。
 黙って出て行く武藤。
 オスカーはイリーナにキスをする。そして彼のたくましい腕が彼女の胸をまさぐる。
 それを穴が開くほど見入る塚本。
 机の上で濃厚に絡み合う二人。
 よだれを垂らす塚本。
 そういえばこの三十年。セックスしていない。太りすぎて贅肉が邪魔してできないのだ。
 見ていると自分も興奮してきて股間がうずいてやりたくなってきた。
 躍動する筋肉に悦にひたった女の顔。机の上の激しいたわむれに困惑した顔でながめる塚本。
 イリーナとオスカーの抱擁と長いキス。
 イリーナは塚本の方を向いて投げキッスをした。
 ため息をつく塚本。
 「ちょくしょう・・・見せつけやがって」
 塚本はうつむきつぶやいた。
 「ひさびさに興奮したわ」
 笑みを浮かべるイリーナ。
 「俺もだ」
 抱き寄せるオスカー。
 うつむく塚本。
 「どうだ?もう少しやせていたらできただろうに」
 見下すように言うオスカー。
 「覚えていろよ。国連と賞金稼ぎ協会。そして空母エスペランサー。迷宮機関はかならず実行する。
そしてこの惑星は迷宮機関のものとなる」
 目を吊り上げる塚本。
 「その時は全力で戦う」
 オスカーは机から降りて声を低めた。
 「僕ちゃんが死んでも次がやってくる」
 にらむ塚本。
 「やばい筋の奴らと債権者は、おまえの財産で山分けして借金を返済させてもらう。そして戦争犯罪人
として仲介人を通して国連に引き渡される。国際裁判で死刑になるのは確実になるだろう」
 オスカーは資料を見ながら言う。 
 「ちくしょう・・・」
 くやしがる塚本。
 「私よ。仲介人に伝えてくれる。場所はアラスカ郊外のゲストハウスよ。報酬も振り込んでくれる?」
 電話をかけるイリーナ。
 「了解」
 電話の向こうの相手が答えた。
 「債権者とやばい筋の連中より裏稼業の仲介者は丁寧に護送してくれるだろう」
 オスカーがしれっと言う。
 「空母エスペランサーと国連め。賞金稼ぎ協会。覚悟しろよ。これからだ」
 塚本は憎しみをぶつけるように叫ぶ。
 無視してペンションを出て行く二人。
 外に武藤、リック、氷見、ジェル、ヨセフ、ドール、エリオットがいる。
 「彼はどうなるの?」
 氷見が聞いた。
 「彼の財産は没収されて債権者ややばい筋に返却されて借金はなくなる。そしてチビデブは裏稼業の
仲介人によって、国連に引き渡される。そこで戦争犯罪人として複数の国に裁かれて死刑になる。
迷宮機関の一人が死ぬわけだ」
 オスカーはペンションの方に視線をうつす
 「フリンの方は刑務所行きよ」
 イリーナが口をはさむ。
 「そこで国連から提案がある。「ハンター」チームが結成されて迷宮機関と戦うことになる。
空母エスペランサーとドールもメンバーに入っている」
 エリオットは口を開いた。
 「私の力が役立てれば入るわ」
 氷見は名乗りを上げる。
 「俺も入るよ。韋駄天がいた方がやりやすいだろ」
 「私も参加するわ」
 リックとジェルがうなづく。
 「俺も手伝えれば行く。今はデートを楽しみたい」
 ふっと笑うオスカー。
 「ワシも手伝う。ワシの目の黒いうちはな」
 眼光が鋭く光るヨセフ。
 「オスカー」
 呼び止めるエリオット。
 ジープに乗り込むイリーナとオスカー。運転席に武藤がいる。
 振り向くオスカー。
 「いいハンターを持った」
 エリオットは笑みを浮かべる。
 うなづくオスカー。
 そこに飛翔音が聞こえて彼らは見上げた。
上空から垂直離着陸できる航空機が着陸してきた。
「仲介人だ」
オスカーが言う。
格納ドアが開いて三人の黒服の男達が出てくる。三人はオスカー達に軽く会釈するとペンションに入っていく。
オスカーのジープは走り去る。
氷見達は大型ヘリコプターに乗り込む。上昇する大型ヘリコプター。
「バージルはどうしている?」
氷見は聞いた。
「彼はフルメタルミサイルを五発受けて大破している。だから修理ドックで修理しているんだが、エンジンと
機関部をやられたら普通は撃沈だ。それでも浮いているのだからさすが金属生命体だ」
資料を見せるヨセフ。
資料に目を通す氷見達。
ペンションから遠ざかるヘリコプター。
「迷宮機関はただの組織ではなさそうだ。地球外生命体と取引する連中だ。各国政府も国連も警戒している。
これから本格的な戦いになると予想している」
エリオットはため息をつく。
視線を窓の外にうつす氷見。
たぶんそうだろう。バージルとドールの力がなければ迷宮機関は見つけられないし、各国政府と国連で
団結しなければ勝てないかもしれない。不安だらけだがやるしかない。
「未来は決まってない。未来はおまえたち若い者が切り開くんだ」
ヨセフは真剣な顔になる。
氷見、リック、ジェルは深くうなづいた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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