暗号通貨を護送せよ

ペンネームナシケイ

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暗号通貨を護送せよ

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  経済状況がとにかく悪い。公園には職を失った人達が炊き出しに行列をつくっている。
 トレンチコート男は新聞を拾う。日付は二〇二〇年四月である。

 ”アメリカ財政の崖から五回目の転落。世界中で株価が大暴落。紙幣が世界中で紙くず寸前に。第二の世界恐慌発生か?”
 ”あまりの混乱ぶりに東京オリンピックは中止に”
 ”第三次世界大戦勃発。戦火広がる。その原因はサハラ砂漠に現われた時空の亀裂”
 ”時空の亀裂から多数の怪物出現”

 第一面にその文字が躍る。
 経済は最悪だ。世界情勢も悪く、世界中で紛争や内戦が起こっている。賞金稼ぎの自分としては傭兵として雇われ戦いギャラさえもらえればいい。いい稼ぎになる。日本も例外ではなく日本本土は戦いはないが日本近海では不審船、海賊、どっかの科学者が造りだして放置した怪物兵や違法に遺伝操作されて怪物化したサメやタコが跋扈して自衛隊や海上保安庁はその対処に追われている。海上保安庁や民間対処部隊から怪物退治や不審船、海賊退治をしょっちゅう依頼を受ける。
 俺は七瀬盤(ななせめぐる)。最初から賞金稼ぎではない。前職は民間宇宙船の試験パイロットだった。あの頃は民間宇宙船の開発競争が激しく自分は戦闘機パイロットから志願した。あの頃は夢に燃えて楽しかった。
 七瀬の脳裏にフッとフラッシュバックのようにあの運命の日がよぎった。

 北海道にある試験場から民間宇宙船の試験機が飛び立つ。JAXAと大手航空会社が出資してほぼ完成形というべき宇宙船である。流線型でSF映画にも出てきそうなデザインだが宇宙船の上昇は母機が成層圏まで運んでそこから発進するのだ。
 カウントダウンが始まり、母機からスペースシップ3号が切り離される。
 七瀬は計器をチェックして操縦桿を倒す。核融合エンジンに点火。轟音とともに急激なGがかかる。
 7Gか。平気だ。戦闘機に乗っていた時はしょっちゅうだ。
 七瀬は冷静な顔で計器をメモリーや速度を見ながらスピードを上げる。しばらくすると急に空が暗くなり成層圏を飛び出した。眼下に青い地平線が広がる。
 その時である。急に気配がしたのは。
 ドン!!
 宇宙船が不意に揺れて扉が開いた。でもそういう時のために宇宙服は着用している。昔の宇宙服よりよりフィットして動きやすくなっていた。
 そこに金属の鎧と片腕が武器の物体がいた。人型でサイバネティックスーツに皮膚は覆われている。それは股関節から足がなく、左腕もなく胸の穴から光り輝くコアと周辺装置やケーブルが見えた。顔は人間そっくりで幼さを遺す顔立ちだ。耳は金属の耳宛と無線機で損傷部分から青い潤滑液と機械油がしたたり落ちている。
 「金属生命体だ」
 つぶやく七瀬。
 十年前から飛来してきているなぞの生命体で世界的にそれと融合した人間やミュータントが増えてきているのを新聞やネットで見た。
 人間が融合すると乗り物や武器と融合できて、ミュータントはもとから持っている能力が強力になる。その事例が多くなり国連機関「スクード」は創設された。イタリア語で「盾」を意味する。
 「助けて・・・追われている」
 這い回りながら片腕を伸ばす生命体。
 ドドーン!!
 どこかで爆破音が聞こえ、床にたたきつけられる七瀬。窓から核融合エンジンが脱落するのが見え、タコかイカのような怪物がエンジンをくわえると飲み込む。
 このままだとやられる。
 七瀬は周囲を見回す。エンジンがなければ帰還は不可能であの怪物に食われるのがオチだろう。
 「助けてやる。どうする?」
 揺れる船内で駆け寄る七瀬。
 「僕のコアをやる。僕の体は再生が不可能。宇宙船とつなげるしかない。そうしないと君はアレに喰われる」
 生命体は目を吊り上げ、身を乗り出した。
 舌打ちする七瀬。
 どっちにしろ地獄か。なら喰われるよりはマシだ。
 「やれ!!」
 七瀬は腹を決めた。
 生命体は片腕を七瀬の胸に突き入れた。
 鋭い痛みが走り七瀬は口から血を噴き出す。
 生命体は背中の二対の金属の連接式の触手を出した。先端が鉤爪で自らのコアをくり抜いて、七瀬の心臓を片腕で引き抜き、光輝くコアを胸に入れた。せつな恐ろしい笑い声や無数の声が脳裏に入ってきて宇宙服が破れ、体内組織があっという間に機械に変わっていく。なんとも言えない違和感だった。
「ぐああぁぁ!!」
 焼きゴテで押し付けられるような痛みやナイフでえぐられるような激痛が襲ってきて、ケーブルが生え、青白い光が自分を包み、宇宙船を包んだ。
光の中で激痛が走り、体から金属のウロコが生え、胴体がひどく軋み音をたてて歪み、防弾アーマーに変わり、ショルダーパットや腹部やわき腹も金属プレートが生えた。足は金属のプレートに覆われ、ひざやひじが丸いジョイントに形成。片腕が金属の連接式の触手に変わり足先や手は鉤爪に。耳は無線内臓の金属の耳宛に背中から一〇対の金属の触手が生えて、腰からエンジンノズルが背中が盛り上がりエンジンの推進装置と金属の翼が生えた。
 イカともタコとも思える怪物がせまった。
 青い光がやみ、七瀬は怪物をにらんだ。電子脳に変わった脳から自分の体内と宇宙船の状態が表示され、標準がロックされる。
 怪物の触腕の先端がワニのような口に変わり襲ってきた。
「しまった。やってくる」
 身をかばう七瀬。すると腕から金属が金属プレートが伸びて盾の形になった。せつなワニのような触腕が噛みつくがその牙は通らなかった。
 護れ・・・戦え・・・
 あの生命体の声が聞こえた。
 七瀬は右腕に精神を振り向ける。片腕がバルカン砲に変形。青白い光線が触腕や他の触手を穿った。
「本当に俺は人間でなくなったようだ。不思議に力が湧いてくる。なら・・存分にこの力を利用させてもらう」
 七瀬は怪物の周囲にいた子分のサメを左腕の斧で切り裂き、右腕のバルカン砲を連射。
 子分のサメの怪物達を撃墜した。
 その時である。タコの怪物のタコ足が巻きついた。怪物は魚眼でにらみ力を入れた。
 バキバキ!!ギシギシ!!
「ぐああぁぁ!!」
 骨が砕ける音が響き、七瀬は叫んだ。しかし意識は遠のいていかない。金属骨格に変わった骨は再生し、骨太になり体を覆うアーマーも分厚く鋼鉄化していく。
「やられるかぁ!」
 七瀬は怪物をにらんで叫んだ。わき腹や腹部、背中の割れ目から青いビーム光線が放出され怪物のタコ足を切断し、怪物の体を切り裂いた。片腕の長剣を振り下ろした。怪物は両断され青い炎が噴き出して塵と化した。

 目を開ける七瀬。
 あの後、スペースシップ3号に変身して地球に帰還した。宇宙港に帰ると国連機関「スクード」のスカウトマンがいて自分を雇ったのである。そこから自分は賞金稼ぎとして宇宙からやってくる怪物や怪物兵、魔物と戦う日々を送っている。ギャラはいい。依頼が多いのは海上保安庁からだ。普通の保安官じゃできない事が増えているから自分達「マシンナイト」は重宝される。それは自衛隊や他国の軍隊、沿岸警備隊もそれは言えた。
「七瀬」
 不意に声が聞こえて振り向くと二人の男女がいる。
「如月、飯田」
 七瀬は笑みを浮かべる。
 二人は海上保安庁SST隊員である。特殊部隊SSTは不審船、海賊対処、テロ鎮圧、邦人救出と任務は多岐にわたる。最近は不審船も海賊も怪物兵や魔物を連れてやってくる事が多くなり海上保安官に「マシンナイト」が増えてSSTも再編。「マシンナイト」部隊とミュータント部隊を統合。自衛隊もその専門部隊を各基地に置いて不審船や海賊、魔物退治、テロ対処に追われている。海保も再編したSSTチームを各保安著に置いている。
如月澪は深海でも活動できる「マシンナイト」で小型潜水艇と融合。青い炎でゾンビ、魔物、怪物兵を焼き尽くす。ミュータントの時に持っていた死の匂いを嗅げて死のオーラが見える能力はそのまま継承されている。
飯田京介も深海でも活動できる「マシンナイト」で砲台と融合。アサルトライフルからバルカン砲から火炎放射器、155ミリりゅう弾砲もその体内に収納している。ついたあだ名は「歩く武器庫」である。
 海保の依頼で任務を遂行しているうちに二人と知り合い意気投合。一緒に活動している。
「霞ヶ関に来いって。重要な依頼があるそうよ」
 如月は依頼書を渡した。

 都内にある国連事務所に足を踏み入れる七瀬、如月、飯田。
国連事務所に「スクード」の支部はある。内部はカフェのようになっていて珈琲も飲めるしケーキやパンも食べられるスペースになっている。カフェの掲示板には「マシンナイト」募集記事と民間軍事会社、自衛隊や海上保安庁、警視庁、警察、消防の依頼書が並ぶ。ミュータントとマシンナイト用の募集要項に分かれる。人間でも狙撃手や暗殺者、スパイの技術を持っている物、魔術師やハンターも募集する。それだけに需要が多い。他国も当然そうなっている。
 「よく来た」
カウンターにいた中年のバーテンダーは顔を上げた。
「高木。依頼はなんだ?」
 七瀬はイスに座る。
 高木と呼ばれたバーテンダーはカウンターから出てくる。
「宇宙船に依頼する物はけっこうある。月に行く船の護衛や火星に行く船の護衛。宇宙船のマシンナイトが増えているがこの世界情勢では傭兵や民間軍事会社からの依頼が多い」
高木は珈琲を差し出す。
七瀬は珈琲を飲んだ。
「俺も五〇人位。宇宙船のマシンナイトと会った」
 トレンチコートを脱ぐ七瀬。コートの下は白色のサイバネティックスーツである。胸当てとショルダーパット、篭手は赤色である。呼吸の度にゴムのように上下する。彼は胸から腹部を覆うコルセット型の制御装置を外した。すると軋み音を立てて腹部プレートが形成され胸当てが分厚くなる。
「この制御コルセットの調整を頼む」
 七瀬はため息をつき鉤爪で胸当てを引っかく。強く引っかいても傷はつかなくてゴムのようにへこむのだ。
「どのマシンナイトよりも順応速度と進化速度が速いそうよ」
 如月が助け舟を出す。
「だからナンバー1なんだ。優秀な人材はどこも求めている」
 高木は声を低める。
「俺は砲台だから月面基地や他国の軍隊からもオファーが来る」
 飯田は思い出しながら口を開く。
「私は深海調査が多いわね」
 如月はカフェオレを飲む。
「政府からの依頼だ」
 高木は指を鳴らした。
 部屋の奥から青年が出てくる。その青年は片目が義眼である。
「名前は?」
 七瀬は聞いた。
「レイモンド」
 青年は答えた。
「どこへ連れて行く?」
 飯田は声を低める。
「太平洋のここだ。そこに行けば国連の船がいるらしい。なんでも世界経済を生き返らせるプログラマーらしい」
 高木は後ろ頭をかいた。
「場所は硫黄島から五十キロ先の海域。本当に国連の船が来るの?」
 怪しむ如月。
「私もわからん。国会議員と幹部自衛官がそう言ってきた」
 高木は肩をすくめる。
「ギャラは国連の船にその青年を乗せてからの連絡待ちになる。ものすごい高額だそうだ。なぜかは知らん。依頼主はJAXA幹部とその幹部自衛官、海上保安庁幹部の指名だ」
 新聞を見ていた七瀬は顔を上げる。
「俺は海上保安庁長官からも依頼が来たことがある。自衛隊幹部もJAXA幹部も知っている。俺も有名になったな」
 しれっと言う七瀬。
 自分は依頼があればやるだけ。深海や宇宙ミュっションもやったし、邦人救出もやったし駆けつけ警護もやったからかもしれない。それに自分の制御装置もご丁寧にも造ってくれるし、金属生命体までわざわざ自分の所になぜかお茶を飲みにやってくる。
「硫黄島まで行くのはいい。船はどうする」
 飯田は聞いた。
「海自の護衛艦を使う。それを使うらしい。場所は横浜港の横浜保安署だ」
 高木は地図を出した。
「東京湾を出れば不審船や海賊の怪物兵だけでなく雇われマシンナイトがやってくる。船や航空機に変身できる者もいる。それをかいくぐって行くのね」
 腕を組む如月。
「情報では敵はこの青年を狙って刺客を何人も送り込んだらしいから気をつけろ。それと車の鍵だ」
 高木は注意すると鍵を渡した。
「レイモンド。そこへ行くぞ」
 七瀬は受け取り声を低める。
 レイモンドは深くうなづいた。

 国連事務所の地下駐車場から飛び出すカーキ色の装甲車。
「車は車でも装甲車か。厳重だな」
 飯田は運転しながらつぶやく。
 装甲車は大通りを抜けて首都高に入った。
 七瀬の目つきが鋭くなる。彼はとっさに天井のサンルーフを開けて片腕のバルカン砲で近づいてきたバイクを撃った。銃を持ったライダーはバイクごと倒れ後続車に引かれた。
 如月は後部ドアにある機関砲座に飛びつく。
 七瀬のレーダーに脅威度順に表示される。
 ジープが接近してくる。
 如月は機関砲をどかすと片腕のバズーカーを銃座に固定して撃った
 ドゴォ!!
 青色の火の玉は後ろを走っていた大型の黒塗りのジープに激突した。激突されたジープはひっくり返り側壁に激突した。
 二台目、三台目の黒塗りジープがやってくる。車内から覆面をした男達がショットガンや軽機関銃を出した。
 七瀬は機関砲を正確に連射。中心に青い光線はそれを放った。引き金に手をかけていた覆面の男達の額に命中した。
 如月は窓からから身を乗り出し、片腕をバルカン砲に変形させた。何条もの青い光線はジープのタイヤを撃ち抜く。
 二台のジープは黒煙を上げ横転した。
 車列を縫うように大型バイクが接近する。
 ライフルを撃ちながら駆け抜ける。
 飯田達が乗った車はスピンしながら側壁にぶつかった。
 車から出て影に隠れるレイモンドと如月。
 黒塗りのジープが止まった。
 「敵は二〇人。全員ミュータントとマシンナイト」
 両腕を長剣に変える七瀬。
 銃を出すレイモンド
 「飯田行くぞ」
 笑みを浮かべながら誘う七瀬
 「喜んで」
 飯田はニヤリと笑う。
 覆面の男達が動いた。
 三人も同時に動いた。
 駆け抜けながら撃つ飯田。ジグザグに走りながら正確に三人の覆面男の頭を撃ち抜く。
 側面を蹴り、車を蹴り、舞いながら長剣をなぎ払い、振り下ろす七瀬。
 四人は胴体を切り裂かれ、頭部が道路に転がった。
 飯田は銃弾の間隙を縫うように駆け抜け、片腕のバルカン砲を撃った。ジープのエンジンに命中。閃光とともに爆発。五人の覆面の男達が吹き飛んだ。
 七瀬は背中から一〇対の触手を出した。先端は銃身である。
飛びかかった男達の頭を射抜いた。
 大柄の男の鋭い蹴りを浮け払う七瀬。彼は掌底を弾き、鋭角的な蹴りで首が不自然な方向に曲がり、男はもんどりうって倒れた。
 飯田はバルカン砲を撃つ。
 ジープから飛び出す三人の男の頭を正確に撃ち抜いた。
 バイクに乗った男が近づいた。男は機関銃を抜いた。
 飯田と七瀬は飛びのいて銃弾をかわすと七瀬は落ちていた消火器を投げた。
 「ぐあ!!」
男とバイクは転がりながら車に激突した。
七瀬は大股で近づき男の足をつかみ力まかせに車にたたきつけ側面にたたきつけた。彼は男のヘルメットを取った。
 七瀬は大股で近づき男の足をつかみ力まかせに車にたたきつけ側面にたたきつけた。彼女は男のヘルメットを取った。
 「おや、曹令嗣じゃないか」
 七瀬は目を吊り上げ片腕の長剣で躊躇する事なく胸に突き刺した。
 くぐくもった声を上げるドゥラカと呼ばれた男。
 「おまえに指令を出したのは誰だ?」
 冷静に言う飯田。彼は銃口を向ける。
 「それは守秘義務がある」
 曹令嗣はあっさり答える。
 「中国か?あそこは漁民民兵を訓練させているそうじゃないか。尖閣諸島や先島諸島にでも入れるのか?お手伝いか?」
 身を乗り出す七瀬。
 「宇宙船は見つけた時点でバラバラにしている。うまく逃げられたな。今度は逃さない」
 笑いながら後悔するドゥラカ。
 「そいつを殺すと肝心な事が聞けなくなる」
 注意する飯田。
 「こいつも砲台のマシンナイトだ。簡単に死なない」
 七瀬は長剣を刺した。ドゥラカの胸をえぐりながら言う。
 「ぐああぁぁ・・」
 顔が歪みのけぞる曹令嗣。
 「おまえ・・漁民民兵を三〇〇人殺しただろう」
 曹令嗣は声を低めた。
 「あれか?海上保安庁の依頼で漁民の怪物兵を始末するのが仕事だったし、自衛隊からは、不審船を沈めるのが仕事だから排除したんだ。おもしろかった」
 しゃらっと答える七瀬。
 「よくも貴様・・のうのうとしゃべるな」
 怒りをぶつける曹令嗣。
 「ではコアをいただく」
 七瀬は長剣を振り上げた。せつな飛翔音とともに赤い光線が何度も胸やわき腹、腹部を貫いた。
 「ぐふっ!!」
 七瀬は胸を押さえる。
 飯田はジープの影に隠れる。
 再び飛翔音がして七瀬は片腕を盾に変えて光線を弾いた。せつな誰かに飛び蹴りされて七瀬は地面に転がった。
 馬乗りになる女。
 「ドゥラカ」
 七瀬はそれが誰だか気づく・射撃が得意でその射程は五十キロ。弾道を好きなように曲げられるのだ。ついたあだ名は女版ゴルゴ13である。
 手や足の鉤爪でドゥラカは七瀬の胸や腹部を強く引っかき、背中から一〇対の金属の触手を出した。五対の鉤爪で彼の手足をつかみ残りの五対の触手を巻きつけた。
 バキバキッ!!メキメキッ!!
 「ぐああぁぁ!!」
 骨が潰れるような音が響いた。息苦しさと詰まるような音が聞こえたが意識は遠のいていかない。脳裏にフラッシュバックで最初の宇宙での襲撃がよぎった。
 こいつらにこの命をくれてやるものか!
 七瀬はギッ!とにらんだ。せつな金属骨格は復元し骨太になり鎧が分厚くなり鋼鉄化して胸から腹部まで太刀割れ、青白い光線が放出。ドゥラカを吹き飛ばし、衝撃破でそばにいた曹令嗣は一瞬にして焼かれ塵と化した。
 息を切らす七瀬。
 装甲も解けて細身のサイバネティックスーツ姿に戻っていくが腹部の割れ目は大きく開いたままだ。
 駆け寄る如月、飯田、レイモンド。
 「金属骨格まで歪んでいる」
 レイモンドがつぶやく。
 胸から腹部にかけて、発射口がいくつも露出している。金属骨格のあばら骨や胸部プレートが見えているがそれがひどく歪み、何かが這い回るかのように激しく盛り上がっているのが見えた。
 七瀬は金属が軋む音に顔をしかめて耳をふさぐ。
 護れ・・・戦え・・・
 あの声が聞こえる。最初に融合した少年顔の生命体。あれ以来、自分はその声に押されるように敵と戦ってきた。
 飯田は七瀬を起こし抱え上げると装甲車に乗せた。
 四人を乗せた装甲車は走り出した。
 「敵の死体はそのままですか?」
 レイモンドはたずねた。
 「掃除部隊が後は始末してくれる」
 飯田は運転しながら答えた。
 「すぐに攻撃してきた所を見るとわりとすぐにまた攻撃がありそうね。隠れ家に寄ってみない?」
 如月は無線機を操作しながら振り向く。
 「そうだな。知り合いがスパイをしている。七瀬はあの状態だ」
 飯田はチラッと荷台を見る。
 如月は胸から腹部までを覆うコルセット型の制御装置を七瀬に装着させ、その上から防弾チョッキに似た制御装置を接続させる。
 「やめろ。これはつけたくない」
 七瀬はコルセットをつかんだ。
 「ぐっ!!」
 顔が歪む七瀬。
 胸当てや腹部プレートが金属のウロコとなって収納される。胸当てだった部分がシワシワになる。そればかりかコルセットと制御チョッキが皮膚のようになじみ、呼吸する度に分厚いコルセットがへこむ。背中の触手もこれでは出せないし、体内の装置に接続できない。嫌でも分厚いコルセット装置が目に入る。
 寝転がったまま黙ってしまう七瀬。
 「あなた方はなぜ、彼と行動するのですか。まるで付き人のように」
 レイモンドはささやいた。
 「彼はADHD障害がある。あれは子供だけかと思うけど成人期ADHDと診断される事は多いの。彼は他の事をやっていると時間が守れないのと話を聞いていない事があるから私達が派遣されるわけ。周囲のサポートを受けるのが嫌いな人もいるけど彼もその類に入る。それにどのマシンナイトよりも順応力も高く戦闘力も高い。あの光線は死霊やゾンビ、邪神の眷属、マシンナイトも簡単に破壊できる。使い方によっては隕石や星も破壊できるものよ。本人は気づいていない」
 如月は無線機を調整しながら説明する。
 「あまりいろいろ話をすると彼は覚えられないから話してはいない」
 飯田はカーナビをチラッと見る。
 しばらくすると装甲車は首都高速を降りて一般道を走行する。
 「どこに向かっていますか?」
 レイモンドはたずねた。
 「川崎。知り合いのスパイがいる」
 飯田は答えた。

 二時間後。
 一〇階建てのマンションの部屋に足を踏み入れる七瀬達。
 一〇階の部屋に入るが気配がしない。
 七瀬は目を半眼にした。赤外線センサーに何か体温を持つ生物がいる。ここにいるのは人間だ。それにこの制御コルセットとチョッキのせいで感度が上がらない。
 七瀬は天井に手を伸ばして陽炎をつかんで床に落とした。とたんに姿を現す黒人女。
 「制御装置をつけられてもわかるのね」
 黒人女性は外套を脱いだ。
 「わかる」
 七瀬はコルセットを引っかいた。自分の皮膚のようになじんでいて痛みも感じる。このコルセットもチョッキも金属生命体が開発したものだ。内部の機器に接続できない。
 リビングに入る五人。
 「国連事務所で政府からの依頼で護送している。ただのプログラマーじゃなさそうだ」
 七瀬は口を開いた。
 「ただのプログラマーじゃない事に気づいていたんだ」
 飯田が珈琲を飲む。
 「それくらいわかる。政府や自衛隊だけじゃなく国連まで動いている。出たらすぐにチンピラが襲ってきた」
 七瀬は真顔になる。
 「僕は第二世界恐慌を止めるために派遣された。僕のこの義眼にはスーパーコンピュータ京並みの情報が詰まっている。そのために僕は生まれたクローンだ」
 レイモンドは口を開いた。
 「改造クローンって奴ね。じゃあ東京やデンマーク、ニューヨークにある「集積所」に入れるのね」
 如月が聞いた。
 「僕はプログラマーだから直せるし、書き換えもできる」
 レイモンドはうなづく。
 「何を運んでいる?」
 七瀬が核心にせまる」
 「暗号通貨だ。第二世界恐慌を起こしたのは世界五〇傑に入るような大富豪の一部と武器商人と軍需産業のトップ企業の連中で戦争をすれば儲けられると考えた。長い歴史を見えればわかる。すでに第三次世界大戦は始まっていると言っていい。世界経済は混乱。これでは怪物兵は入られ放題で地上戦も始まるだろう」
 レイモンドは世界地図を出した。
 「俺達はそのおかげで食っていける」
 七瀬はしゃらっと言う。
 「炊き出しの行列に並んでいる連中の何人かは適合者でマシンナイトにして戦場に送り込む予定だ」
 当然のように言う七瀬。
 「金属生命体の技術のおかげで宇宙船建造の技術は飛躍的にアップしている。月や火星を拠点に敵を迎撃できる」
 如月は珈琲を飲んだ。
 「世界各国を一つにまとめなければ戦うのは難しい。だから経済を安定させる」
 黒人女性ははっきり指摘する。
 「君は名前は?」
 レイモンドはたずねた。
 「私はアンナ。CIAエージェント」
 黒人女性は名乗った。
 「暗号通貨はビットコインが有名ね」
 話を切り替える如月。
 「暗号通貨の原形となる論文を書いたのは五十年前の経済学者でガートルードという博士がいた。ユダヤ人で自らも大金持ち。経済やお金に関係する論文も書いた。「架空のお金」「架空通貨」の論文を書いた。SF映画みたいな話だったけど結局ビットコインは有名になった」
 レイモンドはTVモニターに禿げ上がった老人の写真を出して説明した。
 「確かビットコインを扱ったマウントゴックスの代表者は横領で逮捕されて刑務所ですね。マウントゴックスは破産申請中よ」
 如月があっと思い出す。
 「よくニュースを見ているな」
 しれっと言う飯田。
 「そういえば池上彰がTVで仮想通貨の事をしゃべっていた」
 七瀬はあっと思い出す。
 一〇年前だから宇宙船パイロットとして邁進していた頃だ。その時は興味なくて途中まで見てバラエティ番組を見ていた。
 「私もその番組を見たよ。近い将来、従来の貨幣に変わる暗号通貨で近いうちに革命が起きるかもって」
 アンナが携帯の画像を切り替え、ビットコインやアマゾンコインの画像を見せる。
 「そんなに進んでいるの?」
 飯田と如月が聞き返す。
 「金融庁や国会で法整備を進めているし近いうちに巣鴨や商店街でも気軽に暗号通貨で買い物ができるようになる」
 当然のように言うレイモンド。
 「暗号通貨は千五百~二千種類あると言われている。仮想通貨と暗号通貨はちがうの。仮想通貨はコピーや改ざんも可能。暗号通貨はプログラムが複雑すぎてコピーもハッキングも不可能。セキリュティは万全。だから金融庁や政府も法整備をしている」
 アンナが図面を書いて説明した。
 「それをハッキングできるハッカーが現われた。だから紙幣は紙くず寸前になり世界経済は混乱した。混乱を収めるために第二の暗号通貨を造った。金属生命体の力を借りてね。造っている最中に研究所が襲われて僕は暗号通貨を盗んでスパイやスクードの力を借りて逃げた。逃げた先が日本だった。まだ合流地点は先だ」
 レイモンドはどこか遠い目をする。
 「暗号通貨を盗むって不可能よ」
 アンナは首を振った。
 テーブルにホログラム映像が飛び出す。そこにはビットコインの映像が飛び出し、幾何学的な模様のプログラムが展開する。それが三重の螺旋のように連なる。
 「なくなったのは三三三枚目のコインでそこの情報がごっそりなくなってる。普通なら取引ができないはずだ」
 七瀬が指をさす。
 「迂回経路的なプログラムが組み込まれていてそれでかろうじて動いているみたい。普通なら暗号通貨を盗むなんて不可能よ」
 如月は指摘する。
 「なんで?」
 七瀬が聞いた。
 「ブロックチェーンプログラムによって鎖状につながっているからなんだ。ビットコインはあらかじめ二一〇〇万枚と決まっている。それらは取引する事によって情報が蓄積される。途中のコインを取り出すには前後の情報が必要なの」
 アンナがタブレットPCを渡した。
 七瀬は接続プラグを手首から出して差込んで資料を読んだ。
 「すべての暗号を解かないと読めないし、解くには広大なスペースとマシンと電気代が必要なのよ」
 アンナは円台のキーボードを操作する。
 「盗まれた暗号通貨を記念コインとして抜き取った。戦争を起こしたい連中の目をくらませる事に成功した」
 レイモンドは映像を切り替えて他の暗号通貨のプログラムを出した。
 「どれも途中のコイン情報がない。盗まれた暗号通貨は迂回回路でつなげてある」
 アンナは推測しながらプログラムをのぞく。
 「本当のプログラムは僕の電子脳にあり、この義眼の中には盗んだ暗号通貨の情報が入っている。それを組み込んで世界経済を安定させる暗号通貨を始動させる」
 レイモンドは自分の頭を指さしながら言う。
 「天才だ」
 飯田と七瀬が感心する。
 「天才だけどビットコインは最高のプログラマーが何人も携わって造られている」
 アンナはビットコインの記念コインを出す。
 「ビットコインをプログラムしたプログラマーは何人かいてビットコインが有名になる前から携わっている者もいる」
 レイモンドは口を開いた。
 「ビットコインを扱っていたマウントゴックスの代表が横領で逮捕されたのが有名だけどそれ以前のビットコインは売れてなかった」
 アンナが口をはさむ。
 「ビットコインの論文を書いたのは勅使河原稔という日本人と言われているけど彼のはガートルード博士の論文をそのまま引用したにすぎない。ビットコインを造った当初は世間から相手にされなかった。初めは0・二円だった」
 レイモンドは映像を切り替えて説明する。
 「それを有名にしたのは営業マン達の涙ぐましい努力のおかげ。二〇一〇年にある男が一万ビットコインを買った。それは数年後八億円で売れた。1コイン0・二円だったのが最高十四万円まで跳ね上がった。その理由が中国人が外貨対策に爆買いしたからもあるし彼らのコイン好きもあるから有名になった」
 アンナが部屋内を歩きながら説明した。
 「この義眼はこの金属生命体の物と言える。あんなちっぽけなメモリーにあんな膨大な情報量を詰め込むのは無理だからね」
 気づいたことを言うレイモンド。
 「あのメモリーには実際に取引されている十二種類の暗号通貨が入っていた。仮想通貨と暗号通貨の違いは仮想通貨は楽天やアマゾンといった通販サイトや企業がそこで使えるコインを作ったりしているけどハッキングされたり、改ざんされたり、消失もありうる。暗号通貨は複雑なブロックチェーンプログラムにより管理され枚数も決まっていて、取引されるとみんなに情報がシェアされる。それが鎖のように繋がっていて十分ごとに情報が更新される」
 レイモンドは映像を切り替えて暗号通貨の取引サイトを出した。
 「すごいな・・・」
 どよめく七瀬達。
 どんどん古い情報が更新されていく。
 「各ブロックの前にさっき取引した情報が圧縮されて管理される。元要約した短いデータを「ハッシュ取引」という。だから過去のブロックを改ざんは大変なの。そこには計算を早く解いた人がいてつなげる「マイニング」作業する人がいる。それは中国人がやっている。そこは体育館よりも広い場所でマシンが山積みでマシンコストや電気代も安く、人件費も安く済むからね」
 レイモンドは説明した。
 「それに今では金融庁も国会でも法整備を進めている。近いうちに東京三菱銀行やスイスでも導入をしようとしているし、証券会社も金融商品として扱っている」
 レイモンドが映像を切り替え、新聞記事を出した。
 「時代は変わったな」
 感心する七瀬達。
 「その中でビットコインは商品を交換できて現金化もできる」
 たたみかけるアンナ。
 「ビットコインのプログラマー達はその中でも最高レベルの腕を持っている。例えばスパイ映画のジェームズ・ボンドやM16やモサドのスパイが侵入しようとしても不可能なのはその膨大な情報量のせいだしセキュリティは万全だったけどハッキングされて破られた。だから金属生命体の力を借りている。第二の通貨は出口戦略も考えて設計されている」
 レイモンドははっきり言う。
 「世界経済を安定させなければ敵とは戦いえない。団結しなければこの地球の危機は救えない」
 アンナは語気を強めた。
 「だから俺達は合流地点に向かっている。そこに行けばいいんだろ」
 腕を組む七瀬。
 政治や金融はわからない。ただこいつを合流地点に送らなければ敵は確実にやってくると言えた。
 「そういうことになる」
 飯田がうなづく。
 「届けたら俺は平和なんて興味ない。強い奴と戦ってギャラをもらうだけだ」
 監視カメラをのぞく七瀬。彼は制御コルセットとチョッキを外した。
 部屋のランプが点灯する。
 「敵が来たみたい」
 アンナは銃を抜いた。
 画面に迷彩服姿の男女が映っている。人数は一〇人である。
 アンナはレイモンドに拳銃を渡す。
 「誰か入ってきたら撃て」
 七瀬は天井裏へのハシゴを出してのぼっていく。
 リビングの隠しドアに入る飯田と如月。
 レイモンドとアンナは寝室へ入る。
 玄関ドアが乱暴に開けられ兵士達が入ってくる。
 隊長らしい兵士が指示を出す。
 黒人兵士が和室に入るがそこには誰もいない。隣りのバーカウンターに入った。せつな、アンナはカウンターから顔を出すなりナイフを投げた。
 正確に黒人兵士の頭に命中。もんどりうって倒れた。
 フローリング部屋の天井から身を乗り出し飯田は両手に持っていた銃を撃つ。
 二人の兵士は頭を穿たれた。
 押入れから身を乗り出し如月は背後から大柄の兵士の首に手を回し力を入れる。兵士の首は不自然な方向に曲がった。
 女兵士は部屋に入るなり片腕の銃剣で壁を刺した。
 「ぐあっ!!」
 七瀬は姿を現し胸を押さえた。
 女兵士は何回も銃剣や長剣で交互に七瀬の胸を刺した。長剣で傷口をえぐり、ナイフでコアを何回も刺して彼の口をふさぐ。
 顔が歪みのけぞる七瀬。
 焼きゴテで心臓を押し付けられるような激痛に女兵士を蹴り飛ばす。胸の傷口から青い潤滑油がしたたり落ちる。電子脳にコアや周辺装置損傷と表示される。
 女兵士はナイフを振り上げた。せつな銃声が響き女の頭に穴が開き倒れた。
 女兵士の背後にレイモンドが立っていた。
 玄関で合流する五人が合流する。玄関から出て非常階段を降りていく。地下駐車場にある米軍の装甲車に乗り込む。
 「今度は米軍の車なんですね」
 レイモンドがつぶやく。
 「武器はマシンガンに機関銃、ロケットランチャーつきで爆弾にもこの車は耐えられる」
 アンナーはシステムを起動する。
 飯田はアクセルを踏んだ。
 装甲車は地下駐車場から飛び出し大通りに入った。
 飯田はチラッとかつて港湾施設があった方を見る。
海岸や港湾施設、工場地帯を守るための壁が立っているのが見えた。壁は二十メートルで海に面している地域は怪物兵の侵入を防ぐために壁がある。日本だけではなく各国の海岸に面している都市はそうなっている。
 天井のサンルーフから身を乗り出す七瀬。
 後ろの荷台にあるマシンガンに銃弾を争点する如月。
 「川崎市内に侵入警報。怪物兵が入り込んだ。動きが早いわ」
 アンナは機関銃の銃弾を装填しながらレーダーを見る。
 他の車が脇道や路地に入っていく。警報が出れば人々はシェルターに避難する。よって大通りを猛スピードを走っているのは自分達だけだ。
 しばらく走るとトラックが接近する。荷台が開いてハンガーにかけるようにロボットが並んでいる。ロボットに顔はなく信号ランプのような物がついていて体色は暗褐色である。
 「市販されているロボットではないですね」
 レイモンドは銃眼からのぞく。
 「怪物兵をどっかの誰かが改造。器用ね」
 アンナは冷静に言う。
 大型トラックは三台やってくる。
 七瀬は両腕を機関砲に変え、背中から二対の金属の触手を出して機銃座を操作する。
 一つ目ロボット達が飛びかかった。
 両腕を広げ、機関銃を連射。青いビームと銃弾が雨あられと降り注ぎロボット達は地面に落下した。
 如月は両腕を火炎放射器に変え背中から二対の金属の触手で機銃座を操作する。青い激しい炎で焼き払い、銃弾により撃ちぬかれ地面にロボット達は転がり、焼かれた。
 アンナは窓から身を乗り出し、バズーカーを発射。手前にいたトラックから火柱が上がり爆発した。
 運転席のドアに飛びつく三体のロボット。
 飯田は冷静に片腕を機関砲に変えて連射。
 ロボットの頭部が砕け散った。
 七瀬は片腕をバズーカー砲に変えて撃つ。
 接近してきたトラックが木端微塵に吹き飛んだ。
 レイモンドは銃弾箱を七瀬と如月に渡す。
 「敵は複数いるな」
 七瀬は銃弾を装填すると車内に入ってくる。
 「改造ロボットを送り込んだり、チンピラを雇った奴は別人ね。経済が安定したら嫌な連中の仕業ね」
 如月が車内に入ってくる。
 「だから後払いか。ギャラはよさそうだ」
 飯田はカーナビを見ながら言う。
 七瀬はとっさに天井のサンルーフから身を乗り出し片腕のバズーカー砲を発射。
 上空から接近してきた軍用ヘリコプターを撃墜した。
 「今のヘリはどこ所属だ」
 七瀬は炎上するヘリをサイドミラーごしに見る。
 「米軍でも自衛隊でもないわ。ここを飛んでいる部隊はいない」
 アンナが首を振る。
 装甲車は横浜市内に入った。
 警報が出ているのか人々はいない。ゴミは散らかり車は放置されている。徘徊しているのは一つ目ロボットと顔がのっぺらぼうで暗褐色の体の怪物兵達だけである。怪物兵達はエンジン音に気づき駆け寄ってくる。
 如月は荷台に出ると両手を広げた。衝撃波とともに同心円状に青い炎が広がった。数千体の怪物兵達は一瞬にして焼き尽くされた。
 横浜港に入る装甲車。
 そこには赤レンガパークや大桟橋はなく高い壁に囲われた要塞がそびえ立っている。それは対岸の横浜保安署も同じように自衛隊の基地と同じ仕様になっていた。
 「おもしろいだろ」
 七瀬が笑みを浮かべる。
 「子供の頃とはだいぶちがうからね。むしろ昔の方がよかった」
 レイモンドは不快な顔をする。
 「同感ね。私もよくここへは遊びに来たもの。楽しかったな」
 如月はどこか遠い目をする。
 「俺も昔の街がよかったな」
 飯田がしんみりと言う。
 「だから平和なんてクソ食らえなんだよ。戦えば楽しくなる」
 笑みを浮かべる七瀬。
 横浜基地に入る装甲車。岸壁で彼らは護衛艦「せんだい」に乗った。船は離岸すると港を出て行く。昔の戦闘艦とちがい装甲も怪物化したクジラや大蛇の体当たりやミサイルが三発命中しても耐えられる仕様になっていた。
 ヘリ格納庫に入る七瀬達。
 横浜ベイブリッジは途中の橋桁が落下しているのが見えた。
 「第三次世界大戦は始まっているな。世界中で戦火は拡大している。戦争を終わらせるのは簡単ではない」
 飯田は火の手が上がる横浜の街を見ながら口を開く。
 「本当に合流地点に来るの?」
 疑問をぶつける如月。
 「信じてもらうしかないわね」
 アンナは腕を組んだ。
 船は速度を上げて東京湾を出た。
 レイモンドは身を乗り出し東京の方向をのぞいた。
 つまらなさそうな顔の七瀬。
 「狂ってる」
 言い捨てるレイモンド。
 「そうだな。だんだん彼は変わってきている。最後はターミネーターか戦闘中毒者か」
 しれっと言う飯田。
 ギャンブル依存症や買い物依存症と同じような物だろう。彼の場合は戦場から戦場へ戦いを求める依存症だ。
 「経済を安定しただけで停戦になるの?」
 如月が疑問をぶつける。
 「人類は増えすぎたから人口を調節した。教訓はたくさんあるわね。それをふまえて国連の地下会議室で各国の首脳は経済を安定させる協議をして安定に向かわせるの」
 アンナは冷静に答える。
 「だいぶ掃除はできただろ」
 七瀬は笑みを浮かべる。
 「そうとも言えるわね」
 アンナは機関銃の銃弾を装填した。
 海から海蛇が接近してくる。それも全長三〇メートルを超えるような大蛇だ。鎌首をもたげ口を開けた。せつな七瀬の片腕のビーム砲が頭部を貫いた。大蛇は沈んでいった。
 飯田はヘリ甲板に出ると青色の蛍光に包まれ砲台に変身した。
 「式根島と御蔵島を通過」
 アンナが報告する。
 「離島に人は住んでいるの?」
 レイモンドはモニターの地図を見ながら聞いた。
 「昔はね。どこもそうよ」
 アンナは答えた。
 
 三時間後。小笠原島を抜け硫黄島に接近する護衛艦「せんだい」
 要塞化した島に入港。着岸する。
 自衛官達が降りてきて忙しく行き交う。
 「敵は周辺海域に集まってきている。ほぼ怪物兵ね」
 アンナはモニターの地図を指さす。地図には赤い点が増加している。
 「俺が先頭で道を開ける」
 七瀬は口を開く。
 「俺はヘリ甲板で砲台のままで援護する」
 砲台に変身したままの飯田。
 「私が焼き尽くす」
 如月は画面をのぞきこむ。
 「この船に万が一の事があればあの高速艇で海域に向かう」
 アンナは船体側面にある小型艇を指さす。
 レイモンドはうなづく。
 自衛官達が船に乗り込み、出港作業をする。
 離岸して島を出て行く「せんだい」そしてsピードを上げた。
 七瀬はヘリ甲板に出ると青色の蛍光に包まれて宇宙船に変身した。流線型の船体といいスペースシップ3号は飛び立ち、上昇して海面すれすれを飛ぶ。
 水平線の向こうからクラゲのような物体が多数接近してきた。ただの巨大クラゲではなく金属の装甲に覆われたクラゲとクジラだ。誰かが改造して作ったものだ。
 スピードを落として船底からバルカン砲発射機を出すと太いビームを連射。
 ヘリ格納庫の屋根に飛び乗った如月は両腕を放射器に変形させて青色の火炎を放射。
 接近してきた何体もの大蛇は一瞬にして灰になった。
 飯田が変身している砲台の側面のバルカン砲を連射。
 小型機械クラゲの群れが次々砕け散った。
 アンナはショットガンで接近してくるカラスを撃墜した。ただのカラスではなく足が四本で体長が五メートルある。
 「せんだい」の艦首砲が火を噴く。接近してきた大蛇を撃ち抜いた。
 一キロ先の海上で閃光とともに紅蓮の炎が横一直線に広がった。焼き尽くされる怪物達。
 ドオーン!!
 「せんだい」が大きく揺れた。
 甲板に投げ出されるレイモンド、如月、アンナの三人。
 大木のように太いタコ足が船体をつかみ、別のタコ足でヘリ甲板の砲台がなぎ払われた。
 二つの魚眼が甲板のアンナ達をにらんだ。
 元の姿に戻った飯田が甲板に飛び乗る。
 アンナとレイモンドは銃を構えた。せつな触手によってなぎ払われレイモンドは床を転がりアンナは壁にたたきつけられた。
 飯田は片腕の機関砲を連射。
 如月は両腕の放射器から青い炎を発射。
 二本のタコ足で頭をかばうしぐさをする巨大タコ。
 炎で焼かれても撃たれても千切れた傷口から足が生えた。
 もう二対のタコ足が二人に巻きついた。
 レイモンドの足に触手が伸びて引き寄せ巨大タコは口を開けた。その時である。青い光の塊が口の中に飛び込んだ。
 巨大タコは飲み込んだ。急に吐き出そうともがいてレイモンドと如月、飯田を放した。
 もがきながら吐き出そうと「せんだい」から離れる巨大タコ。
 閃光ともに頭部から青白い光線が貫き、内部から燃え上がり塵と化した。
 甲板に着地する七瀬。
 レイモンドは倒れているアンナを起こした。
 ヘリ甲板に若い自衛官が駆け寄ってくる。
 「本艦は機関故障のため修理に入ります。
 「じゃあ高速艇を使って」
 頭を押さえながら言うアンナ。
 固定されている小型艇が降ろされる。
 四人は小型艇に飛び乗るとエンジンを始動させて進んだ。
 しばらく進むと霧が濃くなってきた。奥に進むにつれてミルク色の濃霧となっていく。
 「レーダーが効かない」
 如月と飯田は気づいた。
 「俺もだ」
 周囲を見回す七瀬。
 そして静寂。
 しばらくするとどこからともなく白色の大型船が現われた。全長一〇〇メートル位で一〇〇〇トン前後だろう。
 甲板に作業員が作業している。
 作業員と一緒に黒色の外套を羽織った者達が何人か見えた。
 甲板から仮設の階段が降ろされる。
 七瀬達はしぶしぶ階段をのぼった。
 黒色の外套の人物達と一緒に茶色の背広の中年の男性がいる。
 「よくやった」
 「名前は?」
 七瀬が聞いた。
 「ライバック。国連大使をしている」
 中年の男性は名乗った。
 「プログラムを持ってきました」
 レイモンドは真剣な顔になる。
 「わかっている。停戦合意に入り、妥協案を探る協議に入る」
 ライバックの顔から笑みが消える。
 「あとはまかせる」
 飯田はライバックの肩をたたく。
 「昔のように遊びたいからそれだけ」
 如月が念を押すように言う。
 「巻き込んで申し訳ない」
 ライバックは頭を下げた。
 「つまんねえの」
 舌打ちして階段を降りていく七瀬。
 戦争が終わったらつまらないではないか。
 少しすると如月と飯田が降りてくる。
 三人が高速艇に乗り込むと仮設階段は格納されて大型船が動き出す。
 大型船は濃霧の向こうに消えていく。
 「終わったな」
 飯田と如月はホッとした顔をになる。
 つまらなさそうな七瀬。
 やがて霧が晴れるとそこには大型船の姿はなく、快晴の空が広がっている
 「あら?メール」
 如月の携帯が鳴った。
 見ると「スクード」からのメールで、前金を暗号通貨で振り込んだとあった。
 飯田は自分の携帯を出した。
 口座を見ると日本円でしかも暗号通貨で振り込まれている。換金はスクード支部で出来ると書いてある。
 「前金だ。でもシャレた事をする」
 破顔する飯田。
 「後のお金は国連安保理と国連総会後ね」
 笑みを浮かべる如月。
 「せんだい」が接近してくるのが見えた。
 「そこの三人。乗って」
 艦首側甲板から身を乗り出すアンナ。頭には包帯。腕にはギブスをはめている。
 甲板に飛び乗る三人。
 「敵がいないぞ」
 七瀬が周囲を見回した。
 自分のレーダーにも百キロ四方は敵の姿がないのだ。あの白い船に出会うまではたくさんいたのに。
 「それはね。時空の亀裂を内部で破壊したからよ」
 アンナはタブレットPCを出してサハラ砂漠に出現していた黄金色の亀裂の動画を出す。そこには国連軍兵士達が集まっている様子と亀裂内部に核爆弾を放り込む映像が映る。
 兵士は自衛隊や米軍、他国の軍隊兵士も多数混じっている。兵士の中にマシンナイトも多数いるのに気づいた。
 「私達は囮ってことね」
 気づく如月。
 「停戦交渉は進んでいる。半年ぐらいで経済は安定するでしょうね。一週間もすれば世界の主な証券所は再開されるはずよ」
 アンナはため息をつく。
 「私は渋谷に遊びに行きたい」
 「俺は家族の所へ戻る」
 ホッとした顔の飯田と如月。
 「七瀬。あなたには月や火星に潜んでいる残党の掃討作戦がある。それが終われば次のミッションが待っている」
 アンナはカードキーを渡した。
 「それはよかった」
 破顔する七瀬。
 「行くなら勝手に行って。私は抜ける」
 「俺は家族を安心させたい」
 突き放す如月と飯田。
 「よし戦場へ行ってくる!!」
 笑みを浮かべる七瀬。彼はスペースシップ3号に変身して飛び去った。
 「勝手な人ね。まるで手のつけられない獣のようだわ」
 あきれかえるアンナ。
 「政府の方で復興法案が可決されたから復興作業と国連平和維持群の募集があるわ」
 アンナは募集チラシを渡す。
 「ようやく平和が来たようね」
 「戦争を終わらせるのは難しい。その手伝いをしよう」
 うなづく飯田と如月。
 「七瀬の方は気が済むまで戦ってもらいましょう。永遠に続く戦場でね」
 アンナは吹っ切れたような顔で言う。
 あのカードキーは時空の亀裂の向こうの扉で怪物達が跋扈する世界が待っている。戦いたいのなら思う存分気が済むまでやり尽くせばいいのだ。
 「私は家族の元に戻るわ」
 「勝手にあいつはやってくれればいいや」
 如月と飯田は吐き捨てるように言った。
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