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第壱・伍部
ep19 影
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数日前、夕凪高校ーーーーー
「梁村ぁー昨日の金返すー」
「え?貸してないけど」
「いや俺借りたじゃん映画代」
「え???映画・・・?なんの・・・?行ってないけど・・・」
「は?昨日梁村が行こうっつってみんなで行ったじゃんよ?なぁ哲ちゃん」
「どした?」
「梁村が昨日映画行ってないっつってんだけど」
最近、自分と友達の記憶が全然違う時がよくある。俺だけ一緒に遊んだ記憶がなかったり、逆に一緒に遊んだ記憶を俺しか持っていなかったり・・・
どこかでもう一人俺がいるのかもしれない。もう一人の自分で会ったら死ぬっていう都市伝説があったな。なんだっけーーー
「ん・・・・う・・・ここは・・・」
梁村聖人が目を覚ました。
「聖くん!」
「あ、哲ちゃん、ここは・・・?」
「変な館のシンリョウジョだよ!」
「変な館言うな!」いかる、キレる。「さて、君には少し興味があるぞ」いかる、冷静になる。
「え?お姉さんたち誰ですか」
「「は??」」
どうやら聖人はさっきの記憶がもう失われているようだ。そんな彼を見ていかると麗麗は顔を見合わせた。えらくめんどくさそうな予感がしていた。
「・・・私はここのシンリョウジョをやっている斑鳩いかる、こちらは友人の鳳麗麗研究員。思い出したか?」
「・・・初め・・・まして」
「えーっと・・・梁村聖人くんだったな?キミ、さっきの記憶はどうした?」
「さっきの・・・?」聖人はまだ軽く混乱しているようだ。
「気を失う前変なこと言ってたじゃないか。しゃくじーだの元号が違うだの」
「かみしゃくじー・・・あ、昨日から上石神井って地名にいました」
「なんだって?」
いかるは耳を疑った。上石神井とは彼が再び気絶する前にいっていた地名だ。
「キミの高校の最寄りの駅は」「・・・夕柳ヶ丘」
「ねーいかるちゃん、どーいうこと??さっぱりなんだけど???」
麗麗は千葉在住であり都内の駅の事はよく知らないので、聖人が気を失う前からの流れがよくわかっていない。
「麗麗、いつもここに来る時に降りる駅は?」
「夕柳・・・なんだっけ?台だっけ?今聖人くんが言ったやつ」「ヶ丘な」「あー夕柳ヶ丘夕柳ヶ丘」
「で、今の彼は夕柳ヶ丘を知っているが、さっきは夕柳ヶ丘の事を上石神井と言っていた」
「うーん???二重人格かなにか???」
「っていうわけではない気がする・・・同姓同名の二重人格というのも考えづらいし・・・キミ、今までにもこんな経験は?」
「こんな経験・・・?」
「例えば・・・そうだな、この哲ちゃんと遊んだ記憶はあるのに哲ちゃんからその記憶が消えているとか」
「あ、そういうの最近めっちゃあります」
聖人はここ1ヶ月以内に起きた事を話した。自分の行っていない遊びに自分がいたらしい事や自分が知らないところで目撃されていた事などをあやふやな記憶を頼りに話した。
「ふむ・・・普通に聞けばキミのドッペルゲンガーがいると言うことになるが・・・先ほどの状況を見るともっと違う何かがある気がする」
「えっ、何するんですか?!」
いかるは聖人の頭にいつものように手を翳した。
「聖人くん、少し君を調べさせてもらうぞ。一応聞いておこう、今の元号は?」
「え・・・䋝和」
「正解だ」
聖人からすれば何も知らない状態で妖しげな女が自分の頭に手のひらをかざしているこの状況は恐ろしく不安になる。
「あ、あのこれ何やってるんですか・・・なんかくすぐったいんですけど」
「詳細は省くが私には少し特殊な能力があってね。表面的だが脳を見させてもらってるよ」
「MRIみたいな事ですか?」
「だいたいそうだ、私の手元が狂わない事を祈ってくれ。君の記憶がランダムで消えるかもしれないからな」
「えぇ・・・」
延々と扉が連なるどこまでも続く廊下として具現化された幻影。正面にある扉をガチャリと開けると漂っている幾つものパネルに彼の記憶のビジョンが映し出されている。おそらくこれがこの世界の記憶なのだろう。
とすれば他の扉の奥には別世界の記憶があるのかもしれない。試しに覗いて見ようと扉の取っ手に手を伸ばす。
すると、急激に意識がどこかへ行ってしまいそうになった。どこかへ吸い込まれていくような、行ったら二度と戻って来れないような感覚に襲われた。
「どうした?!いかるちゃん?!」
いかるは急遽処置をやめ、無言で立ち尽くしていた。普段からいかるを見慣れていればこそ、その光景の異常さがわかった。
「だいじょうぶ・・・・・
聖人くん、気を失う前のことはどれくらい思い出せる?」
「え?えーっと・・・一昨日哲ちゃん達と渋谷行った話したら『行ってない』って言われて全然話合わなくて・・・えーっと・・・あれ?なんか上手く思い出せない」
「記憶が混濁しているな・・・キミ、前に変なもの口にしなかったか?例えば・・・こんな飴とか」
いかるはスマホでアズマが配り歩いてた箱のパッケージの画像を聖人に見せた。
「んー・・・なんか見たことあるような・・・」
「哲ちゃんちでこの箱を見たんじゃないか?」
「そう言われてみれば・・・」
「聖人くん、これは私の見立てだが・・・」いかるは自信なさげに言葉を紡いでいく。
「キミは別世界ーーーというより別次元を行き来しているのかもしれない。ありえないことかもしれないが・・・」
「別次元・・・?」
「たぶんだが・・・キミはいわばパラレルワールドのキミ自身と入れ替わってしまうのかもしれない」
「そんな事があるんですか?」
哲春が思わず訊いた。止まった時を感知できる彼でも次元の違う話に思えた。
「可能性としてゼロではないくらいの認識にしておいてくれ。なにぶん私らでは確認のしようがないしな・・・
説明は省くが君のその症状はこの薬によるものだろう。可能性があるとすればそれしかない」
「えっじゃあ俺警察行かないといけないんですか?」
「あー・・・いや、これは薬と言っても飴みたいなものだ、特殊な症状を引き起こすな
それにこの薬物は認知すらされていないから未承認だろう。警察へ行ったところで無罪放免で特に何もない」
「はぁ・・・」
「いずれにしても君のその症状は自然発生したものではない。人体の理を遥かに超えているからな」
「それで・・・俺はどうすれば・・・?」
「ここで出来る処置は能力・症状の緩和であって完治ではない。そして多次元の移動能力を封じた場合他の次元先にどんな影響が出るかわからない。だから・・・」
ガチャリ
という音が聖人に聴こえたような気がした瞬間、聖人の中で滞留していたモノが一気にクリアになった感覚がきた。
「キミの意思で制御が利くようにした。これで不意にどこへいくことも無くなったが・・・逆を言えば意識的に並行世界に意識だけ移動できるようになった」
「ん・・・?ねぇねぇいかるちゃん、能力使えないように出来なくても制御を強くした方がいいんじゃないの?
聖人君が自分の意思で他の世界線に行ってなんかやらかしたらヤバいんじゃない?」
「彼が能力を制御するには・・・よりクリアにするしかないんだ。それにもしここが“軸”の世界じゃあない場合、理から外れるかもしれない」
「・・・・・ん?それの何がまずいの?」麗麗は一瞬納得しかけたが、やはり疑問を感じた。
「まずいっていうか・・・危機感知的にクリアしていた方がいいかなって・・・」
「つまりいかるちゃんの感覚を信じるしかないわけね」
「それに、ただの高校生に何か出来るとは思えないしな」
「キミ、セカイ系の主人公じゃあないよね?」
「セカイケイ・・・?」
「its Japanese traditional」
「あのー」今まで黙って見ていたバイトの一人、鶴野が口を開いた。「いかるさんはなぜそんな事がわかるんすか?」
「わかるっていうか・・・説明が難しいな・・・あくまで感覚的なものだから・・・」
「じゃあ・・・その“感覚”とやらはどういう感じなのか教えてくれません?」
「えっ・・・いや・・・・」
急に鶴野に接近されて思わず3歩下がったいかるの盾になるように麗麗が割って入った。
「キミ、名前は?」
「あれ、名前いってなかったっしたっけ?鶴野っす」
「ツルノはまだ若いからわからないんだろうから教えるよ。そんな風に女の子に接近しちゃいけない」
「なんすかいきなり」
「不用意に近づくなっつってんだ」
「い、いいよ麗麗・・・大丈夫・・・ちょっとびっくりしただけ・・・」
いかるは呼吸を整え冷静になって続けた。
「えと、私が脳を探っている時、相手の記憶が無数のホログラムのようなパネルに映し出されているビジョンを見ている感覚なんだ。しかしこの彼の場合、こんなビジョンは初めてだったんだが・・・無数の扉が並んだ廊下がまずあった。扉を開けた先に記憶のパネルが無数にあるわけだが・・・」
「それがこの世界の記憶なんすね?」鶴野だ。
「・・・そうだ」
「って事は他の部屋には別世界の記憶があるっつーことっすね」
「そうだと思う」
「思う?確認しなかったんすか?」
「しなかったというより出来なかった。他の扉に手を掛けようとすると自分が何処かへ行ってしまうような感覚が来て・・・これ以上は危ないと思った」
「なるほど、つまりその扉に触れるのも彼だけだと」
「そうだ」
「で?聖人くんはどーする?」
「どーするっていっても・・・どーすればいいですか?」
「今日はひとまず帰りなさい。注意しておくが興味本位で並行世界に行くなよ?記憶がぐちゃぐちゃになるぞ」
「は、はぁ・・・てか、哲ちゃんはなんでここいんの?」
「彼も私の治療を受けているんだ。詳しいことは・・・・あっ」
「どしたの?」いかるの中で何かが引っかかったらしいのが麗麗にも感じ取れた。
「・・・・いや、とりあえずはいいか。今日はキミら帰りなさい、そろそろ午後の診察時間だ」
シンリョウジョを後にした哲春と聖人はとりあえず夕柳ヶ丘駅へと向かっていた。
「ちゃんと夕柳ヶ丘駅でありますように・・・で、なんで哲ちゃんもいたの?哲ちゃんも別の世界行けるとか?」
「いや、俺は・・・時間が止まったのがわかるんだ」
「・・・・・時を止められるってこと?」
「ううん、それは出来ないんだ」
「ふーん・・・哲ちゃんが時々ぼーっとしてたのそーいうことかぁ」
「え?俺そんなんなってた?」
「なってたね。ってか時が止まってる間ってどんなんなの?」
「んー・・・金縛りってこんな感じなんだろうなーって感じ」
「あんますごい感じしないね」
「聖くんはどーなんだよ、別世界どんなんだった?」
「うーん・・・あんま変わんないんだけどなんか違うとこあるみたいな・・・間違い探しみたいな感じかな」
「なんだよそれ」
二人は電車に乗った。
斑鳩シンリョウジョーーー本日の診察終了後
「さっきいかるちゃん何言いかけてた?」
「変身の能力・・・」
「あ、なるほど」
「あの女にあったらやばいかも・・・
さ、こっからは大人の時間だ。ガキは帰った帰った」
「段々僕らの扱いが雑になってません?」
大和には何も言い返さず急いでどこかへ連絡を取っていた。
「あ、堂馬さんいますか?・・・・・あ、どうも堂馬さん、こんにちは・・・これこれかくかくしかじかで・・・はい・・・はい・・・梁村聖人の護衛は・・・あぁそうですか・・・はい・・・はい・・・」
いかるに雑に帰るよう言われた大和だったがこれから鶴野と映画を見にいく予定があった。
「鶴野くん行こ・・・あれ?」
彼を見つけると何やら通話中だった。
「あぁそうだーー意識ーだが並ー界を行き来ーーもし彼ー真希奈ーーちょっと待ってくれ
あ、大和さん」
「そろそろ帰れってさ。行こう」
「えっもうそんな時間っすか!わかりましたもうちょいしたら行きます!・・・いまの聞いてました?」
「え?いや聞いてないけど・・・なんか今声変じゃなかった?」
「若干風邪気味かもっす」
「別日にしよっか?」
「だーいじょぶっす行きましょー!」
バイトのガキどもが帰り、シンリョウジョは二人だけの空間となっていた。
「どー思う?」
「どうって?」麗麗はタバコを咥えていた。
「あの薬、思ったよりばら撒かれてたんじゃないかなって」
「だろうねー」
「うちは事が起きるどころか当人がここに来ない限りなにも出来ないからなー・・・」
「るんるんの仕事は迷い人に明かりを照らす事だよ。それが吉と出ようが凶と出ようがね」
「・・・そうだね」
アズマが生前蒔いた種が各地で芽吹き始めていた。
「梁村ぁー昨日の金返すー」
「え?貸してないけど」
「いや俺借りたじゃん映画代」
「え???映画・・・?なんの・・・?行ってないけど・・・」
「は?昨日梁村が行こうっつってみんなで行ったじゃんよ?なぁ哲ちゃん」
「どした?」
「梁村が昨日映画行ってないっつってんだけど」
最近、自分と友達の記憶が全然違う時がよくある。俺だけ一緒に遊んだ記憶がなかったり、逆に一緒に遊んだ記憶を俺しか持っていなかったり・・・
どこかでもう一人俺がいるのかもしれない。もう一人の自分で会ったら死ぬっていう都市伝説があったな。なんだっけーーー
「ん・・・・う・・・ここは・・・」
梁村聖人が目を覚ました。
「聖くん!」
「あ、哲ちゃん、ここは・・・?」
「変な館のシンリョウジョだよ!」
「変な館言うな!」いかる、キレる。「さて、君には少し興味があるぞ」いかる、冷静になる。
「え?お姉さんたち誰ですか」
「「は??」」
どうやら聖人はさっきの記憶がもう失われているようだ。そんな彼を見ていかると麗麗は顔を見合わせた。えらくめんどくさそうな予感がしていた。
「・・・私はここのシンリョウジョをやっている斑鳩いかる、こちらは友人の鳳麗麗研究員。思い出したか?」
「・・・初め・・・まして」
「えーっと・・・梁村聖人くんだったな?キミ、さっきの記憶はどうした?」
「さっきの・・・?」聖人はまだ軽く混乱しているようだ。
「気を失う前変なこと言ってたじゃないか。しゃくじーだの元号が違うだの」
「かみしゃくじー・・・あ、昨日から上石神井って地名にいました」
「なんだって?」
いかるは耳を疑った。上石神井とは彼が再び気絶する前にいっていた地名だ。
「キミの高校の最寄りの駅は」「・・・夕柳ヶ丘」
「ねーいかるちゃん、どーいうこと??さっぱりなんだけど???」
麗麗は千葉在住であり都内の駅の事はよく知らないので、聖人が気を失う前からの流れがよくわかっていない。
「麗麗、いつもここに来る時に降りる駅は?」
「夕柳・・・なんだっけ?台だっけ?今聖人くんが言ったやつ」「ヶ丘な」「あー夕柳ヶ丘夕柳ヶ丘」
「で、今の彼は夕柳ヶ丘を知っているが、さっきは夕柳ヶ丘の事を上石神井と言っていた」
「うーん???二重人格かなにか???」
「っていうわけではない気がする・・・同姓同名の二重人格というのも考えづらいし・・・キミ、今までにもこんな経験は?」
「こんな経験・・・?」
「例えば・・・そうだな、この哲ちゃんと遊んだ記憶はあるのに哲ちゃんからその記憶が消えているとか」
「あ、そういうの最近めっちゃあります」
聖人はここ1ヶ月以内に起きた事を話した。自分の行っていない遊びに自分がいたらしい事や自分が知らないところで目撃されていた事などをあやふやな記憶を頼りに話した。
「ふむ・・・普通に聞けばキミのドッペルゲンガーがいると言うことになるが・・・先ほどの状況を見るともっと違う何かがある気がする」
「えっ、何するんですか?!」
いかるは聖人の頭にいつものように手を翳した。
「聖人くん、少し君を調べさせてもらうぞ。一応聞いておこう、今の元号は?」
「え・・・䋝和」
「正解だ」
聖人からすれば何も知らない状態で妖しげな女が自分の頭に手のひらをかざしているこの状況は恐ろしく不安になる。
「あ、あのこれ何やってるんですか・・・なんかくすぐったいんですけど」
「詳細は省くが私には少し特殊な能力があってね。表面的だが脳を見させてもらってるよ」
「MRIみたいな事ですか?」
「だいたいそうだ、私の手元が狂わない事を祈ってくれ。君の記憶がランダムで消えるかもしれないからな」
「えぇ・・・」
延々と扉が連なるどこまでも続く廊下として具現化された幻影。正面にある扉をガチャリと開けると漂っている幾つものパネルに彼の記憶のビジョンが映し出されている。おそらくこれがこの世界の記憶なのだろう。
とすれば他の扉の奥には別世界の記憶があるのかもしれない。試しに覗いて見ようと扉の取っ手に手を伸ばす。
すると、急激に意識がどこかへ行ってしまいそうになった。どこかへ吸い込まれていくような、行ったら二度と戻って来れないような感覚に襲われた。
「どうした?!いかるちゃん?!」
いかるは急遽処置をやめ、無言で立ち尽くしていた。普段からいかるを見慣れていればこそ、その光景の異常さがわかった。
「だいじょうぶ・・・・・
聖人くん、気を失う前のことはどれくらい思い出せる?」
「え?えーっと・・・一昨日哲ちゃん達と渋谷行った話したら『行ってない』って言われて全然話合わなくて・・・えーっと・・・あれ?なんか上手く思い出せない」
「記憶が混濁しているな・・・キミ、前に変なもの口にしなかったか?例えば・・・こんな飴とか」
いかるはスマホでアズマが配り歩いてた箱のパッケージの画像を聖人に見せた。
「んー・・・なんか見たことあるような・・・」
「哲ちゃんちでこの箱を見たんじゃないか?」
「そう言われてみれば・・・」
「聖人くん、これは私の見立てだが・・・」いかるは自信なさげに言葉を紡いでいく。
「キミは別世界ーーーというより別次元を行き来しているのかもしれない。ありえないことかもしれないが・・・」
「別次元・・・?」
「たぶんだが・・・キミはいわばパラレルワールドのキミ自身と入れ替わってしまうのかもしれない」
「そんな事があるんですか?」
哲春が思わず訊いた。止まった時を感知できる彼でも次元の違う話に思えた。
「可能性としてゼロではないくらいの認識にしておいてくれ。なにぶん私らでは確認のしようがないしな・・・
説明は省くが君のその症状はこの薬によるものだろう。可能性があるとすればそれしかない」
「えっじゃあ俺警察行かないといけないんですか?」
「あー・・・いや、これは薬と言っても飴みたいなものだ、特殊な症状を引き起こすな
それにこの薬物は認知すらされていないから未承認だろう。警察へ行ったところで無罪放免で特に何もない」
「はぁ・・・」
「いずれにしても君のその症状は自然発生したものではない。人体の理を遥かに超えているからな」
「それで・・・俺はどうすれば・・・?」
「ここで出来る処置は能力・症状の緩和であって完治ではない。そして多次元の移動能力を封じた場合他の次元先にどんな影響が出るかわからない。だから・・・」
ガチャリ
という音が聖人に聴こえたような気がした瞬間、聖人の中で滞留していたモノが一気にクリアになった感覚がきた。
「キミの意思で制御が利くようにした。これで不意にどこへいくことも無くなったが・・・逆を言えば意識的に並行世界に意識だけ移動できるようになった」
「ん・・・?ねぇねぇいかるちゃん、能力使えないように出来なくても制御を強くした方がいいんじゃないの?
聖人君が自分の意思で他の世界線に行ってなんかやらかしたらヤバいんじゃない?」
「彼が能力を制御するには・・・よりクリアにするしかないんだ。それにもしここが“軸”の世界じゃあない場合、理から外れるかもしれない」
「・・・・・ん?それの何がまずいの?」麗麗は一瞬納得しかけたが、やはり疑問を感じた。
「まずいっていうか・・・危機感知的にクリアしていた方がいいかなって・・・」
「つまりいかるちゃんの感覚を信じるしかないわけね」
「それに、ただの高校生に何か出来るとは思えないしな」
「キミ、セカイ系の主人公じゃあないよね?」
「セカイケイ・・・?」
「its Japanese traditional」
「あのー」今まで黙って見ていたバイトの一人、鶴野が口を開いた。「いかるさんはなぜそんな事がわかるんすか?」
「わかるっていうか・・・説明が難しいな・・・あくまで感覚的なものだから・・・」
「じゃあ・・・その“感覚”とやらはどういう感じなのか教えてくれません?」
「えっ・・・いや・・・・」
急に鶴野に接近されて思わず3歩下がったいかるの盾になるように麗麗が割って入った。
「キミ、名前は?」
「あれ、名前いってなかったっしたっけ?鶴野っす」
「ツルノはまだ若いからわからないんだろうから教えるよ。そんな風に女の子に接近しちゃいけない」
「なんすかいきなり」
「不用意に近づくなっつってんだ」
「い、いいよ麗麗・・・大丈夫・・・ちょっとびっくりしただけ・・・」
いかるは呼吸を整え冷静になって続けた。
「えと、私が脳を探っている時、相手の記憶が無数のホログラムのようなパネルに映し出されているビジョンを見ている感覚なんだ。しかしこの彼の場合、こんなビジョンは初めてだったんだが・・・無数の扉が並んだ廊下がまずあった。扉を開けた先に記憶のパネルが無数にあるわけだが・・・」
「それがこの世界の記憶なんすね?」鶴野だ。
「・・・そうだ」
「って事は他の部屋には別世界の記憶があるっつーことっすね」
「そうだと思う」
「思う?確認しなかったんすか?」
「しなかったというより出来なかった。他の扉に手を掛けようとすると自分が何処かへ行ってしまうような感覚が来て・・・これ以上は危ないと思った」
「なるほど、つまりその扉に触れるのも彼だけだと」
「そうだ」
「で?聖人くんはどーする?」
「どーするっていっても・・・どーすればいいですか?」
「今日はひとまず帰りなさい。注意しておくが興味本位で並行世界に行くなよ?記憶がぐちゃぐちゃになるぞ」
「は、はぁ・・・てか、哲ちゃんはなんでここいんの?」
「彼も私の治療を受けているんだ。詳しいことは・・・・あっ」
「どしたの?」いかるの中で何かが引っかかったらしいのが麗麗にも感じ取れた。
「・・・・いや、とりあえずはいいか。今日はキミら帰りなさい、そろそろ午後の診察時間だ」
シンリョウジョを後にした哲春と聖人はとりあえず夕柳ヶ丘駅へと向かっていた。
「ちゃんと夕柳ヶ丘駅でありますように・・・で、なんで哲ちゃんもいたの?哲ちゃんも別の世界行けるとか?」
「いや、俺は・・・時間が止まったのがわかるんだ」
「・・・・・時を止められるってこと?」
「ううん、それは出来ないんだ」
「ふーん・・・哲ちゃんが時々ぼーっとしてたのそーいうことかぁ」
「え?俺そんなんなってた?」
「なってたね。ってか時が止まってる間ってどんなんなの?」
「んー・・・金縛りってこんな感じなんだろうなーって感じ」
「あんますごい感じしないね」
「聖くんはどーなんだよ、別世界どんなんだった?」
「うーん・・・あんま変わんないんだけどなんか違うとこあるみたいな・・・間違い探しみたいな感じかな」
「なんだよそれ」
二人は電車に乗った。
斑鳩シンリョウジョーーー本日の診察終了後
「さっきいかるちゃん何言いかけてた?」
「変身の能力・・・」
「あ、なるほど」
「あの女にあったらやばいかも・・・
さ、こっからは大人の時間だ。ガキは帰った帰った」
「段々僕らの扱いが雑になってません?」
大和には何も言い返さず急いでどこかへ連絡を取っていた。
「あ、堂馬さんいますか?・・・・・あ、どうも堂馬さん、こんにちは・・・これこれかくかくしかじかで・・・はい・・・はい・・・梁村聖人の護衛は・・・あぁそうですか・・・はい・・・はい・・・」
いかるに雑に帰るよう言われた大和だったがこれから鶴野と映画を見にいく予定があった。
「鶴野くん行こ・・・あれ?」
彼を見つけると何やら通話中だった。
「あぁそうだーー意識ーだが並ー界を行き来ーーもし彼ー真希奈ーーちょっと待ってくれ
あ、大和さん」
「そろそろ帰れってさ。行こう」
「えっもうそんな時間っすか!わかりましたもうちょいしたら行きます!・・・いまの聞いてました?」
「え?いや聞いてないけど・・・なんか今声変じゃなかった?」
「若干風邪気味かもっす」
「別日にしよっか?」
「だーいじょぶっす行きましょー!」
バイトのガキどもが帰り、シンリョウジョは二人だけの空間となっていた。
「どー思う?」
「どうって?」麗麗はタバコを咥えていた。
「あの薬、思ったよりばら撒かれてたんじゃないかなって」
「だろうねー」
「うちは事が起きるどころか当人がここに来ない限りなにも出来ないからなー・・・」
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