社畜、ケモミミ幼女を拾う。~てぇてぇすぎる狐っ娘との癒され生活が始まりました~

狐火いりす@商業作家

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第1話 ケモミミ幼女てぇてぇ

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 雨の降る深夜、その女の子は道端で泣いていた。

 私は連日の残業続きでとうとう幻覚が見え始めたのだと思った。
 だって、その女の子の頭からはケモミミが生えていたのだから。
 あと、よく見たらしっぽも生えていた。

 ……これ、いわゆる“獣人”ってやつよね?
 耳の先が黒いから、たぶん狐っ娘かな。
 年齢は見たところ五歳前後くらい。

 現代日本にファンタジー獣人が存在するわけないから十中八九これは幻覚だろうけど、だとしても雨に濡れながら泣いている彼女を放っておくことはできなかった。

「大丈夫? どうして泣いてるの?」

 私は彼女の頭上に傘をさしながら、話しかける。
 雨に濡れる寒さは、気にならなかった。

「だ、誰……?」

 彼女はびくんっと体を縮ませた後、恐る恐るといった感じでこちらを見上げてきた。
 私はできるだけ優しい声で話しかける。

「君、おうちは?」

「……ない」

「じゃ、じゃあ、行く場所はあるの?」

「…………ない」

 どうしよう……。
 どう対応するのが正解なの……?

 どうすればいいのか分からなくてあたふたしていると、彼女のお腹がぐぅぅぅ~と鳴った。

「……ご飯、食べてないの?」

「……うん。一日くらい、何も食べてない……」

 それって相当きついんじゃ……。

 気づいたら私は、反射的に言葉を口にしていた。

「私のうちすぐそこだから来る? 冷食しかないけど、ご飯食べられるよ。それに、ずっと雨に濡れてて寒いよね? 風邪ひかないようにあったまらないと!」

 いきなり何言ってんの、私!
 もっとこう、警察署に連れていくとかあったでしょ!
 怪しいにもほどがあるわ!

 ……って、思ったけど。
 彼女は泣きながら言ってきた。

「……助けて」

「歩ける?」

 彼女の手を取りながらそう聞くと、彼女はこくりと頷いた。
 私は彼女を連れて家へ帰る。

「私は成瀬なるせ。君、名前は?」

「……葛葉くずは

「そう、葛葉ちゃんっていうのね」

 自己紹介して名前を教えてもらったところで、私が住んでいるアパートに着いた。
 ドアを開けると、いろんなものがそこら中に転がっている部屋が視界に入ってくる。

「散らかっててごめんね。すぐにタオル取ってくるからちょっと待ってて」

「お、おじゃまします……」

 私はタオルを持ってくると、葛葉ちゃんの頭を丁寧に拭いていく。
 彼女の着ていた着物は雨でびしょぬれだったので、別の服に着替えてもらった。

 姪に服をあげるときにサイズ間違って買っちゃったやつを処分せずにとっておいてよかったわ。
 まさかこんなところで役に立つなんてね。

「よし、これで大丈夫かな。こたつに入って温まっといてね」

 春になったけど面倒で片付けてなかったこたつの電源を入れた私は、キッチンに移動して冷食をレンジにぶち込む。

 温まるまでの間、私は葛葉ちゃんの髪をドライヤーで乾かす。

「ふぁぁぁ~」

 気持ちよさそうにしてる葛葉ちゃんてぇてぇし、髪サラサラで触り心地いいし、何これ最高かよ!
 癒されるわ~。

 と、そこでレンチンが終わった。
 ドライヤーをいったん終了した私は、レンジから取り出した冷食を皿に移して葛葉ちゃんのもとまで持っていく。

「……これ、食べていいの?」

 遠慮がちに聞いてきた葛葉ちゃんだったが、彼女のお腹は素直だった。
 ぐぅぅ~と可愛らしい音を上げる。

「好きなだけ食べていいよ。おかわりもあるからね」

「……ほんとにいいの? もらっちゃうよ?」

 ちょっと不安そうに上目づかいで聞いてくるの反則急に可愛いんだけど!

「どうぞどうぞ、いくらでもお食べ」

「ん。じゃあ、もらうね。いただきまぁーす!」

 葛葉ちゃんは目をキラキラ輝かせながら、スプーンを口に運ぶ。
 よっぽどお腹が空いてたのか、一口の量が多い。
 そのせいでリスみたいにもぐもぐする羽目になってるんだけど、それがまたてぇてぇのなんのって……!

「これが、現実だったらよかったんだけどなぁ……」

 自分でも無意識のうちに、そんな言葉を漏らしていた。

「……なにか言った?」

「ううん、なんでもないよ。私のことは気にせずに食べな」

「はーい。あむ、おいし~!」

 毎日毎日遅くまで残業して、稀の休みは寝て過ごすだけ……。
 そんな楽しみのない人生に私は疲れ切っていたけど…………葛葉ちゃんを見ていると、すさんだ心が温まっていくような心地よさがあった。

 誰かがそばにいてくれるだけで、こんなにも違うものなんだね……。
 これが夢でも幻覚でもなんでもいいから、ずっと続いてほしい。
 ずっとこのままでいたい。

 そう思った、その時だった。

「あ、あれ……?」

 視界がぐわんと歪む。
 全身から力が抜け、どんどん意識が遠くなっていく。
 葛葉ちゃんの焦ったような声を最後に、私の意識は完全に途絶えた。



「…………ん……あれ……?」

 次に目を覚ました時には、もう朝になっていた。
 窓から暖かい陽ざしが差し込んでいる。

「結局あれは、ただの夢か……。仕事行く準備しないと。憂鬱だなぁ……って、ん?」

 脳裏に鮮明に焼きついている昨夜の光景を思い出しながら起き上がろうとしたところで、膝の上に重みがあることに気づいた。
 視線を落とすと、私の膝に顔を乗せてすーすーと寝息を立てている女の子の姿があった。

 彼女の頭からは、もふもふなケモミミが生えている。
 間違いなく葛葉ちゃんだった。

「……現実だったんだ!?」

「んぅ……なぁに……」

 驚いて大きな声を出してしまったせいで、葛葉ちゃんがもぞもぞと動き出す。
 彼女はごしごしと目をこすった後、まだちょっとぼんやりした感じで私のほうを見てきた。

「おはよぉ」

「おはよう、葛葉ちゃん。よく寝れたかな?」

「まだちょっとだけねむいけど、がんばって起きる」

 葛葉ちゃんはそう言うと、大きく伸びをしながら起き上がる。
 その姿を眺めながら、私は腕を組んで思案していた。

 葛葉ちゃんてぇてぇが現実だったのは嬉しいけど、彼女の行く当ても帰る場所もないという重大問題まで現実になっちゃったからね。
 肝心のどうするかだけど、これから仕事に行かなきゃだからなぁ。

「葛葉ちゃん。私はこの後仕事に行くんだけど、帰ってくるまでの間いい子でお留守番できるかな?」

「……出ていけーって言わないの?」

「そんなひどいこと言わないよ。葛葉ちゃんがこれからどうするかは仕事から帰ってきたら一緒に考えてあげるから、それまで待っててくれるかな?」

「うん。葛葉、いい子でおるすばんできるよ。けど、ひとりはちょっとさみしい」

「ふぉぅ……!」

 そんなウルっとした目で見つめられたら、てぇてぇ死しちゃうよ!
 今日は早く帰って来るぞー! と私は固く誓うのだった。

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