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呪われ聖女は愛されたい
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醜い化け物。
それが私──ソフィア・ルミエールに対する周りからの評価だった。
「準備が整いましたよ、醜い聖女様」
侍女の冷たい声で私の意識は現実に引き戻される。
主人に対するものとは思えない侍女の態度も、今日ばっかりはどうでもいい。
気にする気すら起きないほど、私は憂鬱だった。
「さあ、行きましょう」
「……ええ、そうね……」
これから私は、婚約者である第一王子ルーク・ユースティア様と顔合わせをしなければならない。
それがすごく嫌で……逃げられるのなら、今すぐにでも逃げ出したいくらいだった。
別に、ルーク様が嫌いというわけじゃない。
ルーク様は英雄と讃えられている素晴らしい人で……むしろ、私の婚約者としてはもったいないくらいの人間だ。
なら、なぜ私は憂鬱なのか?
そんなの決まってる。全部私の見た目のせいだ。
私が聖女の力に目覚めたのは今から八年前、十歳の時。
その時の私は、いつも笑顔が絶えなくて誰とでも仲良くなれる、そんな明るい女の子だった。
聖女としての能力も歴代トップで、私はどんどん功績を上げていった。
私の未来は輝かしいものになる。
そう思っていた。
十五歳になるまでは。
十五歳の誕生日を過ぎたころに、私は不治の病を患ってしまった。
呪命病という、最悪の病気を。
この病気のせいで、私の姿は醜くなってしまった。
サラサラで美しかった銀髪は、干からびたかのように水気を失ってバサバサになり、ついでとばかりに色素までも抜け落ちて白く染まってしまった。
色白だった肌は至るところが黒紫に変色し、腫瘍みたいな瘤まみれになってしまった。
その結果、私は醜い化け物と蔑まれることになった。
国民から。
貴族たちから。
従者たちから。
親友だと思っていた人から。
実の家族からも……。
すぐにでも逃げ出したかった。
誰の目にも入らない場所で静かに暮らしたかった。
だけど、逃げられなかった。
魔王の影響で年々凶暴化していく魔物から国を守るためには、聖女の力が必要不可欠。
そして、聖女は百年に一人しか現れない。
だから国は、私を逃がさない。
逃げることもできず人間の悪意にさらされ続けた私は、もう昔みたいに笑うことができなくなってしまった。
愛する人と結婚して、いずれ子供が生まれ、四苦八苦しながら育てていく。
そんな女性なら誰もが夢見るような幸せすらも、望むことができなくなってしまった。
なぜ私が聖女の力に選ばれてしまったのだろう……。
考えても仕方がないことだって分かっているのに、考えずにはいられない。
もう、限界だった。
「着きましたよ」
気づけば私は、部屋の前に立っていた。
どうしてこういう時だけあっという間に時間が過ぎてしまうの! と、心の中で悪態をつく。
「聖女様をお連れいたしました」
侍女が数度ノックしてそう言うと、中から「どうぞ」という柔らかい声が返ってきた。
心が落ち着くような、優しい声。
その印象通り、部屋の中にいたのは優しげな美青年だった。
真夜中でも輝いていそうなくらい美しい金色の髪に、海のような透き通った青い瞳。
国宝顔負けの整った顔立ちに、引き締まった体躯。
「…………ふぁ」
つい目が離せなくなってしまうほどイケメンすぎて、思わず変な声が出てしまった。
私が顔を真っ赤にして慌てていると、ルーク様は微笑みながら話しかけてきた。
「改めて自己紹介といこうか。君の婚約者となったルーク・ユースティアだよ」
「そ、ソフィア・ルミエールでしゅっ! よ、よろしくお願いします!」
「ハハハ、よっぽど緊張してるんだね」
「す、すみません……」
「全然気にしないよ。どうぞ、座って」
促されるまま席に座ると、紅茶が差し出される。
一口すすると、そのあまりのおいしさに私は目を見開いた。
何これ!? 今まで飲んだ紅茶の中で一番おいしいんだけど!?
「喜んでくれてよかったよ。紅茶を淹れるのは得意なんだ」
「えっ!? これルーク様が淹れてくださったんですか!?」
「言っただろう? 紅茶を淹れるのは得意だって」
「今までで一番おいしいです、ルーク様の淹れてくださった紅茶!」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
嬉しそうに告げてきたルーク様を見て、私は自分の心が少しだけ高鳴っていることに気づいた。
こんなに優しくされたのは呪命病を患ってから初めてだ。
でも……だからこそ、苦しい。
ルーク様は英雄とまで讃えられた人物だ。
その功績や人となりは、何度も耳にしてきた。
国を脅かすほど凶悪な魔物を単騎で屠るだけじゃなく、百年以上誰も攻略できなかった迷宮を踏破するほどの実力。
それに加えて、誰もが振り向くような美貌を持ち、私のような人間にも優しく接してくれる聖人のような性格をしている。
私なんかじゃ、ルーク様の婚約者として相応しくないのだ。
ルーク様だって、どうせ心の中では私のことをよく思っていないだろう。
なんでこんなのと婚約しないといけないんだ! って、思わないわけがない。
「……あの、ルーク様」
ルーク様に迷惑をかけてしまうくらいなら──。
「私は婚約者となったわけですが……ルーク様が望むのなら、側室を娶っていただいても構いません! 私は所詮お飾りですから──」
そこまで言ったところで、私の言葉は止められた。
私の口元に当てられた、ルーク様の人差し指によって。
「僕は側室を娶る気はないよ」
……一瞬、言葉の意味が分からなかった。
側室を娶る気がない……?
じゃあ、ルーク様は誰も愛さないってことなの……?
混乱する私に、ルーク様は予想外の言葉を告げてきた。
「僕はソフィア。君のことが好きだ」
「……………………え……?」
……どれくらい経ったのかも分からないほど私は硬直して──ようやく脳が動き出した途端、大量の疑問が濁流のようにあふれてきた。
「……ルーク様、どういうことですか……?」
「言葉のままだよ。それ以上でもそれ以下でもない、僕の本心だ」
……信じられない。
だって、私は醜い化け物で……。
みんなから蔑まれて……。
だから……。
ありえない。
そう思ってルーク様を見て──分かってしまった。
これまで会ってきた人はみんな私と目を合わせようともしなかったけど、ルーク様は私が部屋に入って来た時からちゃんと私の目を見て話していた。
今だって、私を見る目は真剣そのものだ。
そして、何より……。
ずっと悪意にさらされて生きてきたからこそ、ルーク様が私に悪意を持っていないことがハッキリと理解できてしまった。
「どうして……ですか……?」
震える声で尋ねた私に、ルーク様は優しく教えてくださった。
「学園の入学式の日に行われた歓迎パーティーを覚えているかい?」
「……ええ、もちろん覚えてます」
覚えてるけど、ルーク様とお話しするのは今日が初めてじゃ……。
「あの日、僕はたくさんの人たちの中心で楽しそうに笑っていた君を見て、恋に落ちたんだ。一目惚れだったよ。
それからは君のことしか考えられなかった。想いは日が経つほどに膨れ上がっていった。どうしようもないくらいにね」
私は驚きすぎて何を言えばいいのか分からなくなってしまった。
まさか、ルーク様が私に一目惚れしていたなんて……。
「聖女とか、呪命病とか関係ない。僕は君という人間に惚れたんだ。だから、昔のように笑って欲しい。あの太陽のような温かい笑顔を見せて欲しいんだ」
ルーク様は真剣な表情でそう言ってきた。
私は胸の内が温まっていくのを感じるのと同時に、頭の中が悲しさと申し訳なさでいっぱいになった。
「ルーク様にそう言ってもらえたこと、心の底から嬉しく思います。……だけど、すみません。笑い方を…………忘れてしまったのです……」
私が俯きながらそう言うと、ルーク様はしばし考えこんでから聞いてきた。
「もしも呪命病が治ったら、君はまた笑ってくれるかい?」
「それは……もちろんそうしたいですけど……でも、呪命病は不治の病で……」
過去に必死になって探したけど、この病気が治ったなどという文献を見つけることはできなかった。
現代の魔法や医療技術では、どうすることもできないのだ。
「君に見せたいアイテムがあるんだ」
「……? なんでしょうか……?」
急にそう言われて困惑していると、ルーク様は一つのアイテムを取り出した。
「綺麗……」
それは、宝石だった。
夜空に輝く星を映したかのような、見たこともないくらい美しい宝石だ。
「これは願いの星と言ってね。最難関迷宮を踏破して手に入れたんだよ」
「……どんな効果があるんですか?」
私の質問に、ルーク様はフッと笑ってから答えた。
「どんな願いでも一つだけ叶えてくれる、それがこのアイテムの効果さ」
「……す、すごい…………!」
聞いたこともないようなとんでもない効果に、思わず私は言葉を失ってしまった。
口をぽかんと開けたままの私をよそに、ルーク様は話を続ける。
「何を願うのかは最初から決まっている。そのために僕は強くなったのだから」
そして、ルーク様は一片の迷いもなく言葉を紡いだ。
「彼女の──ソフィアの病気を治してくれ」
「…………………………………………ぇ……?」
刹那、私の体が光に包まれた。
まるで体が浄化されていくかのような温かい光に。
「…………あれ……?」
変化はすぐに訪れた。
瘤のせいで常に半分ほど潰されていた左目の視界が開けたのだ。
それだけでは終わらず、体中の違和感がどんどん消えていく。
バッと視線を下に向けると、白い肌をした腕が目に入った。
「嘘っ!? 呪命病が、治ってる……!」
呪いが解けたばかりの手で、私は自分の顔をペタペタと触る。
もうそこには、ただの一つも瘤はなかった。
恐る恐る顔の横へ手を持っていくと、さらりとした感触が伝わってくる。
その手には、月のようにキラキラと輝く銀色の髪があった。
「全部……あの呪命病が、完治してる……!」
「やはり君は美しいな」
その声で私は我に返る。
……そうだ。感傷に浸ってる場合じゃないわ!
「本当にありがとうございます、ルーク様! 呪命病を治していただけて……このご恩は一生忘れません!!」
「こちらこそ感謝するよ。最高の笑顔を見せてくれて」
「……え?」
ルーク様にそう言われて、ようやく気がついた。
喜びのあまり私は、いつの間にか笑顔を浮かべていたことに。
「改めて言おう。僕はソフィアのことが大好きだ。何があっても絶対に君を幸せにする。だから────僕と結婚してくれ!」
まっすぐすぎるその想いに、私は顔を赤らめながら微笑みを浮かべた。
「はい、喜んでお受けいたします」
そう言って、ルーク様の手を取った。
それが私──ソフィア・ルミエールに対する周りからの評価だった。
「準備が整いましたよ、醜い聖女様」
侍女の冷たい声で私の意識は現実に引き戻される。
主人に対するものとは思えない侍女の態度も、今日ばっかりはどうでもいい。
気にする気すら起きないほど、私は憂鬱だった。
「さあ、行きましょう」
「……ええ、そうね……」
これから私は、婚約者である第一王子ルーク・ユースティア様と顔合わせをしなければならない。
それがすごく嫌で……逃げられるのなら、今すぐにでも逃げ出したいくらいだった。
別に、ルーク様が嫌いというわけじゃない。
ルーク様は英雄と讃えられている素晴らしい人で……むしろ、私の婚約者としてはもったいないくらいの人間だ。
なら、なぜ私は憂鬱なのか?
そんなの決まってる。全部私の見た目のせいだ。
私が聖女の力に目覚めたのは今から八年前、十歳の時。
その時の私は、いつも笑顔が絶えなくて誰とでも仲良くなれる、そんな明るい女の子だった。
聖女としての能力も歴代トップで、私はどんどん功績を上げていった。
私の未来は輝かしいものになる。
そう思っていた。
十五歳になるまでは。
十五歳の誕生日を過ぎたころに、私は不治の病を患ってしまった。
呪命病という、最悪の病気を。
この病気のせいで、私の姿は醜くなってしまった。
サラサラで美しかった銀髪は、干からびたかのように水気を失ってバサバサになり、ついでとばかりに色素までも抜け落ちて白く染まってしまった。
色白だった肌は至るところが黒紫に変色し、腫瘍みたいな瘤まみれになってしまった。
その結果、私は醜い化け物と蔑まれることになった。
国民から。
貴族たちから。
従者たちから。
親友だと思っていた人から。
実の家族からも……。
すぐにでも逃げ出したかった。
誰の目にも入らない場所で静かに暮らしたかった。
だけど、逃げられなかった。
魔王の影響で年々凶暴化していく魔物から国を守るためには、聖女の力が必要不可欠。
そして、聖女は百年に一人しか現れない。
だから国は、私を逃がさない。
逃げることもできず人間の悪意にさらされ続けた私は、もう昔みたいに笑うことができなくなってしまった。
愛する人と結婚して、いずれ子供が生まれ、四苦八苦しながら育てていく。
そんな女性なら誰もが夢見るような幸せすらも、望むことができなくなってしまった。
なぜ私が聖女の力に選ばれてしまったのだろう……。
考えても仕方がないことだって分かっているのに、考えずにはいられない。
もう、限界だった。
「着きましたよ」
気づけば私は、部屋の前に立っていた。
どうしてこういう時だけあっという間に時間が過ぎてしまうの! と、心の中で悪態をつく。
「聖女様をお連れいたしました」
侍女が数度ノックしてそう言うと、中から「どうぞ」という柔らかい声が返ってきた。
心が落ち着くような、優しい声。
その印象通り、部屋の中にいたのは優しげな美青年だった。
真夜中でも輝いていそうなくらい美しい金色の髪に、海のような透き通った青い瞳。
国宝顔負けの整った顔立ちに、引き締まった体躯。
「…………ふぁ」
つい目が離せなくなってしまうほどイケメンすぎて、思わず変な声が出てしまった。
私が顔を真っ赤にして慌てていると、ルーク様は微笑みながら話しかけてきた。
「改めて自己紹介といこうか。君の婚約者となったルーク・ユースティアだよ」
「そ、ソフィア・ルミエールでしゅっ! よ、よろしくお願いします!」
「ハハハ、よっぽど緊張してるんだね」
「す、すみません……」
「全然気にしないよ。どうぞ、座って」
促されるまま席に座ると、紅茶が差し出される。
一口すすると、そのあまりのおいしさに私は目を見開いた。
何これ!? 今まで飲んだ紅茶の中で一番おいしいんだけど!?
「喜んでくれてよかったよ。紅茶を淹れるのは得意なんだ」
「えっ!? これルーク様が淹れてくださったんですか!?」
「言っただろう? 紅茶を淹れるのは得意だって」
「今までで一番おいしいです、ルーク様の淹れてくださった紅茶!」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
嬉しそうに告げてきたルーク様を見て、私は自分の心が少しだけ高鳴っていることに気づいた。
こんなに優しくされたのは呪命病を患ってから初めてだ。
でも……だからこそ、苦しい。
ルーク様は英雄とまで讃えられた人物だ。
その功績や人となりは、何度も耳にしてきた。
国を脅かすほど凶悪な魔物を単騎で屠るだけじゃなく、百年以上誰も攻略できなかった迷宮を踏破するほどの実力。
それに加えて、誰もが振り向くような美貌を持ち、私のような人間にも優しく接してくれる聖人のような性格をしている。
私なんかじゃ、ルーク様の婚約者として相応しくないのだ。
ルーク様だって、どうせ心の中では私のことをよく思っていないだろう。
なんでこんなのと婚約しないといけないんだ! って、思わないわけがない。
「……あの、ルーク様」
ルーク様に迷惑をかけてしまうくらいなら──。
「私は婚約者となったわけですが……ルーク様が望むのなら、側室を娶っていただいても構いません! 私は所詮お飾りですから──」
そこまで言ったところで、私の言葉は止められた。
私の口元に当てられた、ルーク様の人差し指によって。
「僕は側室を娶る気はないよ」
……一瞬、言葉の意味が分からなかった。
側室を娶る気がない……?
じゃあ、ルーク様は誰も愛さないってことなの……?
混乱する私に、ルーク様は予想外の言葉を告げてきた。
「僕はソフィア。君のことが好きだ」
「……………………え……?」
……どれくらい経ったのかも分からないほど私は硬直して──ようやく脳が動き出した途端、大量の疑問が濁流のようにあふれてきた。
「……ルーク様、どういうことですか……?」
「言葉のままだよ。それ以上でもそれ以下でもない、僕の本心だ」
……信じられない。
だって、私は醜い化け物で……。
みんなから蔑まれて……。
だから……。
ありえない。
そう思ってルーク様を見て──分かってしまった。
これまで会ってきた人はみんな私と目を合わせようともしなかったけど、ルーク様は私が部屋に入って来た時からちゃんと私の目を見て話していた。
今だって、私を見る目は真剣そのものだ。
そして、何より……。
ずっと悪意にさらされて生きてきたからこそ、ルーク様が私に悪意を持っていないことがハッキリと理解できてしまった。
「どうして……ですか……?」
震える声で尋ねた私に、ルーク様は優しく教えてくださった。
「学園の入学式の日に行われた歓迎パーティーを覚えているかい?」
「……ええ、もちろん覚えてます」
覚えてるけど、ルーク様とお話しするのは今日が初めてじゃ……。
「あの日、僕はたくさんの人たちの中心で楽しそうに笑っていた君を見て、恋に落ちたんだ。一目惚れだったよ。
それからは君のことしか考えられなかった。想いは日が経つほどに膨れ上がっていった。どうしようもないくらいにね」
私は驚きすぎて何を言えばいいのか分からなくなってしまった。
まさか、ルーク様が私に一目惚れしていたなんて……。
「聖女とか、呪命病とか関係ない。僕は君という人間に惚れたんだ。だから、昔のように笑って欲しい。あの太陽のような温かい笑顔を見せて欲しいんだ」
ルーク様は真剣な表情でそう言ってきた。
私は胸の内が温まっていくのを感じるのと同時に、頭の中が悲しさと申し訳なさでいっぱいになった。
「ルーク様にそう言ってもらえたこと、心の底から嬉しく思います。……だけど、すみません。笑い方を…………忘れてしまったのです……」
私が俯きながらそう言うと、ルーク様はしばし考えこんでから聞いてきた。
「もしも呪命病が治ったら、君はまた笑ってくれるかい?」
「それは……もちろんそうしたいですけど……でも、呪命病は不治の病で……」
過去に必死になって探したけど、この病気が治ったなどという文献を見つけることはできなかった。
現代の魔法や医療技術では、どうすることもできないのだ。
「君に見せたいアイテムがあるんだ」
「……? なんでしょうか……?」
急にそう言われて困惑していると、ルーク様は一つのアイテムを取り出した。
「綺麗……」
それは、宝石だった。
夜空に輝く星を映したかのような、見たこともないくらい美しい宝石だ。
「これは願いの星と言ってね。最難関迷宮を踏破して手に入れたんだよ」
「……どんな効果があるんですか?」
私の質問に、ルーク様はフッと笑ってから答えた。
「どんな願いでも一つだけ叶えてくれる、それがこのアイテムの効果さ」
「……す、すごい…………!」
聞いたこともないようなとんでもない効果に、思わず私は言葉を失ってしまった。
口をぽかんと開けたままの私をよそに、ルーク様は話を続ける。
「何を願うのかは最初から決まっている。そのために僕は強くなったのだから」
そして、ルーク様は一片の迷いもなく言葉を紡いだ。
「彼女の──ソフィアの病気を治してくれ」
「…………………………………………ぇ……?」
刹那、私の体が光に包まれた。
まるで体が浄化されていくかのような温かい光に。
「…………あれ……?」
変化はすぐに訪れた。
瘤のせいで常に半分ほど潰されていた左目の視界が開けたのだ。
それだけでは終わらず、体中の違和感がどんどん消えていく。
バッと視線を下に向けると、白い肌をした腕が目に入った。
「嘘っ!? 呪命病が、治ってる……!」
呪いが解けたばかりの手で、私は自分の顔をペタペタと触る。
もうそこには、ただの一つも瘤はなかった。
恐る恐る顔の横へ手を持っていくと、さらりとした感触が伝わってくる。
その手には、月のようにキラキラと輝く銀色の髪があった。
「全部……あの呪命病が、完治してる……!」
「やはり君は美しいな」
その声で私は我に返る。
……そうだ。感傷に浸ってる場合じゃないわ!
「本当にありがとうございます、ルーク様! 呪命病を治していただけて……このご恩は一生忘れません!!」
「こちらこそ感謝するよ。最高の笑顔を見せてくれて」
「……え?」
ルーク様にそう言われて、ようやく気がついた。
喜びのあまり私は、いつの間にか笑顔を浮かべていたことに。
「改めて言おう。僕はソフィアのことが大好きだ。何があっても絶対に君を幸せにする。だから────僕と結婚してくれ!」
まっすぐすぎるその想いに、私は顔を赤らめながら微笑みを浮かべた。
「はい、喜んでお受けいたします」
そう言って、ルーク様の手を取った。
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