30 / 30
30 エピローグ
しおりを挟む
レッドグレイブ公が成敗されて、王国に平和が戻ってきた。
仕事に復帰したケビンが指揮を取り、地震で壊れた王都の復興が急ピッチで進められた。
パルミア大陸全土から支援金や支援物資が届けられ、王国は再びかつての活気を取り戻しつつあった。
そんなある日、ルアージュがシャロンを連れて陛下の執務室を訪れた。
「私に何か話があると?」
「はい、父上。もしかしたらこの国が地震の恐怖から解放される日が来るかもしれません。シャロンから説明があります。どうかお聞きください」
「ほう。それは興味深い。シャロン、話してみてくれ」
「はい。では申し上げます」
この国を地震から守るために、シャロンは以前からある検証を重ねていた。
そして、今日、ある推論を陛下に提示した。
「ここ王都周辺はもともと湿地でした。今でも地盤がゆるい土地に排水溝や用水路を掘って水を流し出す作業をしているのに、地盤が一向に強くなりません。
これにはある原因があるのではないかと、私は推測しています」
陛下はシャロンを見つめ、答えを促した。
「それは何だ。遠慮せずに申してみよ」
シャロンは古地図をテーブルに広げ説明を始めた。
以前、図書館に寄贈された1000年前の王国周辺の地図だ。
黄ばんだ地図に、古代文字と湿地や洞窟などを示す記号が記されている。
「ここをご覧ください」
シャロンは一筋の川を指差した。
細く描かれたその流れは、王国の周辺まで這うように走っている。
「プルト川といいます。今この川はありません。表向きは」
「表向きは?」
陛下は怪訝な顔をした。
「もしかしたら、地下の鍾乳洞を流れる地下水系ではないかと」
「なんと。こんな王都の近くにか?」
「はい。この記号がずっと謎でした。ただ最近、他の古地図でも同じ印を見つけました。おそらくこれは水門を示しているかと」
地図の端にある小さく刻まれた印。
古代文字のような記号が川のほとりに寄り添っている。
「1000年前は機能していたこの水門が、何らかの原因で壊れ、水が王都の地下に流れ続けているのではないかと推察します」
陛下は目を丸くした。
地質学者からも聞いたことのない説を、少女の口から聞くとは。
「わかった。急ぎ調査隊を派遣し、水門を調べさせよう」
陛下の言葉に、シャロンとルアージュは互いを見つめ、力強くうなずき合った。
王命により地図を元に調査隊が調べた結果、山間で未知の鍾乳洞が見つかった。
シャロンの推測通りだった。
鍾乳洞内には深い水が流れており、王都周辺まで足を伸ばしていた。
鍾乳洞を進んでいくと、王都のすぐ近くに破損した古く巨大な水門が発見された。
その水門を修理したところ、王都に流れる水量を減らすことが可能となり、王都の地盤は徐々に改善していった。
地震が来ても揺れが以前の十分の一ほどになり、国民はみな、多少の地震がきても安心して過ごせるようになった。
のちにシャロンは、国土を劇的に改善し、地震の恐怖から国民を救った賢き王太子妃として語り継がれることになる。
「地図バカのシャロンにはかないませんわね。国民の英雄になってしまったわ」
イレーネが両手を軽くあげ、降参したように言う。
「婚約が再締結されてしまったし」
今度はフィリーネが悔しそうに言う。
「ソフィアまでいなくなってしまうし」
リュシエンヌが困り果てた顔で言う。
華たちは同時にため息をついた。
「シャロンを祝福しようではないか。かつてルアージュ様をかけて競い合った仲間だ」
セレストの言葉に、みな顔を見合わせる。
「仕方ありませんわね」
リュシエンヌがひとつ息を吐いた後、一同は微笑み合った。
「あーあ。失恋かあ」
ウォルターが草原で寝転がっている。
「シャロン、絶対に幸せになれよ」
空を見上げたまま、ウォルターがぽつりと呟いた。
澄み渡る青い空。
白い鳥たちが一斉に飛び立つ。
今日はシャロンとルアージュの結婚式だ。
まだふたりは高等学校2年生だったが、ルアージュのたっての願いで学生結婚することになったのだ。
「シャロン、とっても綺麗よ」
花嫁控えの間にいるシャロンを前にカリンが涙ぐんでいる。
シャロンは艶めく純白のウエディングドレスに身を包み、天使のような美しさを放っていた。
ドゥフォード子爵の冤罪がはれ、カリンは王都に戻り、学園にも復学していた。
もちろん、左遷された学園長も学園に戻って来ている。
母親代わりのマーサも、目元をハンカチでおさえている。
松葉杖のケビンは、嬉しさと寂しさとで、目を真っ赤にしている。
「みんな。ありがとう」
シャロンは花のように微笑んだ。
王立教会の祭壇前。
ルアージュとシャロンが向かい合っている。
ルアージュは純白の婚礼服に身を包み、王太子として最高に輝いてみえる。
シャロンはブーケを手に背筋を伸ばし、王太子妃としての覚悟をその目に宿している。
「誓いのキスを」
司祭が合図した。
ルアージュはシャロンのヴェールをそっとあげる。
シャロンの嬉し涙で潤んだエメラルドの瞳が、恥じらいながらルアージュを見上げる。
「ルアージュ様。愛しています」
これまでのふたりの困難な道のりを思い出し、ルアージュの瞳も潤んでいる。
「シャロン。君のすべてを愛している」
幸せになろう。
ふたりで、永遠に。
ルアージュはシャロンの顎にそっと手を添え、想いを込め、やさしく唇を重ねた。
完
仕事に復帰したケビンが指揮を取り、地震で壊れた王都の復興が急ピッチで進められた。
パルミア大陸全土から支援金や支援物資が届けられ、王国は再びかつての活気を取り戻しつつあった。
そんなある日、ルアージュがシャロンを連れて陛下の執務室を訪れた。
「私に何か話があると?」
「はい、父上。もしかしたらこの国が地震の恐怖から解放される日が来るかもしれません。シャロンから説明があります。どうかお聞きください」
「ほう。それは興味深い。シャロン、話してみてくれ」
「はい。では申し上げます」
この国を地震から守るために、シャロンは以前からある検証を重ねていた。
そして、今日、ある推論を陛下に提示した。
「ここ王都周辺はもともと湿地でした。今でも地盤がゆるい土地に排水溝や用水路を掘って水を流し出す作業をしているのに、地盤が一向に強くなりません。
これにはある原因があるのではないかと、私は推測しています」
陛下はシャロンを見つめ、答えを促した。
「それは何だ。遠慮せずに申してみよ」
シャロンは古地図をテーブルに広げ説明を始めた。
以前、図書館に寄贈された1000年前の王国周辺の地図だ。
黄ばんだ地図に、古代文字と湿地や洞窟などを示す記号が記されている。
「ここをご覧ください」
シャロンは一筋の川を指差した。
細く描かれたその流れは、王国の周辺まで這うように走っている。
「プルト川といいます。今この川はありません。表向きは」
「表向きは?」
陛下は怪訝な顔をした。
「もしかしたら、地下の鍾乳洞を流れる地下水系ではないかと」
「なんと。こんな王都の近くにか?」
「はい。この記号がずっと謎でした。ただ最近、他の古地図でも同じ印を見つけました。おそらくこれは水門を示しているかと」
地図の端にある小さく刻まれた印。
古代文字のような記号が川のほとりに寄り添っている。
「1000年前は機能していたこの水門が、何らかの原因で壊れ、水が王都の地下に流れ続けているのではないかと推察します」
陛下は目を丸くした。
地質学者からも聞いたことのない説を、少女の口から聞くとは。
「わかった。急ぎ調査隊を派遣し、水門を調べさせよう」
陛下の言葉に、シャロンとルアージュは互いを見つめ、力強くうなずき合った。
王命により地図を元に調査隊が調べた結果、山間で未知の鍾乳洞が見つかった。
シャロンの推測通りだった。
鍾乳洞内には深い水が流れており、王都周辺まで足を伸ばしていた。
鍾乳洞を進んでいくと、王都のすぐ近くに破損した古く巨大な水門が発見された。
その水門を修理したところ、王都に流れる水量を減らすことが可能となり、王都の地盤は徐々に改善していった。
地震が来ても揺れが以前の十分の一ほどになり、国民はみな、多少の地震がきても安心して過ごせるようになった。
のちにシャロンは、国土を劇的に改善し、地震の恐怖から国民を救った賢き王太子妃として語り継がれることになる。
「地図バカのシャロンにはかないませんわね。国民の英雄になってしまったわ」
イレーネが両手を軽くあげ、降参したように言う。
「婚約が再締結されてしまったし」
今度はフィリーネが悔しそうに言う。
「ソフィアまでいなくなってしまうし」
リュシエンヌが困り果てた顔で言う。
華たちは同時にため息をついた。
「シャロンを祝福しようではないか。かつてルアージュ様をかけて競い合った仲間だ」
セレストの言葉に、みな顔を見合わせる。
「仕方ありませんわね」
リュシエンヌがひとつ息を吐いた後、一同は微笑み合った。
「あーあ。失恋かあ」
ウォルターが草原で寝転がっている。
「シャロン、絶対に幸せになれよ」
空を見上げたまま、ウォルターがぽつりと呟いた。
澄み渡る青い空。
白い鳥たちが一斉に飛び立つ。
今日はシャロンとルアージュの結婚式だ。
まだふたりは高等学校2年生だったが、ルアージュのたっての願いで学生結婚することになったのだ。
「シャロン、とっても綺麗よ」
花嫁控えの間にいるシャロンを前にカリンが涙ぐんでいる。
シャロンは艶めく純白のウエディングドレスに身を包み、天使のような美しさを放っていた。
ドゥフォード子爵の冤罪がはれ、カリンは王都に戻り、学園にも復学していた。
もちろん、左遷された学園長も学園に戻って来ている。
母親代わりのマーサも、目元をハンカチでおさえている。
松葉杖のケビンは、嬉しさと寂しさとで、目を真っ赤にしている。
「みんな。ありがとう」
シャロンは花のように微笑んだ。
王立教会の祭壇前。
ルアージュとシャロンが向かい合っている。
ルアージュは純白の婚礼服に身を包み、王太子として最高に輝いてみえる。
シャロンはブーケを手に背筋を伸ばし、王太子妃としての覚悟をその目に宿している。
「誓いのキスを」
司祭が合図した。
ルアージュはシャロンのヴェールをそっとあげる。
シャロンの嬉し涙で潤んだエメラルドの瞳が、恥じらいながらルアージュを見上げる。
「ルアージュ様。愛しています」
これまでのふたりの困難な道のりを思い出し、ルアージュの瞳も潤んでいる。
「シャロン。君のすべてを愛している」
幸せになろう。
ふたりで、永遠に。
ルアージュはシャロンの顎にそっと手を添え、想いを込め、やさしく唇を重ねた。
完
413
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
令嬢の皮を被ったヘビースモーカー、侍女に化けて敵情視察。〜猫を拾ってタバコを吸っていただけなのに、なぜか次期伯爵に愛の告白をされました〜
御厨そら
恋愛
「婚約破棄されたのよ!」
最悪に仲の悪い姉・ルイーザが泣き崩れる姿を見て、妹のフィオレは歓喜した。
自室にダイブして爆笑し、お祝いに父の書斎からくすねた一級品の葉巻をくゆらす——。
そんなフィオレに、父が下した命令は「姉を振った男、ライネーリ伯爵邸への潜入調査」だった。
黒髪おカッパのカツラにメガネ、そばかすメイクで別人『侍女モニカ』に変装し、いざ敵地へ!
……のはずが。
厨房の男と隠れてタバコを吸い、子猫のルーを拾って可愛がり、義眼の同僚と秘密を共有し、気づけば屋敷の面々と仲良くなっていく。
さらには、姉を振ったはずの次期伯爵ジェラルドが、なぜか偽姿のフィオレを執拗に追いかけてきて……?
「君に行ってほしくないんだ。結婚してくれ、フィオレ」
ちょっと待って。私、変装してるよね? そもそもアンタ、お姉ちゃんの元婚約者でしょ!?
そして潜入先の書斎で見つけた、**『次女フィオレは10年前に死亡している』**という不可解な報告書の謎。
一つの体を共有する姉妹の、あまりに歪で、あやしい「ヒ・ミ・ツ」の物語。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?
みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。
婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。
なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。
(つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?)
ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる?
※他サイトにも掲載しています。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
婚約破棄ですか、では死にますね【完結】
砂礫レキ
恋愛
自分を物語の主役だと思い込んでいる夢見がちな妹、アンジェラの社交界デビューの日。
私伯爵令嬢エレオノーラはなぜか婚約者のギースに絶縁宣言をされていた。
場所は舞踏会場、周囲が困惑する中芝居がかった喋りでギースはどんどん墓穴を掘っていく。
氷の女である私より花の妖精のようなアンジェラと永遠の愛を誓いたいと。
そして肝心のアンジェラはうっとりと得意げな顔をしていた。まるで王子に愛を誓われる姫君のように。
私が冷たいのではなく二人の脳みそが茹っているだけでは?
婚約破棄は承ります。但し、今夜の主役は奪わせて貰うわよアンジェラ。
嫌われ者の王弟殿下には、私がお似合いなのでしょう? 彼が王になったからといって今更離婚しろなんて言わないでください。
木山楽斗
恋愛
冷遇されていたフェルリナは、妹の策略によって嫌われ者の王弟殿下ロナードと結婚することになった。
色々と問題があると噂だったロナードとの婚約に不安を感じていたフェルリナだったが、彼は多少面倒臭がり屋ではあったが、悪い人ではなかっため、なんとか事なきを得た。
それから穏やかな生活を送っていた二人だったが、ある時ロナードの兄である国王が死去したという事実を知らされる。
王位を継承できるのは、ロナードだけであったため、彼はほぼなし崩し的に国王となり、フェルリナはその妻となることになったのだ。
しかし、フェルリナの妹はそれを快く思わなかった。
ロナードと婚約破棄しろ。そう主張する妹を、フェルリナはロナードの助けも借りつつ切り捨てるのだった。
入れ替わって知ったお互いの真実。殿下、元さやはありません! 公爵様がいますので
ミカン♬
恋愛
ブラウン侯爵家の令嬢アーシャと、彼女を「無能」と蔑み疎んじていた婚約者のエリック第二王子が、ある事故を境に人格が入れ替わってしまうことから物語は動き出します。
どうして入れ替わってしまったのか?
それよりも互いに知ってしまった真実に、二人は翻弄されます。
ハッピーエンドです。
かる~い気持ちで、暇つぶしに読んでくださると嬉しいです。
8話で完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる