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24 求婚
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それから間もなく、ユリウスの元にヴァレンティーナ侯爵から知らせが届いた。
『私が描いたエルザの絵を画商に売りましたところ、その絵を気に入った伯爵よりエルザに縁談が参りました。次男を婿にどうかとの話です。ユリウス殿下、いつぞやは心強いお言葉をいただき、本当にありがとうございました』
「なにっ!??」
手紙に目を通したユリウスは青ざめた。
「ダメだ!絶対にならん!!おい、ジャン、すぐにヴァレンティーナ侯爵家へ行くぞ」
「えっ?今からですか?もう夕方ですし、明日でもいいのでは」
突然騒ぎ始めたユリウスを側近のジャンは怪訝そうに眺めた。
「ダメだダメだ!今すぐ出立する!」
ジャンが呆れる中、ユリウスは急遽準備された馬車に飛び乗った。
「一体どうされたのです?ユリウス殿下」
ヴァレンティーナ侯爵たちはガウンを羽織り、ユリウスたちを迎えた。侯爵たちはもう寝る支度を始めたところだった。ポーラとエルザも慌てて身支度をし同席した。
「こんな夜分にすまない。縁談のことだが」
「ああ、手紙が届きましたか。そうなんです、これで長年の懸念が片付きそうで。な、よかったな、エルザ」
「はい」
エルザが嬉しそうに笑んだ。
突然がばっとユリウスが頭を下げた。
「え?殿下??」
「エルザは私が頂きたい!お願いだ。伯爵との縁談は断ってくれ」
数秒遅れて一同は、
「ええええ!!??」
と大声を出した。
「良いのですか……?その、娘には平民との間に子もいて……」
エルザもポーラも侯爵と顔を見合わせ、戸惑っている。
「良い。ライアンのことも当然大切にする。侯爵家の後継となるライアンの将来のことも考えている。それに」
ユリウスは頭を上げ、侯爵夫妻を見た。
「率直に言う。子を産んだことがある、という事実がとても重要なのだ」
王家を継ぐ可能性のある自分が後継を儲けることは、王家にとっての最優先事項だった。レグザンド王家にまだ王子がいないことは貴族の間でも周知のことだった。
「なるほど。確かに二人目はできやすいと申しますしね」
侯爵夫妻は娘を美人だとは思っていたが王子に求められる理由は子どもが産めるという保証があるからだと納得した。でなければ訳ありの令嬢を妻に迎えるなどあり得ないと。
エルザも、
そう。ユリウス殿下はお子様が欲しいのね、ライアンを見る目もお優しかったし……
と記憶をたどっていた。
エルザが少し気落ちしたように見えた。
あ……
女性に子どもが目当てだなどと無粋なことを言ってしまった。
本当の理由はそうではないのに。
ユリウスは居ても立っても居られなくなり、ついに告白しようと決心した。
「そういう理由もある。だが……正直なところ私は一人の男として」
エルザがはっとユリウスを見た。ユリウスはエルザの視線を正面から受け止め、声に熱を込めた。
「一人の男として、エルザに惚れているのだ」
エルザは思わず口を覆った。王子が自分を一人の女として見てくれていたなんて信じられなかった。
「そうでしたか……そんなにおっしゃるのでしたら。エルザさえよければ。エルザ?」
侯爵がエルザを見ると、エルザは顔を真っ赤にして下を向いていた。
「エルザ……エルザ?」
ポーラも黙りこくっている娘に戸惑いながら声をかけた。
「……です……」
「え?」
ユリウスが不安げにエルザを見た。
「嬉しい、です……」
恥ずかしくてユリウスの顔を見れず、うつむいたままエルザは消え入りそうな声でそう呟いた。
「本当か!」
ユリウスの顔がぱあっと明るく輝いた。ユリウスはエルザのそばに駆け寄り、手を取った。こくんとエルザは頬をさらに赤らめうなずいた。
「まあ。うふふ」
ポーラと侯爵はふたりの微笑ましい様子に嬉しそうにうなずきあった。
こうして、エルザとユリウスの結婚が決まった。
懸念のサビナだが、ユリウスが思い切って第二夫人を迎えたいと伝えると、
「8年もの長い間、私を気遣って妻を娶らずにいてくださったこと、深く感謝していますわ」
と、静かにユリウスに言った。
ライアンはヴァレンティーナ侯爵家の後継として恥じない教育を、エルザと一緒に暮らしながら王宮で受けられることになった。
数ヶ月後、エルザはユリウスの子をみごもった。産声とともに生まれた赤子はうつくしい王子だった。
「ようやく王子が産まれたか!よかったよかった」
陛下は目に涙を浮かべ、王子の誕生を喜んでくれた。
「ライアン!みんな、おやつですよ」
エルザが王宮の乳母たちと庭園で遊んでいるライアンとまだ2歳の王子を迎えに出た。そのお腹は大きく、もうすぐ第二子が産まれる予定だ。第一夫人のサビナにも子供たちを頻繁に挨拶に行かせており、二人はサビナからも可愛がられている。
「今日はお前たちが好きなワッフルだぞ」
ユリウスがエルザの後ろから顔を出した。
「わあい!」
ライアンが王子と手を繋いでこちらにやって来た。
「こう見ていると二人とも天使のようだな」
「本当に」
今まで辛いこともたくさんあったけど、優しくて素敵なユリウス殿下がこんなに愛してくれる。
私、生きてきてよかった。
エルザはこれまでのことを思い出し、涙ぐんでいた。
「私、幸せです。殿下」
「私もだ、エルザ」
ユリウスはエルザを抱き寄せ、その頬にそっと口付けをした。
完
『私が描いたエルザの絵を画商に売りましたところ、その絵を気に入った伯爵よりエルザに縁談が参りました。次男を婿にどうかとの話です。ユリウス殿下、いつぞやは心強いお言葉をいただき、本当にありがとうございました』
「なにっ!??」
手紙に目を通したユリウスは青ざめた。
「ダメだ!絶対にならん!!おい、ジャン、すぐにヴァレンティーナ侯爵家へ行くぞ」
「えっ?今からですか?もう夕方ですし、明日でもいいのでは」
突然騒ぎ始めたユリウスを側近のジャンは怪訝そうに眺めた。
「ダメだダメだ!今すぐ出立する!」
ジャンが呆れる中、ユリウスは急遽準備された馬車に飛び乗った。
「一体どうされたのです?ユリウス殿下」
ヴァレンティーナ侯爵たちはガウンを羽織り、ユリウスたちを迎えた。侯爵たちはもう寝る支度を始めたところだった。ポーラとエルザも慌てて身支度をし同席した。
「こんな夜分にすまない。縁談のことだが」
「ああ、手紙が届きましたか。そうなんです、これで長年の懸念が片付きそうで。な、よかったな、エルザ」
「はい」
エルザが嬉しそうに笑んだ。
突然がばっとユリウスが頭を下げた。
「え?殿下??」
「エルザは私が頂きたい!お願いだ。伯爵との縁談は断ってくれ」
数秒遅れて一同は、
「ええええ!!??」
と大声を出した。
「良いのですか……?その、娘には平民との間に子もいて……」
エルザもポーラも侯爵と顔を見合わせ、戸惑っている。
「良い。ライアンのことも当然大切にする。侯爵家の後継となるライアンの将来のことも考えている。それに」
ユリウスは頭を上げ、侯爵夫妻を見た。
「率直に言う。子を産んだことがある、という事実がとても重要なのだ」
王家を継ぐ可能性のある自分が後継を儲けることは、王家にとっての最優先事項だった。レグザンド王家にまだ王子がいないことは貴族の間でも周知のことだった。
「なるほど。確かに二人目はできやすいと申しますしね」
侯爵夫妻は娘を美人だとは思っていたが王子に求められる理由は子どもが産めるという保証があるからだと納得した。でなければ訳ありの令嬢を妻に迎えるなどあり得ないと。
エルザも、
そう。ユリウス殿下はお子様が欲しいのね、ライアンを見る目もお優しかったし……
と記憶をたどっていた。
エルザが少し気落ちしたように見えた。
あ……
女性に子どもが目当てだなどと無粋なことを言ってしまった。
本当の理由はそうではないのに。
ユリウスは居ても立っても居られなくなり、ついに告白しようと決心した。
「そういう理由もある。だが……正直なところ私は一人の男として」
エルザがはっとユリウスを見た。ユリウスはエルザの視線を正面から受け止め、声に熱を込めた。
「一人の男として、エルザに惚れているのだ」
エルザは思わず口を覆った。王子が自分を一人の女として見てくれていたなんて信じられなかった。
「そうでしたか……そんなにおっしゃるのでしたら。エルザさえよければ。エルザ?」
侯爵がエルザを見ると、エルザは顔を真っ赤にして下を向いていた。
「エルザ……エルザ?」
ポーラも黙りこくっている娘に戸惑いながら声をかけた。
「……です……」
「え?」
ユリウスが不安げにエルザを見た。
「嬉しい、です……」
恥ずかしくてユリウスの顔を見れず、うつむいたままエルザは消え入りそうな声でそう呟いた。
「本当か!」
ユリウスの顔がぱあっと明るく輝いた。ユリウスはエルザのそばに駆け寄り、手を取った。こくんとエルザは頬をさらに赤らめうなずいた。
「まあ。うふふ」
ポーラと侯爵はふたりの微笑ましい様子に嬉しそうにうなずきあった。
こうして、エルザとユリウスの結婚が決まった。
懸念のサビナだが、ユリウスが思い切って第二夫人を迎えたいと伝えると、
「8年もの長い間、私を気遣って妻を娶らずにいてくださったこと、深く感謝していますわ」
と、静かにユリウスに言った。
ライアンはヴァレンティーナ侯爵家の後継として恥じない教育を、エルザと一緒に暮らしながら王宮で受けられることになった。
数ヶ月後、エルザはユリウスの子をみごもった。産声とともに生まれた赤子はうつくしい王子だった。
「ようやく王子が産まれたか!よかったよかった」
陛下は目に涙を浮かべ、王子の誕生を喜んでくれた。
「ライアン!みんな、おやつですよ」
エルザが王宮の乳母たちと庭園で遊んでいるライアンとまだ2歳の王子を迎えに出た。そのお腹は大きく、もうすぐ第二子が産まれる予定だ。第一夫人のサビナにも子供たちを頻繁に挨拶に行かせており、二人はサビナからも可愛がられている。
「今日はお前たちが好きなワッフルだぞ」
ユリウスがエルザの後ろから顔を出した。
「わあい!」
ライアンが王子と手を繋いでこちらにやって来た。
「こう見ていると二人とも天使のようだな」
「本当に」
今まで辛いこともたくさんあったけど、優しくて素敵なユリウス殿下がこんなに愛してくれる。
私、生きてきてよかった。
エルザはこれまでのことを思い出し、涙ぐんでいた。
「私、幸せです。殿下」
「私もだ、エルザ」
ユリウスはエルザを抱き寄せ、その頬にそっと口付けをした。
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