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「魔物封じの石柱??」
陛下の話に、ドミニクはピンときていないようだ。
「我が国の国境付近に設置している水晶の石柱だ。空間のひずみから魔物が侵入してくるのを抑えておった」
「え!そんな大事なものをバーバラが壊した?」
ドミニクは再び疑念の目をバーバラに向けた。
「濡れ衣ですわ!私のようなひ弱な令嬢に、そんな恐ろしいことができるはずありませんわ!!」
バーバラはまたしても白を切り、傷ついた表情で陛下に訴えた。陛下は顔色ひとつ変えず、侍従に命じた。
「証人をここへ」
背後から、一人の下人が進み出た。巨漢で力が強そうな男だった。
「!!」
下人を見たバーバラが息を呑む。
「申せ」
陛下の命令に背中を押されるように、その男はおどおどと告白を始めた。
「オオ、オーバル子爵家の下男、サムでございます。バ、バーバラお嬢様に、その、石柱を壊すよう命じられました」
「いつ頃か?」
「カミーユ様が王宮にいらっしゃる、数ヶ月前くらいです」
ちょうど魔物がアンクタン王国に侵入し始めた頃だわ。
バーバラのせいだったの?
「壊した石柱は一本だけか?」
陛下の質問に下人は続けて答えた。
「いいえ。カミーユ様がいらっしゃってからは、一週間に一本ずつ壊せと」
「まさかもう石柱は全て──」
さすがの陛下も不吉な予感に顔が曇る。
「はい。一本も残っておりません」
「!!」
一同、呆気に取られている。
魔物封じの石柱は、力の強い聖女だった先先代の王妃様が設置させたものだった。
「どうりで魔物をいくら退けても減らなかったわけだわ」
私はあの時のつらさを思い出し、バーバラを怒りを持って睨んだ。
「なぜそんなことをした。王国に危機をもたらす重罪だぞ。カミーユの食事を減らしたばかりか、故意に魔物を侵入させ、カミーユを衰弱させた罪もある!」
陛下の問いかけに、バーバラはついっと顔を背けて答えた。
「記憶にありませんわ。その下人には虚言癖があって、私もほとほと参っていますの」
「お嬢様!」
下人が裏切られたという顔をした。
「お前はクビよ!!病気の母親のことも、もう知らないわ!!」
下人の弱みにつけ込んでいたのか。
それなのに忠実な下人を切り捨てようとしている。
私はバーバラの本性に寒気がした。
「わしは嘘などついていません!褒美としてバーバラ様はわしにこれをくださいました!」
下人が布を開いて差し出したのは、薔薇の形にルビーが施された見事な指輪だった。
「まだ売ってなかったの!?お前が石柱を壊すのをしぶるから与えてやったのに!!」
口から思わず本音が転がり出て、慌ててバーバラは口を塞いだ。
「こ、これは王妃の指輪!!代々王妃にだけ受け継がれる家宝ではないか……!!」
陛下がわなわなと震え出した。
「ドミニク!!お前はこんな大事なものをこのような小娘に与えたのか!??」
卒倒しそうな勢いで陛下は殿下を叱咤した。
「だだだ、だってバーバラが。どうしても欲しいというから……!」
私は何度頭を抱えればいいのだろう。
バーバラもバーバラだが、殿下も大概だ。
「バーバラが悪いんだぞ!私はお前を信じていたのに、なんでそんな事をしたんだ!?」
殿下は取り乱しながら、バーバラを弾糾した。
「ああ、ああ、もう面倒くさ」
悪事がばれたバーバラが脱力したように頭を傾けた。
「そんなに知りたいなら教えてやるわよ」
令嬢から売女のように変わったバーバラの告白が始まった。
「私はどうしても王太子妃になりたかった。この国では聖女が王妃になりやすい。そのために最初石柱を壊させた。私のおばあ様は聖女だったから、少しの魔物なら私にも退治できると思って」
「退治できたの?」
私の問いに、バーバラは両手を開いてお手上げのポーズをした。
「できなかったわ、一匹も。そうこうするうちに、あんたが王太子妃に決まって王宮にやってきた」
バーバラは憎悪の目で私を睨んだ。
「癪だったわ。私の座を奪われた気がして。お前を壊して殿下を奪ってやると思ったわ!」
とんだ逆恨みだ。
自分で厄災を招いておいて、私に尻拭いさせていたのか。その上さらに私を痛めつけていた。
絶望した殿下は今やバーバラを魔女を見るような目で見ている。
「お前のような者が王太子妃になれるわけがなかろう?占いの真似事しかできぬお前など、カミーユの足元にも及ばんのだぞ!」
陛下の白髭がゆれた。陛下の怒りは収まらない。
「王国を危機に陥れた罪に加え、この国の宝となるはずだった未来の王太子妃カミーユにも危害を加えた。オバール子爵家バーバラ。お前を極刑に処す!!」
最後に陛下が怒号を発した。
バーバラのプライドは完膚なきまで叩き潰された。
「くくくくく……」
バーバラはふいに不気味に笑いはじめた。バーバラは観念するどころか、断罪された怒りですぐさま無茶な行動に出た。
「カミーユを道連れにしてやる!!!」
自暴自棄になったバーバラは勢いよく私の右手を掴んだ。
私は危険を察して手を振り解こうとしたが、バーバラは鬼の形相で私の手を離さなかった。
バーバラの暴走が悲劇を呼んだ。
陛下の話に、ドミニクはピンときていないようだ。
「我が国の国境付近に設置している水晶の石柱だ。空間のひずみから魔物が侵入してくるのを抑えておった」
「え!そんな大事なものをバーバラが壊した?」
ドミニクは再び疑念の目をバーバラに向けた。
「濡れ衣ですわ!私のようなひ弱な令嬢に、そんな恐ろしいことができるはずありませんわ!!」
バーバラはまたしても白を切り、傷ついた表情で陛下に訴えた。陛下は顔色ひとつ変えず、侍従に命じた。
「証人をここへ」
背後から、一人の下人が進み出た。巨漢で力が強そうな男だった。
「!!」
下人を見たバーバラが息を呑む。
「申せ」
陛下の命令に背中を押されるように、その男はおどおどと告白を始めた。
「オオ、オーバル子爵家の下男、サムでございます。バ、バーバラお嬢様に、その、石柱を壊すよう命じられました」
「いつ頃か?」
「カミーユ様が王宮にいらっしゃる、数ヶ月前くらいです」
ちょうど魔物がアンクタン王国に侵入し始めた頃だわ。
バーバラのせいだったの?
「壊した石柱は一本だけか?」
陛下の質問に下人は続けて答えた。
「いいえ。カミーユ様がいらっしゃってからは、一週間に一本ずつ壊せと」
「まさかもう石柱は全て──」
さすがの陛下も不吉な予感に顔が曇る。
「はい。一本も残っておりません」
「!!」
一同、呆気に取られている。
魔物封じの石柱は、力の強い聖女だった先先代の王妃様が設置させたものだった。
「どうりで魔物をいくら退けても減らなかったわけだわ」
私はあの時のつらさを思い出し、バーバラを怒りを持って睨んだ。
「なぜそんなことをした。王国に危機をもたらす重罪だぞ。カミーユの食事を減らしたばかりか、故意に魔物を侵入させ、カミーユを衰弱させた罪もある!」
陛下の問いかけに、バーバラはついっと顔を背けて答えた。
「記憶にありませんわ。その下人には虚言癖があって、私もほとほと参っていますの」
「お嬢様!」
下人が裏切られたという顔をした。
「お前はクビよ!!病気の母親のことも、もう知らないわ!!」
下人の弱みにつけ込んでいたのか。
それなのに忠実な下人を切り捨てようとしている。
私はバーバラの本性に寒気がした。
「わしは嘘などついていません!褒美としてバーバラ様はわしにこれをくださいました!」
下人が布を開いて差し出したのは、薔薇の形にルビーが施された見事な指輪だった。
「まだ売ってなかったの!?お前が石柱を壊すのをしぶるから与えてやったのに!!」
口から思わず本音が転がり出て、慌ててバーバラは口を塞いだ。
「こ、これは王妃の指輪!!代々王妃にだけ受け継がれる家宝ではないか……!!」
陛下がわなわなと震え出した。
「ドミニク!!お前はこんな大事なものをこのような小娘に与えたのか!??」
卒倒しそうな勢いで陛下は殿下を叱咤した。
「だだだ、だってバーバラが。どうしても欲しいというから……!」
私は何度頭を抱えればいいのだろう。
バーバラもバーバラだが、殿下も大概だ。
「バーバラが悪いんだぞ!私はお前を信じていたのに、なんでそんな事をしたんだ!?」
殿下は取り乱しながら、バーバラを弾糾した。
「ああ、ああ、もう面倒くさ」
悪事がばれたバーバラが脱力したように頭を傾けた。
「そんなに知りたいなら教えてやるわよ」
令嬢から売女のように変わったバーバラの告白が始まった。
「私はどうしても王太子妃になりたかった。この国では聖女が王妃になりやすい。そのために最初石柱を壊させた。私のおばあ様は聖女だったから、少しの魔物なら私にも退治できると思って」
「退治できたの?」
私の問いに、バーバラは両手を開いてお手上げのポーズをした。
「できなかったわ、一匹も。そうこうするうちに、あんたが王太子妃に決まって王宮にやってきた」
バーバラは憎悪の目で私を睨んだ。
「癪だったわ。私の座を奪われた気がして。お前を壊して殿下を奪ってやると思ったわ!」
とんだ逆恨みだ。
自分で厄災を招いておいて、私に尻拭いさせていたのか。その上さらに私を痛めつけていた。
絶望した殿下は今やバーバラを魔女を見るような目で見ている。
「お前のような者が王太子妃になれるわけがなかろう?占いの真似事しかできぬお前など、カミーユの足元にも及ばんのだぞ!」
陛下の白髭がゆれた。陛下の怒りは収まらない。
「王国を危機に陥れた罪に加え、この国の宝となるはずだった未来の王太子妃カミーユにも危害を加えた。オバール子爵家バーバラ。お前を極刑に処す!!」
最後に陛下が怒号を発した。
バーバラのプライドは完膚なきまで叩き潰された。
「くくくくく……」
バーバラはふいに不気味に笑いはじめた。バーバラは観念するどころか、断罪された怒りですぐさま無茶な行動に出た。
「カミーユを道連れにしてやる!!!」
自暴自棄になったバーバラは勢いよく私の右手を掴んだ。
私は危険を察して手を振り解こうとしたが、バーバラは鬼の形相で私の手を離さなかった。
バーバラの暴走が悲劇を呼んだ。
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