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バシュン!
私の右手から白銀の光がほとばしった。バーバラが私の右手を掴んだことで聖なる力が放出されたのだ。
「ひい!」
私からバーバラの全身に光が伝い、バーバラの体は制御できない人形のようにガクガク揺さぶられた。
バーバラを中心に据えた五芒星から一気にまばゆい光の柱が立ち上った。私はその勢いにあおられ、五芒星から遠くに飛ばされた。
ヴン!
瞬時に五芒星と魔物エリアが接続された。
こちらの気配に気づいた魔物たちが一斉にバーバラを見た。
ぎょっとして青ざめるバーバラ。
「死ね!死ね!!私だってやればできるのよ!!」
私を道連れにする計画が失敗し、焦ったバーバラが手刀のように無茶苦茶に空を切った。だが力の弱いバーバラの攻撃では魔物は一匹たりとも倒れない。
「え?え?効かない?どうして?」
「五芒星から出て、早く!」
私はバーバラに叫んだ。
いくらバーバラが憎くても、魔物の前で見殺しにはできない。
早くしないと、彼女は──
しかし、バーバラは呆然としたままその場から動けなかった。
バーバラの目には、目前に迫る魔物たちの牙が映っていた。あまりの恐怖に腰が抜けて動けなかったのだ。
「早くこっちに!」
私がバーバラの手を引きよせようとしたが、手遅れだった。
「ぎゃ!」
バーバラの体に蜂の群れのごとく魔物がたかりはじめた。私が魔物を祓う暇さえなかった。
バーバラはあっという間に魔物たちに食い尽くされ、祈りの間には着ていたドレスの切れ端だけが残された。
バーバラにはやはり、たいした力がなかったのだ。
自分を過大評価していたか、私を追い出すために殿下に嘘をついていたのだろう。
バーバラを食した後、味をしめた貪欲な魔物たちは五芒星からあふれだし、私たちに襲いかかってきた。
「陛下をお連れして、お逃げください!!」
半泣き状態で腰を抜かしている殿下に私は叫んだ。
「うわあああ!もうおしまいだあ!」
殿下は情けない姿で頭を抱え床にうずくまった。
私一人なら力を使って魔物から逃げられるだろう。だが、大勢を一度に守ることはできない。
私が殿下を立ち上がらせようとそばに駆け寄った時、魔物たちに囲まれてしまった。
迫ってくる魔物に聖なる矢を射るも、五芒星からマグマが膨れ上がるように無限に魔物が出てくる。
バーバラのせいで、カミーユが不在の間に魔物が取り返しがつかないほど増えてしまっていた。
「……ッ!」
もうここでおしまいなのかしら。
殿下にささげた私の人生って何だったの?
魔物で真っ黒に埋め尽くされた景色に虚しさが胸をつく。
私まだ17なのに。
新しい恋もしたかったのに。
震える殿下の横で抵抗を諦めた私が目をつむった時。
ぱん!
かわいた音が響いた。
ぱんぱんぱん!!
何?
何が起こっているの?
私が恐る恐る目を開けると、魔物たちの体がなぜか次々と弾け飛んでいた。
「どういうこと……?」
しばらく破裂音が続いた後、そこらじゅうにいた魔物はすべて消滅してしまった。
実は、魔物たちは皆同じ魔界樹から生まれており、クローンのようなものだった。思考も内臓も個々でつながっており、もちろん胃袋も共有臓器だった。
バーバラはあの時、単なる娘の肉体ではなかった。直前に、体力が全回復していたカミーユから練度の高い聖なる力が流れ込んでいた。つまりは、聖なる力の塊だったのだ。
そんなバーバラを食した魔物たちの胃袋の中で、カミーユの聖なる力が爆発し、胃袋を共有していた全ての魔物たちを破壊したというわけだ。
ようやく終わった。
長い悪夢を見ていたような不思議な疲労感と安堵が同時に私に押し寄せた。
「思いがけず助かりましたわね」
殿下を助け起こした私に、彼はしゅんとして謝罪した。
「カミーユ、すまなかった。私が愚かだった。君を信じて、愛し続ければよかった」
殿下は私のラピスラズリの瞳に吸い寄せられるように私の唇に触れようとした。
私はすっとそれを避けた。
すべてはもう遅い。
もう戻れないのよ。
「これからは互いに違う未来のために生きましょう」
寂しげな目の殿下を残し、私は王宮を去った。
その後まもなく、私は他国の王家に王妃として迎えられた。
誠実な王陛下に愛されながら、今も幸せに暮らしている。
私の右手から白銀の光がほとばしった。バーバラが私の右手を掴んだことで聖なる力が放出されたのだ。
「ひい!」
私からバーバラの全身に光が伝い、バーバラの体は制御できない人形のようにガクガク揺さぶられた。
バーバラを中心に据えた五芒星から一気にまばゆい光の柱が立ち上った。私はその勢いにあおられ、五芒星から遠くに飛ばされた。
ヴン!
瞬時に五芒星と魔物エリアが接続された。
こちらの気配に気づいた魔物たちが一斉にバーバラを見た。
ぎょっとして青ざめるバーバラ。
「死ね!死ね!!私だってやればできるのよ!!」
私を道連れにする計画が失敗し、焦ったバーバラが手刀のように無茶苦茶に空を切った。だが力の弱いバーバラの攻撃では魔物は一匹たりとも倒れない。
「え?え?効かない?どうして?」
「五芒星から出て、早く!」
私はバーバラに叫んだ。
いくらバーバラが憎くても、魔物の前で見殺しにはできない。
早くしないと、彼女は──
しかし、バーバラは呆然としたままその場から動けなかった。
バーバラの目には、目前に迫る魔物たちの牙が映っていた。あまりの恐怖に腰が抜けて動けなかったのだ。
「早くこっちに!」
私がバーバラの手を引きよせようとしたが、手遅れだった。
「ぎゃ!」
バーバラの体に蜂の群れのごとく魔物がたかりはじめた。私が魔物を祓う暇さえなかった。
バーバラはあっという間に魔物たちに食い尽くされ、祈りの間には着ていたドレスの切れ端だけが残された。
バーバラにはやはり、たいした力がなかったのだ。
自分を過大評価していたか、私を追い出すために殿下に嘘をついていたのだろう。
バーバラを食した後、味をしめた貪欲な魔物たちは五芒星からあふれだし、私たちに襲いかかってきた。
「陛下をお連れして、お逃げください!!」
半泣き状態で腰を抜かしている殿下に私は叫んだ。
「うわあああ!もうおしまいだあ!」
殿下は情けない姿で頭を抱え床にうずくまった。
私一人なら力を使って魔物から逃げられるだろう。だが、大勢を一度に守ることはできない。
私が殿下を立ち上がらせようとそばに駆け寄った時、魔物たちに囲まれてしまった。
迫ってくる魔物に聖なる矢を射るも、五芒星からマグマが膨れ上がるように無限に魔物が出てくる。
バーバラのせいで、カミーユが不在の間に魔物が取り返しがつかないほど増えてしまっていた。
「……ッ!」
もうここでおしまいなのかしら。
殿下にささげた私の人生って何だったの?
魔物で真っ黒に埋め尽くされた景色に虚しさが胸をつく。
私まだ17なのに。
新しい恋もしたかったのに。
震える殿下の横で抵抗を諦めた私が目をつむった時。
ぱん!
かわいた音が響いた。
ぱんぱんぱん!!
何?
何が起こっているの?
私が恐る恐る目を開けると、魔物たちの体がなぜか次々と弾け飛んでいた。
「どういうこと……?」
しばらく破裂音が続いた後、そこらじゅうにいた魔物はすべて消滅してしまった。
実は、魔物たちは皆同じ魔界樹から生まれており、クローンのようなものだった。思考も内臓も個々でつながっており、もちろん胃袋も共有臓器だった。
バーバラはあの時、単なる娘の肉体ではなかった。直前に、体力が全回復していたカミーユから練度の高い聖なる力が流れ込んでいた。つまりは、聖なる力の塊だったのだ。
そんなバーバラを食した魔物たちの胃袋の中で、カミーユの聖なる力が爆発し、胃袋を共有していた全ての魔物たちを破壊したというわけだ。
ようやく終わった。
長い悪夢を見ていたような不思議な疲労感と安堵が同時に私に押し寄せた。
「思いがけず助かりましたわね」
殿下を助け起こした私に、彼はしゅんとして謝罪した。
「カミーユ、すまなかった。私が愚かだった。君を信じて、愛し続ければよかった」
殿下は私のラピスラズリの瞳に吸い寄せられるように私の唇に触れようとした。
私はすっとそれを避けた。
すべてはもう遅い。
もう戻れないのよ。
「これからは互いに違う未来のために生きましょう」
寂しげな目の殿下を残し、私は王宮を去った。
その後まもなく、私は他国の王家に王妃として迎えられた。
誠実な王陛下に愛されながら、今も幸せに暮らしている。
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