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Ep.2-16
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ある夜半、スーザンからの密書がヴィヴィアンの元に届けられた。
密書には、アレクの救出に成功したことが書かれていた。
「……ッ!」
ヴィヴィアンは安堵のあまり、口を覆って嗚咽した。
さらに読み進めると、そこには、にわかには信じ難い内容が書かれていた。
------------
今から書くことは、まだ当家のものしか知りません。
里に下がった私は、あれから陛下の子を妊娠していることがわかり、心痛から早産しました。死産でした。
王家の血筋のものが亡くなると、特別な葬儀を執り行わねばなりません。
秘密裏に家のものたちだけで、子の亡骸から血をとり、その血を子にふりかけ、着火を試みました。
ヴィヴィアン様は隣の大陸からいらしたのでご存じないかもしれませんが、バーネ王国の正当な血統をもつものは血が燃えるのです。
ですが、その子の血は何をやっても決して燃えませんでした。その子はどう考えても陛下の子です。
これらの結果から考えられるのは──
陛下は、バーネ王家の正当な血を継いでいない可能性があります。
これまでこの禁忌に触れるのが恐ろしくて、お伝えできなかったこと、どうかお許しください。
スーザン
------------
偽王。
ヴィヴィアンはこの可能性にふるえた。これが証明できれば、ジェハスを破滅させられる。
大衆の面前で、ジェハスの血が燃えないことを見せつけるのだ。
ヴィヴィアンはジェハスを破滅させる計画をアーシャに話した。
「驚きましたわね。陛下に血筋の疑惑があったとは」
「私に考えがあるの。アレクとグラントの力が必要なの」
アレクはグラントが安全な場所に匿ってくれているとのことだった。
アレクの知能とグラントの統率力があれば、きっとうまくいく。
「承知しました。スーザン様と連絡を取り合ってみます」
「それと、ロン男爵が吊るしの刑にされて意識不明らしいの。心配だわ」
スーザンがどんなに悲しんでいるか。
それを思うと胸が痛んだが、アーシャが頼もしい提案をした。
「お祖父様に密かに頼んで、医師団を治療に向かわせますわ。当家は宮廷医師の家門ですの」
「それは心強いわ。任せます。ジェハスは私が誘い出すわ」
ジェハスが寝所へ行くと、ヴィヴィアンが枕に伏して泣いていた。今は魔法人形を消しているので、生身のヴィヴィアンだ。
「どうしたのだ、ヴィヴィアン!?」
ヴィヴィアンは泣きじゃくりながら、答えた。
「アレクに捨てられました。彼は逃げたまま、私を迎えに来てもくれないのです!」
ジェハスはアレクが脱獄したことをまだヴィヴィアンに話していなかったが、どこからか噂がもれたのだろうと推察した。
「その程度の男だったということだな」
「私、もう陛下にだけお心を向けると決めました」
ヴィヴィアンは顔を上げた。
そして、はじめて自分からジェハスの胸にしなだれかかった。
「これまでの不躾な態度を許してくださいますか?」
「もちろんではないか!」
ジェハスはあんなに無反応だったヴィヴィアンが自分のほうを向き始めてくれたことに興奮した。
「そこで、お願いがあるのです」
「なんだ、なんでも言ってみろ」
ヴィヴィアンは上目遣いでジェハスを見上げ、
「復位の儀を行いたいのです。もう陛下の女だと、逃げたあの男に知らしめてやりたくて」
と、ねだるようにお願いをした。
「王妃の復位の儀か。もちろんだ。盛大に行おうではないか」
ジェハスはヴィヴィアンを抱きしめた。
やっと、やっと自分を見てくれた。
ヴィヴィアンを永遠に自分のものにできる。
ジェハスだけが、そんなはかない夢の中にいた。
密書には、アレクの救出に成功したことが書かれていた。
「……ッ!」
ヴィヴィアンは安堵のあまり、口を覆って嗚咽した。
さらに読み進めると、そこには、にわかには信じ難い内容が書かれていた。
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今から書くことは、まだ当家のものしか知りません。
里に下がった私は、あれから陛下の子を妊娠していることがわかり、心痛から早産しました。死産でした。
王家の血筋のものが亡くなると、特別な葬儀を執り行わねばなりません。
秘密裏に家のものたちだけで、子の亡骸から血をとり、その血を子にふりかけ、着火を試みました。
ヴィヴィアン様は隣の大陸からいらしたのでご存じないかもしれませんが、バーネ王国の正当な血統をもつものは血が燃えるのです。
ですが、その子の血は何をやっても決して燃えませんでした。その子はどう考えても陛下の子です。
これらの結果から考えられるのは──
陛下は、バーネ王家の正当な血を継いでいない可能性があります。
これまでこの禁忌に触れるのが恐ろしくて、お伝えできなかったこと、どうかお許しください。
スーザン
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偽王。
ヴィヴィアンはこの可能性にふるえた。これが証明できれば、ジェハスを破滅させられる。
大衆の面前で、ジェハスの血が燃えないことを見せつけるのだ。
ヴィヴィアンはジェハスを破滅させる計画をアーシャに話した。
「驚きましたわね。陛下に血筋の疑惑があったとは」
「私に考えがあるの。アレクとグラントの力が必要なの」
アレクはグラントが安全な場所に匿ってくれているとのことだった。
アレクの知能とグラントの統率力があれば、きっとうまくいく。
「承知しました。スーザン様と連絡を取り合ってみます」
「それと、ロン男爵が吊るしの刑にされて意識不明らしいの。心配だわ」
スーザンがどんなに悲しんでいるか。
それを思うと胸が痛んだが、アーシャが頼もしい提案をした。
「お祖父様に密かに頼んで、医師団を治療に向かわせますわ。当家は宮廷医師の家門ですの」
「それは心強いわ。任せます。ジェハスは私が誘い出すわ」
ジェハスが寝所へ行くと、ヴィヴィアンが枕に伏して泣いていた。今は魔法人形を消しているので、生身のヴィヴィアンだ。
「どうしたのだ、ヴィヴィアン!?」
ヴィヴィアンは泣きじゃくりながら、答えた。
「アレクに捨てられました。彼は逃げたまま、私を迎えに来てもくれないのです!」
ジェハスはアレクが脱獄したことをまだヴィヴィアンに話していなかったが、どこからか噂がもれたのだろうと推察した。
「その程度の男だったということだな」
「私、もう陛下にだけお心を向けると決めました」
ヴィヴィアンは顔を上げた。
そして、はじめて自分からジェハスの胸にしなだれかかった。
「これまでの不躾な態度を許してくださいますか?」
「もちろんではないか!」
ジェハスはあんなに無反応だったヴィヴィアンが自分のほうを向き始めてくれたことに興奮した。
「そこで、お願いがあるのです」
「なんだ、なんでも言ってみろ」
ヴィヴィアンは上目遣いでジェハスを見上げ、
「復位の儀を行いたいのです。もう陛下の女だと、逃げたあの男に知らしめてやりたくて」
と、ねだるようにお願いをした。
「王妃の復位の儀か。もちろんだ。盛大に行おうではないか」
ジェハスはヴィヴィアンを抱きしめた。
やっと、やっと自分を見てくれた。
ヴィヴィアンを永遠に自分のものにできる。
ジェハスだけが、そんなはかない夢の中にいた。
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