今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi

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8 陛下の元へ

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カーラは王弟の不吉な言葉で不安に襲われていた。


「確かにもう時間がないのかもしれない」


リュックの中から小さなコンパクトを取り出した。
ラメ入りアイシャドウだ。


「綺麗ですわ…陛下にお会いするのだもの、少しでも美しくしていきたいですわ」


外はもう暗かった。
カーラは急いでアイシャドウをまぶたに塗ると、牢獄へと向かった。




牢獄は相変わらず、暗く寒かった。


「陛下……陛下……!」


ベッドに横たわるルアヌに鉄柵越しに声をかける。
だが、ルアヌは上を向いたまま反応しない。


「カーラですわ!ルアヌ様……!!」


ルアヌはぴくりと反応し、ゆっくりと顔だけこちらに向けた。


「……カ……ラ?」


返事をしてくれた!


カーラは感極まり両手で口元を覆った。


「……カ……ラ」


ルアヌは繰り返し、カーラの方へ手を差し伸べた。


「今参りますわ!!」


カーラは門番から受け取った牢の鍵を開け、中に入った。


「……カ……ラ」


よろよろとベッドから降りたルアヌにカーラが駆け寄る。


「もっと早く、参るべきでしたわ…」


カーラが涙ぐむと、ルアヌは震える両手でカーラを抱きしめた。


「陛下…」


その声に反応するように、ルアヌはさらに強くカーラを抱きすくめた。


ああ…
薄汚れていようと、アンデッドになりかかっていようと、わたくしは陛下を愛している。


カーラはすらりと背の高いルアヌの腕の中で幸せに満ち溢れていた。


「カーラ様!離れてください!!」


夢が覚めたように宰相の鬼気迫る声が飛んできた。


「大丈夫ですわ、だってこのとおり陛下は──え?」


顔を上げると、ルアヌはあんぐりと黒い口を開け、カーラに噛みつこうとしていた。



だめだ、噛みつかれる──



誰もがそう思ったその時。




牢の窓の外から、さあっと月光が差し込んだ。
銀色を帯びたその光が、カーラの目元を照らす。



キラキラキラキラキラ──



「ぐああああああ!」



途端にルアヌがのけぞった。


「ええ!?」


アイシャドウのラメが月の光を乱反射している。
どうやらアンデッドになりつつあるルアヌにダメージを与えたようだった。


「陛下、陛下!!」


宰相はそれでも離れようとしないカーラを無理やりルアヌから引きはがし、牢獄から連れ出した。
再び牢に鍵をかけ、宰相は言う。


「お気持ちはわかりますが、カーラ様」

「わかっていますわ!!!」


カーラはかぶりぎみに叫ぶ。


「危険だとわかっていても……それでも──」


カーラは悲しみのあまり床に崩れ落ちた。


もうすぐ陛下はアンデッド化が完了し、記憶を全て無くすだろう。


ルアヌの腕の氷のような冷たさに、カーラには悲しい予感がよぎっていた。
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