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16 確かめに
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『早くお会いしたいです。愛しいアダムス様。』
アダムスが自宅のソファに横たわっている間、流れるように美しい手紙の文字がアダムスの脳裏に繰り返し蘇ってきた。
ただでさえ実家に返された姉と妹から毎日のように「お前のせいだ」と怒鳴られているのだ。アダムスは文字が目の前にチラついて一向に消えてくれないことにイライラしていた。
ああ、何で手紙のことが頭から離れないんだ!?
どうして僕をわずらわせるんだ!
偽の手紙だと決めつけていたアダムスは怒りに任せて勢いよくソファから起き上がった。
どうしてもエバンジェリンに会って一言苦情を言ってやろうと、アダムスは無謀にもオースト家へと向かった。
オースト家の石塀はまるで王宮のようにとても高かった。けれどどんな木でもてっぺんまで登れるアダムスにかかれば乗り越えるのは簡単だった。警備兵の監視をくぐり抜け猿のようにスルスルと塀を登っていった。
降りた場所は離れのすぐそばだった。偶然かエバンジェリンがそこにいた。エバンジェリンはひとりだった。最後にアダムスが訪れた離れの方を思い詰めたようにじっと見つめていた。
「おい、エバンジェリン」
アダムスが声をかけるとびくりとしてこちらを振り返った。
「ア、アダムス様、どうしてこちらに──!」
エバンジェリンは両手で口を覆いとても驚いていた。
「あの手紙は偽物だろう!?君は卑怯だ。メアリと僕を引き裂こうとあんな偽造までするなんて」
エバンジェリンは絶句した。そして悲痛に満ちた視線をアダムスに向けた。
「信じてくださらないのですね……ずっとあなたをお慕いし続けてきた私の気持ちを」
気持ちを吐露した後、エバンジェリンの目にみるみる涙がふくらんでいき宝石のような涙が頬を伝った。
「私には友達がいなかった。みな私を王のように扱い家族以外気さくに声をかけてくれる者もいなかった。そんなときアダムス様が現れた。アダムス様が小鳥を捕まえてくださったあの日からずっと、ずっと私は……」
エバンジェリンはほろほろと泣いた。頬はうっすらと桃色に紅潮しアクアマリンの瞳が陽光に煌めいて妖精のような美しさだった。
アダムスはこのとき初めて、エバンジェリンの美しさにはっとした。これまでアダムスはエバンジェリンと会話したことが数えるほどしかなく彼女のことをよく知らないままだった。
第一印象で人形のように感情もなく冷たい女だと思いこんでいたがそうではなかった。今目の前にいるエバンジェリンは表情がいきいきと色づきこんなにも感情豊かでその美しい目で真っ直ぐに自分を見ていた。
エバンジェリン……?
君は本当はこんなに健気で一途な子だったのか?
今までメアリのことしか頭になかったのにアダムスは急にエバンジェリンが心の隙間に入り込んできた気がして困惑した。
「ごめん……泣かせるつもりはなかったんだ」
エバンジェリンの美しい涙におろおろし思わずアダムスは謝っていた。涙に光るエバンジェリンの頬に艶やかな黒髪が一筋かかった姿が妖艶でアダムスはドキリとした。
「エバンジェリン、エバンジェリン」
オースト侯爵が呼ぶ声が近づいてきた。
「いけない。お父様ですわ!見つからないうちにアダムス様早くお帰りになって」
エバンジェリンはアダムスの背をそっと押した。ふいに花のような良い香りがエバンジェリンから立ち上った。アダムスは一瞬うっとりとした。
「あちらの塀からお帰りになって。庭木に身を隠せますから」
警備兵を呼んでアダムスを捕まえることだってできたのにエバンジェリンは婚約破棄をした相手である自分を非難することもせず親切に接してくれていた。
美しい湖のような瞳がアダムスを真っ直ぐに見つめている。その美しさと優しさにアダムスはエバンジェリンからどうしようもないほど離れがたい衝動にとらわれた。
「エバンジェリン」
「あっ……」
とっさにアダムスはエバンジェリンを抱きしめていた。
「あ、アダムス様──!?」
エバンジェリンは驚き目を見開いた。
オースト侯爵の足音が耳に入ってきた。アダムスは慌ててエバンジェリンから離れ石塀によじ登って向こう側に身を隠した。
メアリという人がいながら、僕は何てことをしてしまったんだ!
アダムスは自分を責めた。
文句を言いに来たはずなのに抱きしめてしまうなんて……
憤慨してオースト家を訪れたのに今やエバンジェリンへの怒りはすっかり消え失せていた。
塀の上からちらっと見るとエバンジェリンが心配そうにこちらを見守っていた。その透き通った瞳をアダムスはしばらく忘れられなかった。
アダムスが自宅のソファに横たわっている間、流れるように美しい手紙の文字がアダムスの脳裏に繰り返し蘇ってきた。
ただでさえ実家に返された姉と妹から毎日のように「お前のせいだ」と怒鳴られているのだ。アダムスは文字が目の前にチラついて一向に消えてくれないことにイライラしていた。
ああ、何で手紙のことが頭から離れないんだ!?
どうして僕をわずらわせるんだ!
偽の手紙だと決めつけていたアダムスは怒りに任せて勢いよくソファから起き上がった。
どうしてもエバンジェリンに会って一言苦情を言ってやろうと、アダムスは無謀にもオースト家へと向かった。
オースト家の石塀はまるで王宮のようにとても高かった。けれどどんな木でもてっぺんまで登れるアダムスにかかれば乗り越えるのは簡単だった。警備兵の監視をくぐり抜け猿のようにスルスルと塀を登っていった。
降りた場所は離れのすぐそばだった。偶然かエバンジェリンがそこにいた。エバンジェリンはひとりだった。最後にアダムスが訪れた離れの方を思い詰めたようにじっと見つめていた。
「おい、エバンジェリン」
アダムスが声をかけるとびくりとしてこちらを振り返った。
「ア、アダムス様、どうしてこちらに──!」
エバンジェリンは両手で口を覆いとても驚いていた。
「あの手紙は偽物だろう!?君は卑怯だ。メアリと僕を引き裂こうとあんな偽造までするなんて」
エバンジェリンは絶句した。そして悲痛に満ちた視線をアダムスに向けた。
「信じてくださらないのですね……ずっとあなたをお慕いし続けてきた私の気持ちを」
気持ちを吐露した後、エバンジェリンの目にみるみる涙がふくらんでいき宝石のような涙が頬を伝った。
「私には友達がいなかった。みな私を王のように扱い家族以外気さくに声をかけてくれる者もいなかった。そんなときアダムス様が現れた。アダムス様が小鳥を捕まえてくださったあの日からずっと、ずっと私は……」
エバンジェリンはほろほろと泣いた。頬はうっすらと桃色に紅潮しアクアマリンの瞳が陽光に煌めいて妖精のような美しさだった。
アダムスはこのとき初めて、エバンジェリンの美しさにはっとした。これまでアダムスはエバンジェリンと会話したことが数えるほどしかなく彼女のことをよく知らないままだった。
第一印象で人形のように感情もなく冷たい女だと思いこんでいたがそうではなかった。今目の前にいるエバンジェリンは表情がいきいきと色づきこんなにも感情豊かでその美しい目で真っ直ぐに自分を見ていた。
エバンジェリン……?
君は本当はこんなに健気で一途な子だったのか?
今までメアリのことしか頭になかったのにアダムスは急にエバンジェリンが心の隙間に入り込んできた気がして困惑した。
「ごめん……泣かせるつもりはなかったんだ」
エバンジェリンの美しい涙におろおろし思わずアダムスは謝っていた。涙に光るエバンジェリンの頬に艶やかな黒髪が一筋かかった姿が妖艶でアダムスはドキリとした。
「エバンジェリン、エバンジェリン」
オースト侯爵が呼ぶ声が近づいてきた。
「いけない。お父様ですわ!見つからないうちにアダムス様早くお帰りになって」
エバンジェリンはアダムスの背をそっと押した。ふいに花のような良い香りがエバンジェリンから立ち上った。アダムスは一瞬うっとりとした。
「あちらの塀からお帰りになって。庭木に身を隠せますから」
警備兵を呼んでアダムスを捕まえることだってできたのにエバンジェリンは婚約破棄をした相手である自分を非難することもせず親切に接してくれていた。
美しい湖のような瞳がアダムスを真っ直ぐに見つめている。その美しさと優しさにアダムスはエバンジェリンからどうしようもないほど離れがたい衝動にとらわれた。
「エバンジェリン」
「あっ……」
とっさにアダムスはエバンジェリンを抱きしめていた。
「あ、アダムス様──!?」
エバンジェリンは驚き目を見開いた。
オースト侯爵の足音が耳に入ってきた。アダムスは慌ててエバンジェリンから離れ石塀によじ登って向こう側に身を隠した。
メアリという人がいながら、僕は何てことをしてしまったんだ!
アダムスは自分を責めた。
文句を言いに来たはずなのに抱きしめてしまうなんて……
憤慨してオースト家を訪れたのに今やエバンジェリンへの怒りはすっかり消え失せていた。
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