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17 暴かれる4
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翌日、審議が再開となり、アダムスはまた男爵と一緒に王宮へ呼ばれた。アダムスは昨日のエバンジェリンが一晩中忘れられなかった。
エバンジェリンから放たれた酔うほどに上品な花の香り。色鮮やかによみがえるエバンジェリンの薄桃色に染まった透き通った頬。
自分を見つめてくる清楚で美しい瞳。そして一瞬の抱擁。
大広間に入場し以前と同じく王家と同列の席に静かに座ったエバンジェリンをアダムスは無意識に目で追っていた。
エバンジェリン。
アダムスは自分でも気づかないうちにエバンジェリンに見とれていた。アダムスの心にエバンジェリンが住みはじめていた。
召喚されたメアリがアダムスの隣に並んだ。
だめだ。
しっかりしないと。
僕はメアリの味方なんだから。
アダムスは無理やり自分を引き戻した。メアリがアダムスにそっと目配せをした。アダムスはメアリと目が合っても以前ほどときめかなくなっていることに当惑した。
「審議の続きを始める」
陛下の号令で審議が開始された。
「お守りについて問う。本当に心当たりはないか。エバンジェリンの手紙の中に入っていたはずだが、調べたところ該当する封筒からお守りは発見されなかった。お前が盗んだのではないか」
「いいえ。存じません」
メアリは前回同様、しらを切った。
「アダムスは心当たりは」
「いえ。エバンジェリンからは何も……」
メアリにもらったお守り以外アダムスは持っていなかった。
「桃色の絹の小袋に金糸と緑でアダムスの専用紋章が刺繍されたものだ。中にお前の瞳と同じ緑色の翡翠の石がおさめられているとのことだが」
「えっ」
陛下に言われアダムスはぎょっとした。アダムスには思い当たるものがあった。慌てて胸ポケットからあるものを取り出した。それは先ほど陛下が特徴を述べた桃色のお守り袋そのものだった。
「なんだ、持っているではないか」
陛下が声を上げた。その時はじめてエバンジェリンは顔を上げアダムスの方を見た。
「いっ、いえ、これはメアリが、手作りだと言って僕に……」
アダムスはメアリとエバンジェリンをチラチラと見比べながらしどろもどろになった。
「メアリが自分の手作りだと言ったのか?」
「は、はい、確かに」
ざわめきが起こる。
「なんという厚かましい女だ!!」
「エバンジェリン様お手製のお守りをあたかも自分が作ったかのように偽ったのか!?」
貴族たちが一斉にメアリに非難の目を向けた。皆の痛いほどの視線に耐えきれずアダムスは下を向いた。
メアリ。
本当に君はそんな嘘を僕についたのか?
アダムスはメアリを信じることを貫き通すつもりだったのに、純情を踏みにじられたような気持ちになった。
「メアリ。なぜお前は自分の手作りだと偽ったのか」
陛下がメアリに問うた。
「では……正直に申し上げます……」
メアリは言いよどみながら理由を述べ始めた。
「アダムス様がお可哀想で。親が勝手に決めたせいで人形のように冷たい女と結婚しなければならない。人生終わったと申しておりました。そんなお相手からお守りを贈られるのは苦痛だろうと思い、だからといってエバンジェリン様お手製のものを廃棄するわけにもいかず、悩んだ挙句私の手作りということでお渡ししました」
メアリは伏し目がちに仕方がなかったというように答えた。エバンジェリンはそれを聞いて傷ついたようにさらに深く首を垂れた。オースト侯爵は気の毒なあまりエバンジェリンの背中を強く抱いた。
「あの女、身勝手なことを!」
「アダムスも何という言い草だ!」
貴族たちの怒りは収まらない。
「え、あ、え……」
貴族たちから睨まれアダムスは針のむしろだった。あまりの圧にひるんだアダムスはお守りを取り落としそうになった。
本当にエバンジェリンが作ってくれたお守りだったのか。
ごめん。
エバンジェリンごめん。
アダムスは心の中でエバンジェリンに何度も謝罪した。
「この女、自己都合も甚だしい!」
「アッシュフォード男爵も嫡男の育て方を間違えたのでは!?」
普段は温厚で通っている太公や公爵が声を荒げた。男爵は一気に身を縮こませ「私の不徳の致すところ。面目次第もございません」と消え入るように呟いた。
いつもならきちんとした身なりで男爵の風格がある父が今日はやつれ髪も乱れている。アダムスはこんなに謝ってばかりの父親の姿に胸が痛んだ。小さいながら領地経営を手を抜かずにやってきた真面目な父親だった。それなのに今は断罪される側に立ち平謝りだ。
僕は。
僕は選択を間違えたのか──?
アダムスは自分が親不孝者に思えてきて胸が潰れそうだった。
だがメアリの罪はこれだけではなかった。
エバンジェリンから放たれた酔うほどに上品な花の香り。色鮮やかによみがえるエバンジェリンの薄桃色に染まった透き通った頬。
自分を見つめてくる清楚で美しい瞳。そして一瞬の抱擁。
大広間に入場し以前と同じく王家と同列の席に静かに座ったエバンジェリンをアダムスは無意識に目で追っていた。
エバンジェリン。
アダムスは自分でも気づかないうちにエバンジェリンに見とれていた。アダムスの心にエバンジェリンが住みはじめていた。
召喚されたメアリがアダムスの隣に並んだ。
だめだ。
しっかりしないと。
僕はメアリの味方なんだから。
アダムスは無理やり自分を引き戻した。メアリがアダムスにそっと目配せをした。アダムスはメアリと目が合っても以前ほどときめかなくなっていることに当惑した。
「審議の続きを始める」
陛下の号令で審議が開始された。
「お守りについて問う。本当に心当たりはないか。エバンジェリンの手紙の中に入っていたはずだが、調べたところ該当する封筒からお守りは発見されなかった。お前が盗んだのではないか」
「いいえ。存じません」
メアリは前回同様、しらを切った。
「アダムスは心当たりは」
「いえ。エバンジェリンからは何も……」
メアリにもらったお守り以外アダムスは持っていなかった。
「桃色の絹の小袋に金糸と緑でアダムスの専用紋章が刺繍されたものだ。中にお前の瞳と同じ緑色の翡翠の石がおさめられているとのことだが」
「えっ」
陛下に言われアダムスはぎょっとした。アダムスには思い当たるものがあった。慌てて胸ポケットからあるものを取り出した。それは先ほど陛下が特徴を述べた桃色のお守り袋そのものだった。
「なんだ、持っているではないか」
陛下が声を上げた。その時はじめてエバンジェリンは顔を上げアダムスの方を見た。
「いっ、いえ、これはメアリが、手作りだと言って僕に……」
アダムスはメアリとエバンジェリンをチラチラと見比べながらしどろもどろになった。
「メアリが自分の手作りだと言ったのか?」
「は、はい、確かに」
ざわめきが起こる。
「なんという厚かましい女だ!!」
「エバンジェリン様お手製のお守りをあたかも自分が作ったかのように偽ったのか!?」
貴族たちが一斉にメアリに非難の目を向けた。皆の痛いほどの視線に耐えきれずアダムスは下を向いた。
メアリ。
本当に君はそんな嘘を僕についたのか?
アダムスはメアリを信じることを貫き通すつもりだったのに、純情を踏みにじられたような気持ちになった。
「メアリ。なぜお前は自分の手作りだと偽ったのか」
陛下がメアリに問うた。
「では……正直に申し上げます……」
メアリは言いよどみながら理由を述べ始めた。
「アダムス様がお可哀想で。親が勝手に決めたせいで人形のように冷たい女と結婚しなければならない。人生終わったと申しておりました。そんなお相手からお守りを贈られるのは苦痛だろうと思い、だからといってエバンジェリン様お手製のものを廃棄するわけにもいかず、悩んだ挙句私の手作りということでお渡ししました」
メアリは伏し目がちに仕方がなかったというように答えた。エバンジェリンはそれを聞いて傷ついたようにさらに深く首を垂れた。オースト侯爵は気の毒なあまりエバンジェリンの背中を強く抱いた。
「あの女、身勝手なことを!」
「アダムスも何という言い草だ!」
貴族たちの怒りは収まらない。
「え、あ、え……」
貴族たちから睨まれアダムスは針のむしろだった。あまりの圧にひるんだアダムスはお守りを取り落としそうになった。
本当にエバンジェリンが作ってくれたお守りだったのか。
ごめん。
エバンジェリンごめん。
アダムスは心の中でエバンジェリンに何度も謝罪した。
「この女、自己都合も甚だしい!」
「アッシュフォード男爵も嫡男の育て方を間違えたのでは!?」
普段は温厚で通っている太公や公爵が声を荒げた。男爵は一気に身を縮こませ「私の不徳の致すところ。面目次第もございません」と消え入るように呟いた。
いつもならきちんとした身なりで男爵の風格がある父が今日はやつれ髪も乱れている。アダムスはこんなに謝ってばかりの父親の姿に胸が痛んだ。小さいながら領地経営を手を抜かずにやってきた真面目な父親だった。それなのに今は断罪される側に立ち平謝りだ。
僕は。
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だがメアリの罪はこれだけではなかった。
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