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25 肖像画の正体
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アダムスは執事を手伝い倒れた男爵をベッドに運んだあと茫然自失となり自分の部屋に入った。
僕はとんでもない女に引っかかってしまった──
「あっ」
よろめいて床に積んで放置したままの教科書を蹴飛ばし、その拍子にアダムスは床に転んだ。バサバサと教科書が床に散らばる。
「痛った……ついてないな」
するとちょうど目の前にページが開いた王国史の教科書が目に入った。
「ルミナーレ王国史……え!」
何気なく眺めるとそこに王宮で見かけたエバンジェリンそっくりの肖像画が掲載されていた。
「あの肖像画が教科書に載ってる!??」
アダムスははやる気を抑えながらそのページに目を走らせた。
- - - - - - - - - - -
○ゼオマ帝国の歴史
今から約500年前、隣りの大陸ゼオマ帝国で今でも崇敬され続ける偉大な指導者ギュスターヴ大王が生を受けた。
彼は当時弱小国だったゼオマ帝国を強国へと押し上げ、瞬く間に周辺国を統一。史上初めてガラ大陸の覇者となった。
大陸統一から5年後、帝国は最大の危機に見まわれた。海を越えはるか遠くからゼオマ帝国よりも文明の進んだ国の大軍が攻め込んできたのである。
圧倒的な軍事力と兵力の差にも関わらず、ギュスターヴ大王は並外れた知略と統率力、諜報活動により敵軍の弱点を突き見事敵軍を退けた。
これ以降、ギュスターヴ大王の治世は47年に及び、その間大きな戦は起きず大陸は空前の発展を遂げ、ガラの平和と称されている。そのため大王は今でも大陸を守った軍神として崇められ続けている。
- - - - - - - - - - -
「ゼオマ帝国ってホロー辺境伯の出身地じゃないか。あいつは気に食わないけど、ギュスターヴ大王ってすごい人だったんだな」
アダムスは感心した。ギュスターヴ大王という名はさすがのアダムスも知っていた。子どもの頃男子が剣技ごっこをする時「我こそはギュスターヴ大王!」となりきって遊ぶからだ。
肖像画の下には『第一皇女アレキサンドラ』とあった。
「エバンジェリンじゃなくてアレキサンドラっていうんだな。でも誰だろう?」
続いてアダムスは例の肖像画についての記述を目で追った。
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○第一皇女アレキサンドラ
そんなギュスターヴ大王が最も愛したといわれている第一皇女アレキサンドラが我がルミナーレ王国のオースト侯爵後継に一目惚れし降嫁することとなった。
大王は愛娘アレキサンドラの血脈が続く限りオースト侯爵家ならびにルミナーレ王国を庇護すると宣誓した。これにより我がルミナーレ王国は他国の戦乱からも守られ、貿易の優先権も与えられ、どの国よりも優遇され栄えることとなった。
そのためオースト家と婚姻した家は末代まで栄えると言われている。アレキサンドラ第一皇女の血筋の恩恵は多大であり、国の存亡にも関わっている。
よって国民はオースト侯爵家令息令嬢を国の宝として最大限敬い大切にしなければならない。
- - - - - - - - - - -
「え!つまりエバンジェリンはギュスターヴ大王の愛娘の直系で、しかも国の存亡に関わる家門ってこと……!?あわ、あわわ」
アダムスは血の気が引いた。アダムスはここでようやく真実を知った。皆がオースト家やエバンジェリンをなぜあれほど敬うのか、ないがしろにするとなぜあれほど白い目で罵られるのか。
しかも隣の大陸の覇者ゼオマ皇帝ギュスターヴ大王が最も愛し未来永劫守護することを誓ったアレキサンドラ第一皇女にエバンジェリンは瓜二つだった。そのためエバンジェリンは現ゼオマ皇帝からも覚えがめでたく可愛がられていた。
辺境伯ほどの武人がエバンジェリンの前でつい緊張してしまうのは単に恋心のせいだけではない。大王の愛娘として神聖化されているアレキサンドラの再来とエバンジェリンは言われておりゼオマ帝国でも有名人だった。
そしてオースト家と婚姻した家は栄えるという記述も本当だった。実際、審議に出席していた穏やかな公爵や侯爵は過去にオースト家との婚姻者を輩出した家門であった。彼らは尽きないほどの財力を持ち、王国でも重鎮となっている。
国内外からオースト家に婚姻の申し込みが殺到するのは当然のことであった。アダムスは国の存亡を握るほど重要な家門の令嬢をないがしろにし実家の男爵家が富や力を手にするチャンスを棒に振ったのだ。
「そんな……僕は、僕は、取り返しがつかないことを──」
アダムスは頭を抱えた。すでに王家も貴族たちをも敵に回してしまっている。助けてくれるものは誰もいないのだ。
「もう終わりだ……」
アダムスは床に突っ伏した。
「──いや待てよ……?」
だがふとある思いつきが唐突にアダムスの脳裏に降ってきた。
「僕とエバンジェリンは今や相思相愛の仲だ。そうだ、そうだよ!メアリと別れてもう一度エバンジェリンと結婚宣言すればいいんだよ!!エバンジェリンならきっと受け入れてくれるはず。だってあんなに熱い手紙を僕によこしたんだから!!」
絶望の淵にいたアダムスはその思いつきに目の前が一気に開けた気がした。
「僕には夢のような未来が待ってる!ああ、明日の審議が楽しみだ」
明日は最終審議となり最後にいよいよ処分が言い渡される予定だった。単純なアダムスはその夜エバンジェリンにまた会えることに胸を高鳴らせ上機嫌で床に着いた。
僕はとんでもない女に引っかかってしまった──
「あっ」
よろめいて床に積んで放置したままの教科書を蹴飛ばし、その拍子にアダムスは床に転んだ。バサバサと教科書が床に散らばる。
「痛った……ついてないな」
するとちょうど目の前にページが開いた王国史の教科書が目に入った。
「ルミナーレ王国史……え!」
何気なく眺めるとそこに王宮で見かけたエバンジェリンそっくりの肖像画が掲載されていた。
「あの肖像画が教科書に載ってる!??」
アダムスははやる気を抑えながらそのページに目を走らせた。
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○ゼオマ帝国の歴史
今から約500年前、隣りの大陸ゼオマ帝国で今でも崇敬され続ける偉大な指導者ギュスターヴ大王が生を受けた。
彼は当時弱小国だったゼオマ帝国を強国へと押し上げ、瞬く間に周辺国を統一。史上初めてガラ大陸の覇者となった。
大陸統一から5年後、帝国は最大の危機に見まわれた。海を越えはるか遠くからゼオマ帝国よりも文明の進んだ国の大軍が攻め込んできたのである。
圧倒的な軍事力と兵力の差にも関わらず、ギュスターヴ大王は並外れた知略と統率力、諜報活動により敵軍の弱点を突き見事敵軍を退けた。
これ以降、ギュスターヴ大王の治世は47年に及び、その間大きな戦は起きず大陸は空前の発展を遂げ、ガラの平和と称されている。そのため大王は今でも大陸を守った軍神として崇められ続けている。
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「ゼオマ帝国ってホロー辺境伯の出身地じゃないか。あいつは気に食わないけど、ギュスターヴ大王ってすごい人だったんだな」
アダムスは感心した。ギュスターヴ大王という名はさすがのアダムスも知っていた。子どもの頃男子が剣技ごっこをする時「我こそはギュスターヴ大王!」となりきって遊ぶからだ。
肖像画の下には『第一皇女アレキサンドラ』とあった。
「エバンジェリンじゃなくてアレキサンドラっていうんだな。でも誰だろう?」
続いてアダムスは例の肖像画についての記述を目で追った。
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○第一皇女アレキサンドラ
そんなギュスターヴ大王が最も愛したといわれている第一皇女アレキサンドラが我がルミナーレ王国のオースト侯爵後継に一目惚れし降嫁することとなった。
大王は愛娘アレキサンドラの血脈が続く限りオースト侯爵家ならびにルミナーレ王国を庇護すると宣誓した。これにより我がルミナーレ王国は他国の戦乱からも守られ、貿易の優先権も与えられ、どの国よりも優遇され栄えることとなった。
そのためオースト家と婚姻した家は末代まで栄えると言われている。アレキサンドラ第一皇女の血筋の恩恵は多大であり、国の存亡にも関わっている。
よって国民はオースト侯爵家令息令嬢を国の宝として最大限敬い大切にしなければならない。
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「え!つまりエバンジェリンはギュスターヴ大王の愛娘の直系で、しかも国の存亡に関わる家門ってこと……!?あわ、あわわ」
アダムスは血の気が引いた。アダムスはここでようやく真実を知った。皆がオースト家やエバンジェリンをなぜあれほど敬うのか、ないがしろにするとなぜあれほど白い目で罵られるのか。
しかも隣の大陸の覇者ゼオマ皇帝ギュスターヴ大王が最も愛し未来永劫守護することを誓ったアレキサンドラ第一皇女にエバンジェリンは瓜二つだった。そのためエバンジェリンは現ゼオマ皇帝からも覚えがめでたく可愛がられていた。
辺境伯ほどの武人がエバンジェリンの前でつい緊張してしまうのは単に恋心のせいだけではない。大王の愛娘として神聖化されているアレキサンドラの再来とエバンジェリンは言われておりゼオマ帝国でも有名人だった。
そしてオースト家と婚姻した家は栄えるという記述も本当だった。実際、審議に出席していた穏やかな公爵や侯爵は過去にオースト家との婚姻者を輩出した家門であった。彼らは尽きないほどの財力を持ち、王国でも重鎮となっている。
国内外からオースト家に婚姻の申し込みが殺到するのは当然のことであった。アダムスは国の存亡を握るほど重要な家門の令嬢をないがしろにし実家の男爵家が富や力を手にするチャンスを棒に振ったのだ。
「そんな……僕は、僕は、取り返しがつかないことを──」
アダムスは頭を抱えた。すでに王家も貴族たちをも敵に回してしまっている。助けてくれるものは誰もいないのだ。
「もう終わりだ……」
アダムスは床に突っ伏した。
「──いや待てよ……?」
だがふとある思いつきが唐突にアダムスの脳裏に降ってきた。
「僕とエバンジェリンは今や相思相愛の仲だ。そうだ、そうだよ!メアリと別れてもう一度エバンジェリンと結婚宣言すればいいんだよ!!エバンジェリンならきっと受け入れてくれるはず。だってあんなに熱い手紙を僕によこしたんだから!!」
絶望の淵にいたアダムスはその思いつきに目の前が一気に開けた気がした。
「僕には夢のような未来が待ってる!ああ、明日の審議が楽しみだ」
明日は最終審議となり最後にいよいよ処分が言い渡される予定だった。単純なアダムスはその夜エバンジェリンにまた会えることに胸を高鳴らせ上機嫌で床に着いた。
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