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49 異色のアンデッド
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「言葉をしゃべった──!?」
死人のアンデッドがしゃべるなどありえない。ローザリアは一瞬、耳を疑った。混乱のおさまらない頭のまま動けないでいた。
女アンデッドは膝丈まである古風な上着を着ている。ズボンを履き、膝下から足首まで布で巻いてあった。左右の腰に古風な幾何学模様の短剣を下げている。
男アンデッドの上着は緻密な幾何学模様が散りばめられており、女よりかなり上質な装いに見えた。両耳には金輪の耳飾りを下げている。男は二十代後半、女はそれより幾分若く見えた。
ふいに外から人の声がした。王宮の捜索隊が到着したようだった。
「人が来た。俺たちはひとまず失礼する。また会おう、女王」
アンデッド二人は挨拶を残し、割れた窓から疾風の如く去っていった。
「さっき私のこと、女王って呼んだ…?」
ローザリアは数秒経ってようやくアンデッドの不可解な言葉を思い起こした。人違いをしているのだろうか?
まだ広がり続けている床の血の海が、つい数分前に起こった惨劇を改めてローザリアに突きつけた。急に襲ってきた震えがローザリアの気力を奪っていった。
一之進がザーラ王国の兵士から得た情報で隠れ宿に駆けつけてきたユークリッド一行は、室内の情景に息を呑んだ。
散らばった窓ガラスの破片。
血まみれの床と壁。
胴と首が無惨に離れたバルクレーの遺体。
ベッドの端に腰掛けているローザリアは血の気が引いた青い顔で小刻みに震えている。胸元の服が乱暴に破られ、白い肌をのぞかせている。
「ローザリア!」
ユークリッドは部屋に入るなりローザリアに駆け寄り、壊れそうなほどきつく抱きしめた。ローザリアを上着で包んでやると、緊張の糸が切れたのか、ローザリアは堰を切ったように嗚咽した。
「遅くなってすまなかった。どんなに恐ろしかっただろうに」
体を震わせ泣くローザリアを抱きしめながら、ユークリッドはきつく唇を噛んだ。
--------------------
ローザリアは自分を助けてくれたアンデッドの事はまだ話さないでおこうと決めた。第一、しゃべるアンデッドなんて誰にも信じてもらえないだろう。
馬車の中、王宮に着くまでの間ずっと、ユークリッドは憔悴しているローザリアの肩を抱き、頭を撫でてくれた。「大丈夫だ。もう大丈夫だ」と繰り返すユークリッドの手は心労と疲労とで冷え切っていた。
自分を懸命に探してくれたのだろうか…こんなに優しい陛下に言えない秘密ができてしまったことに、ローザリアは重い罪悪感を覚えた。
「バルクレー王が惨殺されたらしいじゃないか!」
「大変なことになったぞ!!」
王宮に着くと、バルクレー死去の報は深刻な外交問題になると誰もが頭を悩ませていた。しかも犯人は謎のままだ。ローザリアに聞いても「気を失って。わからない」と言うばかりだった。
この騒ぎの中、レオは突如落雷のようなひらめきを得た。これはローザリアを追放するチャンスではないかと。
ローザリアを犯人に仕立て上げるのだ。他国の王を殺したとわざわざ名乗り出る者などいないはずだ。これであの邪魔な娘を抹殺できる。
レオは謀略を胸に共犯者にうってつけの令嬢の館へと足を向けた。
死人のアンデッドがしゃべるなどありえない。ローザリアは一瞬、耳を疑った。混乱のおさまらない頭のまま動けないでいた。
女アンデッドは膝丈まである古風な上着を着ている。ズボンを履き、膝下から足首まで布で巻いてあった。左右の腰に古風な幾何学模様の短剣を下げている。
男アンデッドの上着は緻密な幾何学模様が散りばめられており、女よりかなり上質な装いに見えた。両耳には金輪の耳飾りを下げている。男は二十代後半、女はそれより幾分若く見えた。
ふいに外から人の声がした。王宮の捜索隊が到着したようだった。
「人が来た。俺たちはひとまず失礼する。また会おう、女王」
アンデッド二人は挨拶を残し、割れた窓から疾風の如く去っていった。
「さっき私のこと、女王って呼んだ…?」
ローザリアは数秒経ってようやくアンデッドの不可解な言葉を思い起こした。人違いをしているのだろうか?
まだ広がり続けている床の血の海が、つい数分前に起こった惨劇を改めてローザリアに突きつけた。急に襲ってきた震えがローザリアの気力を奪っていった。
一之進がザーラ王国の兵士から得た情報で隠れ宿に駆けつけてきたユークリッド一行は、室内の情景に息を呑んだ。
散らばった窓ガラスの破片。
血まみれの床と壁。
胴と首が無惨に離れたバルクレーの遺体。
ベッドの端に腰掛けているローザリアは血の気が引いた青い顔で小刻みに震えている。胸元の服が乱暴に破られ、白い肌をのぞかせている。
「ローザリア!」
ユークリッドは部屋に入るなりローザリアに駆け寄り、壊れそうなほどきつく抱きしめた。ローザリアを上着で包んでやると、緊張の糸が切れたのか、ローザリアは堰を切ったように嗚咽した。
「遅くなってすまなかった。どんなに恐ろしかっただろうに」
体を震わせ泣くローザリアを抱きしめながら、ユークリッドはきつく唇を噛んだ。
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ローザリアは自分を助けてくれたアンデッドの事はまだ話さないでおこうと決めた。第一、しゃべるアンデッドなんて誰にも信じてもらえないだろう。
馬車の中、王宮に着くまでの間ずっと、ユークリッドは憔悴しているローザリアの肩を抱き、頭を撫でてくれた。「大丈夫だ。もう大丈夫だ」と繰り返すユークリッドの手は心労と疲労とで冷え切っていた。
自分を懸命に探してくれたのだろうか…こんなに優しい陛下に言えない秘密ができてしまったことに、ローザリアは重い罪悪感を覚えた。
「バルクレー王が惨殺されたらしいじゃないか!」
「大変なことになったぞ!!」
王宮に着くと、バルクレー死去の報は深刻な外交問題になると誰もが頭を悩ませていた。しかも犯人は謎のままだ。ローザリアに聞いても「気を失って。わからない」と言うばかりだった。
この騒ぎの中、レオは突如落雷のようなひらめきを得た。これはローザリアを追放するチャンスではないかと。
ローザリアを犯人に仕立て上げるのだ。他国の王を殺したとわざわざ名乗り出る者などいないはずだ。これであの邪魔な娘を抹殺できる。
レオは謀略を胸に共犯者にうってつけの令嬢の館へと足を向けた。
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