亡命聖女─アンデッドを祓える力は内緒だけど、隣の大陸の王陛下が溺愛してくる

nanahi

文字の大きさ
49 / 84

49 異色のアンデッド

しおりを挟む
「言葉をしゃべった──!?」


死人のアンデッドがしゃべるなどありえない。ローザリアは一瞬、耳を疑った。混乱のおさまらない頭のまま動けないでいた。

女アンデッドは膝丈まである古風な上着を着ている。ズボンを履き、膝下から足首まで布で巻いてあった。左右の腰に古風な幾何学模様の短剣を下げている。

男アンデッドの上着は緻密な幾何学模様が散りばめられており、女よりかなり上質な装いに見えた。両耳には金輪の耳飾りを下げている。男は二十代後半、女はそれより幾分若く見えた。

ふいに外から人の声がした。王宮の捜索隊が到着したようだった。


「人が来た。俺たちはひとまず失礼する。また会おう、女王」


アンデッド二人は挨拶を残し、割れた窓から疾風の如く去っていった。


「さっき私のこと、女王って呼んだ…?」


ローザリアは数秒経ってようやくアンデッドの不可解な言葉を思い起こした。人違いをしているのだろうか?

まだ広がり続けている床の血の海が、つい数分前に起こった惨劇を改めてローザリアに突きつけた。急に襲ってきた震えがローザリアの気力を奪っていった。



一之進がザーラ王国の兵士から得た情報で隠れ宿に駆けつけてきたユークリッド一行は、室内の情景に息を呑んだ。


散らばった窓ガラスの破片。
血まみれの床と壁。
胴と首が無惨に離れたバルクレーの遺体。

ベッドの端に腰掛けているローザリアは血の気が引いた青い顔で小刻みに震えている。胸元の服が乱暴に破られ、白い肌をのぞかせている。


「ローザリア!」


ユークリッドは部屋に入るなりローザリアに駆け寄り、壊れそうなほどきつく抱きしめた。ローザリアを上着で包んでやると、緊張の糸が切れたのか、ローザリアは堰を切ったように嗚咽した。


「遅くなってすまなかった。どんなに恐ろしかっただろうに」


体を震わせ泣くローザリアを抱きしめながら、ユークリッドはきつく唇を噛んだ。




--------------------




ローザリアは自分を助けてくれたアンデッドの事はまだ話さないでおこうと決めた。第一、しゃべるアンデッドなんて誰にも信じてもらえないだろう。

馬車の中、王宮に着くまでの間ずっと、ユークリッドは憔悴しているローザリアの肩を抱き、頭を撫でてくれた。「大丈夫だ。もう大丈夫だ」と繰り返すユークリッドの手は心労と疲労とで冷え切っていた。

自分を懸命に探してくれたのだろうか…こんなに優しい陛下に言えない秘密ができてしまったことに、ローザリアは重い罪悪感を覚えた。


「バルクレー王が惨殺されたらしいじゃないか!」

「大変なことになったぞ!!」


王宮に着くと、バルクレー死去の報は深刻な外交問題になると誰もが頭を悩ませていた。しかも犯人は謎のままだ。ローザリアに聞いても「気を失って。わからない」と言うばかりだった。




この騒ぎの中、レオは突如落雷のようなひらめきを得た。これはローザリアを追放するチャンスではないかと。


ローザリアを犯人に仕立て上げるのだ。他国の王を殺したとわざわざ名乗り出る者などいないはずだ。これであの邪魔な娘を抹殺できる。


レオは謀略を胸に共犯者にうってつけの令嬢の館へと足を向けた。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま

藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。 婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。 エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...