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45 ほくろの男 沙耶視点
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西くんの容疑は、不正アクセスと会社の仮想通貨を横領した罪らしい。
西くんのPCからその証拠データが出てきたということだった。
どうしたらいいの。
どうしたら。
西くんが悪事を働くなんて、しかも会長の信頼を裏切るような行為をするなんて信じられない。
私は警察が来たときの西くんの呟きを思い返していた。
あの時、
”もしかして、専務に逆侵入されたか──?”
って西くんが呟いてた。
専務のPCをハッキングした時、逆にカウンター攻撃を受けて、不正データを西くんのPCに移植されたってこと??
そんなことできるの??
ますますわからない。
専務はとても優しい人だ。
優斗から私を助けてくれた。
それに専務に怪しいところなんてある?
怪しいといったら、帽子を被ったほくろの男に偶然会ったくらいしか。
……
ちょっと待って。
私は記憶の海に沈んでいたある重要なことを思い出した。
この前、旗を振る優斗と言いあいをしたとき、優斗なんて言ってた?
”専務が口元にほくろがある怪しい男としゃべってるの偶然見かけた”
って。
そんなこと言ってなかった??
確かめなきゃ──
どうしても西くんをこのままにしてはいけないという衝動が私を突き動かした。
”大事な用があるので出かけます”
私はわざと、そう専務にメッセージを送った。
かけだった。
お願い。
ほくろの男、来て──
そう念じ続けながら私はスマホを握りしめ、外へと出かけた。
広い公園に私は来ていた。ベンチに座り、スマホをいじるふるをする。
あのメッセージで本当に男が来るだろうか。
私ののどは緊張でヒリついていた。ふと視界に黒い影が入った。その影は私の隣りのベンチに座った。
来た!
ほくろの男だ。
帽子を被ったあの男だった。ほくろの男はときどき私をチラ見しながら、私の様子を伺っているようだった。私は意を決して、ほくろの男の前に立った。
「あの。私のこと、監視してますよね?」
「ええ? 一体なんのことか──」
男はとぼけた。
「スイーツビュッフェでも、前に他の公園でもあなたを見かけました」
「偶然じゃないですか?」
「これで三度目なのに? 1000万人以上も人口がいるこの都会で偶然三回も会いますか?」
男が逃げようとした瞬間、私はスマホのカメラで男の顔を撮影した。男はしまった、という顔をした。
「警察に言いますよ。私はストーカー被害で一度警察に通報してるから、きっと今回も親身になって相談にのってくれると思いますよ」
「!」
男は急に態度を変え、謝り始めた。
「嫌な思いさせて申し訳ない! でも警察は困るんだよ。実は俺は探偵で。あんたの行動を見張って報告するように言われてたんだ」
「誰から」
探偵は一瞬言葉を飲み込んだ。
「110番したほうがいいかも──」
そう言って私がスマホを操作しようとすると、慌てて探偵は白状した。
「男だよ! 名前は知らない。教えてくれなかった。だけど、呼ぶなら”アールグレイ”って呼べと言っていた」
「アールグレイ……!」
ほら、と言って探偵は自分のスマホのメッセージを私に見せた。
”ターゲットは南公園のベンチにいる”
そう書かれていた。
送り主のメッセージに個人を特定するような名前はなかった。こういうことをする人間なら、用心して本名は書かないだろう。
アールグレイといえば専務が好きだといった紅茶だ。
それに、専務に出かけるって私が連絡して間もなくこの男が現れた。
「その男の特徴は?」
私がさらに質問すると、探偵はこう答えた。
「黒髪で背が高くて色気のある男前だった。いつも高級ブランドのコートを羽織ってて、落ち着いて見えたけど、30手前くらいの若さに感じた。俺の勘だけど、大手企業のお偉いさんじゃないのかな」
専務に似てる。
私はみぞおちが凍りつくような気味の悪さを感じた。
もしかして、本当に専務なの?
何のために私を?
私は何だか怖くなった。
まんまと私を誘導して、優斗を逮捕に追い込んだ。しかも、あんなに能力のあるはずの西くんを逆に陥れたのだとしたら、専務はすごいスキルの持ち主だ。
ハッカーの世界なんて途方も無い。
私なんかに何の力があるっていうの?
私がくじけそうになったとき、西くんの言葉がよぎった。
”信じて沙耶さん”
警察に連行されていく時、振り返って私を切なそうに見た西くんの最後の顔が頭から離れなかった。
西くんとの思い出が鮮やかに蘇ってきた。
優斗のことで落ち込んでいた私を大盛りの肉料理で元気づけてくれたこと。
熱で倒れた私を介抱してくれたこと。
専務が門の前で待っているのを見て、私の手をかたく握って離さなかったこと。
私は手の平を見つめ、ぎゅっと握りしめた。
西くんも専務も優しい。
でも。
西くんには裏表がない。
直感だった。
違和感があるのは専務。
だって、優斗が私のマンションで手首を掴んだ時も、優斗が旗を振っていた時も、あんなにタイミングよく専務が現れるなんて。
私は覚悟を決めて、次の行動に出た。
私はスマホを調査してくれる会社にデータ解析を依頼した。
すると、退社後に消し忘れたままだった社内アプリに、GPS送信プログラムが仕込まれていたことがわかった。
送信先はたぶん一条専務の端末だ。
私の行き先を優斗に教えていた協力者が専務だとしたら、全ての偶然が腑に落ちる。
私はこの確信を持って、USBを手に専務の元へと向かった。
西くんのPCからその証拠データが出てきたということだった。
どうしたらいいの。
どうしたら。
西くんが悪事を働くなんて、しかも会長の信頼を裏切るような行為をするなんて信じられない。
私は警察が来たときの西くんの呟きを思い返していた。
あの時、
”もしかして、専務に逆侵入されたか──?”
って西くんが呟いてた。
専務のPCをハッキングした時、逆にカウンター攻撃を受けて、不正データを西くんのPCに移植されたってこと??
そんなことできるの??
ますますわからない。
専務はとても優しい人だ。
優斗から私を助けてくれた。
それに専務に怪しいところなんてある?
怪しいといったら、帽子を被ったほくろの男に偶然会ったくらいしか。
……
ちょっと待って。
私は記憶の海に沈んでいたある重要なことを思い出した。
この前、旗を振る優斗と言いあいをしたとき、優斗なんて言ってた?
”専務が口元にほくろがある怪しい男としゃべってるの偶然見かけた”
って。
そんなこと言ってなかった??
確かめなきゃ──
どうしても西くんをこのままにしてはいけないという衝動が私を突き動かした。
”大事な用があるので出かけます”
私はわざと、そう専務にメッセージを送った。
かけだった。
お願い。
ほくろの男、来て──
そう念じ続けながら私はスマホを握りしめ、外へと出かけた。
広い公園に私は来ていた。ベンチに座り、スマホをいじるふるをする。
あのメッセージで本当に男が来るだろうか。
私ののどは緊張でヒリついていた。ふと視界に黒い影が入った。その影は私の隣りのベンチに座った。
来た!
ほくろの男だ。
帽子を被ったあの男だった。ほくろの男はときどき私をチラ見しながら、私の様子を伺っているようだった。私は意を決して、ほくろの男の前に立った。
「あの。私のこと、監視してますよね?」
「ええ? 一体なんのことか──」
男はとぼけた。
「スイーツビュッフェでも、前に他の公園でもあなたを見かけました」
「偶然じゃないですか?」
「これで三度目なのに? 1000万人以上も人口がいるこの都会で偶然三回も会いますか?」
男が逃げようとした瞬間、私はスマホのカメラで男の顔を撮影した。男はしまった、という顔をした。
「警察に言いますよ。私はストーカー被害で一度警察に通報してるから、きっと今回も親身になって相談にのってくれると思いますよ」
「!」
男は急に態度を変え、謝り始めた。
「嫌な思いさせて申し訳ない! でも警察は困るんだよ。実は俺は探偵で。あんたの行動を見張って報告するように言われてたんだ」
「誰から」
探偵は一瞬言葉を飲み込んだ。
「110番したほうがいいかも──」
そう言って私がスマホを操作しようとすると、慌てて探偵は白状した。
「男だよ! 名前は知らない。教えてくれなかった。だけど、呼ぶなら”アールグレイ”って呼べと言っていた」
「アールグレイ……!」
ほら、と言って探偵は自分のスマホのメッセージを私に見せた。
”ターゲットは南公園のベンチにいる”
そう書かれていた。
送り主のメッセージに個人を特定するような名前はなかった。こういうことをする人間なら、用心して本名は書かないだろう。
アールグレイといえば専務が好きだといった紅茶だ。
それに、専務に出かけるって私が連絡して間もなくこの男が現れた。
「その男の特徴は?」
私がさらに質問すると、探偵はこう答えた。
「黒髪で背が高くて色気のある男前だった。いつも高級ブランドのコートを羽織ってて、落ち着いて見えたけど、30手前くらいの若さに感じた。俺の勘だけど、大手企業のお偉いさんじゃないのかな」
専務に似てる。
私はみぞおちが凍りつくような気味の悪さを感じた。
もしかして、本当に専務なの?
何のために私を?
私は何だか怖くなった。
まんまと私を誘導して、優斗を逮捕に追い込んだ。しかも、あんなに能力のあるはずの西くんを逆に陥れたのだとしたら、専務はすごいスキルの持ち主だ。
ハッカーの世界なんて途方も無い。
私なんかに何の力があるっていうの?
私がくじけそうになったとき、西くんの言葉がよぎった。
”信じて沙耶さん”
警察に連行されていく時、振り返って私を切なそうに見た西くんの最後の顔が頭から離れなかった。
西くんとの思い出が鮮やかに蘇ってきた。
優斗のことで落ち込んでいた私を大盛りの肉料理で元気づけてくれたこと。
熱で倒れた私を介抱してくれたこと。
専務が門の前で待っているのを見て、私の手をかたく握って離さなかったこと。
私は手の平を見つめ、ぎゅっと握りしめた。
西くんも専務も優しい。
でも。
西くんには裏表がない。
直感だった。
違和感があるのは専務。
だって、優斗が私のマンションで手首を掴んだ時も、優斗が旗を振っていた時も、あんなにタイミングよく専務が現れるなんて。
私は覚悟を決めて、次の行動に出た。
私はスマホを調査してくれる会社にデータ解析を依頼した。
すると、退社後に消し忘れたままだった社内アプリに、GPS送信プログラムが仕込まれていたことがわかった。
送信先はたぶん一条専務の端末だ。
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私はこの確信を持って、USBを手に専務の元へと向かった。
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