政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します

nanahi

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15 罠

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ある夜、ロビンが部屋を抜け出し王宮の外でぶらぶらいていると、こそこそと歩く怪しい侍従がいた。

その者は手に書簡を持っていた。

「見せろ」
「あっ」

ロビンは侍従から無理やり書簡を奪い取り、中身を見た。

「……?」

難しい文字が多く、所々しかわからない。

ロビン殿下か。
なら大丈夫だ。文字がお読みになれないからな。

「そろそろお返し願えませんか?」

侍従はおそるおそるロビンに頼んだ。じーっと書簡を見つめていたロビンは「いいよ」と素直に書簡を返した。

「はーっ。びっくりした。ああっと、急いで届けないと」

侍従はロビンから離れ、慌てて走り去った。

ロビンは何やらぶつぶつ呟きながら空を見ていた。



妊娠五ヶ月を過ぎ、だいぶ大きなお腹に慣れてきた頃だった。マリアから誘いの文が届いた。

気晴らしに王宮近くの林にピクニックに行かないか、とのことだった。私はマリアに気を許していたので、すぐに快諾した。

昼下がり、歩いてさほど遠くないところに美しい林が見えた。

「まあ。ちょうど日陰もあるし、心地のいい場所ですわね」
「私のお気に入りの場所ですの。特別にイーリス様にはお教えしますわ」

マリアは聖女のように微笑んだ。私は腕を広げて伸びをした。森林の香りが満ちる。

久々にリラックスした気がする。

「きゃあ!助けて」

急に林の向こうからマリアの悲鳴が聞こえた。

「大変!どうしたのかしら!」

私とエヴァが駆けつけると、マリアは草の上に倒れていた。

「マリア様!」

私がマリアに近づいたその時。

がざざっ!

「え」

枯れ草の下には地面がなかった。

私は落下しそうになる。とっさに私の手を掴んだエヴァの背をマリアが力一杯押した。

私とエヴァは数メートル下の深い穴に転がり落ちた。

ばしゃん!

古井戸?
冷たい水だ。
しかも変な匂いで赤く濁っている。

「イーリス様は私の肩に乗ってください!」

エヴァが私を肩車した。井戸の水はエヴァのあごの位置まである。私より背の高いエヴァでこれでは、私だと鼻先まで沈んでしまうだろう。

「マリア様ー!助けを呼んでください!」

私は叫んだ。エヴァは難しい顔をしている。

「大丈夫ですか?助けを呼んできますわね」

マリアははるか上の方からこちらを覗き込み、すぐに顔を引っ込めた。

本当に助けを呼んできてくれるのだろうか?

一抹の不安がよぎった。

「助けは来ないかもしれません」

エヴァが希望を奪うようなことを言った。

「さっきマリア様に背中を押されました」
「えっ!嘘でしょ?」

信じられなかった。でもエヴァは確信を持って「あの人は敵です」と答えた。

そんな…どうすればいいの?

周りには家もなく、人気もなかった。ここは林の中で人目にもつきにくい。

「誰かあ!」
「おーーーい!!」

私とエヴァはしばらく大声で助けを呼んだが、誰一人来てはくれなかった。



「寒…」

だんだん陽が落ちてきて、気温が下がってきた。濡れたドレスが私の体温を奪っていく。

「ごふっ」

下で私を支えているエヴァが疲労で沈みかけている。

「エヴァ!私を降ろして休んで頂戴!」
「ダメです。死んでもイーリス様を離しません」

エヴァは険しい顔で疲労と凍えに耐え続けている。

このままではお腹の赤ちゃんが流れてしまうかもしれない──
エヴァだってこの汚い水を飲んで死んでしまうかもしれない──

私は恐怖でがたがたと震えはじめた。

助けて──誰か。

胸に手を当てた時、何か固いものが当たった。

「!?」

そうだ、笛。
ロビンがくれたSOSの笛。
一か八かだ。

私は震える手で笛を取り出し、思い切り息を吹き込んだ。




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