政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します

nanahi

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16 瀕死

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私が寒さで意識を失いかけた時、上から声が降ってきた。

「イーリスちゃん!」
「イーリス!大事ないか!?」

ああ。
ロビンと陛下だ。
ロビンが陛下を連れてきてくれたのだ。

エヴァ。赤ちゃん。
もう大丈夫よ──

私は緊張の糸がぷつりと切れ、気を失った。



目が覚めるとベッドの上だった。

「イーリス!」
「イーリスちゃん!」

陛下が私の右手を、ロビンが左手を握っている。妙な感覚だ。

「ロビンが知らせてくれたのだ。そなたが助けを呼ぶ笛が鳴ったと。本当によかった」
「お腹の子とエヴァは…!?」

私はあの水の冷たさを思い出し、ぞっとしながら確認した。

「大丈夫だ。赤子はちゃんと元気にお腹の中を動き回っていると医師が言っておったぞ」
「よかった…」

私は安堵の息を吐いた。エヴァの話をまだ聞けてない。私は促すように陛下の顔を見つめた。

「陛下…?」

視線を下げ、明らかに言い淀んでいるのがわかった。

「エヴァは?陛下?無事なんでしょう?」

ロビンは私と陛下のやりとりをはらはらしながら見ている。

「エヴァはまだ生きている」

生きている──

この言葉が意味するのは。

エヴァは瀕死だ。

私はベッドから飛び出した。



「エヴァ!!」

エヴァが寝かされている部屋に私はお腹の子のことも忘れる勢いで駆け込んだ。

エヴァは全身が真っ赤に膨れ上がり、呼吸は早く目はうつろだった。皮膚に紫色の発疹が広がっている。

「エヴァはどうなの!?大丈夫なの!?」

私は介抱していた医師につかみ掛かるように問いただした。

「…回復の見込みはございません」

低い声で医師が答えた。

「あの井戸の水に毒が混じっておりました。エヴァは多くの水を飲んでしまって──」

ショックでぐらりと私の体が傾いた。側に来てくれていた陛下とロビンが私を支えた。

「毒抜きは?薬剤ならあります」

私は気持ちを奮い立たせて医師に提案した。

「試してみましょう。ですが、この症状は見たことがございません。もしかしたら新種の毒かもしれません。その場合は…」

わかっている。
効くか効かないかやってみないとわからない。

涙を押し留めながら私はエヴァの介抱を始めた。

だが、エヴァの容態は一向に回復しなかった。私は陛下に、実家から薬学博士と医師団を派遣してもらうよう願い出た。

父は国の薬学研究所総出でエヴァを必ず助けるよう王命を出した。薬を積んだ何台もの荷馬車が連なり、続々と医師や薬学博士がレンバッハの地に降り立った。

「騒々しいこと」

マリアが虫でも見るような目で言った。

「あの侍女しぶといこと。イーリスが飲めばよかったのに」

マリアの独り言は誰にも聞こえていない。

クリューガー王国から到着した者たちは皆イーリスに一礼したあと、エヴァの介抱を始めた。

「これはエデル大陸の~に似ている症状だな」
「ただ、紫色の発疹が出るのは~系の鉱物のはずだ」

あれやこれやと医師団は薬学博士たちと議論しながら、持参した膨大な数の薬箱からエヴァにさまざまな薬剤を試し始めた。

「エヴァ。お願い帰ってきて…」

イーリスはエヴァのそばに行ってはその手を握り続けた。

医師たちの話では普通の人間ならとっくに死んでいる状態らしい。エヴァの強靭な意志と体力がなんとか彼女を生きながらえさせていると。

「あの侍女怖いけど、死ぬのは嫌だな」

ロビンが憔悴したイーリスの隣で見守った。



それから10日が経った。五つ目の薬剤でようやくエヴァの症状がおさまりはじめた。体中の腫れがひき、発疹も数を減らしつつある。

「エヴァ!エヴァ!」

ゆっくりとまぶしそうにまぶたを開いたエヴァにイーリスは取りすがって泣いた。

「あの毒を調べましたが、自然に湧き出るものではありませんでした。意図的に撒かれたものだと推測します」

古井戸の水質検査を終えた薬学博士がそうイーリスに報告した。

誰──
誰。エヴァをあんな目に合わせたのは。

私は煮えたぎる怒りで震えた。

マリア。
あなたなの?

遠くからイーリスを見ていたマリアとイーリスの視線が交差した。




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