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12 聖なる力
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私はハイヒールを脱ぎ捨て、王宮の庭園を目指し全力で走っていた。途中、悪魔の魔光線が私に襲いかかった。暗い空を切り裂き、重力のある光が向かってくる。
じゅう!
「ああっ!」
私の肩をかすった魔光線の残光で、髪飾りが焼け飛び、黒髪がばらけた。
「うう…」
私は肩の激痛に堪えながら、立ち止まることなくひたすらに女神像を目指し続けた。
きっと、王宮の守り神はあの女神像よ。
そんな確信とともに強い引力を感じるまま走った。
ようやく私は以前、王太子と一緒に掃除をした槍と盾を持つ女神像の元にたどり着いた。
すると私の到着を予知していたかのように、空から光る短刀が降りてきた。
【その短刀で心臓を捧げよ。そうすれば聖なる力が解放されよう】
頭に響き渡るように女神様の声が聞こえてきた。
「心臓って…これで心臓を突くの…!?」
光る短刀を持つ手がガタガタと震えはじめる。
怖い…!
今更ながら恐怖心が足元から音を立ててせり上がって来た。
奇跡はもう起こらない。二度目の転生はないだろう。
これでもう二度と、殿下と会えなくなる。
そう悟った瞬間、胸が締め付けられ、涙が堰を切ったように溢れはじめた。
「わかっていたけど、好きな人と別れ別れになるってこんなに怖くて、こんなに胸が苦しいの…?」
嗚咽を抑え込みながら、それでも私は自身を叱咤した。
「おじけづいてはダメよ…頑張るのよ!」
苦しいけれど、悲しいけれど、やり遂げなければならない。
そう、きっとこれが、神が私をこの世界に呼んだ理由。
命をかけてこの世界を救うことが私に与えられた役目だったのだ。
私は大きく息を吸って奥歯を噛み締めた。
──『おいしいか?』
一瞬、王太子のいたずらっぽい笑顔が心に浮かんだ。
殿下──
ふと笑った私の頬に最後の涙が伝った。
私は目を閉じ、ぐっと力を込めて短刀を握り締め、思い切り胸に突き立てた。
刃が私の心臓に吸い付くように深く沈んでゆく。
心臓からあふれる血を吸って、短刀からまばゆい光がほとばしる。
私の足元から、猛烈な速度で植物の芽が生え始める。
瞬く間に成長していく植物が庭園を塗り替えるように、はるか彼方まで押し広がっていく。
やがて辺り一面に黄金の穂をたたえる聖なる麦が実った。
グガアアアアア!!!
ふいに悪魔が苦しみ始めた。
聖なる麦に触れた悪魔の足から煙が上がっている。
聖なる力によりダメージを受けているようだ。
ぎぎぎ…
私の目の前の女神像がにわかに動いた。
槍を天高く掲げる。
すると聖なる麦から黄金の光が槍の先に集まり始めた。
悪魔は女神像を敵と認定したのか、魔光線を放った。
「女神様、危ない…!」
私は出血多量で薄れていく意識の中、女神像に呼びかけた。
女神像は盾を持ち上げ、魔光線を弾き飛ばした。
悪魔が驚愕して目を見開く。
ついに槍におびただしい量の光が集まった。
ぎぎぎ…
女神像は槍を持ち直し、悪魔めがけて投げ飛ばした。
ひゅうん──
──ざくん!
槍は見事に悪魔の腹を貫通した。
悪魔は悶え苦しみ、躍起になって槍を抜こうとする。だが、掴んだ手さえも光で溶けていく。
凄まじい女神の祓いの力だった。
ひきつれるような最後の咆哮のあと、悪魔は次第に消し炭となり、消失した。
「勝ったのね…?女神様、ありがとう…これで心置きなく死ねます」
私は地に倒れ込んだ。
【誰が死ねといいましたか?】
「はい??」
倒れたまま聞こえてきた女神様の言葉を私は最初理解できなかった。
「シンシア!シンシア!!!」
足を引きずりながら駆け寄ってきた王太子が私を抱き起こす。
「よかった、生きててくれて…!」
え?だって私、心臓が──
自分の胸に目を落とした私は驚きの声をあげた。
血がついていない!
傷跡もない!?
【聖なる豊穣の力を解放する触媒としてあなたの血を使わせてもらいました。礼として傷は全快しておきました】
えええ!そうだったの!?
女神様、ありがとう…!!
【幸せに、なるのですよ──】
王太子と抱き合って泣く私に女神様は祝福の言葉をかけた。
じゅう!
「ああっ!」
私の肩をかすった魔光線の残光で、髪飾りが焼け飛び、黒髪がばらけた。
「うう…」
私は肩の激痛に堪えながら、立ち止まることなくひたすらに女神像を目指し続けた。
きっと、王宮の守り神はあの女神像よ。
そんな確信とともに強い引力を感じるまま走った。
ようやく私は以前、王太子と一緒に掃除をした槍と盾を持つ女神像の元にたどり着いた。
すると私の到着を予知していたかのように、空から光る短刀が降りてきた。
【その短刀で心臓を捧げよ。そうすれば聖なる力が解放されよう】
頭に響き渡るように女神様の声が聞こえてきた。
「心臓って…これで心臓を突くの…!?」
光る短刀を持つ手がガタガタと震えはじめる。
怖い…!
今更ながら恐怖心が足元から音を立ててせり上がって来た。
奇跡はもう起こらない。二度目の転生はないだろう。
これでもう二度と、殿下と会えなくなる。
そう悟った瞬間、胸が締め付けられ、涙が堰を切ったように溢れはじめた。
「わかっていたけど、好きな人と別れ別れになるってこんなに怖くて、こんなに胸が苦しいの…?」
嗚咽を抑え込みながら、それでも私は自身を叱咤した。
「おじけづいてはダメよ…頑張るのよ!」
苦しいけれど、悲しいけれど、やり遂げなければならない。
そう、きっとこれが、神が私をこの世界に呼んだ理由。
命をかけてこの世界を救うことが私に与えられた役目だったのだ。
私は大きく息を吸って奥歯を噛み締めた。
──『おいしいか?』
一瞬、王太子のいたずらっぽい笑顔が心に浮かんだ。
殿下──
ふと笑った私の頬に最後の涙が伝った。
私は目を閉じ、ぐっと力を込めて短刀を握り締め、思い切り胸に突き立てた。
刃が私の心臓に吸い付くように深く沈んでゆく。
心臓からあふれる血を吸って、短刀からまばゆい光がほとばしる。
私の足元から、猛烈な速度で植物の芽が生え始める。
瞬く間に成長していく植物が庭園を塗り替えるように、はるか彼方まで押し広がっていく。
やがて辺り一面に黄金の穂をたたえる聖なる麦が実った。
グガアアアアア!!!
ふいに悪魔が苦しみ始めた。
聖なる麦に触れた悪魔の足から煙が上がっている。
聖なる力によりダメージを受けているようだ。
ぎぎぎ…
私の目の前の女神像がにわかに動いた。
槍を天高く掲げる。
すると聖なる麦から黄金の光が槍の先に集まり始めた。
悪魔は女神像を敵と認定したのか、魔光線を放った。
「女神様、危ない…!」
私は出血多量で薄れていく意識の中、女神像に呼びかけた。
女神像は盾を持ち上げ、魔光線を弾き飛ばした。
悪魔が驚愕して目を見開く。
ついに槍におびただしい量の光が集まった。
ぎぎぎ…
女神像は槍を持ち直し、悪魔めがけて投げ飛ばした。
ひゅうん──
──ざくん!
槍は見事に悪魔の腹を貫通した。
悪魔は悶え苦しみ、躍起になって槍を抜こうとする。だが、掴んだ手さえも光で溶けていく。
凄まじい女神の祓いの力だった。
ひきつれるような最後の咆哮のあと、悪魔は次第に消し炭となり、消失した。
「勝ったのね…?女神様、ありがとう…これで心置きなく死ねます」
私は地に倒れ込んだ。
【誰が死ねといいましたか?】
「はい??」
倒れたまま聞こえてきた女神様の言葉を私は最初理解できなかった。
「シンシア!シンシア!!!」
足を引きずりながら駆け寄ってきた王太子が私を抱き起こす。
「よかった、生きててくれて…!」
え?だって私、心臓が──
自分の胸に目を落とした私は驚きの声をあげた。
血がついていない!
傷跡もない!?
【聖なる豊穣の力を解放する触媒としてあなたの血を使わせてもらいました。礼として傷は全快しておきました】
えええ!そうだったの!?
女神様、ありがとう…!!
【幸せに、なるのですよ──】
王太子と抱き合って泣く私に女神様は祝福の言葉をかけた。
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