おいしい狩猟生活

エレメンタルマスター鈴木

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「あなた達!分かっているの?強い魔物だっているかもしれないんですよ!」

「だ~いじょうぶだって、それにこれだけの人数がいるんだし」

「そうそう。大人の人達も多いし」

「先生は反対です!」

「いやもう学校なんて無いんだし、先生も生徒も無いっての!」

「まぁまぁ五十嵐先生。私と、他にも教師陣から何人かついて来てくれるみたいですし」

「林先生…。しかしですね」


  うーん。話している間に、他にも男子生徒達から賛同者が増え続けているようだ。若さ故か、自信満々な顔をしている者が多い。恐らくゲーム知識などからくる魔物のイメージで判断しているのだろう。
  女子生徒達に動きは無い。魔物が怖いのだろう、彼女達はずっと不安そうな顔をしている。

  ん。行動を開始するようだ。どうやら彼らの決心は固いみたいだな。こりゃ止められそうにない。男手が減るのはかなり痛いんだがなぁ。


「じゃあ一緒に街に行く人はこちら側に来てくれ。人数を確認しよう!」


  男子生徒達から相当数同行者が出たようだ。かなりの人数になっている。
  一般男性二十一名、男子生徒六十八名、引率の男性教師五名、計九十四名。

  半分近く人数が減る。食料問題が大分楽になるだろう。だが同時に男手がこれだけ減るのは痛過ぎる。
  力仕事なんていくらでもあるし、夜の見張りや魔物が来たときの対処など、成人男性達を正直当てにしていたんだが。
  大人の男性で残っているのは俺を含めて七名のみだ。これは残った男子生徒達にも気張ってもらわないとな。

  とりあえず、彼らが出発する前に餞別を渡しておこう。


「少し時間いいか?」

「ああ。あんたも街に行くのかい?」

「いや、俺は待機組だ。流石に手ぶらは厳しいだろうから、ヤシの実を幾らか持って行って貰おうと思ったんだ。見る限り砂浜に沿って、ずっとヤシの木が続いて生っているから数はある。
  水筒代わりになるし、果肉も食べられる。道中の岩にでもぶつけて穴を開ければいい。もし魔物に遭遇したなら、投げて使うのもいいんじゃないか?」

「なるほどそれはいい!いや~、街に向かう事ばかりに意識が向いていたよ」


  臨時で移動組のまとめ役をしているのだろう男が、会話に応じてくれた。
  焦ったりすると視野が狭くなる。それは俺にも言える事だ。気を付けよう。彼らも食料が一切無いこの状況が不安で必死なんだ。俺にできる手助けがあればしてやりたい。


「では俺が幾らか用意しよう。自分で取れる人がいるなら、手伝ってもらえると早く終るぞ。それと取るのは緑色をした未熟果だ」


  皆顔を見合せているが、誰も登れる者はいないようだ。まぁヤシの木は高いもので三十メートルするものまである。ここに生っているのは十五、六メートル程かな?それでも十分高い。慣れてないと危ないからな。

  早速手近な木を選び、指を幹にめり込ます勢いで掴み、両足でも万力のように両側からはさみこむ。後は尺取り虫とカエルを足したような動きでピョンピョン登るだけだ。
  実の部分に到着するのに八秒近くかかってしまった。祖父ならこの半分の時間で済んだろう…。もっと精進しよう。

  一本のヤシの木に数個ずつは実を残しておきたいので、全部は取らずに上から落とす。
  一本一本に結構な数が生っているので、集めるのは簡単そうだ。
  滑る様にスルスルと降りる。まだ手や足の皮膚が薄く、鍛えも慣れも足りていない頃にこれをやって、皮がズル剥けになった事があったが、ありゃ痛かった。


「ヤシの木一本毎に生ってる実が多い、人数分直ぐに集めるからもう少し待ってくれ」

「すまないな。しかし、見事なもんだ」

「慣れだな。腕と足の動かすタイミングさえわかれば、細い幹なら案外簡単にいく。」


  数分で、人数分の九十四個が集まった。
  明るい内に距離を稼ぐために、彼らは直ぐにでも出発するようだ。


「ヤシの実をありがとう。俺達はもう行くよ。できれば、君が来てくれると色々と頼もしいんだが」

「待機組には小さい子達もいる。流石に置いてはいけない。俺みたいなのが一人は残らないとな」

「そうか…。そうだよな」

「君らが街に辿り着けたら、救援を呼んでくれると助かる」

「勿論そのつもりだ。街の人達に頼み込んで、救援を手伝って貰うよ。
  じゃあ、そっちも気を付けてな。」

「ありがとう。君たちの無事を祈るよ」


  機長にあたっていた人達も謝罪してから出発するようだ。頭を下げているのが見える。元々は悪い人達ではないんだろうな。

  彼らには彼らの選択がある。俺には無謀に思えても、彼らにとっては今移動するのが一番だという事なんだろう。
  どっちが正解かなんて解らない。今はただ彼らの無事を祈ろう。

  離れ行く彼らの背を見送った。



  さて、待機組も色々と行動を開始しよう。死者が出てから焦っても遅いのだから。
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