おいしい狩猟生活

エレメンタルマスター鈴木

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  まずは待機組でも話し合いをした方がいいな。今後の方針やそれぞれの役割をある程度決めよう。
  それと日陰に移動した方がいいな。


「皆、日陰に移動しないか?日に当たって体力を無駄に失うし、この世界には魔物がいる。空を飛ぶような奴からは、ここは丸見えになっている」


  口には出さなかったが、皆、あの時のドラゴンを真っ先に思い浮かべたのだろう。素早く移動に移ってくれた。

  俺、地球にいた頃は殆ど祖父と二人で行動してたから、集団行動は学校の体育でのもの位しか経験がないんだがなぁ。仕事も工場のライン作業で一人で黙々とするものだったし。ましてやその集団行動でリーダーシップを取る様な経験は皆無だ。

  それでも、やるしかないんだろうなぁ。誰かがやるのを待ってたら手遅れになる。


「さて、ここに残った待機組は直ぐに街に向かう事こそしなかったが、このままでいいと思っている者はいないよな?特に水と食料の問題は深刻だ。命に直結する」


  皆、不安そうな顔をしているが小さく頷いた。現状は確り認識しているんだろう。だがそれを打開する手段を持たない、何をすればいいのか分からない、そういう事だろうな。
  普通に生活している人はサバイバル経験や知識などないだろうしな。もしもを考えてサバイバル知識を勉強してました。なんて人は、元々そういう事に興味のある者か、サブカルチャーから自然と知識の着いた者やオタクくらいだ。


「まずは目標を決める。何の準備もしていないこの状態で、街に行くのは現実的じゃない。移動組の彼らはそれを承知で移動を選んだが、俺達は残る事を選んだ。だから、とりあえずはここで最低限の生活基盤を整える事を目標としよと思う。そして余裕が出てきたら、移動することを考える。どうだ?反対意見とかあるかな?」


  見渡して見るが、皆小さく首を振って同意してくれた。一人手を挙げている。神に質問していたしっかりイケメン君だ。


「何かな?」

「異論はありません。ただ、僕や恐らくはここにいる殆どの人は、こういう時にどういった行動を取ればいいのか、そういった知識を持っていません。そういう人はどうすればいいでしょうか?」

「何をすればいいのか分からない人は、知識のある人から話を聞いて、自分に出来そうな事を積極的に行うことで協力して欲しい。例えば、あまり奥に行くと危ないから浅い場所だけでいい、落葉や枯れ枝を拾い集めて欲しい。乾いている物はすぐに火の燃料になるからな。
  後は、太めで長い枝などをスコップ代わりに使って、なるべく深く穴を掘るんだ。トイレなんてここにはない。そこら回しに好き勝手に致していたら衛生面に悪い。疫病に掛かって苦しむのなんて嫌だろう?
  こういった専門の知識を必要としないような事を手伝って貰えるだけで凄く助かる。他の人に出来ない事をできる者が、誰にでも出来ることまでしていたら、時間がいくらあっても足りなくなる」

「なるほど。とても分かりやすかったです。ですが、水や食料はどうするんですか?今一番どうにかしなければいけない問題ですが」

「それは俺が中心になって動くつもりでいる。俺は狩猟を趣味にしててな。地球にいた時はそれを目的に海外の色々な秘境にも行っていたくらい、サバイバルには自信がある。
  幸い、と言うとアレだが人数が減った今なら、満腹に成る程は用意できなくても、命を繋ぐくらいの食料は用意できると思っている」


  そう言った瞬間、今まで不安と焦りに包まれていた空気が和らいだ様に感じた。地球にいた時は、日本に住んでて餓死の危機なんて感じた事はなかっただろうからな。かなり怖かっただろう。

  大見得を切ったが、随分人数が減ったとは言え百人と少しはいるだろうから、かなり気張る必要があるだろうなぁ……やってやらぁ!あの人外レベルの祖父に育てられた俺を舐めるんじゃねぇぞ!

  だが食料調達にだけ専念してはいられない。移動組が街に辿り着けなかった事も考えて、後々の為に街方面への探索もしておきたい。食料調達ができる者を何人か育てたほうがいいな。


「ちょっと全員で自己紹介しようか。その時に何か自分にできる事がある人は申告して欲しい。まずは俺からだな。名前は狩生玄夜、先程話した通りに食料調達を中心に動くつもりだ。呼ぶときは短くゲンで頼む」


  順番に自己紹介をしてもらった。全員で百十三名いるようだ。
  詳しくは俺、老夫婦、子供二人の家族、子供一人の家族、子供二人の母子家族、機長、副機長、CA五名、女性教師二名、男性教師一名、男子生徒六名、女子生徒八十四名となっている。

  この内何人かが、自分に出来ることがあると申し出てくれた。 



  老夫婦の爺さん。シゲ爺と呼んで欲しいそうだが、シゲ爺は元大工の棟梁らしい。道具がないからちゃんとした家は造れないが、簡単な屋根や壁のある小屋なら造れるらしい。歳のせいか力が弱くなったが、周りにいる若いモンに手伝わせると力強く笑っていた。拠点造りと長老ポジションを任せることにする。

  老夫婦の婆さん。フミ婆さんは手紡ぎが得意らしい。真っ直ぐな棒さえあればコツコツと作っていくと言うので、木の枝を、簡易石ナイフでツルッとした手触りになるように削って渡しておいた。後でヤシの実の成熟果の外皮からココナッツファイバーを毟って渡すので、ロープや敷物を作って貰おう。フミ婆には女性陣の相談役と手紡ぎ指導を任せよう。爺と婆頼りになるな!

  しっかりイケメンの匠。タクでいいとの事。サバイバルの知識は無いと言っていたが、肉屋の息子で解体の知識があるみたいだ。自分で獲物を狩れるわけではないので、役に立たないと思っていたらしい。牛、豚、鳥と、何故か魚もいけるらしい。それに血や臓物にも既に耐性があるので、その内タクには狩猟と武術を仕込むつもりだ。

  オタクトリオの奏輔、大輔、祐輔。この三人もソウ、ダイ、ユウでいいらしい。神にチートを貰いたがっていた子等だ。農業や刀の作り方、一部料理やサスペンションにポンプの作り方など、所謂ネット小説のお約束的知識を持っているが、今の状況で役立つ知識はあまり無いらしい。ただ、神との会話で強くなるために自分で努力をしようと決意したらしく。狩猟や戦闘に意欲的だ。ヤル気があって大変好ましいので、ソウ、ダイ、ユウもタクと共に狩猟と武術を仕込むつもりだ。

  母子家庭で二児の母の麗華さん。彼女はハーブや香辛料、ある程度の野草の知識があるらしい。それと料理教室を開いていた程度には料理に自信があるとか。娘二人が言うにはママの料理が世界一との事。ドヤ顔で自慢してて超絶可愛い。麗華さんには何人かを連れて拠点周辺での野草探しと、料理の指導を任せることにする。


  現状で積極的に動こうとしているのはこのメンバーだ。他にも色々と専門性のある人はいたが、地球に家族を残して来たことをまだ割り切れていないようで、どうも頼りない。自分の命が掛かっていると分かっていても、スッパリと割り切れる人間の方が少数だろう。彼らについては少し様子をみよう。
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