おいしい狩猟生活

エレメンタルマスター鈴木

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  異世界に来てから約一月が経つ。色々と問題点もあったが、概ね順調だ。
  俺も馬車馬の如く働かせてもらってます……はい。
  お陰で採掘、造林、土木、錬金の生産スキルを取得している。



  まず砦と防壁についてだが、二百人が生活できる頑丈なのがもう完成している。最優先事項だったからな。それに魔物料理のバフ効果と、やはり魔法の力が大きい。

  魔法教室の効果が開始からすぐ表れ始め、基礎の無魔法取得者が短時間で爆発的に増え、次いで土・水魔法と取得がスムーズに進んだ。
  現代教育を受けている俺達には既に土台があったために、早く理解に及ぶ事ができたのだ。後は繰返し無魔法で属性現象を起こせば、取得は割りと簡単だった。俺も風と氷魔法を新しく取得した。
  これが科学の進んでいないらしいこの世界の人間なら、自力で取得するのにもっと時間がかかるのだろうな。

  そんな訳で砦造りには土魔法が本領を発揮し、砦の主材料の石の増産に大いに役立った。しかも堀の拡張や水路、地下室を作るついでに石に変えるので一石二鳥だ。



  周辺地理と魔物についてだが、南の海まで約二キロ、西の河川まで約四キロ、東の湿地まで約四キロ、北方面の森の約三キロの位置までは兎と蜂のみで、後は普通の生物しか存在していなかった。

  思うにここは、ある種の安全地帯なのだろう。
  南の海からはそもそも魔物が来ないし、西の河川にはあの巨大鮭やワニがいる。東の湿地にしても巨大蟹や大量のスライムがいる。これらが天然の防壁になっているのだろう。
  あいつらより強かったり、あるいは飛んでいる魔物ならやってくる可能性もあるが、今のところそういった事は一度も無い。そういった強い魔物程、独自の縄張りを持っていて、特別な理由でもなければ移動しないのかもしれないな。

  兎や蜂については、移動してきたのではなく恐らくは元々、この辺りに生息していた種なのだろう。
  兎は魔物肉として優秀な割りに狩り易いので助かっている。
  しかも繁殖力が強いのか、それとも魔力溜まりとやらで増えているのか、狩っても狩っても数が減っていかない。今のところ肉に困る心配はない。

  蜂の方も活動範囲が狭く、許容範囲を越えない限りはあの特攻はかましてこないので、脅威度は高くない。ただこいつらのハチミツは通常の物より美味いので、魔物で養蜂が出来ないために毎回全滅させて確保している。すまんの。
  まぁこいつらも魔力溜まりから生まれているのか、数日すると毎回幾つかある定位置に巣が復活しているが。
  それと養蜂については森にいる普通の蜜蜂で行う計画が立てられている。



  ただ問題は北だ。
  三キロ辺りから一気にゴブリンやコボルトの数が増え始める。
  他の方角のように移動を遮る地形が無いため、こちらに流れて来やすいのだろう。北からばかり魔物がやってくるのはこれが原因だな。最近数も増えているので、一層警戒を高めている。

  ちなみにオタトリオの街づくり計画書には、完成した砦を北側の門として、南は海までの二キロ、東西にそれぞれ一キロの二キロ四方の計画で書かれていた。
  防壁も今は砦周りが終わったので、徐々に二キロ四方をぐるっと覆うつもりで伸ばしている。
  防壁の中の殆どは田畑と果樹園予定なので、その大きさになるのも分かる。食料の自給は大事だからな。

  たださぁ……この計画書、何故か拡張前提で書かれてんだよ。東西に更に一キロずつと北に二キロ延長して、最終的に四キロ四方で一気に四倍、東京ドームにして約三百四十個分だぞ……?
  二百人には広すぎね?ゴルフ場でも作るんかい。
  オタトリオに聞いても「まぁまぁ兄貴、いずれ必要になりますから!」とほざきやがる。

  ……あいつらには一体何が見えてるんだ?



  田畑や果樹園については、既に結構な広さだが更に拡大中だ。
  何せ二キロ四方の街の区画別けは、ザックリ分かりやすく四つになっているのだが、北西の一区画を除いて、残り三区画がそれぞれ田んぼ、畑、果樹園となる予定だ。

  ちなみに北西の一区画は、露天風呂や各種施設を含む住宅区となる。

  ハーブや香辛料を含めた野菜や茸、果物については、スーパーで並ぶ様な有名どころから、海外でしか見られないマイナーな物まで、かなりの種類を揃えた。
  田んぼで分かる通り米も、醤油と味噌に欠かせない大豆もしっかり見つけてきた。
  一月色々な仕事で奔走しつつ、ついでに頑張って探し集めたさ……褒めてくれよ。

  砦作りで皆の土魔法の熟練度がみるみる上がったため、田畑作り自体は早く進み、果物は木を根の周辺の土ごと植樹した。
  土魔法で必要な栄養素をイメージしながら、腐葉土や魔物の灰を混ぜて耕したのだが、本田さん夫妻に聞くところ、植物の成長が倍は早いと言う。

  この世界の植物が、そもそも気候を無視して繁殖する程強いのもあるだろうが、多分魔物の灰も原因の一つだろうなぁ。
  耐火レンガの時もそうだったが本当に万能だな。ランクの高い魔物の灰なら、更に効果が高いのだろう。

  そんな風に農耕組が頑張っている中、本田さんがやらかした。

  別に悪い事をした訳じゃない。丹精込めて田んぼの世話をしている最中に、ふと思い付きで魔力を流してみたらしい……大きく美味しく育つように、成長過程を想像しながら。
  結果、その田んぼ内の苗は早送りの様に収穫可能な稲穂に成長し、本田さんは新たに木魔法を取得していた。

  素チートなのはシゲ爺とフミ婆にオタトリオだけだと思ってたんだがなぁ。農家さん無双?
  とにかく、米が食えますありがとう!あ、木魔法は俺や他の人もしっかり覚えました。

  ただ木魔法だが、急速に成長させても味に問題はなかったが、一気に成長させるには魔力を多く消費するし、普通の成長と同じ様に必要な栄養を土から吸いとるため、収穫後はしっかり肥料を入れて耕し直さなければならない。木魔法を連発してるだけでウハウハとはいかないようだ。
  なので、早く収穫したい時や必要な物がある時以外は、少し成長を促す程度にする事になった。
  魔力の使い道は他にも色々あるからな。



  野菜等が充実したことで、生活必需品と紙、酒など作れる種類が大幅に増えた。
  生活必需品は調味料、保存食、石鹸、整理用品、スキン・ヘアケア用品、トイレットペーパー、衣類などがぞくぞくと出来上がっている。

  衣類については、フミ婆率いる服飾チームが頑張っている。スキル熟練度が上がってきているのが質にしっかり表れてきた。
  俺も狩猟用の装備を、改めてフミ婆に仕立て直してもらったが、魔物素材なのもあるだろうが、店売りなんぞ目じゃない程の高品質だ。
  親指を立ててニッコリ笑う顔はとても頼もしかった。……歯は抜けていたが。

  調味料については麗華さんを中心に料理好きチームが、味噌、醤油、酢、砂糖、塩など主要の物からスパイスやハーブに至るまで、幅広く作っている。
  どうやら麗華さんは自家製の味噌や醤油に酢を作っていたようで、オタトリオに聞かなくても作り方を既に知っていた。流石料理人。
  娘達も手伝いをしている様で、三人揃っていつものドヤ顔を見せてくれた。
  当然褒めちぎっておきましたとも!

  紙はサトウキビを搾った残りのパガスと呼ばれる物で作っている。
  ここでも魔物の灰を使っているのだが、灰を混ぜる事で薄いのに破れにくく、しかも塩素を使わなくても漂白されて白くなるため、品質的にもエコ的にも地球の紙を凌ぐかもしれない品となった。
  オタトリオの街づくり計画書に使われている紙はこれだ。

  そして酒だが、酒好き故に酒造り体験によく参加していたという安部さん夫婦と、酒造りに興味があったと言う井上君と五十嵐さんカップルが主導で作っている。
  安部さん夫婦が穀物や根菜を使った酒を担当し、後の二人が果実やその他サトウキビや樹液を使った酒の担当に別れて作業している。
  それぞれ酒好きの大人達から希望と言う名の突き上げを食らっており、いつも忙しそうに作業している。
  もうすぐオタトリオが蒸留器を完成させるらしいが……忙しさで倒れないようにヘルプを誰かに頼んどくか。
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