2 / 131
プロローグ
町に入りました
しおりを挟む
キュア。
本来はこの世界の回復術の基本中の基本である普通の回復呪文である。傷を癒やすことができ、本来の消費MPは10であるが武はMP消費軽減のスキルにより半分の消費MPで使うことができる。
できるのだが、若返りの効果などあろうはずもない。
これは武の固有スキル、回復術創造の効果である。
彼はありとあらゆる作り出した呪文を、キュアと結びつけて創造したのである。
【遡行】は、キュアで体の細胞を回復させる過程で細胞の老化も回復させる効果を創造し、その効果をキュアに埋め込んだのだ。
埋め込んだ呪文を使う時、例えば武の場合はキュアしかないが、キュアを使う時に【】で発動する効果を指定するのだ。今回の場合は肌の老化を回復させる効果を遡行という効果を持たせたキュアを発動させ、若返ったのだ。
「よし行こう」
幼くなった武は勢いよく立ち上がり、ローブの端を自分で踏みつけて転んでしまった。
「うわっ……うぅんやっぱり若返りすぎたかな」
少しだけ後悔しながら、袖や裾を捲ってローブを短く詰めて体の動きに引っかからないようにしてトテトテと歩いて森を出ていくのだった。
【保井 武】
年齢:12歳(32歳)
MP:205
もうすぐ森を出ようかというところで、武は足を止めた。
「流石にこのレベルの低さは目立つかも……」
独りで旅してきたのを装うには、レベルが少し低めなことに気が付いた。
「経験値割り振るか」
熟練度と同じくしっかりと貯め込んでいた経験値を、ステータスウィンドウを開いて確認する。
経験値:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「うわあ表示がバグってる」
勇者たちに気付かれないように貯めに貯めたせいで経験値はカンストし、この世界のシステムでは表示がうまくされないようになっていた。
「とりあえず……中盤だし50くらいにしておこう」
レベル:50
MP:300
攻撃力:D-
防御力:D
体 力:D
魔 力:A+
知 力:A+
技 量:D
俊敏性:D-
「これならそう疑わしくないだろう」
外見12歳の子どもがこのレベルに到達していることも大変珍しいことなのだが、勇者一行と辛いながらも共に旅してきた彼はそこまで思い至らなかったのだった。
ようやく森から出た武は夜道を歩いてすぐの町の入り口に辿り着いた。
そこには武と同じく町へ入るために門番の審査を受ける者たちが数名いた。
一人の男は書簡を出し、それを門番に見せるとすんなりと通された。
「よし、通っていいぞ」
誰かからの書簡があれば審査もそこそこにすんなりと通されるようだ。
(参ったな。俺はそんなもの持ってないから普通に審査を受けなくては)
審査といっても事細かく書類を作成したりするわけではない。身分を証明するものがあればいいのだ。
勇者パーティに参加した当初に、全員で冒険者ギルドに登録したことがある。その時に発行されたギルドカードが今の武が持つ唯一の身分証明書となる。
役に立つ道具や荷物は全部奴らに奪われていったが、これはあいつらが持っていても仕方のないものであるしそもそも彼が所属していたという事実すら抹消したがっている節もあったのであいつらには不要なものだったのでこうして武の手元に残っていたのだった。
「あ……」
しかしながらそのギルドカードを見て武はしまったと思った。
「よし次……なんだ坊や一人か? こんな夜中に?」
「え? ああ……はい」
愛くるしい顔が仇となって不審がられてしまった。この容姿は失敗だったかと今更ながら思う武だった。
「親とはぐれたのか?」
「いえ……所属していたキャラバンが襲われてしまって、僕一人だけ運良く逃げのびてしまって」
「なるほど……大変な目にあったのだな。よく見ればそんなに汚れて大変苦労したのだろう」
門番の兵士の男は武に同情的だった。
「身分証は持っているかな?」
それはそれとして仕事はきっちりとしているのだった。
先程見てあっと思ったギルドカードならあるが、これを出すのを武は一瞬躊躇った。
「持っていないのか? ならすんなりと通すわけには」
「いえ持ってます。これでいいですよね」
差し出す寸前、武は口の中でキュア【改竄】を唱えた。
「どれどれ。……その若さでブロンズ級か。なかなか苦労と経験を積んできたようだ」
ギルドには冒険者ギルドと商人ギルドがあり、本人の活躍によっていくつかの等級に分けられている。
登録したてや活躍をあまりしていない者はホワイト級、次いで功績が認められていく毎に、ブルー、レッド、ブラックと色が変わっていくが、ブラックまでは下級のカラーである。
ブロンズから上級になり、シルバー、ゴールド、そして最上級にプラチナが存在している。
武がブロンズなのは本人の活躍ではなく、最初に登録した時点で勇者パーティの一員だったことが理由だ。
他のメンバーは既にゴールド級に到達していたが、彼だけは一向に活躍する機会がなくブロンズのままであった。
あのパーティにいる間は身分証明など全く意味のないものだったが、今はこのカードに感謝をしていた。
そして門番から入場の許可が与えられ、彼の名前がしっかりと呼ばれる。
「では回復術師ホイムの入場を許可する。ようこそザーインの町へ、良い滞在を」
そう、彼はキュアを使ってギルドカードの内容を改竄していたのだった。
保井武の名前のままだと勇者一行にいた回復術士の武だと正体が分かるかもしれないと案じた彼は、顔や容姿を変えたはいいが名前を変えるのを直前まで忘れていた。
そこでちょちょっと呪文を使い、ギルドカードを書き換えたのだ。
本来はこの世界の回復術の基本中の基本である普通の回復呪文である。傷を癒やすことができ、本来の消費MPは10であるが武はMP消費軽減のスキルにより半分の消費MPで使うことができる。
できるのだが、若返りの効果などあろうはずもない。
これは武の固有スキル、回復術創造の効果である。
彼はありとあらゆる作り出した呪文を、キュアと結びつけて創造したのである。
【遡行】は、キュアで体の細胞を回復させる過程で細胞の老化も回復させる効果を創造し、その効果をキュアに埋め込んだのだ。
埋め込んだ呪文を使う時、例えば武の場合はキュアしかないが、キュアを使う時に【】で発動する効果を指定するのだ。今回の場合は肌の老化を回復させる効果を遡行という効果を持たせたキュアを発動させ、若返ったのだ。
「よし行こう」
幼くなった武は勢いよく立ち上がり、ローブの端を自分で踏みつけて転んでしまった。
「うわっ……うぅんやっぱり若返りすぎたかな」
少しだけ後悔しながら、袖や裾を捲ってローブを短く詰めて体の動きに引っかからないようにしてトテトテと歩いて森を出ていくのだった。
【保井 武】
年齢:12歳(32歳)
MP:205
もうすぐ森を出ようかというところで、武は足を止めた。
「流石にこのレベルの低さは目立つかも……」
独りで旅してきたのを装うには、レベルが少し低めなことに気が付いた。
「経験値割り振るか」
熟練度と同じくしっかりと貯め込んでいた経験値を、ステータスウィンドウを開いて確認する。
経験値:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「うわあ表示がバグってる」
勇者たちに気付かれないように貯めに貯めたせいで経験値はカンストし、この世界のシステムでは表示がうまくされないようになっていた。
「とりあえず……中盤だし50くらいにしておこう」
レベル:50
MP:300
攻撃力:D-
防御力:D
体 力:D
魔 力:A+
知 力:A+
技 量:D
俊敏性:D-
「これならそう疑わしくないだろう」
外見12歳の子どもがこのレベルに到達していることも大変珍しいことなのだが、勇者一行と辛いながらも共に旅してきた彼はそこまで思い至らなかったのだった。
ようやく森から出た武は夜道を歩いてすぐの町の入り口に辿り着いた。
そこには武と同じく町へ入るために門番の審査を受ける者たちが数名いた。
一人の男は書簡を出し、それを門番に見せるとすんなりと通された。
「よし、通っていいぞ」
誰かからの書簡があれば審査もそこそこにすんなりと通されるようだ。
(参ったな。俺はそんなもの持ってないから普通に審査を受けなくては)
審査といっても事細かく書類を作成したりするわけではない。身分を証明するものがあればいいのだ。
勇者パーティに参加した当初に、全員で冒険者ギルドに登録したことがある。その時に発行されたギルドカードが今の武が持つ唯一の身分証明書となる。
役に立つ道具や荷物は全部奴らに奪われていったが、これはあいつらが持っていても仕方のないものであるしそもそも彼が所属していたという事実すら抹消したがっている節もあったのであいつらには不要なものだったのでこうして武の手元に残っていたのだった。
「あ……」
しかしながらそのギルドカードを見て武はしまったと思った。
「よし次……なんだ坊や一人か? こんな夜中に?」
「え? ああ……はい」
愛くるしい顔が仇となって不審がられてしまった。この容姿は失敗だったかと今更ながら思う武だった。
「親とはぐれたのか?」
「いえ……所属していたキャラバンが襲われてしまって、僕一人だけ運良く逃げのびてしまって」
「なるほど……大変な目にあったのだな。よく見ればそんなに汚れて大変苦労したのだろう」
門番の兵士の男は武に同情的だった。
「身分証は持っているかな?」
それはそれとして仕事はきっちりとしているのだった。
先程見てあっと思ったギルドカードならあるが、これを出すのを武は一瞬躊躇った。
「持っていないのか? ならすんなりと通すわけには」
「いえ持ってます。これでいいですよね」
差し出す寸前、武は口の中でキュア【改竄】を唱えた。
「どれどれ。……その若さでブロンズ級か。なかなか苦労と経験を積んできたようだ」
ギルドには冒険者ギルドと商人ギルドがあり、本人の活躍によっていくつかの等級に分けられている。
登録したてや活躍をあまりしていない者はホワイト級、次いで功績が認められていく毎に、ブルー、レッド、ブラックと色が変わっていくが、ブラックまでは下級のカラーである。
ブロンズから上級になり、シルバー、ゴールド、そして最上級にプラチナが存在している。
武がブロンズなのは本人の活躍ではなく、最初に登録した時点で勇者パーティの一員だったことが理由だ。
他のメンバーは既にゴールド級に到達していたが、彼だけは一向に活躍する機会がなくブロンズのままであった。
あのパーティにいる間は身分証明など全く意味のないものだったが、今はこのカードに感謝をしていた。
そして門番から入場の許可が与えられ、彼の名前がしっかりと呼ばれる。
「では回復術師ホイムの入場を許可する。ようこそザーインの町へ、良い滞在を」
そう、彼はキュアを使ってギルドカードの内容を改竄していたのだった。
保井武の名前のままだと勇者一行にいた回復術士の武だと正体が分かるかもしれないと案じた彼は、顔や容姿を変えたはいいが名前を変えるのを直前まで忘れていた。
そこでちょちょっと呪文を使い、ギルドカードを書き換えたのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,312
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる