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パルメティの街

見抜きました

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「それは……」
「あ、もしかしてクエスト登録料とか報酬が払えない……とか?」

 ギルドが管理するクエストを受けることに対価は必要ないが、登録するには一定の額を支払う必要がある。加えて、依頼達成に際して出す報酬も払うとなればそれなりの金額になってくる。

(身だしなみに気を使うゆとりのないエミリアさんなら、懐事情が僕らと同じように寂しくてもおかしくないか……)
「そ、そうなんだ!」

 やっぱり思った通りだ。
 エミリアの言葉にホイムがそう納得しかけた時、またもアカネが口を開いた。

「確かに。聖華騎士団の方ともなれば、今は財産も何も持っていなくても不思議ではありませんね」

 アカネの台詞にエミリアは表情を強張らせ、ホイムは聞き慣れぬ単語に疑問符を浮かべ、ルカは熊肉を懸命に貪っていた。

「気付いて……いたのか」
「ええ。一目見て」
「聖華騎士団……? アカネさん、それは一体?」

 ホイムの問いかけに、アカネは瞳を閉じて頭の中の○○書房を引き出した。

「ここより遥か北東……大陸の端にある大国に、その名を世界に轟かせた女性だけで構成される非常に強く美しいとされる騎士団がございました」
「それが聖華騎士団?」

 アカネは首を縦に振る。

「伝え聞くところによると、戦場を駆ける様は絢爛華麗、かつ勇猛果敢。その美麗と苛烈さは……ああきっとホイム様も目を引かれることでしょうね」

 ギリギリ。
 ギブギブ。

「……ですが半年以上前……ちょうどホイム様が……旅に出られる少し前のことです」

 異世界召喚されて来たことを伏せたのはアカネの心遣いであった。

「聖華騎士団は王女の護衛も兼ねていたそうですが、何を血迷ったか内乱を起こし、守るべき王女を殺害しようとしたそうです」
「え!?」

 驚いたホイムはエミリアの顔を覗い見た。歯を食いしばり俯く彼女は、きつく拳を握りしめていた。
 その様子は素性が明かされたことを忌々しく思っている……という風ではなく、酷く悔しい思いを懸命に堪えているように見えた。

「内乱は未遂で終わったのですが、怒り狂った国王は聖華騎士団を解体、構成員は全員処刑という厳しい処罰を下しました。ですが逃げおおせた騎士団員も大勢いたと噂では聞いていましたが……まさかこうしてお目にかかれるとは思いませんでした」
「……アカネさんはいつ気付いたんですか?」
「その盾を見た時です」

 ホイムの視線は、エミリアの傍らに置かれた盾に向けられた。
 薄汚れ、幾らか欠けてしまっている装飾が施されている立派な盾である。ヘビーダノスの直進を真っ向から受け止めるだけの強靭な装備が、正体に気付いた要因だという。

「大分装飾が傷んでいるせいで気付きにくいですが、あそこには聖華騎士団の旗印である華と蔦の模様が刻まれていたはずです。私の記憶にある御旗の模様と細かい部分が一致しております」

 そう言われてもホイムはピンとこない。元のマークを知らないからだ。
 しかしアカネが言うことを肯定するように、エミリアはため息混じりに口を開いた。

「……そうか。知っていたか」

 アカネは更に追い打ちをかける。

「おそらくこの女が協力者に選ぶ者にはもう一つ条件があったはずです。この辺り一帯の知識に乏しい無知そうな冒険者、と」

 エミリアは肯定しないが否定もしなかった。

「確かにホイム様は子ども。ルカは獣族。そして私は異国じみた出で立ち。世事に疎そうな冒険者一行と思われても仕方なかったことでしょう」

 彼女の誤算は一つ。アカネの知識量であった。

「ギルドにクエストを登録しなかった……いえできなかったのも、クエストの詳細を記載してしまうことで、職員か冒険者の誰かに聖華騎士団であったことが気付れないかを警戒してのことでしょう」
「……正解だ」

 アカネの推察を、エミリアは力なく肯定した。

「私の名はエミリア・ハーウェイ。元、聖華騎士団筆頭騎士のエミリアだ」

 エミリアの本名と共に告げられた筆頭騎士という肩書にホイムはピンとこなかったが、それに反応したアカネはいち早くホイムを抱えたまま彼女から間合いを取った。

「筆頭騎士だと……!」
「あ、アカネさん?」

 突然の反応にホイムは戸惑い、ルカは飽きることなく肉を食べ続けていた。

「聖華騎士団において筆頭騎士と言えば、騎士団長に次ぐ実力者……。肩書に縛られなければ、その力量は騎士団長すら凌ぐと言われる最強の騎士です」
「そんなに強い人なの!?」
「買い被りだ。私より騎士団長の方が剣においても美においても数段優秀だ」

 剣と共に美という言葉が出てきたのは、聖華騎士団にあってはその二つが主な評価の項目になっていたからであった。

「どうだか。これも噂だが、騎士団が解体されていなければ聖華騎士団筆頭騎士は魔王討伐に向かう勇者一行に加わっていた……とも聞いたぞ?」

 ホイムの胸が僅かに高鳴った。こんな場面で勇者が関わってきたことに、浅からぬ因縁を感じてしまっていた。
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