60 / 131
パルメティの街
見抜きました
しおりを挟む
「それは……」
「あ、もしかしてクエスト登録料とか報酬が払えない……とか?」
ギルドが管理するクエストを受けることに対価は必要ないが、登録するには一定の額を支払う必要がある。加えて、依頼達成に際して出す報酬も払うとなればそれなりの金額になってくる。
(身だしなみに気を使うゆとりのないエミリアさんなら、懐事情が僕らと同じように寂しくてもおかしくないか……)
「そ、そうなんだ!」
やっぱり思った通りだ。
エミリアの言葉にホイムがそう納得しかけた時、またもアカネが口を開いた。
「確かに。聖華騎士団の方ともなれば、今は財産も何も持っていなくても不思議ではありませんね」
アカネの台詞にエミリアは表情を強張らせ、ホイムは聞き慣れぬ単語に疑問符を浮かべ、ルカは熊肉を懸命に貪っていた。
「気付いて……いたのか」
「ええ。一目見て」
「聖華騎士団……? アカネさん、それは一体?」
ホイムの問いかけに、アカネは瞳を閉じて頭の中の○○書房を引き出した。
「ここより遥か北東……大陸の端にある大国に、その名を世界に轟かせた女性だけで構成される非常に強く美しいとされる騎士団がございました」
「それが聖華騎士団?」
アカネは首を縦に振る。
「伝え聞くところによると、戦場を駆ける様は絢爛華麗、かつ勇猛果敢。その美麗と苛烈さは……ああきっとホイム様も目を引かれることでしょうね」
ギリギリ。
ギブギブ。
「……ですが半年以上前……ちょうどホイム様が……旅に出られる少し前のことです」
異世界召喚されて来たことを伏せたのはアカネの心遣いであった。
「聖華騎士団は王女の護衛も兼ねていたそうですが、何を血迷ったか内乱を起こし、守るべき王女を殺害しようとしたそうです」
「え!?」
驚いたホイムはエミリアの顔を覗い見た。歯を食いしばり俯く彼女は、きつく拳を握りしめていた。
その様子は素性が明かされたことを忌々しく思っている……という風ではなく、酷く悔しい思いを懸命に堪えているように見えた。
「内乱は未遂で終わったのですが、怒り狂った国王は聖華騎士団を解体、構成員は全員処刑という厳しい処罰を下しました。ですが逃げおおせた騎士団員も大勢いたと噂では聞いていましたが……まさかこうしてお目にかかれるとは思いませんでした」
「……アカネさんはいつ気付いたんですか?」
「その盾を見た時です」
ホイムの視線は、エミリアの傍らに置かれた盾に向けられた。
薄汚れ、幾らか欠けてしまっている装飾が施されている立派な盾である。ヘビーダノスの直進を真っ向から受け止めるだけの強靭な装備が、正体に気付いた要因だという。
「大分装飾が傷んでいるせいで気付きにくいですが、あそこには聖華騎士団の旗印である華と蔦の模様が刻まれていたはずです。私の記憶にある御旗の模様と細かい部分が一致しております」
そう言われてもホイムはピンとこない。元のマークを知らないからだ。
しかしアカネが言うことを肯定するように、エミリアはため息混じりに口を開いた。
「……そうか。知っていたか」
アカネは更に追い打ちをかける。
「おそらくこの女が協力者に選ぶ者にはもう一つ条件があったはずです。この辺り一帯の知識に乏しい無知そうな冒険者、と」
エミリアは肯定しないが否定もしなかった。
「確かにホイム様は子ども。ルカは獣族。そして私は異国じみた出で立ち。世事に疎そうな冒険者一行と思われても仕方なかったことでしょう」
彼女の誤算は一つ。アカネの知識量であった。
「ギルドにクエストを登録しなかった……いえできなかったのも、クエストの詳細を記載してしまうことで、職員か冒険者の誰かに聖華騎士団であったことが気付れないかを警戒してのことでしょう」
「……正解だ」
アカネの推察を、エミリアは力なく肯定した。
「私の名はエミリア・ハーウェイ。元、聖華騎士団筆頭騎士のエミリアだ」
エミリアの本名と共に告げられた筆頭騎士という肩書にホイムはピンとこなかったが、それに反応したアカネはいち早くホイムを抱えたまま彼女から間合いを取った。
「筆頭騎士だと……!」
「あ、アカネさん?」
突然の反応にホイムは戸惑い、ルカは飽きることなく肉を食べ続けていた。
「聖華騎士団において筆頭騎士と言えば、騎士団長に次ぐ実力者……。肩書に縛られなければ、その力量は騎士団長すら凌ぐと言われる最強の騎士です」
「そんなに強い人なの!?」
「買い被りだ。私より騎士団長の方が剣においても美においても数段優秀だ」
剣と共に美という言葉が出てきたのは、聖華騎士団にあってはその二つが主な評価の項目になっていたからであった。
「どうだか。これも噂だが、騎士団が解体されていなければ聖華騎士団筆頭騎士は魔王討伐に向かう勇者一行に加わっていた……とも聞いたぞ?」
ホイムの胸が僅かに高鳴った。こんな場面で勇者が関わってきたことに、浅からぬ因縁を感じてしまっていた。
「あ、もしかしてクエスト登録料とか報酬が払えない……とか?」
ギルドが管理するクエストを受けることに対価は必要ないが、登録するには一定の額を支払う必要がある。加えて、依頼達成に際して出す報酬も払うとなればそれなりの金額になってくる。
(身だしなみに気を使うゆとりのないエミリアさんなら、懐事情が僕らと同じように寂しくてもおかしくないか……)
「そ、そうなんだ!」
やっぱり思った通りだ。
エミリアの言葉にホイムがそう納得しかけた時、またもアカネが口を開いた。
「確かに。聖華騎士団の方ともなれば、今は財産も何も持っていなくても不思議ではありませんね」
アカネの台詞にエミリアは表情を強張らせ、ホイムは聞き慣れぬ単語に疑問符を浮かべ、ルカは熊肉を懸命に貪っていた。
「気付いて……いたのか」
「ええ。一目見て」
「聖華騎士団……? アカネさん、それは一体?」
ホイムの問いかけに、アカネは瞳を閉じて頭の中の○○書房を引き出した。
「ここより遥か北東……大陸の端にある大国に、その名を世界に轟かせた女性だけで構成される非常に強く美しいとされる騎士団がございました」
「それが聖華騎士団?」
アカネは首を縦に振る。
「伝え聞くところによると、戦場を駆ける様は絢爛華麗、かつ勇猛果敢。その美麗と苛烈さは……ああきっとホイム様も目を引かれることでしょうね」
ギリギリ。
ギブギブ。
「……ですが半年以上前……ちょうどホイム様が……旅に出られる少し前のことです」
異世界召喚されて来たことを伏せたのはアカネの心遣いであった。
「聖華騎士団は王女の護衛も兼ねていたそうですが、何を血迷ったか内乱を起こし、守るべき王女を殺害しようとしたそうです」
「え!?」
驚いたホイムはエミリアの顔を覗い見た。歯を食いしばり俯く彼女は、きつく拳を握りしめていた。
その様子は素性が明かされたことを忌々しく思っている……という風ではなく、酷く悔しい思いを懸命に堪えているように見えた。
「内乱は未遂で終わったのですが、怒り狂った国王は聖華騎士団を解体、構成員は全員処刑という厳しい処罰を下しました。ですが逃げおおせた騎士団員も大勢いたと噂では聞いていましたが……まさかこうしてお目にかかれるとは思いませんでした」
「……アカネさんはいつ気付いたんですか?」
「その盾を見た時です」
ホイムの視線は、エミリアの傍らに置かれた盾に向けられた。
薄汚れ、幾らか欠けてしまっている装飾が施されている立派な盾である。ヘビーダノスの直進を真っ向から受け止めるだけの強靭な装備が、正体に気付いた要因だという。
「大分装飾が傷んでいるせいで気付きにくいですが、あそこには聖華騎士団の旗印である華と蔦の模様が刻まれていたはずです。私の記憶にある御旗の模様と細かい部分が一致しております」
そう言われてもホイムはピンとこない。元のマークを知らないからだ。
しかしアカネが言うことを肯定するように、エミリアはため息混じりに口を開いた。
「……そうか。知っていたか」
アカネは更に追い打ちをかける。
「おそらくこの女が協力者に選ぶ者にはもう一つ条件があったはずです。この辺り一帯の知識に乏しい無知そうな冒険者、と」
エミリアは肯定しないが否定もしなかった。
「確かにホイム様は子ども。ルカは獣族。そして私は異国じみた出で立ち。世事に疎そうな冒険者一行と思われても仕方なかったことでしょう」
彼女の誤算は一つ。アカネの知識量であった。
「ギルドにクエストを登録しなかった……いえできなかったのも、クエストの詳細を記載してしまうことで、職員か冒険者の誰かに聖華騎士団であったことが気付れないかを警戒してのことでしょう」
「……正解だ」
アカネの推察を、エミリアは力なく肯定した。
「私の名はエミリア・ハーウェイ。元、聖華騎士団筆頭騎士のエミリアだ」
エミリアの本名と共に告げられた筆頭騎士という肩書にホイムはピンとこなかったが、それに反応したアカネはいち早くホイムを抱えたまま彼女から間合いを取った。
「筆頭騎士だと……!」
「あ、アカネさん?」
突然の反応にホイムは戸惑い、ルカは飽きることなく肉を食べ続けていた。
「聖華騎士団において筆頭騎士と言えば、騎士団長に次ぐ実力者……。肩書に縛られなければ、その力量は騎士団長すら凌ぐと言われる最強の騎士です」
「そんなに強い人なの!?」
「買い被りだ。私より騎士団長の方が剣においても美においても数段優秀だ」
剣と共に美という言葉が出てきたのは、聖華騎士団にあってはその二つが主な評価の項目になっていたからであった。
「どうだか。これも噂だが、騎士団が解体されていなければ聖華騎士団筆頭騎士は魔王討伐に向かう勇者一行に加わっていた……とも聞いたぞ?」
ホイムの胸が僅かに高鳴った。こんな場面で勇者が関わってきたことに、浅からぬ因縁を感じてしまっていた。
1
あなたにおすすめの小説
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~
ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
その言葉を信じて、俺は必死についていった。
だけど、自分には何もできないと思っていた。
それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。
だけどある日、彼らは言った。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。
俺も分かっていた。
だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。
「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」
そう思っていた。そのはずだった。
――だけど。
ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、
“様々な縁”が重なり、騒がしくなった。
「最強を目指すべくして生まれた存在」
「君と一緒に行かせてくれ。」
「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」
穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、
世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい――
◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
召喚失敗から始まる異世界生活
思惟岳
ファンタジー
庭付き一戸建て住宅ごと召喚されたせいで、召喚に失敗。いったん、天界に転送されたジュンは、これからどうしたいかと神に問われた。
「なろう」さまにも、以前、投稿させていただいたお話です。
ペンネームもタイトルも違うし、かなり書き直したので、別のお話のようなものですけれど。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる