異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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パルメティの街

思い出しました

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「エミリア」

 城の敷地の外れにある騎士たちの野外訓練場。聖華騎士団長に任命されて間もないアリアスとの手合わせを終えた訓練着姿のエミリアが訓練所宿舎の外壁に背中を預けて腰を下ろしていると、アリアスは彼女の横に同じように背を預けて立った。

「どうかされましたか、騎士団長殿」
「やめろ。お前にそんな口の利き方をされると悪寒がする」
「おや。それでは他の者に示しがつかないだろう?」
「ならばこそエミリアには私と対等の存在でいてほしいのだよ。実力ではお前が上なのだから」

 団長直々の言葉ではあるが、アリアスとの仕合での戦績はエミリアが負け越している。実力では劣っていると自覚しているエミリアは肩を竦めた。

「……お前は実戦向きだからな。仕合での戦績など当てにはならんよ。実際に団員たちも剣の腕はエミリアが当代一と評価している者ばかりだ」
「……ありがたい事だ」
「だから私はお前を筆頭騎士に指命したい」
「それが騎士団長の望みなら、謹んで承ろう」

 筆頭騎士という名誉ある称号を引き受けたエミリアに、アリアスは一つ質問を投げかけた。

「なあエミリア。もしもこの国が行く末を誤った時はどうする?」
「曖昧な問いだな。それに騎士団長が口にしていいものではないと思うが」
「例えだよ例え。そうだな……ならば国が姫様を捕らえよと命じてきたならばどうする?」
「それこそありえん」
「ありえないことが起きたらどうすると訊いているんだ」
「なら最初からそう訊け」

 やれやれといった表情で眼鏡越しの瞳で見下ろしてくるアリアスに、何を訊かれたか理解したエミリアは答えを口にする。

「仮にそのような事態が起こり姫様に危険が迫るのなら、私は全身全霊で姫様をお守りする」
「国に背いてもか?」
「愚問だ。私は国を守る騎士であると同時に姫様も守る騎士。姫様が危ないのなら姫様を守るのは当然」
「その時、国が危なかったらどうする?」
「事情が分からん。ならば私はか弱き者のために戦う」
「……そうだな。ああそうだ、事情の把握や状況の分析、責任の所在など面倒なことを引き受けるのは団長の私だ」
「何が言いたい?」
「やはりお前が筆頭騎士で良かったという話さ」
「……私に団長は向いていない、と?」
「やりたいか?」
「御免こうむる」

 アリアスは笑ってエミリアの傍らから離れた。

「面倒事は私に任せろ。お前はお前が信じたもののために剣を振るえ」
「国や姫様のためでなくていいのか?」
「国や人は過ちを犯すこともある。立場上、私はそのような時も命令に従わねばならないだろう。だからエミリア、過ちを正さねばならぬ時は、お前はお前自身のために戦ってくれ」
「それは命令か?」
「友としての希望だよ」

 エミリアは立ち上がり、アリアスの目を見てはっきりと答えた。

「ならば私も友としてお前の望みに応じよう」

 アリアスは満足そうに微笑むと、片手を上げてその場を後にした。
 この後、エミリアは正式に聖華騎士団筆頭騎士に任命され、フラシュ王国やリアラ王女のために粉骨砕身の働きをするのであった。 



 懐かしい記憶が、このタイミングでエミリアの中に蘇った。
 今はもう見る影もないアリアスの姿に半ば絶望しかけているが、エミリアはまだ思っていた。

「わたしは……わたしは、信じた……」

 信じるもののために戦えと言ってくれた友がこのような事をするわけがないと。
 エミリアはずっと疑っていた。何故アリアスがリアラ王女の命を狙ったのか。
 疑って疑って疑い抜いて、結局彼女のことを信じ、裏に何者かの陰謀があったという疑惑に辿り着いた。
 アリアスが自分の意志で姫を狙ったというのは、誤りだ。
 過ちは正さねばならない。
 それがエミリアに託された希望なのだ。

(今のお前は、目の前にいる彼女を信じるのか?)

 そう過去から問われた気がした。

「信じるものか……あいつは聖華騎士団長アリアス・グラス……そして私は、聖華騎士団筆頭騎士のエミリア・ハーウェイだ!」

 その瞬間、

「そうです! 貴女はエミリアさんです!」

 耳元で鮮烈に響く少年の声がした。
 エミリアがハッと我に返った時、目に飛び込んできたのは広間のような洞窟の空間であった。

「気が付きましたか!?」

 エミリアの背中に上ったホイムが彼女の頬を両手で挟みながら声を荒げている。

「……何があった?」
「覚えてませんか?」
「記憶が曖昧だ……」

 視界も若干揺らいでいる。夢見心地のような、酔ったような……地に足のつかない状態である。

「洞窟の中を歩いてたら、いきなりエミリアさんが走り出したんです。多分、この場所にある何かを感じ取ったんだと思いますけど」
「そうか……思い出してきた。アリアスの声が聞こえた気がしたんだ」
「僕には聞こえなかったけれど、駆け出したエミリアさんが僕を追い抜いていって……僕がここに来たときには、朦朧と立ち尽くしてたんです」

 何故そんな事になったのか疑問に思うエミリアに答えを示すように、ホイムがこの空間にいる者を真っ直ぐに指さした。

「おそらくあいつの仕業でしょう」

 次第にはっきりとしてきたエミリアの視界が、ようやくそいつを捉えた。
 怪しげな大きな釜を背にしてホイム達に相対するのは、これまた怪しげで大柄な浮浪者のような小汚い男であった。その傍らには、裸で転がされている女性の姿があった。

「アリアス!?」

 さっきまで大勢の雄に囲まれながらエミリアに甘言を向けていたアリアスは憔悴しきった様子で朦朧としていた。
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