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パルメティの街

現れました

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「……言え! 貴様の後ろにいる奴の名を!」

 興奮するエミリアの剣先が男の体に触れていた。

「……」

 観念したのか、隠し通すことに意味などないのか、男の真意を知ることはできないが、彼は口を開いた。

「ホイム! 離れろ!」

 しかし言葉が発せられる前にルカの警告が三人の元に届く。同時に、頭上から急襲してきた光線が男の頭を貫き、辺り一面に焼け焦げた肉片が飛散する。

「キュア【防壁】!」

 咄嗟にホイムが放った守護魔法が三人を光線の余波と飛び散る肉片から保護した。
 ルカが教えてくれなければ無事では済まなかったかもしれない、魔法を解きながらホイムはそう思うと同時に、男をこの世から消し去った攻撃が飛来してきた方向に顔を上げた。
 アカネもエミリアも、少し離れたルカもそいつを視界に捉えた。ホイムが開けた大穴の縁に佇む、ハットを被りステッキを携えた中年の魔人の姿を。

「まったくペラペラと動く口でしたねえ。羽根でも生えていたように軽い」

 よく通る低いダンディな声は優しげに聞こえるが、それとは裏腹に他者を威圧する邪重な気配を醸し出していた。

「赤い肌に黒い角……あれが魔人か」

 初めてそれを目にしたのか、エミリアは確認するように口にしたのでホイムは無言で頷いた。
 手がかりであった男は始末されたと思いきや更に妖しげな者が襲来してきたことに、未だ怒り収まらぬエミリアは闘志に満ちていた。
 しかし、背後をちらりと見やったホイムは気が付いていた。アカネとルカは、以前魔人と交戦して手も足も出なかった事が脳裏に刻まれていたせいか……拳を握りながらも体を震わせていたことに。

「エミリアさん! 今は退きましょう!」
「何故だ! 奴が一連の出来事に噛んでいるのは間違いなかろう!」
「そうですよ! けどこっちには怪我人がいるんです!」

 その表現は正しくはないのだが、エミリアにはそれで伝わった。
 彼女の視線が意識を失ったままのアリアスに向けられ、ホイムの指示が間違っていないことを痛感していた。
 不本意ながらも納得した様子のエミリアであったが、それと魔人が素直に撤退を見逃してくれるかは別問題である。

「アカネさんはルカと一緒にアリアスさんをお願いします!」
「あ……あ、分かりました」

 ルカのもとに急ぐアカネを見送り、ホイムはエミリアと並び立った。

「それで、逃げる策はあるのか?」
「今考えてます」
「頼りになるな」

 そう言って笑い合うホイムとエミリアは、すぐに表情を引き締めた。彼女は剣と盾を構え、少年はいつでも二つの魔法を発動できるよう両手に魔力を込め。
 とにかく後方に目を向けられないよう自分たちが気を引き続けることを念頭に置いていたが、見上げて相対している魔人はその場から動く素振りはなかった。
 ステッキを手で弄び、何かを思い出した様子で口を開いた。

「筆頭騎士……始末できなかったのはまあ善しとしましょう。それよりも……助力している一行、気になりますねえ」

 ステッキの先端がホイムに向けられる。攻撃を仕掛けられるかと一層緊張感が増すが、それは単に対象を確認しているだけの仕草であった。

「確かマーグオルグが言っていましたね……珍妙な回復術士がいると。お供に腑抜けとペット……そうか君が彼の言っていた、ねえ」

 弄んでいたステッキをパシッと鳴らし、魔人は二人のいる広間に音もなく降り立った。
 いよいよ来るかとエミリアは一歩踏み出し、ホイムは注意深く様子を窺う。

「お初にお目にかかる。我が名はバルバド。見ての通り魔人の血族」

 バルバドと名乗った魔人は腰を曲げて恭しくお辞儀をしてみせた。所作だけを見れば酷く紳士的で社交界でも通ずるものであるが、バカ丁寧にそれに返すほど気を抜くことはできない。
 顔を上げた魔人は緊張感に漲る二人に落胆して肩を竦めてみせた。

「おや? 礼節がなっていませんね。これだから劣等種族は……まあいいでしょう」

 魔人は両手を広げ笑顔を向けてくる。

「私は寛容ですから」

 お喋りを続けながら、一体いつ襲いかかってくるのかとホイムとエミリアは気が気ではなかった。
 しかし、魔人は話を止める気配がなかった。尚もその場にいる人間に向けて饒舌に語ってくる。

「そんな私ですから一つ貴方がたにチャンスをあげましょう」
「チャンス……だと?」

 エミリアはその言葉の意味を訊ねた。

「ええ。折角こうして生き延びたのです、ならばこちらとしてももっと相応しい死に場所を用意しなくてはなりません」
「不要だ! なればこの場で決着を」
「エミリアさん!」

 逆上しそうな彼女を制すホイムに、バルバドは褒めるように拍手を送った。

「実に懸命。周りがよく見えているようだ……マーグオルグの言っていたように子どもらしくない」
「そんなことより、あんたの言うチャンスってやつを聞かせてもらおうか!」

 バルバドは手を広げて頷いた。実に落ち着いた振る舞いであった。
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