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日記と雨と 1/2
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音とは不思議なもので、僕らの生活の中で自然に流れている。一番顕著なのは天気だろうか。
まさに外は雨。アスファルトに落ちるその雫は水たまりを作り、木々に潤いを与え、川を流れていく。
落ちた先によって奏でる音は変わるし、空気も変わる。濡れたアスファルトの香りは雨をより一層雨らしくしていく。
木の葉に留まった雫はきっと虫達の乾きを癒やすのだろう。
革を流れた雨は海へ辿り着き、雲になってまた雨となる。
そんなふうにして地球では昔から変わらないサイクルで、天気は存在していたんだろう。
そんな生憎の天気だけれど、僕はまた夕日坂古物店に足を運んでいた。
流石に湿気が多いからか、夕日坂さんはその長い髪を後ろでお団子状に結っていて、これまた大和撫子風でいい。この人が浴衣を着た日には注目を集めまくりだろう。
夕日坂さんが読んでいる本は所謂古書と言われる物が多く、細く可憐な手の上には重量感のある装丁のそれが流れる様にめくられていく。
外から聞こえる雨の音と、古時計の秒針の動きが絶妙に合っていて、この店の不可思議な雰囲気を盛り上げる。
「夕日坂さんっていつも本を読んでますよね、それもかなり昔のを。読みにくいとかないんですか?」
夕日坂さんは本から目を話すことなく答える。
「んー、読みづらいと思った事はあまりないかな。本は好きだし、色んなことを教えてくれるから」
「それは同意です。ただ、どうしても活字って苦手なんですよね。テレビや動画の方が早くてついそっちばかり見ちゃいます」
そう言うと、彼女は本を閉じる。そして、一冊の日記の様な物を僕の前に差し出した。
「これ、なーんだ」
少し茶目っ気を出しつつ彼女は言う。僕は差し出されたそれを手に取り、観察する。
茶色い革製の表面があり、中は褪せた色の紙が挟まっている。いや、綴じられていると言うべきか。
表紙をよく見ると「Diary」の表記が薄っすらと見え、それが日記帳である事を確かにした。
「日記帳ですかね。ただ、随分古いみたいです。年代も90年代ですし」
下一桁の部分こそ擦れて読めなかったけれど、そこまでは分かった。
「そう、これは日記帳。流石に個人の日記を売りに出す訳にはいかないじゃない? だから、どうしようか悩んでいるの」
彼女は少し寂しそうな表情で言う。確かに、日記と言うのは使っていた本人が書き記していた物で、他人の手に渡る事はない。
ただ、この日記は確かにこの店にやって来た。道筋は分からないけれど、それは変えようのない事実だ。
「夕日坂さんは中身を読まれたんですか?」
「一応ね……。気が引けるけれど、こう言う特定の記録がある物って、犯罪に関与していたり、必ずしも良いものじゃない時があるから」
「なるほど。でも、ここにあるって事はそう言う負の一面は無かったんですよね?」
僕の問いに夕日坂さんは無言で笑みを返す。その表情から感じ取れる彼女の意は恐らくこう言うことだ。
「これを僕が読めばいいんですね?」
彼女はパチりとウィンクをする。Yesの合図だ。
「ここで読むんですか? もうすぐ閉店時間ですし、さっき言ったとおり読むのは苦手で……」
活字離れしている事に負い目を感じてしまった僕は、夕日坂さんにこの日記に対する僕の行動を提示してもらう事にした。
「持って帰って良いよ。ちゃんと返して貰えるなら、何も問題ないわ」
簡単な結論だった。
「分かりました。お借りしていきます」
そう答えると彼女は微笑みながら、手を軽く振った。
「じゃあ、今日はこの辺で。次お邪魔したときにお返しします」
そう言って僕は店を後にし、雨の降る町へ出ていった。
梅雨入り前の町には紫陽花が溢れ、その美しい色と大きな葉は雨水に濡れながらも凛としている。
この日記を預かった事が、僕と夕日坂さんの距離を縮める要素だったと知るのはだいぶ後の話。
さあ、帰って日記を読もう。
To be continued......
まさに外は雨。アスファルトに落ちるその雫は水たまりを作り、木々に潤いを与え、川を流れていく。
落ちた先によって奏でる音は変わるし、空気も変わる。濡れたアスファルトの香りは雨をより一層雨らしくしていく。
木の葉に留まった雫はきっと虫達の乾きを癒やすのだろう。
革を流れた雨は海へ辿り着き、雲になってまた雨となる。
そんなふうにして地球では昔から変わらないサイクルで、天気は存在していたんだろう。
そんな生憎の天気だけれど、僕はまた夕日坂古物店に足を運んでいた。
流石に湿気が多いからか、夕日坂さんはその長い髪を後ろでお団子状に結っていて、これまた大和撫子風でいい。この人が浴衣を着た日には注目を集めまくりだろう。
夕日坂さんが読んでいる本は所謂古書と言われる物が多く、細く可憐な手の上には重量感のある装丁のそれが流れる様にめくられていく。
外から聞こえる雨の音と、古時計の秒針の動きが絶妙に合っていて、この店の不可思議な雰囲気を盛り上げる。
「夕日坂さんっていつも本を読んでますよね、それもかなり昔のを。読みにくいとかないんですか?」
夕日坂さんは本から目を話すことなく答える。
「んー、読みづらいと思った事はあまりないかな。本は好きだし、色んなことを教えてくれるから」
「それは同意です。ただ、どうしても活字って苦手なんですよね。テレビや動画の方が早くてついそっちばかり見ちゃいます」
そう言うと、彼女は本を閉じる。そして、一冊の日記の様な物を僕の前に差し出した。
「これ、なーんだ」
少し茶目っ気を出しつつ彼女は言う。僕は差し出されたそれを手に取り、観察する。
茶色い革製の表面があり、中は褪せた色の紙が挟まっている。いや、綴じられていると言うべきか。
表紙をよく見ると「Diary」の表記が薄っすらと見え、それが日記帳である事を確かにした。
「日記帳ですかね。ただ、随分古いみたいです。年代も90年代ですし」
下一桁の部分こそ擦れて読めなかったけれど、そこまでは分かった。
「そう、これは日記帳。流石に個人の日記を売りに出す訳にはいかないじゃない? だから、どうしようか悩んでいるの」
彼女は少し寂しそうな表情で言う。確かに、日記と言うのは使っていた本人が書き記していた物で、他人の手に渡る事はない。
ただ、この日記は確かにこの店にやって来た。道筋は分からないけれど、それは変えようのない事実だ。
「夕日坂さんは中身を読まれたんですか?」
「一応ね……。気が引けるけれど、こう言う特定の記録がある物って、犯罪に関与していたり、必ずしも良いものじゃない時があるから」
「なるほど。でも、ここにあるって事はそう言う負の一面は無かったんですよね?」
僕の問いに夕日坂さんは無言で笑みを返す。その表情から感じ取れる彼女の意は恐らくこう言うことだ。
「これを僕が読めばいいんですね?」
彼女はパチりとウィンクをする。Yesの合図だ。
「ここで読むんですか? もうすぐ閉店時間ですし、さっき言ったとおり読むのは苦手で……」
活字離れしている事に負い目を感じてしまった僕は、夕日坂さんにこの日記に対する僕の行動を提示してもらう事にした。
「持って帰って良いよ。ちゃんと返して貰えるなら、何も問題ないわ」
簡単な結論だった。
「分かりました。お借りしていきます」
そう答えると彼女は微笑みながら、手を軽く振った。
「じゃあ、今日はこの辺で。次お邪魔したときにお返しします」
そう言って僕は店を後にし、雨の降る町へ出ていった。
梅雨入り前の町には紫陽花が溢れ、その美しい色と大きな葉は雨水に濡れながらも凛としている。
この日記を預かった事が、僕と夕日坂さんの距離を縮める要素だったと知るのはだいぶ後の話。
さあ、帰って日記を読もう。
To be continued......
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