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日記と雨と 2/2
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家に帰ってきた僕は夕日坂さんに借りた日記帳を机の上に出した。
こうして間近で見ると、この年代物の日記がかなりの値打ち品である事が伺える。
派手じゃなく、それでいて高級感のあるブラウンのそれは傷こそ多いものの、大切に扱われていた事もよく分かるものだった。
僕はそれを傷付けないよう丁寧にページをめくり、その軌跡を辿り始めた。
――5月17日
今日は疲れた。上司には無茶振りをされるし、コピー機の調子は悪いし、お茶はこぼすし……散々な日だった。
けれど、1つだけ良いことがあった。ふと立ち寄った書店にいた店員の女性。
派手さの無い茶髪に、毛先まで手入れをされた短髪をしていた。かなり若い感じで恐らく大学生かその辺りの年頃だろう。
明日も会えるだろうか。私は本が好きだから彼女もそうであったらいいなと思う。
――5月26日
また、日記を忘れていた。これで何度目だろう。三日坊主の癖を直したくて、そこそこの金銭を出して買ったのに、これじゃあまるで意味が無いじゃないか。
まあ、いい。とりあえず約10日間の間に起きたことを簡潔に纏めていくとしよう。
まず、彼女の名前を知る事ができた。高梨花織と言うらしい。今は大学生らしい。本はあまり好きじゃないと言っていたが、嫌いではないのだろう。
そして、仕事で昇進が決まった。次は課長らしい。私は大学には行かず職についたため、叩き上げでの出世だ。これは自慢出来るのでは無いだろうか。
彼女の事も気になるが、まずは確実な独り立ちをしたいと思う。頑張っていこう。
――6月13日
昇進からいきなりの短期赴任により、こいつの更新を忘れていた。いや、そもそも日記帳自体を忘れていってしまったのだ。
だが、結論そんな時間は無かったので良いのだろう。
帰ってきてからいつもの書店に足を運ぶと、花織さんが自分の事を覚えていてくれた。これほど嬉しい事はない。
恐らく一目惚れというのであろう。今までそこまで女性に苦労した事もないのだが、逆に本気になった事もないのだ。
だからこそ、私は彼女の事が好きなのだ。
――6月15日
何ということだろう。彼女とデートの約束をする事が出来た。なんの奇跡か偶然か、このチャンスを物にできなければ、きっと私は生涯結婚する事も叶わないだろう!
……つい興奮してしまった。字が汚くなっている。落ち着くんだ私よ。
落ち着いてなど居られるはずもないのだけど、当たり前の事なのだろう。
男とは悲しい生き物なのだ。
――6月20日
今日は彼女と食事に行ってきた。初のデートだ。
ヤマネコーヒーの系列レストランで夜景を見ながらの食事は非常に楽しかった。
しかし、花織さんは書店の様子と特別変わらない様子であった。元よりそんな性格なのだろう。
だが、それが逆に彼女の魅力を引き立てるのだろう。他愛もない話や、互いの家庭や育ち色々な事を話した。
次も是非と言った彼女の笑顔は帰ってきた今も私の鼓動を高鳴らせるのだ。
ここで、日記は終わっている。おおよそ、この日記の主は想い人と上手く行ったのだろう。と、思いたい。
他にも色々書いてあったけれど、掠れていたり、飲み物をこぼしたのか黒く滲んで読めなかった。
夕日坂さんはどうやってこの日記を手に入れたのだろう。それだけが不思議でたまらない。
明日返しに行こう。天気は雨だけど、雨音と合わせて歩くのも意外と楽しいし。
そんな風に思える1日だった。
Fin.
こうして間近で見ると、この年代物の日記がかなりの値打ち品である事が伺える。
派手じゃなく、それでいて高級感のあるブラウンのそれは傷こそ多いものの、大切に扱われていた事もよく分かるものだった。
僕はそれを傷付けないよう丁寧にページをめくり、その軌跡を辿り始めた。
――5月17日
今日は疲れた。上司には無茶振りをされるし、コピー機の調子は悪いし、お茶はこぼすし……散々な日だった。
けれど、1つだけ良いことがあった。ふと立ち寄った書店にいた店員の女性。
派手さの無い茶髪に、毛先まで手入れをされた短髪をしていた。かなり若い感じで恐らく大学生かその辺りの年頃だろう。
明日も会えるだろうか。私は本が好きだから彼女もそうであったらいいなと思う。
――5月26日
また、日記を忘れていた。これで何度目だろう。三日坊主の癖を直したくて、そこそこの金銭を出して買ったのに、これじゃあまるで意味が無いじゃないか。
まあ、いい。とりあえず約10日間の間に起きたことを簡潔に纏めていくとしよう。
まず、彼女の名前を知る事ができた。高梨花織と言うらしい。今は大学生らしい。本はあまり好きじゃないと言っていたが、嫌いではないのだろう。
そして、仕事で昇進が決まった。次は課長らしい。私は大学には行かず職についたため、叩き上げでの出世だ。これは自慢出来るのでは無いだろうか。
彼女の事も気になるが、まずは確実な独り立ちをしたいと思う。頑張っていこう。
――6月13日
昇進からいきなりの短期赴任により、こいつの更新を忘れていた。いや、そもそも日記帳自体を忘れていってしまったのだ。
だが、結論そんな時間は無かったので良いのだろう。
帰ってきてからいつもの書店に足を運ぶと、花織さんが自分の事を覚えていてくれた。これほど嬉しい事はない。
恐らく一目惚れというのであろう。今までそこまで女性に苦労した事もないのだが、逆に本気になった事もないのだ。
だからこそ、私は彼女の事が好きなのだ。
――6月15日
何ということだろう。彼女とデートの約束をする事が出来た。なんの奇跡か偶然か、このチャンスを物にできなければ、きっと私は生涯結婚する事も叶わないだろう!
……つい興奮してしまった。字が汚くなっている。落ち着くんだ私よ。
落ち着いてなど居られるはずもないのだけど、当たり前の事なのだろう。
男とは悲しい生き物なのだ。
――6月20日
今日は彼女と食事に行ってきた。初のデートだ。
ヤマネコーヒーの系列レストランで夜景を見ながらの食事は非常に楽しかった。
しかし、花織さんは書店の様子と特別変わらない様子であった。元よりそんな性格なのだろう。
だが、それが逆に彼女の魅力を引き立てるのだろう。他愛もない話や、互いの家庭や育ち色々な事を話した。
次も是非と言った彼女の笑顔は帰ってきた今も私の鼓動を高鳴らせるのだ。
ここで、日記は終わっている。おおよそ、この日記の主は想い人と上手く行ったのだろう。と、思いたい。
他にも色々書いてあったけれど、掠れていたり、飲み物をこぼしたのか黒く滲んで読めなかった。
夕日坂さんはどうやってこの日記を手に入れたのだろう。それだけが不思議でたまらない。
明日返しに行こう。天気は雨だけど、雨音と合わせて歩くのも意外と楽しいし。
そんな風に思える1日だった。
Fin.
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