夕日坂さんは変わらない

ポップコーン

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喉元過ぎれば暑さを忘れる

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 祭りの後の静けさという言葉がある。興奮が冷め虚脱感を感じる事などを表す言葉だ。

 僕は今まさにそういう状態にあった。それもそのはず、店に行ってないからだ。

 正確には行くことができない。どれくらい経ったか分からないけれど、あの祭りの日の後から、夕日坂古物店は休業に入ったのだ。手書きの貼り紙にはこう綴られていた。

「しばらくお休みを頂きます。今までの御愛好誠にありがとうございます。夕日坂古物店」

 これは上手い書き方だと思う。戻っても戻らなくても気にしないで下さいと、そう言っている様なものだ。

 ただ、僕だけは違う意味で捉えていた。

 彼女は、夕日坂さんは何かを見つけ、気付いた。根拠は無いけれどそんな気がした。

 いつも通りの帰り道、締まったシャッターのその向こうに慣れ親しんだ景色を思い浮かべる。

 純粋に楽しかった。何もなかった僕に居場所や色々なことを教えてくれた、忘れていた何かを思い出させてくれた。

 そんな景色がそこには確かにあった。

 変わらないといけない。僕はこのまま惰性で生きていってはいけないんだ。

 改めて決意を固め家に帰ると、ある荷物が届いていた。差出人は不明。

 そっと箱を開けると、手紙と真新しい日記帳が入っていた。

 いつだったか、夕日坂さんが貸してくれたそれと似ている。しかし、それとは違うもの。

 手紙を開くと予想通り、夕日坂さんから宛てられたものだった。ゆっくりと、彼女が軌跡を辿っていた時と同じ様に目を通していく。



――拝啓、朝川君へ

 夕日坂です。お元気にしていますでしょうか。この手紙が届く頃には私は店を畳んでいる事でしょう。気にする事はありません。元々その予定だったんです。

 ……何から伝えたらいいのか、正直な所纏まってはいません。普段から各地を転々をしている私ですが、これ程までにあの町に居着きたいと思ったのも初めてです。

 何故なんでしょうね。とても素敵な町でした。昔の事もキレイさっぱり忘れられるくらいに。

 さて、同封していた日記帳はもう見ましたか? 多分、朝川君の事だから先に手紙を読んでいるんでしょうけれど。

手紙を読み終えてからで良いので、日記帳の最後のページを開いてくれるととても嬉しいです。なんか、私らしくないかも。

 その日記帳は、かつて私が好きだった人が使っていました。とても素敵な人でした。何もない私に良くしてくれて。

 夫としても彼は素敵でした。まあ、不慮の事故で亡くなってしまいましたが……。

 ああ、重い話になってしまってごめんなさい。一応、自分の中で整理はつけているので心配は要りませんよ。

 あら、こんな事書くつもりじゃなかったんだけれど……どうしたのかしら。

 とにかく、お礼を伝えたかったの。お世話になった人は沢山いるけれど、特に朝川君に。

 君がお店に来てくれて、いろいろなお話をして、色んな人と話して、最後に綺麗な花火を見て終わる事ができた。

 古物店なんて、そんなにお金になる商売でもないけれど、あの温もりが、時間が私にとって本当に素晴らしい時間でした。

 きっかけになってくれた朝川君には、感謝してもしきれません。

 本当にありがとう。敬具。

 夕日坂花織より。




 手紙を読み終えた僕は、そっと手紙を閉まった。そして、書かれていたとおり日記帳を手に取り最後のページを開く。

 そこに書いてあった文を見て、僕は不意に笑ってしまった。

 やっぱり、夕日坂さんは変わらない。



Fin.
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