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-epilogue-

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 ある夏の日、僕は久しぶりに帰ってきた。あれから何年経ったかはよく覚えていない。

 ただ、準備が整ったのだ。足早にその場所へ、変わっている町並みには目もくれず。

 商店街はやはりその場所にあった。ここは、あんまり変わってないな。

 1店舗ずつ、ゆっくりゆっくりと見ていく。目的地はもうすぐそこだ。

 寂れかけの商店街の端にある、その建屋へ向かう。

 まだ、シャッターは上がっていない。それもそのはず、鍵は僕が持っているのだから。

 中へ入ると、いつの日か見た風景が広がる。まあ、先に頼んで準備してもらっていたから当たり前か。

 汗を拭き取り、荷物をカウンターの後ろへ。

 ガチャガチャと準備をしていると、店の戸が開く音がした。

「いらっしゃいませ。朝川古物店へ、ようこそ」

 揺れる髪、透き通る肌そして、変わらぬ容姿。

 僕にとっての待ち人がそこにいた。

 彼女は変わらない笑顔で答える。

「初めまして、ここはどんなお店なんですか?」

「はい、お客様からお預かりした古物を取り扱っております。このご時世に珍しいですよね」

「いいえ、そんな事無いと思いますよ。……ありがとう、朝川君」

「約束ですからね。それにしたって漠然としすぎですよ」

「そうね、ごめんなさい。ところで、あの日のお返事だけれど……」

 そんな会話をしているとまた扉が開いた。今度は二人同じタイミングで言う。

「いらっしゃいませ、朝川古物店へようこそ」

――あの日の日記、最後のページ――

 またここで会いましょう。

 その一言だけが、書かれていた。


Fin.
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