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第2話『スキル無き者、されど唯一の目を持つ』
しおりを挟む背中を押されたわけでもなく、足を蹴られたわけでもない。だが、追放という言葉は、それに等しかった。
村の門は容赦なく閉じられた。支給品は粗末なパンと水、旅人用の外套一枚。寝床も、帰る場所もない。
俺は《アレス村》を出て、風にさらされながら森の外れに立っていた。
「……ま、上出来だ」
愚痴をこぼす気にもならなかった。あの場で暴れても仕方ない。今の俺には戦う術もない。
だが、俺には**《解析眼》**がある。
右目に宿る蒼い光が、世界の輪郭を静かに浮かび上がらせていた。
◇ ◇ ◇
試したいことがあった。
俺の手に持つパンを《解析》する。
——対象:《穀物パン(硬化)》
——製法:麦を焙煎し、保存性を重視して焼き固めた携帯食。
——効果:満腹度回復(小)、硬度:12(人間の歯での咀嚼は困難)。
——製作者:村の料理係「ベルナ」女(58)
——隠しスキル:《保存術:簡易》
「……情報量がやばいな」
パンひとつにここまで解析ができるとは。
これは、単なるスキル可視化ではない。あらゆる物体・現象の構造を読み解くスキルだ。
武器を見れば、素材・強度・付与スキルがわかる。
人を見れば、性格傾向・潜在能力・相性まで分析可能。
そして何より——成長の最短経路が見える。
「これ、チートどころの話じゃねえな……」
俺の知識と、このスキルを組み合わせれば、この世界の誰よりも効率的に強くなれる。
誰よりも早く、誰よりも正確に。
そう考えながら、俺は落ち葉を集めて即席の野営地を作り、焚き火の準備をした。
薪の組み方、火打石の打ち方、着火に適した湿度……全てを《解析》しながら行う。
もはや“未経験”など障害ではなかった。
◇ ◇ ◇
夜。
焚き火の灯りに照らされて、俺はようやく落ち着いた呼吸を取り戻していた。
だがそのとき——
——微弱な魔力反応、感知。
解析眼が自動的に反応する。
暗がりの中、森の奥から近づく気配。動物ではない。靴を履いた二本足の足音。
そして次の瞬間、視界に表示が浮かぶ。
——対象:《人間♀》
——年齢推定:13~15
——身体状況:魔力低下・栄養不良・右手機能喪失(外傷)
——スキル:《薬草学(封印状態)》《応急処置》《共感》
——潜在資質:高
——成長補助:適正あり(要:接触と励起)
「……封印されたスキル、か」
興味深い。
この世界には、未覚醒・封印・発動不能なスキルが多数あるらしい。
だがそれを“見抜ける”のは——今のところ俺だけだ。
その少女が、やがて焚き火の光に姿を見せた。
ぼさぼさの髪、薄い布を纏っただけのやせ細った身体。右手には血の滲んだ布が巻かれていた。
「あの……火を、分けて……もらえますか……?」
声はかすれていたが、意志のこもった瞳だった。
俺は立ち上がり、ゆっくりと頷いた。
——この世界で最初に、俺が“視た”少女。
そして、おそらく——俺が“変える”最初の人間。
───
あとがき
第2話までお読みいただきありがとうございます。
今回は“スキルが見えない”という世界の基本構造と、主人公のチート能力《解析眼》の具体的な可能性を掘り下げました。
次回からは、少女との出会いをきっかけに、スキルと人間関係が交錯するドラマが展開していきます。
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