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第7話『仮面の令嬢、スキルを奪われた少女』
しおりを挟む王都《セレヴィナ》に滞在して三日。
俺はこの都市が抱える“見えない病”を、確信へと変えつつあった。
貴族の子弟が通う学院には、入学の際に「天賦適性証明」が義務付けられている。
だが、その実態は“操作済みのスキルを、あたかも素質であるかのように偽装する制度”だ。
スキルの封印。強制開花。魔術的整形。
その全てが、王都では“身分と価値を整える”ための道具となっていた。
そして——その最前線にいたのが、アリシア=フォン=ルヴァンスという少女だった。
◇ ◇ ◇
翌日。俺は再びギルド本部を訪れていた。
目的は情報収集と依頼の確認。フィアは宿で薬草の仕分けと、調合の練習をしている。
だがそのとき、館内がざわついた。
「スキルを……奪われた!?」「まさか、“抜き取り”か……?」
俺は即座に《解析》を起動し、噂の中心に視線を送る。
そこにいたのは、一人の少女だった。
白銀の髪。制服姿。だが、両手を震わせ、ギルド職員にしがみつくようにして立っている。
——対象:《エリナ・クローデル》
——年齢:15
——身分:王都中央学院・一般科生
——スキル:《清音魔導(消失)》《聴覚強化(切断)》
——精神状態:混乱・抑圧・恐怖(スキル起因)
スキルが、切られている——?
正確には、《存在》は確認されるが、《接続》が断たれている。
例えるなら、“音源はあるのにスピーカーが壊れていて聞こえない”状態だ。
「……完全な抜き取りではない。けど……これは、“奪い”に近い」
少女の隣には、制服を着た複数の少年たちが立っていた。
その一人に、異様な反応があった。
——対象:《ギルス・アークレイン》
——スキル:《強奪(他者天賦・一時吸収)》【非公認】【危険指定】
——状態:興奮/成功直後
これは——スキル泥棒だ。
強奪スキル。相手のスキル接続を一時的に奪い、自身に取り込む異能。
王都の学院で、こんなものが許されているのか?
「ギルス様の天賦は王族直轄で許可済みだ。雑種が喚く資格などない」
そう言い放つ取り巻きの貴族生徒に、職員も手出しできない様子だった。
俺は、エリナのそばに歩み寄った。
「君の名は?」
「……え、リ、リクさん?」
エリナの目に、わずかな光が戻った。
俺のことを知っているらしい。ギルド内での情報が多少は広がっているのだろう。
「怖がらなくていい。俺には視える。君のスキルは“死んでいない”。ただ、封じられているだけだ」
少女の肩が震える。
そして、そのとき——
「やめておきなさい。それ以上は、あなたの安全を保証できないわ」
氷のような声が、背後から響いた。
振り返ると、そこに立っていたのはアリシア=ルヴァンス。
昨日と同じ金糸の髪、白の外套。そして、剣のように鋭い視線。
「あなたが関わることで、彼女の処遇はもっと不利になる」
「……なぜ知っている?」
「“視える”もの同士だからよ。違う?」
また、微細な反応。《審美眼》の回路がうっすらと震えている。
この女、やはり——スキルを“封じられた者”だ。
そして、誰よりもその痛みを知っている。
アリシアはギルスに冷たく言い放った。
「この件は、学院への正式な通告案件とする。仮にも貴族の端くれなら、覚悟はあるわね?」
ギルスはわずかに顔をひきつらせたが、背後の護衛が制止する。
「……やめておけ、ギルス。相手は“ルヴァンス”だ」
少年たちは渋々その場を離れた。
◇ ◇ ◇
騒ぎのあと、俺とアリシアは屋上へ出た。
王都の空が広がるなか、彼女はふと小さく呟いた。
「……あなたの目は、“解放”する目ね」
「お前の目は、“閉じられて”いる。誰に?」
「父よ。私の天賦は、家の力を脅かすと判断された。だから“封印”された」
その言葉に、俺はゆっくりと言った。
「お前のスキル、解放できるかもしれない。俺の《解析》で」
アリシアの視線が、鋭く揺れた。
——見えない者の世界で、視える者は異端だ。
だがその異端が、誰よりも“真実”に近いのなら——
この都市に“革命”を起こすのは、《解析》の目だ。
───
あとがき
今回は、王都での新たな事件=スキル強奪事件を通じて、社会の歪みを明確に描きました。
また、アリシアとの関係も徐々に深まり、今後“視える者”同士の関係性が物語の鍵になります。
───
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