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第3話「世界樹の伝承と、リュミナの歌声」
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「この草、村の文書に出てたかもしれないんだ」
翌朝、アルが持ってきたのは、古ぼけた手帳だった。
「拾いもんだけどな。昔、村に来た旅の神官が残していったらしい」
エルネスタは土のついたその手帳を、大切そうに受け取った。
文字は古語混じりで読みづらかったが、ある一節が目を引いた。
『世界を治す草は、音を持つ。風の中に揺れるその葉は、神の言葉を宿す。名はリュミナ。癒しと目覚めをもたらす、光の鞘』
「リュミナ……。わたし、昨日そう名付けたんです」
「偶然、か?」
「ううん、たぶん――そうじゃない」
エルネスタは、草の葉が風に揺れるのを見つめながら、ぽつりと呟いた。
「この子、私に話しかけてた。草の“声”が、頭に響いた気がして」
その言葉に、アルは表情を動かさなかった。ただ、ほんの少しだけ肩を揺らした。
「お前、変わってるな。でも……悪くない」
その日、村では不思議な出来事が続いた。
村の子どもたちがリュミナに触れると、不眠だった子がぐっすり眠り、
長年悩んでいた頭痛持ちの老婆の顔が明るくなった。
草に触れた者が、心の奥に“何か温かいもの”を感じるというのだ。
「なんだか……懐かしい夢を見たような気がする」
「心の中が、ふわっと晴れたみたいじゃ」
そう語る人々の声を聞きながら、エルネスタは静かに確信する。
《雑草生成》というスキルは、決して“外れ”などではない。
この世界の何か深いところと、つながっている力だと。
「リュミナには、歌があるのかもしれない」
その夜、エルネスタは焚き火の傍で呟いた。
草の葉が風に揺れ、かすかな音を奏でていた。
それは旋律のようであり、言葉のようでもあった。
「聞こえる……“おかえり”って、そんな感じの……」
彼女の耳に届いたのは、記憶でも幻でもない、草の“想い”だった。
まるで、長い年月を超えて、誰かを待ち続けていたような――そんな響き。
「この世界で、わたしが最初に出会った“言葉”だったのかもしれない」
それを聞いたアルは、小さくつぶやく。
「……本当に、変わってるな」
だがその横顔は、否定ではなく、どこか羨ましげだった。
翌朝、異変は起きた。
村の西の森が、急激に枯れ始めていたのだ。
「おい、見ろよ! あの大木、昨日まで葉をつけてたはずだ!」
「地面も乾いてる……これは、ただ事じゃねぇ」
長老マルタが、村の中央に集まった村人を前に告げる。
「これは、世界樹の枯死が広がりつつある徴かもしれない」
「せ、世界樹……?」
「遥か昔、空よりも高く伸びていたとされる“命の木”さ。その根は世界中に張り巡らされていた。
だが今は枯れつつある。その影響で、土地が死に、水が濁り、人が病む」
ざわめく人々の中で、エルネスタの心に閃くものがあった。
「もしかして……リュミナは、世界樹の“枝葉”だったのかも……」
もしそうなら、この畑に芽吹いたリュミナの存在は――
“再生”の鍵そのものかもしれない。
その夜、畑に立ったエルネスタは、リュミナに語りかけた。
「ねえ、あなたは世界樹の声なの? それとも、その子ども?」
風が静かに吹いた。
リュミナの葉が揺れると、どこからともなく声が届く。
『……願いは、叶う。土に還りし命が、再び芽吹くならば……』
一瞬だった。
だが確かに、“声”が届いたのだ。
「……ありがとう。私、きっとあなたの声を伝える。村に、世界に」
風が草を撫でた。
その瞬間、畑の全体に淡い光が走った。
草木が一斉に応えるように揺れ、空気が柔らかくなった。
エルネスタはその中心に立ち、両手を土に差し伸べる。
「この畑が……世界の始まりになりますように」
その言葉を、大地は確かに受け止めたようだった。
あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第3話では、エルネスタのスキルと世界樹とのつながり、そしてリュミナがもたらす“癒しの音”について描きました。
彼女はまだ何者でもない少女ですが、その言葉は確かに大地に届き始めています。
次回は、村の異変と“神々の沈黙”の予兆が描かれます。どうぞお楽しみに。
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次回「神託の途絶と、はじめての夢」へ続きます。
翌朝、アルが持ってきたのは、古ぼけた手帳だった。
「拾いもんだけどな。昔、村に来た旅の神官が残していったらしい」
エルネスタは土のついたその手帳を、大切そうに受け取った。
文字は古語混じりで読みづらかったが、ある一節が目を引いた。
『世界を治す草は、音を持つ。風の中に揺れるその葉は、神の言葉を宿す。名はリュミナ。癒しと目覚めをもたらす、光の鞘』
「リュミナ……。わたし、昨日そう名付けたんです」
「偶然、か?」
「ううん、たぶん――そうじゃない」
エルネスタは、草の葉が風に揺れるのを見つめながら、ぽつりと呟いた。
「この子、私に話しかけてた。草の“声”が、頭に響いた気がして」
その言葉に、アルは表情を動かさなかった。ただ、ほんの少しだけ肩を揺らした。
「お前、変わってるな。でも……悪くない」
その日、村では不思議な出来事が続いた。
村の子どもたちがリュミナに触れると、不眠だった子がぐっすり眠り、
長年悩んでいた頭痛持ちの老婆の顔が明るくなった。
草に触れた者が、心の奥に“何か温かいもの”を感じるというのだ。
「なんだか……懐かしい夢を見たような気がする」
「心の中が、ふわっと晴れたみたいじゃ」
そう語る人々の声を聞きながら、エルネスタは静かに確信する。
《雑草生成》というスキルは、決して“外れ”などではない。
この世界の何か深いところと、つながっている力だと。
「リュミナには、歌があるのかもしれない」
その夜、エルネスタは焚き火の傍で呟いた。
草の葉が風に揺れ、かすかな音を奏でていた。
それは旋律のようであり、言葉のようでもあった。
「聞こえる……“おかえり”って、そんな感じの……」
彼女の耳に届いたのは、記憶でも幻でもない、草の“想い”だった。
まるで、長い年月を超えて、誰かを待ち続けていたような――そんな響き。
「この世界で、わたしが最初に出会った“言葉”だったのかもしれない」
それを聞いたアルは、小さくつぶやく。
「……本当に、変わってるな」
だがその横顔は、否定ではなく、どこか羨ましげだった。
翌朝、異変は起きた。
村の西の森が、急激に枯れ始めていたのだ。
「おい、見ろよ! あの大木、昨日まで葉をつけてたはずだ!」
「地面も乾いてる……これは、ただ事じゃねぇ」
長老マルタが、村の中央に集まった村人を前に告げる。
「これは、世界樹の枯死が広がりつつある徴かもしれない」
「せ、世界樹……?」
「遥か昔、空よりも高く伸びていたとされる“命の木”さ。その根は世界中に張り巡らされていた。
だが今は枯れつつある。その影響で、土地が死に、水が濁り、人が病む」
ざわめく人々の中で、エルネスタの心に閃くものがあった。
「もしかして……リュミナは、世界樹の“枝葉”だったのかも……」
もしそうなら、この畑に芽吹いたリュミナの存在は――
“再生”の鍵そのものかもしれない。
その夜、畑に立ったエルネスタは、リュミナに語りかけた。
「ねえ、あなたは世界樹の声なの? それとも、その子ども?」
風が静かに吹いた。
リュミナの葉が揺れると、どこからともなく声が届く。
『……願いは、叶う。土に還りし命が、再び芽吹くならば……』
一瞬だった。
だが確かに、“声”が届いたのだ。
「……ありがとう。私、きっとあなたの声を伝える。村に、世界に」
風が草を撫でた。
その瞬間、畑の全体に淡い光が走った。
草木が一斉に応えるように揺れ、空気が柔らかくなった。
エルネスタはその中心に立ち、両手を土に差し伸べる。
「この畑が……世界の始まりになりますように」
その言葉を、大地は確かに受け止めたようだった。
あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第3話では、エルネスタのスキルと世界樹とのつながり、そしてリュミナがもたらす“癒しの音”について描きました。
彼女はまだ何者でもない少女ですが、その言葉は確かに大地に届き始めています。
次回は、村の異変と“神々の沈黙”の予兆が描かれます。どうぞお楽しみに。
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なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
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