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第10話『雨のポストに届いたもの』
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くちなし町には昔から残る郵便局がある。
木造の小さな建物で、最近では宅配や大型郵便の需要に押され、局員の数も減り、利用者も少ない。
けれど、その局には奇妙な話があった。
雨の日だけ、届くはずのない手紙が投函される。
しかもその宛名は、誰のものでもない。
差出人の名も書かれておらず、封筒の中には決まって同じ一文が入っている。
「ずっとここにいます」
*
その話を知ったのは、私が高校の地域課題研究のテーマに「町の昔話と怪談」を選んだからだった。
くちなし郵便局の資料室には、昭和初期からの帳簿や、古い書簡が残されていた。
片隅の段ボール箱には、行き場を失った手紙が乱雑に詰められていた。
「これらは全部、あて先不明で戻ってきたものなんだよ」
古くから勤める職員の一人、橋爪さんが説明してくれた。
「その中にはな、確かに……誰にも届けられなかった手紙がある。雨の日になると、決まってポストに入れられてるんだ」
「誰が?」
「わからん。監視カメラにも映らない。不思議なことに、必ず雨が降ると届いて、晴れるとぱったり消える。」
私は興味本位で、その手紙を一通見せてもらった。
古びた封筒、滲んだインクの住所。
開くと中には、わずか一行。
「ずっとここにいます」
文字は震えていて、書いた人の恐怖や執着のようなものが滲んでいた。
*
調べを進めるうちに、奇妙な記録を見つけた。
昭和52年の新聞記事。
内容は「郵便局員失踪事件」。
勤務中に消えた若い配達員の話だった。
局に戻ると言って出たまま、二度と姿を現さなかった。
そして、最後に配達したポストが、あの雨の日の怪談で有名な、局の裏口の赤いポストだった。
「まるで、帰る場所を見失ったように消えてしまった」
橋爪さんはぽつりとそう言った。
「それからなんだよ、雨の日にあの手紙が届くようになったのは」
*
ある夜、激しい雨が降った。
私は傘を差して、そのポストを見に行った。
雨の中、街灯に照らされた赤いポストは、雨粒に濡れて鈍く光っていた。
近づくと、確かに投函口に白い封筒が覗いていた。
引き抜くと、封筒は冷たく湿っていた。
その瞬間、背後でポチャリ、と何かが水たまりに落ちる音がした。
振り返ると、そこには誰もいなかった。
でも、雨の匂いの中に、微かに古い紙の匂いが混じっていた。
家に帰り、封筒を開けると、やはり中にはあの文字。
「ずっとここにいます」
だが今回は、その下に小さな字でこう書かれていた。
「つぎは あなたのばんです」
私は手紙を落としそうになった。
*
その日から、家のポストに差出人不明の葉書が届くようになった。
文字は乱れていた。
「みつけた」
「ずっとまえから あなたを」
「かえりたい いっしょに」
ある朝、新聞を取りに玄関を出ると、郵便受けに封筒が無造作に突っ込まれていた。
手に取った瞬間、それはぽたりと水滴を落とした。
開けると、そこには赤いインクで大きく一言。
「ここに きて」
その文字の上には、雨に滲んだ無数の指紋が残っていた。
まるで、何人もの手で何度も触れられたように。
私はもうポストを開けるのが怖くなった。
でも開けずにはいられない。
まるで、ずっとそこに手紙が届くのを待ち続けていたように――。
木造の小さな建物で、最近では宅配や大型郵便の需要に押され、局員の数も減り、利用者も少ない。
けれど、その局には奇妙な話があった。
雨の日だけ、届くはずのない手紙が投函される。
しかもその宛名は、誰のものでもない。
差出人の名も書かれておらず、封筒の中には決まって同じ一文が入っている。
「ずっとここにいます」
*
その話を知ったのは、私が高校の地域課題研究のテーマに「町の昔話と怪談」を選んだからだった。
くちなし郵便局の資料室には、昭和初期からの帳簿や、古い書簡が残されていた。
片隅の段ボール箱には、行き場を失った手紙が乱雑に詰められていた。
「これらは全部、あて先不明で戻ってきたものなんだよ」
古くから勤める職員の一人、橋爪さんが説明してくれた。
「その中にはな、確かに……誰にも届けられなかった手紙がある。雨の日になると、決まってポストに入れられてるんだ」
「誰が?」
「わからん。監視カメラにも映らない。不思議なことに、必ず雨が降ると届いて、晴れるとぱったり消える。」
私は興味本位で、その手紙を一通見せてもらった。
古びた封筒、滲んだインクの住所。
開くと中には、わずか一行。
「ずっとここにいます」
文字は震えていて、書いた人の恐怖や執着のようなものが滲んでいた。
*
調べを進めるうちに、奇妙な記録を見つけた。
昭和52年の新聞記事。
内容は「郵便局員失踪事件」。
勤務中に消えた若い配達員の話だった。
局に戻ると言って出たまま、二度と姿を現さなかった。
そして、最後に配達したポストが、あの雨の日の怪談で有名な、局の裏口の赤いポストだった。
「まるで、帰る場所を見失ったように消えてしまった」
橋爪さんはぽつりとそう言った。
「それからなんだよ、雨の日にあの手紙が届くようになったのは」
*
ある夜、激しい雨が降った。
私は傘を差して、そのポストを見に行った。
雨の中、街灯に照らされた赤いポストは、雨粒に濡れて鈍く光っていた。
近づくと、確かに投函口に白い封筒が覗いていた。
引き抜くと、封筒は冷たく湿っていた。
その瞬間、背後でポチャリ、と何かが水たまりに落ちる音がした。
振り返ると、そこには誰もいなかった。
でも、雨の匂いの中に、微かに古い紙の匂いが混じっていた。
家に帰り、封筒を開けると、やはり中にはあの文字。
「ずっとここにいます」
だが今回は、その下に小さな字でこう書かれていた。
「つぎは あなたのばんです」
私は手紙を落としそうになった。
*
その日から、家のポストに差出人不明の葉書が届くようになった。
文字は乱れていた。
「みつけた」
「ずっとまえから あなたを」
「かえりたい いっしょに」
ある朝、新聞を取りに玄関を出ると、郵便受けに封筒が無造作に突っ込まれていた。
手に取った瞬間、それはぽたりと水滴を落とした。
開けると、そこには赤いインクで大きく一言。
「ここに きて」
その文字の上には、雨に滲んだ無数の指紋が残っていた。
まるで、何人もの手で何度も触れられたように。
私はもうポストを開けるのが怖くなった。
でも開けずにはいられない。
まるで、ずっとそこに手紙が届くのを待ち続けていたように――。
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