くちなし町、夜の記録

コテット

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第12話『屋根裏にいるもの』

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私の家は、くちなし町の外れにある築六十年の古い家だ。
祖父母が建て、そのまま両親が住み、私が生まれた。
子供の頃から慣れ親しんだこの家には、昔から妙なところがあった。

夜中に、屋根裏から誰かが歩くような音がする。

コトリ、コトリ、と何かが転がる音。
ギシギシと床板を踏む重み。

けれど両親は「ネズミだよ」と言って取り合わなかった。

私もいつしか気にしなくなっていた。

けれど、ある夜のことだった。



その日はやけに蒸し暑く、夜中に目が覚めてしまった。
布団を抜け出して台所に水を飲みに行き、ふと廊下を見た。

屋根裏へ上がる梯子が、少しだけ降りていた。

普段は押し上げて収納してあるはずの梯子だ。
誰が触ったのか――そもそも夜中に。

背筋が冷たくなる。
だが、確かめなければもっと怖くなる気がした。

私はゆっくりと梯子を引き伸ばし、懐中電灯を手に屋根裏へ登った。



屋根裏は低く狭く、埃と古い木の匂いが満ちていた。
電気はなく、懐中電灯の光だけが頼りだった。

梁の間に、古い段ボールや壊れた家具が積まれている。

ふと視界の端で何かが動いた気がした。

灯りを向ける。
だがそこには、古い子供用の小さな椅子があるだけだった。

その椅子の座面に、埃を払った跡があった。

まるで誰かが、そこに腰掛けていたかのように。

心臓が強く打つ。

帰ろう。
そう思って梯子へ戻ろうとしたとき、背後でギシリと木が鳴った。

振り返る。

何もいなかった。

……いや。

小さな息づかいが聞こえた。

暗闇の奥から、微かに湿った音が響いてくる。

「……だれ?」

思わず声を出した。
返事はなかった。

だが、その代わりに――

屋根裏のいちばん奥、暗闇の中で、小さな白い顔がこちらを覗いていた。

幼い女の子のようだった。
髪がぼさぼさで、顔は真っ白で、目だけが異様に黒かった。

私は悲鳴をあげて梯子を駆け下りた。



次の日、父に頼んで屋根裏を見てもらった。

だが、父は「何もなかった」と言った。

ただ埃まみれの古い家財があるだけだと。

けれど夜になると、再び音がした。

コトリ、コトリ、と何かが転がる音。

そのあとに、小さく軋むような声がした。

「……ここ……いる……」

私は布団を頭までかぶり、耳を塞いだ。

それから数日、音は続いた。



ある朝、目を覚ますと、枕元に何かが置かれていた。

小さな木の人形だった。
埃をかぶっていたが、どこかで見た気がする。

思い出した。

あれは屋根裏にあった、壊れた家具の上に積まれていたもののひとつ。

それが、なぜ――。

私はもう屋根裏には上がらない。

だが夜になると、今も天井から微かに聞こえる。

小さな足音が。

「……まだ いるよ……」

そう、屋根裏の暗い奥で。
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