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第13話『川辺に残る声』
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くちなし町を流れる細い川は、子供の頃から私にとって特別な場所だった。
夏には蛍が飛び交い、秋にはススキが揺れ、冬には川岸に薄く氷が張る。
小さな町の、そのまた小さな川。
だが、この川には古い話が残っている。
昔、川のそばで子供が溺れた。
見つかったのは数日後で、身体は冷たく、髪には藻が絡んでいたという。
それ以来、夜の川辺を歩くと、水面から声がすることがある。
「いっしょに あそぼうよ」
*
その日、私は高校の帰り道、川沿いの小道を通った。
まだ明るい夕方で、川は穏やかに流れていた。
なのに、ふと足が止まった。
川の向こう岸に、小さな影が立っていた。
幼い子供だった。
白い服を着て、じっとこちらを見ていた。
川面には何も映っていなかった。
なのに確かにそこに立っている。
目を離せずにいると、その子は少し首を傾げ、そしてゆっくりと右手を挙げた。
手招きするように。
私は咄嗟に後ずさった。
次の瞬間、その子は川の中へふっと沈んだ。
水音も立てずに。
*
家に帰ると、なぜか靴下が濡れていた。
靴の中には水が溜まっていた。
私は慌てて脱いで確かめたが、どこにも水たまりなどなかった。
風呂場でシャワーを浴びながら、耳元で小さな声がした。
「……いっしょに……」
振り向いても誰もいなかった。
*
次の日の夜、眠りかけたときに再び声がした。
「いっしょに あそぼうよ」
今度ははっきりと聞こえた。
目を開くと、天井の隅に水滴が一粒、ぽたりと落ちた。
それが布団に染みを作り、じわりと広がった。
私はその場から動けなかった。
次の瞬間、耳元に冷たい指先の感触があった。
髪を撫でるような、小さな手。
「おいで」
声がした。
思わず悲鳴をあげると、その感触は消えた。
*
それからというもの、川辺に行くのを避けるようになった。
だが、町に住んでいればどこかで必ず川を渡る。
ある夜、友達と帰る途中で川沿いの橋を渡った。
ふと視線を落とすと、暗い川面に小さな顔が浮かんでいた。
白い顔。黒い目。
口だけが薄く笑っていた。
私が立ち止まると、その口が動いた。
「また あそぼうね」
橋の下で何かが沈む音がした。
友達が「どうしたの?」と声をかけてきたが、私は首を振るだけだった。
*
今も時々、夜になると足元が冷たくなる。
布団の中で目を閉じると、あの川辺の水音が耳に蘇る。
そして小さな声が囁く。
「おいで……つぎは いっしょに あそべるよ」
だから私は、もう夜の川には近づかない。
けれどきっと、あの子は今も待っている。
川面の暗い水の底で、小さな手を差し伸べながら。
夏には蛍が飛び交い、秋にはススキが揺れ、冬には川岸に薄く氷が張る。
小さな町の、そのまた小さな川。
だが、この川には古い話が残っている。
昔、川のそばで子供が溺れた。
見つかったのは数日後で、身体は冷たく、髪には藻が絡んでいたという。
それ以来、夜の川辺を歩くと、水面から声がすることがある。
「いっしょに あそぼうよ」
*
その日、私は高校の帰り道、川沿いの小道を通った。
まだ明るい夕方で、川は穏やかに流れていた。
なのに、ふと足が止まった。
川の向こう岸に、小さな影が立っていた。
幼い子供だった。
白い服を着て、じっとこちらを見ていた。
川面には何も映っていなかった。
なのに確かにそこに立っている。
目を離せずにいると、その子は少し首を傾げ、そしてゆっくりと右手を挙げた。
手招きするように。
私は咄嗟に後ずさった。
次の瞬間、その子は川の中へふっと沈んだ。
水音も立てずに。
*
家に帰ると、なぜか靴下が濡れていた。
靴の中には水が溜まっていた。
私は慌てて脱いで確かめたが、どこにも水たまりなどなかった。
風呂場でシャワーを浴びながら、耳元で小さな声がした。
「……いっしょに……」
振り向いても誰もいなかった。
*
次の日の夜、眠りかけたときに再び声がした。
「いっしょに あそぼうよ」
今度ははっきりと聞こえた。
目を開くと、天井の隅に水滴が一粒、ぽたりと落ちた。
それが布団に染みを作り、じわりと広がった。
私はその場から動けなかった。
次の瞬間、耳元に冷たい指先の感触があった。
髪を撫でるような、小さな手。
「おいで」
声がした。
思わず悲鳴をあげると、その感触は消えた。
*
それからというもの、川辺に行くのを避けるようになった。
だが、町に住んでいればどこかで必ず川を渡る。
ある夜、友達と帰る途中で川沿いの橋を渡った。
ふと視線を落とすと、暗い川面に小さな顔が浮かんでいた。
白い顔。黒い目。
口だけが薄く笑っていた。
私が立ち止まると、その口が動いた。
「また あそぼうね」
橋の下で何かが沈む音がした。
友達が「どうしたの?」と声をかけてきたが、私は首を振るだけだった。
*
今も時々、夜になると足元が冷たくなる。
布団の中で目を閉じると、あの川辺の水音が耳に蘇る。
そして小さな声が囁く。
「おいで……つぎは いっしょに あそべるよ」
だから私は、もう夜の川には近づかない。
けれどきっと、あの子は今も待っている。
川面の暗い水の底で、小さな手を差し伸べながら。
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