くちなし町、夜の記録

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第15話『消えた呼び鈴』

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くちなし町の南側には、今はもう誰も住んでいない古い長屋が並んでいる。
朽ちた木造の家々が軒を連ね、屋根は崩れかけ、通りには雑草が伸び放題だった。

私の友人が、その通りにあった家を改装して住もうとしていた。

築年数は古いが、間取りは広く、家賃も破格。
最近ようやく引っ越しを終えたというので、私は遊びに行くことになった。

その家には、妙な特徴があった。

玄関の横に、今は外されて使えなくなった呼び鈴の跡がある。

丸いボタンだけが、壁にぽつんと残っていた。

「これ押すと鳴るんじゃない?」

冗談めかしてそう言うと、友人は少しだけ顔を強ばらせた。

「やめとけって。不動産屋も言ってたんだ。
 それ、ずいぶん前に取り外したはずなのに、夜になると鳴ることがあるって」

私は笑った。

「まさか。オバケの話かよ」

だが、友人は真剣な顔で言った。

「夜中に玄関先で、ピンポンって鳴ったら……絶対に出るなってさ」



夜、遅くまで映画を見て、私はそのまま泊まることになった。

深夜二時を過ぎ、静かな寝室に友人の寝息だけが響いていた。

窓の外では虫の声がしていた。

そのとき――

「ピンポーン」

玄関の方から、電子音が聞こえた。

私は息を呑んだ。

確かに呼び鈴は外されているはずだった。
それなのに、はっきりとした電子チャイムの音が鳴った。

友人は眠ったままだった。

もう一度、呼び鈴の音が鳴った。

「ピンポーン」

私は布団を抜け出し、そっと廊下を歩いて玄関まで行った。

ドアの向こうに誰かが立っている気配がした。

玄関扉の下の小さな郵便受けの隙間から、冷たい空気が流れ込んできた。

覗こうとして、私は思いとどまった。

ドアの向こうで、誰かが小さく笑った。

「……開けて」

女の声だった。

静かに、囁くように。

私は無理やり息を押し殺し、そっと寝室へ戻った。



朝になり、友人に夜中のことを話した。

友人は顔色を変え、玄関の外を確認しに行った。

戻ってきたとき、その手には小さな白い封筒が握られていた。

封筒の表には何も書かれていなかった。

開けると、中には一言だけ。

「やっと みつけた」

友人は唇を噛み、震える声で言った。

「昨日、不動産屋が言ってたんだ。
 この家、昔住んでた女性が行方不明になって……それからずっと夜中になると呼び鈴が鳴るって」

私はその紙をそっと返した。

それ以来、私は友人の家には泊まらない。

そして時々思い出す。

あの夜、ドアの向こうで女が笑っていた声を
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