くちなし町、夜の記録

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第18話『家の裏手の小道』

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私の家は、くちなし町の住宅街の端にある。

裏手には細い砂利道があり、雑木林へと続いている。
昼間は陽が射し込み、犬の散歩や子供たちの遊び場にもなるが、夜になると途端に別の顔を見せる。

細い道の先が、暗い木立に沈み込んでしまうのだ。

近所の人は昔からこう言う。

「夜にあの道を通るときは、絶対に立ち止まるな。
 誰かに名前を呼ばれても、振り返っちゃいけないよ」

子供の頃はおまじないのように思っていた。

けれど、ある夜その意味を知った。



その日、近所のスーパーでバイトが遅くなった。

時計は夜の十一時を回っていた。

表通りを遠回りすればよかったが、疲れていた私はつい近道の裏道に入った。

夜の小道は昼間とは別物だった。

街灯は少なく、砂利を踏む自分の足音だけが妙に大きく響く。

木立の奥からは虫の声も聞こえず、しんとした気配が広がっていた。

早く家に帰りたい。

そう思って足を速めたとき――

「……◯◯ちゃん」

背後から私の名前を呼ぶ声がした。

女の声だった。
どこかで聞いたことのあるような、優しい声。

心臓が跳ね上がる。

母の声に似ていた。

けれど、その夜母は家にいるはずだった。

私は立ち止まりそうになる足を、必死にこらえた。

頭の中で小さい頃に聞いた言葉が蘇った。

「夜の小道で名前を呼ばれても、振り返っちゃいけない」

足を止めるな。

そう自分に言い聞かせ、歩き続けた。

「……ねぇ どうして むしするの」

声がもう一度、今度はすぐ後ろで囁いた。

息が髪にかかるほど近くで。

私はそのまま駆け出した。



家に飛び込み、玄関を閉めたとき、背中に冷たい風がまとわりついているように感じた。

息を整えながら鏡を見ると、後ろの暗い廊下に――白い影が立っていた。

細長い顔。暗い目。
口だけが、異様に大きく開いていた。

気がつくとその影は消えていた。

ただ、自分の首元をそっと撫でる冷たい手の感触だけが、いつまでも残っていた。



それ以来、夜にあの小道は通らない。

でも時々、寝る前に窓の外を見ると、小道の奥から誰かがこちらを見ている。

闇の中に、ぼんやりと浮かぶ白い顔。

そしてかすかに私の名前を呼ぶ声がする。

もう二度と、あの声に振り向くつもりはない。

たとえどれほど優しく名前を呼ばれても――。

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