くちなし町、夜の記録

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第19話『廃校の机』

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くちなし町には、二十年以上前に廃校になった小学校がある。
校舎は今もそのまま残されていて、壊される予定もないまま町の外れに佇んでいる。

窓は割れ、草が校庭を覆い尽くし、鉄棒は赤茶けて斜めに倒れていた。

私がその廃校へ行ったのは、友達に誘われての肝試しだった。

「昼間なら平気だって。写真撮るだけで帰ろうぜ」

そう言われ、軽い気持ちでついて行ったのが間違いだった。



昇降口から入ると、埃とカビの匂いが鼻を突いた。

廊下は薄暗く、天井からは蜘蛛の巣が垂れ下がっていた。

一階の教室はどこも同じように荒れていて、黒板には古いチョークの跡が残っていた。

だが、ひとつだけ妙な教室があった。

教室の真ん中に、ぽつんと小さな机が置かれていた。

まるで誰かのためだけに残されたように。

友達がふざけて机を叩いた。

「これ、誰か座ってたら面白いよな」

私は笑いながらも、嫌な寒気を覚えていた。

机の上には、古い落書きが彫られていた。

「〇〇ちゃん どこへいったの」

何度も、何度も、同じ言葉が彫られていた。



その夜、家に帰って眠りにつくと、夢を見た。

あの廃校の教室だった。

真ん中の机に、小さな女の子が座っていた。

長い髪で顔は見えなかったが、体が震えているのがわかった。

「……どうしたの?」

声をかけると、ゆっくりと顔を上げた。

目も鼻も口もなかった。
顔の中央に、ぽっかりと穴が空いていた。

その穴の奥から、小さな声がした。

「いっしょに すわろ」

私は目を覚ました。

胸が苦しく、喉が渇いていた。

寝汗をかいていたが、それ以上に背中がぞわぞわと粟立つ感覚が続いていた。



次の日、学校で友達に会った。

「昨日の夢、見た?」

友達も気味悪そうに話した。

「俺も見たんだよ。あの教室で、机に座ってる女の子。
 そしたら、いきなり立ち上がって俺の方に来て……」

友達はそこで話を切った。

「それで?」

「……いや、何でもない。忘れようぜ」

でも、忘れられなかった。



その夜、再び同じ夢を見た。

今度は自分があの机に座っていた。

両手は机に縛りつけられ、立ち上がれない。

周囲に子供たちが立っていた。

顔がぼやけ、真っ白だった。

「いっしょに いようね」

そう口々に言いながら、みんなが私を覗き込んだ。

息が詰まり、叫び声を上げようとしたとき、目が覚めた。

気がつくと、布団の上に埃まみれの小枝が置かれていた。

まるで、あの廃校の机を囲んでいた教室の床から拾い上げたような。

私はそれをそっとティッシュに包んで捨てた。

けれど、夜になると今も夢の中で、誰かが私の手を掴んで離さない。

あの机の前で、ずっと座り続けるように。
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